【補論】地域景況インデックスの改訂

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1.改訂の背景

現在、内閣府において作成している地域景況インデックス(以下、インデックス)は、地域経済の動向を敏感に反映する指標を合成し、景気変動のテンポや大きさといった量的側面を把握することを目的に作成されている。ただし、現行の作成方法は、「指数に外れ値の影響が現れる」という問題への対応が図られていない。

インデックスの場合は、全国単位の統計データと比べ、母集団の規模、標本数及びその抽出範囲が相対的に限られている地域単位の統計データを利用して作成していることから、地域における個別特殊な事情(工場やショッピングセンターの新設、閉鎖等)を反映し易いことは明らかである。

これまで、上記の問題がそれ程クローズアップされなかった要因としては、採用系列に外れ値が含まれていても指数の値自体やグラフの形状からは、合成された値が正常なのか異常なのかを区別するのは容易ではないということがある。これは、外れ値の影響が複数の採用系列及び期間の値により平準化され、表面的には分かりにくくなったためである。この事態を回避するには、当該の外れ値を特定し原系列に修正を施す、あるいは一部計算過程から当該データを外して計算する等の対応を図らなければならない。そうしなければ、影響は長期間にわたり指数の中に蓄積されていくこととなる。

この問題に対処すべく、内閣府経済社会総合研究所では昨年11月に頑健統計学に基づく新しい作成方法を採用し、CIの改訂を行った。今回、インデックスにおいても同様の改訂を行うこととする。

2.改訂の内容

景気動向指数のCIに採用された頑健統計学に基づく作成方法(注)に合わせて改訂を行う。

(1)新しい計算方法及び従来の計算方法との主な違い

従来の計算方法において各種標準偏差を利用して計算している過程を、より統計学的に頑健な四分位範囲を利用するものへ変更し、併せて同四分位範囲を基準として検出した外れ値を一定の値に置き換えた値で計算するものである(詳細は別紙を参照)。

注)詳細は、内閣府経済社会総合研究所『経済分析166号 景気指標の新しい動向』(平成15年2月、美添他)を参照。

計算方法の主な違い

(2)新旧インデックスの比較

ここでは、今回の試算の中で、特に新旧インデクッスの足元の乖離が大きくなった北海道地域を取り上げる。

結果をみると、新たな計算方法の採用により、従来型の計算方法よりも2005年3月の値の減少幅が縮小するとともに、足元、全般的に値が上方に修正されている。

新旧インデックスの推移(北海道)
新旧インデックスの推移(北海道)

この新旧インデックスの乖離の要因としては、主に(1)において示した対称変化率(当期と前期の前期比を平均し中心化したもの)の外れ値に係る処理が関係している。特に足元の乖離幅への寄与が大きい有効求人数についてみてみると、外れ値として検出された2005年3月に、たばこ工場の閉鎖があったことなどが判明しており、事後的に残る影響については、各採用系列の動きの計測によって把握されるものであることを考えると、インデックス自体の構造による過度な減少を防ぐことで、インデックスの信頼性を高めていると考えられる。

基準化された対称変化率の度数分布等

(3)新しいインデックスでみる景気の振幅

新しい計算方法を各地域のインデックスに適用して、前回の景気循環(1999年1月谷-2000年11月山-2002年1月谷)に対応する循環における最高値と最低値の乖離幅と今循環(2002年1月~)の始まりに相当する時点からのインデックスの回復度をみると全ての地域で前回の景気循環における同乖離幅を超えている。

地域景況インデックスにみる各地域の景気の回復度
地域景況インデックスにみる各地域の景気の回復度

(別紙)新しい計算方法の詳細

新しい計算方法 備考
a.個別系列 yi(t) の対称変化率 ri(t) はこれまで通り、以下のように計算する。 数式
数式 (系列が差や比率の場合)
注1)逆サイクルの系列を採用する場合は、数式に(-1)を乗じる。
注2)添え字のiは各系列の番号を表す。
従来と同様。
b.外れ値の検出及び補正 しきい値として、ある定数 k を与えた上で、以下の式により各系列の対称変化率の外れ値を検出し、一定の値で置き換える。
数式
注)数式は四分位範囲における第1分位,数式は四分位範囲における第3分位。
  • 従来は左記過程無し。
  • しきい値のkについては、内閣府経済社会総合研究所が採用している利用するデータの5%を外れ値として検出する値とする。なお、四分位範囲の値を算出する期間は1985年から2004年とする。
c.トレンド要素の計算
個別別系列のトレンド(平均変化率,数式)を、bの補正された対称変化率(もしくは前期差)の後方60ヶ月移動平均値を算出し、その平均値(合成平均変化率, 数式)をトレンドとする。 数式 注)nは系列数
  • 従来は標準偏差を用いて計算。
  • データが欠落が存在している場合、そのまま移動平均値を算出(57ヶ月分しか存在しない場合は,57ヶ月分で計算)して補う。よって、常に足元は全系列で計算。
d.サイクル要素の計算 各系列の四分位範囲基準化変化率(数式)を計算し、その平均値(合成四分位範囲基準化変化率,数式)をサイクル要素に適用するが、各系列の四分位範囲の平均値(合成四分位範囲,数式)を乗じ、トレンドとの水準がそろう系列とする(数式)。
数式
  • 従来は標準偏差により計算。
  • 合成四分位範囲基準化変化率の計算の際には,データが欠落している系列を除いて平均。よって、統計の公表時期などの違いから合成四分位範囲基準化変化率は必ずしも足元、全系列により計算してはいない。
e.インデックスの合成 従来と同様に,トレンド要素とサイクル要素を足して合成変化率(V(t))を作成し、さらに累積して(I(t))基準年次を100とするインデックス(RCI)を作成する。
数式
数式 (但し I は基準年 I(t) の平均)
  • 従来の方法と同様。
  • 基準年は2000年とする。

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