補論 第1節 東日本大震災からの復旧・復興

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1)生産活動の動向

(製造業は海外需要(半導体や精密機器等)の回復にも支えられて拡大)

まず、製造業の動向について、鉱工業生産指数の推移をみると、震災直後は、被災3県だけでなく、東北6県計も全国平均を下回ったが、2011年後半には東北6県計が全国値を上回り、その後も高めの水準で推移している(補論1-1図)。

被災3県の中で最も震災時の落ち込みが大きかった宮城県は、2012年に入り急速な回復を見せ、その後は全国値を上回って推移してきたが、2014年後半から2015年は伸び悩みがみられた。しかし、2016年に入ると急激な増加を示している。変化に対する業種別寄与(累積)からは、スマートフォン関連の需要やIoTの浸透に伴う需要の増加により、「電子部品・デバイス、電気・情報通信」、「はん用、生産用、業務用機械」の2業種がけん引役になっている(補論1-2図)。

一方、福島県については、2012年には震災前の生産水準を回復したものの、その後は伸び悩みが続き、2015年以降は全国を下回る動きとなっている。けん引役の業種は「化学・石油石炭、プラスチック製品」であるが、全国的なけん引役である「電子部品・デバイス、電気・情報通信」がマイナス寄与となっている点が伸び悩みの要因とみられる77

岩手県は、おおむね東北全体と同様の軌跡を歩んでおり、生産水準は全国平均よりも高めで推移してきたが、2016年に入り、増勢を増した。累積寄与の上位には、「輸送機械」、「窯業・土石、その他」や「食料品・たばこ」と多様な業種が登場してくる一方、マイナス寄与となったのは、福島県と同様に「電子部品・デバイス、電気・情報通信」である78

(ただし、水産業は苦戦が続き、水揚量は震災前の7割弱)

製造業は、ばらつきが残るものの、全体としてはある程度の回復を実現してきた。しかし、被災3県における水産業は、全国的な不漁といった要因があるものの、苦戦が続いている(補論1-3図)。2010年の上場水揚量を100とした場合、2015年の全国や東北計が8割程度となるなか、被災3県の水揚量は宮城県で7割強、岩手県が6割強、福島県に至っては3割弱にとどまっている。水揚量と同様に、水産加工品の製造品生産量も2010年を100とした指数でみると、半分程度の回復に止まっている(補論1-4図)。

(旅行・宿泊需要の回復は不十分)

東北への旅行需要は回復傾向にあるが、根強い風評被害等の影響が依然として残っている。東北地域の観光客を中心とした宿泊施設における延べ宿泊者数(日本人+外国人)推移をみると、2010年から2016年の間に、全国は15%程度伸びている一方、東北6県計も被災3県計も▲20%程度と低迷している(補論1-5図)。

ただし、これを外国人延べ宿泊者数に限ると、同じく2010年から2016年の間に、全国計が2.5倍と大幅増となっている中、東北6県計は28.3%増、被災3県でも12.7%増と、プラスに転じている(補論1-6図79。福島県についても、2016年は2010年の81.8%まで戻してきており、全国的なインバウンド急増の流れからは大きく遅れているものの、回復の兆しがうかがえる。

(旅行観光業の人手不足も課題)

こうした観光需要の復活を支えるのは人であるが、人手不足が続いている。有効求人倍率をみると、2012年以降は復興関連の労働需要が高まっていたこともあり、被災3県では、特に宮城県と福島県において全国値を大きく上回って推移してきた(補論1-7図)。2015年以降は、有効求人数の増勢が鈍化したことに伴い、次第に全国と同様の動きとなっている。また、企業短期経済観測調査の雇用人員判断DIをみると、有効求人倍率と同様に、2012年頃から雇用人員の過不足感が不足超へと転じ、その後も続いている(補論1-8図)。職業別有効求人倍率の動きをみると、建設業関係は高止まり、旅館・ホテル等関連は上昇傾向となっており、人手不足が深刻化している(補論1-9図)。

