第5章 第3節

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5-3.経済活動の状況

(産業関連の復旧は福島県で遅れ)

産業関連の状況を業種毎にみていく。農地の復旧状況は、2015年度中に被災3県合計で約7割の農地で営農再開が可能となったものの、福島県では約3割と遅れている。福島県の津波被災農地には避難指示区域も含まれているため、農地の復旧に先行し、農業用施設等の復旧への取組が段階的に進められているところである7

次に水揚量から漁業の動向をみると、岩手県では震災前の7割程度、福島県では震災前の5割程度にとどまっている。鉱工業の生産水準は、全体として概ね震災前の水準程度に回復しつつある8。ただし、特に沿岸部の水産加工、食品製造業等は、施設・整備が復旧したものの、売上の回復等が遅れている9

最後に観光客宿泊者数をみると、福島県全体として、震災前の水準と比較して2割以上の減少となるなど、被災3県いずれも震災前の水準に依然として達していない(第5-3-1図)。

(工場立地件数は電気業を中心に増加)

東日本大震災以降の工場立地件数は、着実に増加している。ただし、2013年以降は太陽光発電等を目的とした電気業が主な立地内容であり、製造業などはそれほど増加していない。また、都道府県別にみると、宮城県では増加しているものの、岩手県及び福島県ではおおむね横ばいとなっている(第5-3-2図)。

(公共工事は2015年度から伸びに落ち着きがみられ、景況感も低下傾向)

公共投資の動きを公共工事請負金額の推移でみると、被災3県の対前年伸び率は、2015年度は全国とほぼ同程度で推移しており、全国に占める割合は過去に比べて依然として高い水準を維持している(第5-3-3図)。

こうした高水準の事業量が続いている状態は、企業短期経済観測調査の業況判断DIにも表れている。震災を契機に建設業のDIは全産業を上回ることとなったが、その後も上回り続けていた。ただし、2015年に入ると徐々に低下傾向がみられるようになっている(第5-3-4図)。

また、「景気ウォッチャー調査」においても、これまでは建設業の景況感が他業種よりも良い状態であることを示唆するコメントが多かったものの、2015年8月頃からは、建設業を中心としたコメントの中には、復興関連公共工事の発注件数の減少といったものがみられはじめている(第5-3-5表)。

(有効求人倍率は引き続き高水準で推移)

有効求人倍率の推移をみると、2015年前半には有効求人数の増勢が一服したことに伴いおおむね横ばいとなったものの、震災以降、現在まで高水準となっている(第5-3-6(1)図)。

なお、有効求人倍率の定義には、各都道府県内のハローワークが受理した求人数を用いて算出する「受理地別」と、実際の就業地の求人数を用いて算出する「就業地別」の2通りがある。2015年の有効求人倍率について受理地別と就業地別の倍率を求め、被災3県と就業先の多い東京都、愛知県及び大阪府の3都府県を比較すると、被災3県ではいずれも受理地別より就業地別が高く、東京都、愛知県及び大阪府はいずれも受理地別より就業地別が低い。これは、勤務地を被災3県とする求人票が大都市圏に提出され、それに応じて就業するケースが多いことを意味している。特に、福島県においては就業地別の有効求人倍率が全国1位(受理地別は全国9位)と、受理地別を0.26ポイント上回り、依然として、震災に関連する需要等を背景とした県外求人が高水準で推移していることを示している(第5-3-6(2)図)。

(産業別の求人は震災直後の動向から変化)

次に、産業別新規求人数の寄与度をみると、2015年には建設業の寄与が岩手県及び福島県では低下、宮城県ではおおむね横ばいとなった。一方、岩手県及び福島県においては宿泊・飲食業も増加に寄与するなど、これまでの復興需要を中心とした求人増からの変化がうかがえる(第5-3-6(3)図)。


脚注7 農林水産省「農業・農村の復興マスタープラン」
脚注8 復興庁「『復興・創生期間』における東日本大震災からの復興基本方針(平成28年3月11日閣議決定)」
脚注9 復興庁「集中復興期間の総括について(平成27年6月24日)」
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