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2.人口の社会増の実態

(人口移動を引き起こす要因)

ここまで述べてきた首都圏人口の長期的な動向について、さらに出生・死亡・移動の人口学的事象(demographic event)別に検討する105

まず、人口移動についてみてみると、人口が地域間移動を行う誘因として、経済的要因・社会的要因・人口学的要因等、様々な要因が指摘されている。

経済的要因としては、より豊富な就業機会、高い所得水準を求めて移動することが考えられ、社会的要因としては、職業・教育事情(転勤、進学等)、家族事情(結婚、親との同居・近居等)、住宅事情、健康事情等、様々な要因が指摘されている。さらに、看過できない要因として、人口学的要因の影響が挙げられる。例えば、就職・進学等で移動が活発な若年層がどの地域にどれくらい存在するかが、人口移動の大きさや移動元・先に大きく影響する。また、地方における前述の「潜在的他出者」の存在の多寡も、都市への人口流出圧力を左右する要因となる。

(首都圏の人口移動の方向)

首都圏人口の社会増の動きを転入・転出数別に見たのが、第4-1-4図である106

第4-1-4図 首都圏の転入・転出数と移動効果係数
第4-1-4図 首都圏の転入・転出数と移動効果係数
(備考)
  1. 総務省「住民基本台帳人口統計」より作成。

首都圏は、特に60年代に圏外から多くの人口を受け入れており、その転入数は60年代には年間70万人を超えており、70年には86万人にも上った。他方、首都圏からの転出数も、転入数に比べて少ないものの上昇を続け、第1次オイルショックを迎えた73年に66万人となっており、これに伴い、純転入数も減少し、76年には5万人台をも割り込んだ。

首都圏がどれだけ人口を一方的に受け入れたかを移動効果係数107でみると、60年の0.391をピークとして徐々に低下し、76年には0.036と低い水準にまで下がっており、転入・転出数ともに減少しつつも、人口移動が首都圏と圏外の間で双方向的になってきた様子がうかがわれる。

(首都圏の人口移動の経済的要因)

首都圏への人口流入に関して、上記の人口移動要因のうち、経済的要因についてみてみる。

高度成長期には太平洋沿岸地域を中心に重化学工業化が進展し、所得水準の上昇が実現されるのに伴い、より良好な雇用機会や賃金水準等を求めて、三大都市圏に人口が集中することとなった。この期間における所得の地域間格差を見たのが第4-1-5図であるが、首都圏の一人当たり県民所得を100とした場合、60年代には北海道、北陸、中国各地域で70前後、東北、北関東、四国、九州各地域では60前後で推移しており、首都圏のより高い所得水準が人口移動を惹起する誘因となったことが推察される108

第4-1-5図 各地域の一人当たり所得の推移
第4-1-5図 各地域の一人当たり所得の推移
(備考)
  1. 内閣府「県民経済計算」より作成。
  2. 首都圏を100とした場合の、各地域の一人当たり県民所得の比率。
  3. 首都圏は1都3県。(南関東と同じ)
  4. 地域区分はA

しかし、70年代以降は、首都圏では前述のように地方からの人口の純流入の勢いが弱まっているが、この傾向は、前掲第4-1-1図で純流入数が大きく減少したことで確認できるほか、第4-1-4図の移動効果係数の値が低下し、94、95年にはマイナスになって一時的に純流出に転じたことにも端的に現れている。これについては、経済的要因として、70年代に我が国経済全体が低成長期に入り、都市圏における所得の伸びが相対的に必ずしも高くなくなったことが考えられ、実際、第4-1-5図にあるように、70年代前半に東海地域以外の各地域の一人当たり所得の相対水準が上昇し、首都圏との所得格差が縮小したことが分かる109

(若年層を中心とした人口の流れ)

首都圏への人口流入の中で特に注目すべきは、若年層の移動である。それは第1に、若年層は就職・進学や結婚等を機に移動する者の割合が多いことによる。2000年の国勢調査の人口移動集計では、20歳代前半の18%、後半の16%、30歳代前半の13%、後半の10%の者が直前5年間に都道府県間移動を行っており、この20、30歳代の移動が全年代の都道府県間移動の6割を占める(第4-1-6図)