2)暮らしの動向

(ばらつきがあるものの、インフラ復旧によりまちづくりは進展)

10年の復興期間の後期である復興・創生期間の2年目に入り、住まいの再建や産業・生業の再生は着実に進展するなど、本格的な復興に向けた動きが始まっている80。しかし、インフラ復旧率にはばらつきがみられており、鉄道や水道施設・下水道などはおおむね復旧したものの、復興道路・復興支援道路等の整備は完了率が49%と出遅れている(補論1-10図)。

道路整備は出遅れているものの、消費税率引上げ以降の百貨店・スーパー販売額(実質)は、被災3県も東北全体も、2016年までは全国と大差のない増減をみせており、暮らし向きの動きが全国と連動するようになってきた。しかし、2017年に入り、全国が底堅く推移する一方、被災3県も東北全体も、実質販売額の水準が一段と低下してきた(補論1-11図)。百貨店・スーパーの販売内容によって増減要因を探ると、全国に比べて衣料品や身の回り品の減少率が大きく、百貨店が苦戦しているとみられる。

(人口減少傾向の度合いは鈍化。社会増減率は、震災前の水準に)

インフラ復旧の進捗や百貨店・スーパーの販売額をみる限り、暮らしの場としての復興が進んでいるとみられるが、人口動態はどのように動いているのだろうか。被災3県の人口増減率は、震災直後に大きく低下したものの、2015年頃から震災前水準に戻っている(補論1-12図(1))。

「住民基本台帳」の転入者数、転出者数をみると、2011年4月は、被災3県合計で転出超過が約1万4千人と記録されていた。通常、就職や進学前に当たる3月は、多くの県で転出超過となり、4月に落ち着くものの、震災による避難が順次行われたことから、福島県を中心に、転出超過がしばらく続いていた。2014年や2017年の動きをみると、流出の動きは和らいでいる(補論1-12図(2))。

(若年者の域外流出は一時増加するも落ち着き)

住民基本台帳上の転出入者のうち若年者(25歳未満)についてみると、岩手県では、2011年3月に予定されていた移動が、震災により4月や5月に後ずれしたが、その後は震災前の平均と比べて、大きな違いはみられなない。しかし、宮城県と福島県は、転出超となった幅も期間も大きくて長かった(補論1-13図)。宮城県は1年ほどで震災前平均へ戻ったが、福島県は2014年頃まで平年以上の転出超が続いた。

3)経済復興に向けたポイント

(風評被害により回復が遅れる輸出と観光)

震災後に発生した福島第一原発事故の影響により、いくつかの国・地域は我が国からの食料品等の輸入を規制した。その後、正確な情報提供等、相手国・地域当局への働きかけにより、多くの国・地域において、輸入規制は解除・緩和されたものの、依然、韓国、台湾、中国、香港、マカオ、シンガポール、ロシアの7か国・地域では、輸入停止を含む規制が課せられている(補論1-14表)。

我が国からの輸入規制を実施している香港、台湾、中国、韓国向けの農林水産物・食品輸出額とその他の地域向け輸出額を比較すると、その他の地域向け輸出額が2012年から増加へ転じた一方、香港、台湾、中国、韓国向けの輸出額が増加に転じたのは2013年と1年遅れとなった(補論1-15図)。2016年時点では、その他地域向け輸出額は2010年水準の59%増、規制のある4国・地域向けの輸出金額は48%増と10%ポイントも下回っている。

観光についても回復が遅れている。被災した仙台空港・茨城空港におけるアジア地域からの入国外国人数の推移をみると、大きな減少となった2011年の後、茨城空港は2012年に震災前水準を超えたものの、仙台空港は、2016年時点でも震災前の水準を回復できていない(補論1-16図)。入国場所は問わないが、東北6県内に宿泊した外国人延べ人数でみると、秋田県と福島県以外の4県では、2015年に震災前の宿泊者数に戻ったものの、青森県以外のいずれも全国平均から大きく下回っており、東北におけるインバウンド需要の取り込みは遅れている(補論1-17図)。

(風評被害の払拭に向けた取組)

