第1章 第2節 集積メリットの活用を模索する各地の実例 2.

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地域クラスターの所在地 東北

(この地域の特徴)

  • * 北上市が早くから誘致に取り組み、珍しい内陸型の工業集積を開拓
  • * 地域の大学と連携し、技術開発型集積への発展を図る

北上市の人口及び製造業の規模の推移

(一般機械と電気機械が中心の内陸型集積)

北上市は、北上平野の中ほどに位置し、人口は県内第2位の9万人強である。海抜100メートル以下の平坦な土地に、北上川と和賀川が流れ、その豊かな水は、良質な米作りと工業用水に活用されている。東北新幹線、東北本線が南北に走り、北上線が分岐する鉄道の結節点であり、東北新幹線で東京から約2時間半、仙台から50分、盛岡から20分の距離にある。また、東 北自動車道と秋田自動車道の合流する道路網の結節点でもある。

54年4月に周辺の1町6村が合併し、北上市が誕生した。その後、91年4月に和賀町、江釣子村が合流して現在の北上市となっている。54年の市誕生の以前から、この地域の課題は、定住促進とその前提となる雇用の確保であった。そこで、北上市は、「工場誘致条例」を制定するなど、工場誘致に取り組んできた。それまでの工業集積は、太平洋ベルト地帯に代表される沿海型のものであったが、この取組によって、内陸のこの地に54年以来160社を超える企業が進出してきた。「工業統計表」によれば、2001年時点で、事業所数、工業出荷額、付加価値額のいずれをみても県内第1位の工業集積を形成している。中心産業は、一般機械、電機機械であり、この2つで事業所数の約30%、製造品出荷額の約50%を占めている。

(北上市の積極的な誘致によって約160社が進出)

この集積の特徴として、早い時期に市自らが中心となって工業整備を進めたことが挙げられる。54年に合併後の初施策の一つが「工場誘致条例」の制定であった。誘致に際しては、都道府県や公社・公団が主導するケースが多いのに対し、北上市では自らが開発公社を設立し、整備を実施した。また、61年頃の早い時期に土地の先行取得を行ったため、低廉な用地の提供ができ、かつ他に先駆けて積極的に宣伝活動を行った。

市には、商工課とは別に、特に企業立地課が設置され、工業整備、工業誘致に当たった。自治体による工場誘致は、都道府県主導の団地整備とパンフレットの送付だけというケースもあるが、北上市では企業立地課が、新聞記事などで工場新設を考えているという企業を見つけると、率先して職員を送り、誘致に努めた。このような活動が多くの企業の進出につながったとみられる。

(企業の開発力向上を目指した知的支援)

円高による輸入品との競合、国際競争による海外への生産移転など、全国的に工業集積の直面する課題は、北上市の問題でもある。北上市では、個々の企業の製品開発力と競争力を高めることを支援するための取組がなされている。第一に、産学連携を含む知的施設の立地促進と集積、第二に、企業間ネットワークの形成である。

現在、北上市の集積を技術面から支える知的財産の中核となっているのが「北上オフィスプラザ」である。これは、「地方拠点都市地域の整備及び産業業務施設の再配置の促進に関する法律」(いわゆる地方拠点法、92年8月施行)により、北上市を含む地域が「北上中部地方拠点都市地域」として指定され、その中で「オフィスアルカディア・北上」(北上産業業務団地)が造成され、その中核施設となっている。

北上オフィスプラザは、一般の賃貸オフィスだけではなく、SOHO 向け、インキュベータ向けのオフィスも貸しているが、ほぼ満室となっており、北上における新事業創出の一翼を担っている。

北上市の人口及び製造業の規模の推移

ここには、2003年5月に岩手大学工学部附属金型技術研究センターの新技術応用展開部門(以下「金型センター」)が入居した。岩手大学は、従来から産学官連携に熱心な大学で、産学官のネットワーク形成を目的とする「岩手ネットワークシステム」活動にも取り組んでいる。「岩手ネットワークシステム」は、31分野の研究会に分かれて研究・交流活動を行っており、その一つが金型についての研究会で、2001年6月に設置された。

北上市の岩手大学に対する寄附により、金型センターの入居が実現したが、2002年に地方財政再建促進特別措置法の施行令が改正され、市町村による国立大学への寄附が可能になるという措置によって実現された。このケースは自治体による国立大学への寄附の第1号となった。このことは北上市の先進性と積極性の現われといえる。

金型センターが立地するまでは、北上の事業者や技術者は、盛岡まで相談に出かける必要があった。これで、身近なところで岩手大学の専門知識を活用することができる。

また、北上オフィスプラザと同じ敷地に市の「基盤技術支援センター」が設立されている。ここでは、中小企業が自前で保有することは難しい計測機器など様々な設備が提供されている。このように、北上オフィスプラザ地域は、知識集約型工業の中核となっている。

岩手大学金型センター

こうした知的集積を利用して、北上市は誘致型集積から技術開発型集積への転換を図っている。北上市工業振興計画(2003年3月)においては、「下請依存型からの脱却」を取り組むべき課題として挙げている。そのためにも、集積内企業が金型センター等を活用することで、製品開発力を高めてゆくことが期待されている。

(企業の枠を越えたネットワークの形成)

北上市には、民間企業が中心となった「北上ネットワークフォーラム」という新しい動きもみられる。これは、地域産業界、大学、行政等の連携を強め、新技術や新事業の創出を図り、地域産業の自立的・創造的な活性化を目指すとともに、地域社会への貢献を目的としている(2000年3月設立)。主な活動としては、岩手大学などから講師を招き、人工知能などの最新の知識から、リサイクルなど新たに重要性が増している分野まで、広範なテーマの講演会を多数開催している。

このようなテーマについて関心をもっていても、中小企業の技術者が大学の研究者に直接会って話を聞くには、きっかけをつかみにくい場合があるかも知れない。そのような場合にも、このフォーラムによって提供される「連携の場」が役立つとみられる。

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