第3章 第2節 行政効率の改善

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前節では、社会保障給付のニーズが人口構造の変化によって大きく変化する中にあって、地域によって大きな過不足が生じている現状を示した。こうした需給のミスマッチを早急に解消することが不可欠であると同時に、人口規模の縮小に応じて行政費用も縮減しない限り、一人当たり負担が上昇してしまう点にも対応する必要がある。ここでは、行政効率の改善に向けた現状と取組を概観しよう。

1)地方歳出の現状

(一人当たり非民生費(土木を除く)は人口規模、密度により地域差が3倍程度)

地方公共団体の歳出について、社会福祉目的の費目である「民生費」とそれ以外の「非民生費」に分ける。また、災害等の発生に大きく影響される土木費については、「非民生費」の平均的な傾向を歪めることになるので除外する。この「土木費を除く非民生費」によって裁量的な政策経費(人口一人当たり)を概観すると、2013年度の歳出は10年前と比べておおむね減少している(第3-2-1(1)図)。都道府県別にみると、震災に影響されている被災三県を除く上位5県の平均が61万円、下位5県の平均は29万円であり、44都道府県で比較すると、3倍弱の差がある。こうした違いには、人口規模の大きい、ないし人口密度の高い都道府県では一人当たり非民生費が低く抑えられていることが指摘できる(第3-2-1(2)、(3)図)。つまり、行政サービスの提供においても、規模の経済性を活かすことでコストの抑制ができると考えられる。

(高齢化の影響もあり、民生費は大幅に増加したが、地域差は縮小傾向)

次に民生費(一人当たり)の動きを比較する。民生費は、この10年で大幅に増加している(第3-2-2(1)図)。特に、埼玉県、千葉県、神奈川県といった首都圏各県では、10年前の1.7倍増となっている。2013年度における上記5県の平均は24万円、下位5県の平均は16万円と1.5倍の開きがあるが、2003年度の約2倍からは縮小している。非民生費とは異なり、民生費は人口規模や人口密度の高低にはほとんど影響を受けておらず、高齢化率によって変化が説明される部分が大きい(第3-2-2(2)図)。また、第3-2-2(2)図中における一人当たり民生費と高齢化率の傾向線が上に移動していることは、同じ高齢化率でもこの10年間で一人当たり支出が増加していることを示唆している。

2)地方行政事務の効率性

今後も高齢化の進展に伴う歳出増は避けられないとしても、行政サービスの質の維持や住民負担の抑制に向け、一層の行政効率化に向けた不断の努力を行う必要がある。こうした観点から、行政コストの効率化の可能性を検討していく。

(人口規模が小さな地域ほど相対的な行政コスト負担が重い)

非民生費(土木費を除く)の性質別内訳をみると、その約4割は人件費となっており、行政サービスは労働集約的である。この人件費に着目して都道府県別に比較すると、非民生費全体の傾向と同様、人口規模による影響が大きい。したがって、地方における行政サービスにも規模の経済性を生じさせる対応策が効果的だと考えられる。

なお、単純な都道府県間の比較では、平均年齢や物価水準に起因する違いを無視することになるため、各都道府県の行政コストを当該都道府県の民間平均賃金に対する比率でも評価する。つまり、平均賃金の高い都道府県であれば行政コストも高くなることから、その影響を除き、当該都道府県の民間雇用者にとっての行政コスト負担の重さを比較する。

こうした補正を施した後の一人当たり行政コスト指数の場合も、人口規模の小さい四国や中国、東北地方の県は高コストになっている。補正した指数の傾きがより急になることから、人口規模の小さな都道府県ほど、住民にとっての行政コスト負担が重いという結果になっている(第3-2-3図)。上位5県の平均と下位5県の平均を比べると、その開きは2倍程度である。

(業務の標準化、ITの活用による効率化の余地は大きい) 

多くの地方公共団体における行政サービスは、団体毎、さらには同団体内でも部局毎において業務フローや書類の様式が異なっており、規模の経済性が発揮できていないところが多い。これは逆に、BPR51の手法を活用した業務の標準化やそれを前提としたITの活用による効率化の余地が大きいことを意味している。例えば、佐賀県内の6市町村が行った実証事業では、BPRを伴った業務効率化によって業務フローの見直しや電子化を進めた結果、住民の待ち時間や職員の業務処理時間をそれぞれ3割削減することができたという(第3-2-4表)。

こうしたことから、経済財政諮問会議やその下に設けられた経済財政一体改革推進委員会、また、「経済財政運営と改革の基本方針2015」に基づき設置された「公共サービスイノベーションプラットフォーム」においては、業務の標準化やITの活用に向けた取組が提案され、総務省によって具体化が進められている。特に、IT化については、eガバメント閣僚会議の作業部会である国・地方IT化BPR推進チームにおいて、国とともに自治体クラウド52の横展開等に向けた取組が進められている。

(外部委託による効率化で歳出抑制が可能)

業務の標準化やITの活用に加え、外部のリソースを活用することも提案されている。例えば、経済財政諮問会議においては、窓口業務など外部委託が遅れている分野や取組が遅れている市区町村を中心に、その実施率5割以上を目指して一層推進すべきとの提案があり、取組に当たっての課題や対応策について、内閣府や総務省において検討が進められている53第3-2-5(1)図)。

