第5章 第4節

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5-4.現状における課題と今後の方向性

(人手不足と雇用のミスマッチの解消が重要課題)

被災3県の有効求人倍率が震災後に全国より高くなっているのは前述したとおりであるが、職業安定所別の有効求人倍率をみると、特に沿岸部で2012年よりも倍率が高くなっており、ヒアリングによると、業種別には水産加工業や復興工事に関連した建設業等で特に人手不足となっている(第5-4-1図)。

雇用の需給状況とミスマッチの程度を合せてみる(UV分析)と、全国各地において、需給改善(失業率の低下)とともに労働力不足の拡大(欠員率の上昇)が生じているが、東北では、震災以降に労働力不足が急激に拡大し、他地域よりも深刻な状態にある(第5-4-2図)。

人手不足の中には、ミスマッチによるものもあり、その解消に向けた取組が重要であるが、これまでも求職者に対するきめ細やかな就職支援や職業訓練が実施されてきた。しかし、ミスマッチが発生している職種は、人口減少などにより、更に人手の確保が困難となっている状態である。今後は求職者に対する就職支援に加え、ミスマッチが発生している職種(事業所)を中心とした支援を強化する必要があるほか、被災3県でも有効求人倍率が高い建設・採掘、サービスといった分野においては、人手不足をきっかけとした業務体制の見直し、ITの利活用拡大、ロボットによる業務支援等、労働生産性を高める投資と努力が必要である。

(震災後増加していた新設法人件数は減少に転じた)

労働需給がタイト化して雇用のミスマッチ解消が課題となる中、新設法人件数の推移をみると、2015年は被災3県いずれでも減少となり、被災3県合計でも震災後初めて減少となった。全国的には法人件数の増加率は前年を上回っているものの、被災3県においては、復興需要に加え、支援に関わる非営利団体の設立などによって増加を続けていたが、こうした勢いに一服感がみられる(第5-4-3(1)図10

産業別の内訳をみると、震災直後に大幅に増加した「建設業」が岩手県、宮城県で減少し、福島県でも増加幅が縮小している。非営利団体などが含まれる「サービス業他」も減少に寄与しており、これまでとはトレンドに変化がみられる(第5-4-3(2)図)。

(今後の成長を担う産業の活性化と新産業の育成が重要)

今後は成長を担う産業の活性化と新産業の育成を推進する必要がある。これまでも復興特区制度に基づく税制上・金融上の特例措置、事業所の復旧のための中小企業等グループ補助金、更には新規投資等を目的とした企業立地補助金といった施策が行われてきた11が、県民経済計算に占める割合が全国より高い建設業や農林水産業といった基幹産業に対する復旧や底上げに加えて、新たな地域産業の創出にもこれまで以上に取り組む必要がある。

こうした中、高齢化等により、今後も安定した需要拡大が見込まれる医療関連産業の基盤構築については、「産業復興の推進に関するタスクフォース12」においても触れられているほか、宮城県及び福島県の復興計画の中でも集積促進について記載され、実際に被災3県における医療機器生産額は着実に伸びている(第5-4-4図)。

また、2016年3月に安倍総理が福島を訪問した際の指示を踏まえ、福島が再生可能エネルギーや水素社会を切り開く先駆けの地となるよう「福島新エネ社会構想」のとりまとめ、更には構想の具体化に向けて「福島新エネ社会構想実現会議」を設置することとなった。福島では太陽光発電やリチウムイオン電池などの関連企業が集まり、被災地にも新しい産業の芽が次々と生まれつつある。産業復興の更なる進展が期待される。


脚注10 株式会社東京商工リサーチ「2014 年全国新設法人動向調査」
脚注11 復興庁「東日本大震災からの復興の状況と最近の取組」。施策を活用した事例として、岩手県では「有限会社グランパファーム」が復興特区の課税特例を活用し、太陽光型植物工場を建設。宮城県では「株式会社メイコー」が中小企業等グループ補助金を活用し、研究開発及び生産拠点を再整備。また、福島県では「奥地建産株式会社」が企業立地補助金を活用し、工場を新設した事例等がある。
脚注12 復興大臣を座長とし、関係省庁の局長クラスで組織され、産業復興の現状と課題を把握した上で、施策の体系化を行い、その効果的な推進を図ることを目的として設置されている。
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