第4-1-6図 年齢層別都道府県間移動の比率
第4-1-6図 年齢層別都道府県間移動の比率
(備考)
  1. 総務省「国勢調査」より作成。
  2. 常住者のうち5年前の住所が県外であった者の割合を示す。
  3. 各年とも10月1日現在。

また、第2に、若年層の移動の持つ意味合いが大きいことによる。先に述べたように、若年層が生産活動や消費活動の主力としての役割を以後長期にわたって担う労働者であり消費者であるという経済的理由のみならず、将来世代を産み育てる「人口の再生産力」の高い世代であるという人口学的理由からでもある。

首都圏への人口移動では、特に第1次ベビーブーム世代110などの年齢層が若年期に達しつつある60年代に活発な流入が観察される。そこで、第1次ベビーブーム世代のコーホートに注目し、その各時期における在住地域を追跡してみよう。第1次ベビーブーム世代を含む46~50年生まれの者は、60年時点ではまだ10歳代前半の子ども期であるが、全国の分布をみると、首都圏に16.5%、その他の都市圏(大阪府・兵庫県・京都府・愛知県)地域に15.0%、都市圏以外の地域には68.5%が在住していた(第4-1-7図)。その後、70年時点では、この世代は既に成人して20歳代前半となっており、就職や進学等のために都市圏へ移動しており、首都圏在住者は29.1%、その他の都市圏在住者も21.9%に上昇している。その後はむしろ首都圏からの流出があって、この世代が30歳代後半となった80年代後半以降、都市圏以外の地域に54%程度が在住する状態が続いている111,112

第4-1-7図 ベビーブーム世代の人口分布の推移
第4-1-7図 ベビーブーム世代の人口分布の推移
(備考)
  1. 総務省「国勢調査」より作成。
  2. ベビーブーム世代(1947-49年生まれ)を含む1946-50年生まれのコーホートを対象。

105 なお、人口移動という人口の社会増減は、出生・死亡という人口の自然増減と独立した関係にある訳ではない。すなわち、地方から若年人口の流出があった場合、その地域の人口への影響はその人数の社会減だけに止まらない。その移動した若年人口が仮に地域に留まっていれば将来子どもを持ち育てていたであろうことを考えると、地方としては将来世代の人口(将来人口の自然増)をも失うことを意味する。つまり、単なる労働力の流出となるのではなく、「人口の再生産力」をも都市へ移転されることとなる。松谷(2009)。
吉田他(2011)は、都道府県別の人口の社会増加率と自然増加率の関係を分析し、85~90年の社会増加率とその10年後の90~2000年の自然増加率との間で、相関が高かったとしている。
106 ここでのデータは総務省「住民基本台帳人口移動報告」を使用しているため、国勢調査を基に論じた前述の社会増のデータとは整合的でない。
107 移動効果係数は、ある地域の他地域との間の人口の転出入の動きがどの程度一方的か、あるいは双方向的かを示すもので、以下のようにして算出される。大友(1997)。
108 吉田他(2011)でも、高度成長初期の61年において、一人当たり所得水準と人口流入超過率の間には正の相関があったことが示されている。
109 石川(2001)は、79~97年の期間の東京圏の人口移動の変化の要因を分析し、景気変動要因よりも東京の世界都市化に関係する要因の方が人口移動の変化をよく説明するとしている。
110 我が国の場合、ベビーブーム世代は第1次ブーム世代が47~49年生まれ、第2次ブーム世代が71~74年生まれの世代を指す。
111 吉田他(2011)では、ベビーブーム世代が91年から2006年の15年間、すなわち40歳代前半から50歳代後半にかけて、Uターン率(出生県から移動した者のうち出生県に戻った者の比率)が、男性で9%ポイント程度、女性で7%ポイント程度上昇したとしている。
112 高齢層に達した世代がどのような移動を行うかは、今後高齢化が進行する中で、各地域社会にとって重要な点である。特に、ベビーブーム世代が65歳に到達する2012~14年には、老年人口が年100万人ずつ増加すると予想されている。団塊の世代の高齢化に関する分析は、2006~08年の内閣府「高齢社会白書」などを参照。
荒井他(2002)、石川他(2007)は、高齢者移動について検証し、住宅事情による近距離移動が基調であるものの、65~75歳の高齢前期の者は大都市圏から非大都市圏へ向かう移動が顕著だが、75歳以上の高齢後期の者は、むしろ非大都市圏から大都市圏への移動がみられるとしている。
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