特に、外部委託が普及していない窓口業務については、偽装請負の防止のために必要な措置や公権力行使の対象となる範囲の確定について整理することにより地方公共団体が積極的な取組を促すことが有効であるとされている。こうしたことを踏まえ、総務省において標準委託仕様書の検討が行われている。

外部委託の対象は、窓口業務等の定例的な業務から手話通訳者養成など専門的な業務まで広範囲にわたる。神奈川県海老名市では、業務の共通化によって窓口を一本化した「総合窓口」の取組に合わせた外部委託の活用により、約2割の歳出削減を達成した。また、東京都江戸川区では、保育園調理業務など4項目の委託を含めた行財政改革の結果、36億円の歳出削減を実現している(第3-2-5(2)表)。

こうした外部委託の導入により、業務の繁閑に合わせた柔軟な人材の配置や業務の性質に応じた人材の活用などによって効率化が図れる。また、専門的な業務についても外部委託することで、内部育成コストを縮減したり、外部人材によって質の高いサービスを提供したりすることが可能となる。

3)広域連携による合理化、効率化

(緩やかに増加する共同処理制度)

これまで標準化、IT化、外部委託によって効率化を図る効果について、事例を併せて説明してきたが、基本的に、人口規模の小さい地方公共団体が自己完結型で行政サービスを提供することは様々な点で非効率にならざるを得ない。例えば、ごみ処理やし尿処理、消防といった事業は、一定規模の需要が発生しなければ稼働率が上がらず、効率性は低下する。また、後期高齢者医療制度や介護保険に係る事務手続き等についても、定型的な事務は一か所で処理することが効率を高めることになる。

地方自治法では、こうした地方公共団体の共同処理の要請に対して、一部事務組合や広域連合といった特別地方公共団体を創設して事務の一部を処理させる方法や、法人を創設せずに協議会や機関等の共同設置、事務の委託といった方法で共同処理を実施する手法が定められている(第3-2-6表)。

このうち、一部事務組合はごみ処理や消防といった小規模団体単独では処理が困難であったり非効率であったりする事務に広く活用されている。広域連合は国や都道府県からの事務移譲も含めて広域的な事務処理を行うために設置されるものであり、後期高齢者医療制度等に広く利用されている。

法人の設置を必要としない方式のうち、協議会は地方公共団体の共同の執務組織として広域行政計画の作成等のために用いられている。機関等の共同設置は介護認定や障害区分認定など専門的知見による合議組織を共同で設置するものである。事務の委託は、文字通り地方公共団体が他の団体に事務の一部の執行管理を委託するものであり、住民票の写し等の交付等に活用されている。

こうした共同処理方式は多くの市町村に活用されている。中でも、新たに特別地方公共団体の設置が必要な一部事務組合や広域連合は近年伸び悩んでいるが、そうした手続きの必要がない協議会等の共同処理制度は利用の拡大がみられる。さらに、2014年の地方自治法改正によって、定住自立圏等の圏域全体の方向性や政策の在り方等を地方公共団体同士で定める連携協約や、都道府県が条件不利地域の事務の代替処理を行うことを可能にした事務の代替執行といった新たな制度が導入されたことから、今後の活用が期待される54

(広がる新たな広域連携制度の活用例)

財政状況も踏まえると、個々の地方公共団体が自己完結型でフルセットのサービス提供を行うよりも、団体間の連携により一定規模の人口を有する行政圏を構築し、サービス提供をしていくことが重要となっている。例えば、山形市が中心となって形成する山形定住自立圏では、「共生ビジョン」に基づいて消防の事務委託や医療や子育てといった生活機能の強化、地域公共交通の充実といった取組を行っている。特に地方の小規模団体では人口減少や高齢化を背景に行政サービスの担い手の減少や財政力の弱体化が進んでおり、行政サービスの維持が喫緊の課題となっている。このような広域連携は個々の団体を超えた役割分担により規模の経済を追求できる手法と言える(第3-2-7表)。

(今後一層の活用が期待される「自治体クラウド」の導入)

既に述べた取組に加え、行政の効率化に向けて、複数の地方公共団体間で外部システムを利用する「自治体クラウド」が進められている。「自治体クラウド」とは、業務フローや様式を標準化し、また複数団体間で共通化することで一か所における事務処理を可能とし、窓口業務や内部管理業務を効率的に実施する取組である(第3-2-8(1)図)。

神奈川県では、同県内の町村会に参加する14の団体が一部事務組合を設置し、システム改修経費の軽減に取り組んだ。ポイントは、1)個別町村の仕様は作成せずに標準化をしたこと、2)システムを保有するのではなく、外部サービスを共同利用する型に変更したこと等である。こうした事務組合の工夫によって、システム費用を約15億円、32%も削減することに成功している(第3-2-8(2)表)。


脚注51 Business Process Engineering: 業務プロセス全体を根本的に見直し、冗長性を省く形で再構築すること及びそれを実現するための手法。
脚注52 地方公共団体が情報システムを自庁舎で管理・運用することに代えて、外部のデータセンターにおいて管理・運用し、ネットワーク経由で利用することができるようにする取組。複数の団体の情報システムの集約と共同利用を可能とし、コスト削減や業務負担の軽減、業務の共通化・標準化といった効果が期待される。
脚注53 経済財政諮問会議(2015年6月1日開催)において、窓口業務については、公権力の行使にかかわる部分について十分な整理ができていないため取組が進んでいないとの指摘があった。
脚注54 共同処理方式や広域連携の解説については、木村(2015)を参考にした。
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