こうした状況を踏まえると、風評被害の払拭に向けた国内外への正確な情報発信が引き続き重要である。

食料品については、すでに取組が実施されているが、科学的根拠により設定された世界で最も厳しいレベルの基準値に基づく放射性物質検査の徹底により、食の安全の確保に努めるとともに、「安全・安心」に向けたPR活動等が進められている81

また、より積極的な購買支援として、被災地産食品の販売フェアや社内食堂等での積極的利用も進められており、取組件数は累積1,556件となっている82。さらに、マスメディアを活用した広報や知事のトップセールスも展開されている。例えば、2016年6月に宮城県で行われた「東北復興水産加工品展示商談会2016」では2015年より126件多い600件の商談が行われた。成約率は約15件と前年比で4.4%ポイント減少したが、商談継続の案件は217件と前年に比べ91件増加した83

観光については、2016年を「東北復興元年」と位置付け84、2020年までに東北6県の外国人宿泊者数目標を150万人泊とする目標の設定、関連予算の増額など、観光復興の取組を強化している。具体的には、東北を対象とした集中的な訪日プロモーションの実施や外国人旅行者の誘客につながる民間の新たなビジネスモデルの立ち上げ支援などに取り組んでいる。また、福島県の国内観光プロモーションや風評被害などにより減少した修学旅行等の教育旅行客の回復を図るための教育旅行再生事業等に対し補助を実施している。

(人材確保力向上等により働き手の確保)

復興には働き手の確保も重要である。2017年度より、学生や社会人を対象とした「伴走型人材確保・育成支援モデル事業」や大企業等でキャリアを積んだ現場型の専門人材等を被災地企業へ長期派遣する「企業間専門人材派遣支援モデル事業」など、被災地外から人材を呼び込む取組が進められている。

また、人材育成や販路開拓等について、被災地の複数の水産加工業者等が連携した先進的な取組を支援する「チーム化による水産加工業等再生モデル事業」を進めている。さらに、雇用のミスマッチに対応するため、被災求職者等を雇用する際に、既存の雇入費助成に加えて、住宅支援の導入等による雇用環境の改善を図り、かつ、雇用の確保維持を達成している場合には、被災三地域の中小企業等に対し、要した経費の4分の3を助成する「事業復興型雇用確保事業」など、中小企業等の人材確保の後押しに取り組んでいる。こうした取組により、被災地事業者が必要な働き手を確保できることが期待される(補論1-18表)。


脚注77 伸び悩みの背景には、半導体や同部品の生産を行っていた工場の閉鎖等が複数生じたことがある。
脚注78 輸送機械生産は国内向けが好調である一方、電子デバイス等はPC関連部品が不調となっている。
脚注79 利用統計の制約により、これは観光目的以外の宿泊者も含む。
脚注80 復興庁(2017)によれば、被災3県では、99%の民間住宅等用宅地、98%の災害公営住宅で事業に着手している(2017年4月末時点、以下同じ)。また、被災3県の製造品出荷額等は、平成26年には概ね震災前の水準まで回復した。被災した漁港の約9割で陸揚げ岸壁の機能が全て回復しており、部分的な回復を含めほぼ全ての漁港で機能が回復した。また、水揚量は約7割まで回復するなど、一定程度復旧した。
脚注81 福島県産品を活用した英国ケンブリッジ公爵殿下の歓迎夕食会(2015年2月福島県)、関係省庁がリレー方式で開催する「霞が関ふくしま復興フェア」における福島県産品の展示販売、観光PR(2016年7-8月東京都)、東京都大田市場における福島県知事によるトップセールス(2016年7月)などを実施。
脚注82 復興庁「風評被害の現状とその払拭に向けた取組」(2017年2月)。
脚注83 復興水産加工業販路回復促進センター「平成28年度復興水産加工業等販路回復促進事業の取組状況について(2017年3月31日現在)」より。
脚注84 「『復興・創生期間』における東日本大震災からの復興の基本方針」(平成28年3月11日閣議決定)。
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