第1部 第2章 第1節 グローバル化に適応する地域の製造業 3. [コラム2]

[目次]  [戻る]  [次へ]

<コラム> グローバル化の事例  有限会社X(福岡県飯塚市)

X社は、国内初の現役留学生(当時)によるベンチャー企業で、次世代インターネットのソフト・ハードウェアの研究・開発・販売等を行っている。九州工業大学に在学していたミャンマーやマレーシア、インドネシア、ベトナムの留学生によって、99年に活動が開始され、2001年に設立された。現在、従業者数は6名、マレーシア、インドネシア、ミャンマーの出身者で構成されている。

X社の特色

X社の特色として第1に挙げられるのは、海外とのつながりが深いことである。会社設立当初からアメリカやインドネシアのIT関連企業と共同開発を行うなど、「留学生によるベンチャー企業」らしい国際的な事業展開を行っている。

第2に挙げられるのは、電話やファックスなど既存の通信機器を利用して、多くの人にインターネットを利用できる環境を提供するための技術開発を行っている点である。X社では「インターネットは人類の財産、だれでも手軽に使えるように!」をモットーにしている。X社が開発したインターネットメッセージングシステムは、様々な通信機器からインターネットを介して通信を行うことができる。これを使えば、例えば、電話で録音した声やファックスで送信したイメージを電子メールでパソコンに届けることができる。

X社の起業やその後の育成に当たっては、行政や大学がそれぞれの役割に応じて支援を行っている。

飯塚アジアIT特区(28)を活用

X社のある飯塚市は、飯塚アジアIT特区に認定されている。特区の認定により、特定事業にかかる外国人の入国・在留諸申請の優先処理や外国人情報処理技術者の在留資格の延長などが認められた。X社は、特区の認定事業所となっている。

入国・在留諸申請の優先処理により、開発に当たり海外から緊急に技術者を呼ぶ場合など、迅速に対応できるようになった。以前は新規申請の場合、申請から2、3週間~1か月ほどかかっていた処理が、3日程度となった。また、在留資格の延長により、3年又は1年の在留期間が5年となり(期間満了後は5年ごとに更新)、落ち着いて働くことができるようになったという。

九州工業大学のベンチャー企業育成の取組

X社の活動が始まった九州工業大学は、大学発ベンチャーを数多く輩出している大学である。経済産業省の調査(29)によると、累積のベンチャー輩出数は25件、九州では1番、全国でも8番目の数となっている。

ブレインインキュベーションルームのブース

工学系ベンチャーを育成するために、理系の大学院では国内で初めて「企業経営特論」などの経営学講義をカリキュラムに取り入れるなど、起業への取組は熱心である。X社の設立に当たっては、ベンチャー立ち上げに熱心な取組を行っている教授らの助言もあった。また、2004年4月には情報工学部のある飯塚キャンパスの敷地内にインキュベーション施設が開設され、産業化を目的とした実用化研究を行う教員や起業を目指す学生などに部屋を提供している。一般のインキュベーションルームのほかに、まだアイデア段階にある研究を支援するためのプレインキュベーションルームも設けられており、学生に無料でブースが貸し出されている。

X社に続き、2件の留学生によるベンチャーも大学内で立ち上がっている。

ベンチャー創業に当たっての問題点

X社の例では、起業した留学生達の情熱や努力に加え、行政や大学の支援等が奏功し、ベンチャー企業を立ち上げ、また海外からの優秀な人材を受け入れることができた。ただし、日本でベンチャーを起業するには問題点もなお残っている。

まず、日本では将来性のあるような研究を行っていても、前例や実績のないものに対する投資や資金の貸出が消極的であることが挙げられる。X社の場合、実績や担保となるものはなく、ゼロベースからの起業であり、銀行からの借入は困難であったが、元留学生で日本に帰化したエンジェル(個人投資家)との出会いがあったため、会社設立に至った。資金調達を円滑にするための仕組みづくりが必要であろう。

また、ベンチャー企業といっても、研究開発に熱心に取り組み、技術力の高いベンチャーもあれば、そうでもないベンチャーもあり、それらが画一的に支援されている面がある。技術力の評価をしっかり行って上で支援していくことが重要であろう。

さらに、行政からの補助金よりも、製品購入や仕事を求めているベンチャー企業もある。自社の製品を使ってもらうことで、製品のブランドイメージが形成されれば、その会社の信頼向上につながる。しかし入札に関して、実績が乏しいことから参加できなかったり、また参加できても競争力が弱いため、なかなか落札できない状況である。金を与えるだけの支援からベンチャーに仕事を与えることによる支援も考えて良いのではないか。X社の社長は「自社の製品を地域の行政や大学などで使って欲しい。それが最高の支援だ」と語る。

今後、優秀な人材の海外からの受け入れや新しい事業の創出を促進するためにも、これらの問題を解決する取組が必要と考えられる。

[目次]  [戻る]  [次へ]