第1章 景気回復と地域経済 <要約>

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第1節 企業部門を取り巻く状況の変化

1.外需の弱まりにより生産は減少へ

鉱工業生産は、2007年下期にはほぼ全ての地域で増加していたが、2008年上期には多くの地域で減少となった。2008年第3期には、世界経済の減速、急速な円高等により、牽引力であった「一般機械」、「電子部品・デバイス」、「輸送機械」が減少し、地域別でみると、これまで好調であった関東、東海、九州で減少テンポが速まった。

2.不振が続く建設・不動産業

2008年夏以降、マンション販売の不振、サブプライムローン問題の影響による信用収縮の深刻化等で、建設・不動産業を中心に倒産件数が急増し、第3期では西日本地域における倒産の増加の多くが建設・不動産業であった。2008年第2期、3期の大型倒産をみると、南関東が突出しているが、北陸、中国、四国、九州の大型倒産の大半は建設・不動産業であり、こうした大型倒産のなかには、県下トップクラスの地元老舗建設業者も多く含まれていた。

3.各地で弱含みとなる設備投資

日銀「短観」によれば、設備投資計画(2008年度)は、前年度比で、南関東、近畿で増加、東海、中国等で前年並み、東北、北関東、北陸、四国で大幅に減少。「短観」2008年9月調査時に、多くの地域で設備投資計画が下方修正となり、続く12月調査で更なる下方修正の地域もあった。特に北関東や北陸で下方修正幅が拡大した。

4.国内外とのネットワークの強化

近隣国(中国、韓国、ロシア)との貿易の増加を背景に、日本海側の港湾からの輸出額の伸びが日本からの輸出全体の伸びを上回る。これは、地理的な近さによる時間・費用面での利点のほか、港湾インフラ整備や積極的な航路誘致等にもよる。2008年夏の東海北陸自動車道の全線開通は、太平洋側と日本海側とのネットワークの強化となり、日本海側の港湾の利便性の向上につながるであろう。

5.高まる地域銀行の役割

地域銀行(地方銀行+第二地方銀行)の貸出が増加を続け、銀行全体の国内貸出に占めるシェアは、2007年3月以降、地域銀行が都市銀行を上回っている。さらに、中小企業等向け貸出では、両者の差が拡大し、中小企業への資金供給者として地域銀行の役割が一層高まっている。しかし、このところの地域銀行の貸出の伸びをみると、多くの地域で貸出全体の増勢は維持しつつも、中小企業等向け貸出には慎重化がみられる。

第2節 家計部門を取り巻く状況の変化

1.消費者物価の上昇

2008年に入り、ガソリン価格の顕著な上昇がみられ始め、食料・日用品価格の上昇もみられた。消費者物価指数でみると、2008年第1期から第3期にかけて、全ての地域で、ガソリンや食料等の価格上昇を主因に上昇幅が拡大。消費に占める灯油の支出割合が高い北海道や東北、消費に占める食料の支出割合が高い沖縄では、より高い上昇率となった。都市規模別では、人口規模の小さい自治体で上昇率が高かった。

2.物価上昇や株安等が個人消費に及ぼした影響

物価上昇による消費者の節約志向等から、2008年第2期以降、大型小売店販売額は全ての地域で減少した。乗用車新規登録・届出台数の動きをみると、ガソリン価格が低下に転じたものの、金融危機や株価下落等の影響で、2008年第3期にほぼ全地域で減少となった。9月以降の株安等を受け、景況感が急速に悪化し、景気ウォッチャー調査(10月)でも、全国11地域のうち、現状判断DIが3地域で最大の低下幅かつ最低水準、先行き判断DIも6地域が最大の低下幅かつ最低水準を記録した。

3.ガソリン高の旅行動向への影響

旅行取扱額は、国内、海外ともに、2008年第1期、第2期、第3期と減少幅を拡大させ、特に海外の減少幅が大きかった。これは、物価の上昇等により消費者の節約志向が強まり、旅行が「安近短」の傾向になったことを示している。一方、国内客の海外旅行から国内旅行へのシフトや、台湾、香港、韓国からの外国客の急増により、沖縄への観光客は2007年以降、堅調に増加した。しかし、世界的な景気減速と円高・ウォン安の進行により、9月以降、沖縄をはじめ国内各地で韓国人客を中心に外国人客が減少している。

4.ガソリン高騰の生活インフラへの影響

地方の公共交通サービスの維持は、これまでも厳しい状況にあったが、2007年以降のガソリン高が影響し、島嶼・半島の生活インフラであるフェリーや高速艇の運賃が大幅に引き上げられる事例が数多くみられた。減便や休止となった航路も多い。

5.各地域で厳しくなる雇用情勢

有効求人倍率は、2008年1月以降、ほぼ全ての地域で低下が続き、夏から秋にかけて多くの地域で低下幅が拡大。特に有効求人倍率の水準の高い東海、北陸、南関東での低下幅が大きい。秋以降、製造業を中心に全地域で雇用過剰感が急速に高まり、北関東と東海は年央には雇用不足感のある地域であったが、わずか半年で雇用過剰感の高い地域となった。企業の減産に伴い、各地域で派遣社員や期間従業員等の削減の拡大が懸念される。

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