第1章 地域集積の活性化を模索する各地の実例

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第2節 集積メリットの活用を模索する各地の実例

1. 各地域における多様な地域集積の実例調査

集積のメリットを活用して地域の再生や活性化を実現するには、それに実際に取り組んでいる事例について具体的に検討しておくことが有益と言える。シリコンバレーなど海外の先行事例については多くの調査がなされ、他のクラスターの形成にも役立っている。日本各地の具体的な事例を調査しておくことは、日本のクラスター形成に取り組む際に参考になると考えられる。

本節では、集積のメリットを活用して地域の活性化に取り組んでいる各地域の実例をいくつか取り上げ、現地調査に基づいて状況を整理・分析する。日本に現存する産業集積を対象とすること、現存する産業集積の多くは従来型の産業集積であって、クラスターの条件にあてはまるものは少ないということを併せると、対象となる産業集積は、クラスターの条件を満たすものに限定はしないこととする。地域選定の手法については、以下のとおりである。

  • 1)全国を次の10の地域ブロックに分割する。北海道、東北、関東、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄(地域区分はC)。
  • 2)地域ブロックにおいて、集積の事例として取り上げられている地域を候補として収集する。
  • 3)集積を、製造業と非製造業の二つの分野に分類し、製造業については、産地型、企業城下町型、都市型、進出工場型などに分類する。また、経済産業省の「産業クラスター計画」も考慮した。
  • 4)産業のバランスに配慮しつつ、1地域ブロックごとに1集積を選定した。

非製造業については、IT 関連産業や従来型ソフトウェア関連企業に加えて、アニメーションやゲームソフトなどのコンテンツ関連企業を含むソフト系産業が集積している都市部を中心とする地域にも着目した。

製造業の集積については、集積形成の経緯と集積の形態によって分類し、その特徴の強く現われている典型的な地域を取り上げた(15)

  • 産地型:特定の地域に同一業種に属する企業が集中して立地し、その地域内の原材料、労働力、技術・技能などの経営資源が蓄積され、地場産業的特徴のみられる集積(北陸・新潟県三条市及び燕市、沖縄・沖縄県全域など)。
  • 企業城下町型:輸送機械、電気機械など特定の大手企業の生産拠点周辺に、多数の部品等を生産する下請関連の中小企業が多数立地している特徴のみられる集積(中国・岡山県総社市など)。
  • 都市型:都市部を中心に、部品、金型、試作品などを製造する中小機械金属工業等が多数立地している特徴のみられる集積(近畿・大阪府東大阪市など)。
  • 進出工場型:企業誘致や政府の産業再配置政策により、もともと基盤技術的集積が少ない農村地帯などに工場が多数立地して形成されてきたという特徴のみられる集積(東北・岩手県北上市、中国・岡山県総社市など)。

以上の方式により10の地域集積を選定し、2003年7月に現地調査を行った。各地域集積における取組は、産学官連携の推進、企業間ネットワークの構築、伝統的な技術を活用した新素材の研究開発、特産物の活用など多種多様であった。今回現地調査した地域集積の概要は次のようになるが、各地域において集積のメリットを生かした地域再生への取組が続いている(第1-1-4図)。

(1) 北海道・北海道全域:(製造業(食品、住宅)・非製造業(観光、IT))

北海道では、道内各地における産業クラスターの形成と産学官連携の推進によって地域経済の再生への取組がある。道内の28地域に「地域クラスター研究会」が作られているが、全域にクラスターを形成する試みは、他では見られないユニークなものである。また、産学官連携の推進組織として「北海道科学技術総合振興センター(通称:NOASTEC)」が活動している。NOASTEC は、IT 分野における「知的クラスター創成事業」の中核機関として、「産業クラスター計画」と連携しつつ基礎研究の推進から新産業の創出までを目指して活動している。

(2) 東北・岩手県北上市:製造業(一般機械、電気機械)

1950年代からの北上市による企業誘致によって産業集積が形成された。現在160社を超える企業が集積し、県内第1位の産業集積となっている。岩手大学工学部附属金型技術研究センターの「新技術応用展開部門」、市の「基盤技術支援センター」が集積内に立地し、産学官連携の形成が推進され、下請依存型から技術開発型への転換の取組もみられる。

(3) 関東・東京都(杉並・練馬区周辺地域):非製造業(アニメーション)

都市部に自然発生的に形成されたアニメーション産業の集積。世界で放送されているアニメーションの約6割が日本で制作されたものであるが、デジタル化への対応の出遅れ、経営基盤の弱体化、人材不足の問題が生じている。

このため、杉並区が先行して産業支援策を開始し、中小制作会社の著作権確保の支援、人材育成プログラムなどを実施している。

(4) 東海・岐阜県大垣市:非製造業(IT)

大垣市においては、県と市が主導し、日本版シリコンバレーを目指して、IT 関連産業の集積形成が進められている。その中核となる施設の「ソフトピアジャパン」には、147社が集積し(2003年3月31日時点)、従業員数は約1,800人(2003年7月1日時点)となっている。また、構造改革特区の認定を受けている。

(5) 北陸・新潟県三条市及び燕市:製造業(金属製品)

三条市と燕市の金属製品産業は、中国など海外製品に押されて、従業者数は長期的に減少している。新たな発展のために、「新潟県県央地域地場産業振興センター」を中心に、地域の大学や県の工業技術総合研究所との産学官連携を行い、マグネシウム合金を利用したプレス加工、製品化に取り組んでいる。

(6) 近畿・大阪府東大阪市:製造業(金属製品、一般機械など)

大都市圏における中小製造業の集積。ここには、多様な業種の企業が集積し、それぞれの分野において国内シェア第1位の製品を持つ企業(トップシェア企業)や、他社にはない独自技術を持つ企業(オンリーワン企業)が多いという特徴がある。東大阪市は、このようなトップシェア企業、オンリーワン企業等の広報宣伝を支援することなどで、地域産業の再生に取り組んでいる。

(7) 中国・岡山県総社市:製造業(自動車部品)

大手自動車メーカーの系列部品メーカーによる集積。中核企業である大手自動車メーカーによる世界的な調達最適化という新方針を受け、系列部品メーカーによる研究開発や新たな販路開拓に取り組んでいる。

(8) 四国・香川県全域:非製造業(うどん)

香川県においては、地域固有の食文化である讃岐うどんの全国展開や、うどん店めぐりなど観光を通じた地域再生への取組がある。関係団体と香川県などが中心となり、地域固有の食文化を全国的なブランドに育てる取組が進んでいる。

(9) 九州・大分県湯布院町:非製造業(旅館など)

民間人主導で、自然景観を大切にした保養温泉地づくりに成功した温泉観光産業集積。中心人物の一人は、政府の「観光カリスマ百選」に選定されている。年間400万人近くの観光客が訪れている。

(10) 沖縄・沖縄県全域:製造業(健康食品)

沖縄県では、多彩な食材と長寿のイメージを背景に、多くの健康食品産業が立地している。近年の健康食品関連市場の成長につれて、事業者数、商品数、売上高ともに増加している。健康関連産業を含む産業クラスター計画が推進されている地域でもある。

このように、クラスターの形成を目指して従来型の産業集積からの転換に取り組んでいる地域もあれば、クラスターというコンセプトとは独立に集積の活性化に取り組んでいる地域もあるというように、必ずしもすべてがクラスター形成に向けた取組の実例とは言えないものの、いずれも産業集積の力を活用して地域産業の再生を達成しようとする実例と言うことができる。

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