第3章 産業集積のメリットと地域経済の成長に関する統計的検証[第3章の要約]

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[第3章の要約]

1. 特化型の産業集積の多くで全国平均を下回った雇用増加率

都市圏の人口規模と産業の多様性の関係をみると、人口規模が大きくなるほど産業の多様性が拡大するという傾向がみられる。また、製造業及びサービス業の各業種について、特化係数第1位の都市圏と全国平均の90年代における従業者総数の増減率を比較すると、特化係数第1位の都市圏の多くで従業者数増加率が全国平均を下回っている。

2. 製造業の成長と都市圏全体の成長の間に相関関係

90年代の各都市圏における製造業全体の従業者数の増減率と全産業従業者総数の増減率の関係をみると、前者が増加して後者が増加しなかった都市圏は存在しないなど、両者の間には正の相関関係がみられる。特に人口規模が比較的小さい都市圏においては、製造業の成長が都市圏全体の成長にとって依然として重要な役割を果たしているとみられる。

3. 多様性と競争が産業集積の成長を促進

90年代の日本においては、特化型・独占型の産業集積よりも、多様性が高く競争の活発な産業集積において雇用が成長する傾向がみられた。この理由としては、多種多様な産業の集積が競争と技術革新の促進を通じて雇用の拡大を促進する効果を持った可能性があると考えられると同時に、集積の経済が持つ負の作用が産業集積の成長ないし変革を阻害する内在的な要因となった可能性もあると考えられる。特化型の産業集積の広範な存在とそこにおける集積の負の循環の発生が、今日の地域経済の成長の阻害要因の一つとなっている可能性を指摘することができる。

第1章、第2章においては、国内各地域における産業集積及び成長企業の事例を取り上げた。各事例にみられるように、各地において産業集積の活性化に向けた取組が行われている。産業集積が活性化され、集積組織内の連携を通じた協調と競争によってイノベーションが促進される仕組みが整えば、集積はクラスターに成長しつつあると言うことができる。このように産業集積のメリットが効果的に発現されるための条件には、どのようなものがあるのだろうか。第3章においては、都市圏という概念を導入し、産業集積の形態が雇用など地域経済の成長に与える効果について統計的に検証する。具体的には、90年代の全国268都市圏(30)における特定産業への特化と産業の多様性、競争の程度等の産業集積の形態と雇用の成長の関係についての分析を行う。なお、この章においては、集積と都市圏を同義に扱う。また、集積とクラスターについての区別は特に行わないものとする。

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