第1部 第3章 第2節 サービス9分野における雇用創出の地域別・分野別例示

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1.サービス雇用創出試算の地域分割

(1) 地域別の分割結果

雇用拡大専門調査会の「例示」を前提とし、そこで試算されている中期的なサービス雇用の創出数が、地域別分野別にどのように分布するかを検討してみよう。

「例示」の雇用創出数を前提に、これを地域別に分割した結果が第1-3-6表である。前提となる雇用創出数を都道府県別分野別のデータに基づいて分割したうえで、全国9の地域ブロック(地域区分はB)に集計してある。

地域別の分布をみると、関東が215.9万人(対全国構成比40.9%)で最も多く、次いで近畿の87.2万人(同16.5%)、九州の55.1万人(同10.4%)となっている。関東など大都市圏の人数が大きいが、これはもともと人口が集中していることも関係する。雇用創出数を労働力人口で調整すると、沖縄、四国、北海道などの順に大きくなり、地方圏で雇用創出効果が大きいことが分かる(本項(3)、第1-3-9表参照)。

以下、地域別の結果を概観する。

(地域別の状況)

北海道では、雇用創出数は23.8万人、対全国シェアは4.5%になる。地域内での分野構成比をみると、「個人向け・家庭向け」が8.7万人で36.4%を占めて最も多く、次いで「企業・団体向け」(4.4万人、18.6%)、「医療」(2.9万人、12.0%)となっている。各分野での全国構成比をみると、「医療」が5.4%を占めて最も多く、次いで「企業・団体向け」(4.9%)、「高齢者ケア」(4.8%)となっている。

東北では、雇用創出数は37.2万人、対全国シェアは7.0%になる。地域内での分野構成比をみると、「個人向け・家庭向け」が13.9万人で37.4%を占めて最も多く、次いで「企業・団体向け」(5.1万人、13.8%)、「高齢者ケア」(4.3万人、11.5%)となっている。各分野での全国構成比をみると、「環境」が11.3%を占めて最も多く、次いで「高齢者ケア」(8.6%)、「子育て」(8.4%)となっている。

関東では、雇用創出数は215.9万人、対全国シェアは40.9%になる。地域内での分野構成比をみると、「個人向け・家庭向け」が77.7万人で36.0%を占めて最も多く、次いで「企業・団体向け」(42.3万人、19.6%)、「住宅関連」(23.8万人、11.0%)となっている。各分野での全国構成比をみると、「リーガル」が49.2%を占めて最も多く、次いで「社会人向け教育」(49.1%)、「企業・団体向け」(47.0%)となっている。

中部では、雇用創出数は52.1万人、対全国シェアは9.9%になる。地域内での分野構成比をみると、「個人向け・家庭向け」が20.2万人で38.8%を占めて最も多く、次いで「企業・団体向け」(8.3万人、15.9%)、「住宅関連」「医療」(ともに5.2万人、10.0%)となっている。各分野での全国構成比をみると、「子育て」が10.8%を占めて最も多く、次いで「リーガル」(10.6%)、「個人向け・家庭向け」(10.4%)となっている。

近畿では、雇用創出数は87.2万人、対全国シェアは16.5%になる。地域内での分野構成比をみると、「個人向け・家庭向け」が32.5万人で37.3%を占めて最も多く、次いで「企業・団体向け」(14.8万人、17.0%)、「住宅関連」(9.1万人、10.5%)となっている。各分野での全国構成比をみると、「リーガル」が19.4%を占めて最も多く、次いで「高齢者ケア」(17.6%)、「医療」(17.2%)となっている。

中国では、雇用創出数は32.6万人、対全国シェアは6.2%になる。地域内での分野構成比をみると、「個人向け・家庭向け」が12.2万人で37.4%を占めて最も多く、次いで「企業・団体向け」(5.0万人、15.5%)、「高齢者ケア」(3.8万人、11.7%)となっている。各分野での全国構成比をみると、「高齢者ケア」が7.6%を占めて最も多く、次いで「環境」(7.5%)、「医療」(7.1%)となっている。

四国では、雇用創出数は17.9万人、対全国シェアは3.4%になる。地域内での分野構成比をみると、「個人向け・家庭向け」が7.3万人で40.8%を占めて最も多く、次いで「医療」(2.4万人、13.2%)、「企業・団体向け」(2.3万人、12.8%)となっている。各分野での全国構成比をみると、「医療」が4.5%を占めて最も多く、次いで「高齢者ケア」(4.0%)、「個人向け・家庭向け」(3.7%)となっている。

九州では、雇用創出数は55.1万人、対全国シェアは10.4%になる。地域内での分野構成比をみると、「個人向け・家庭向け」が20.3万人で36.9%を占めて最も多く、次いで「医療」(7.5万人、13.6%)、「企業・団体向け」(7.1万人、12.8%)となっている。各分野での全国構成比をみると、「医療」が14.2%を占めて最も多く、次いで「子育て」(12.9%)、「高齢者ケア」(12.8%)となっている。

沖縄では、雇用創出数は5.9万人、対全国シェアは1.1%になる。地域内での分野構成比をみると、「個人向け・家庭向け」が2.6万人で43.9%を占めて最も多く、次いで「子育て」(0.7万人、11.7%)、「企業・団体向け」(0.7万人、11.3%)となっている。各分野での全国構成比をみると、「子育て」が1.9%を占めて最も多く、次いで「個人向け・家庭向け」(1.3%)、「医療」(1.1%)となっている。

(2) 都市圏では企業向け、地方圏では生活型が多い傾向

どの地域においても、「個人向け・家庭向け」における雇用創出が最も多く、それぞれの4割程度を占めている。特に、沖縄、四国、中部において、この分野の雇用創出のシェアが高い(第1-3-7図)。

2番目に雇用創出が多い分野については、地域によって違いが見られる。北海道、東北、関東、中部、近畿、中国においては、「企業・団体向け」だが、四国と九州では「医療」、沖縄では「子育て」となっている。 9つの分野別に、地域分布の特徴をみてみよう(第1-3-8図)。

「社会人向け教育」「リーガル」については、関東が約半分を占める。「企業・団体向け」でも関東のシェアが高い。これは、首都圏において、企業の本社機能と高度・専門教育機関の集中により、関連需要が偏在していることによる。今後は、地域経済の自律的な発展によって本社機能と高度・専門教育機関の地方分散が実現するようになれば、このようなサービス分野の雇用も分散されてゆくと考えられる。

「住宅関連」については、関東、中部、近畿の大都市圏において、雇用創出数が3番目に大きな分野になっている。この分野は、既存の住宅を二次的に流通させることに関連するニーズに対応したものであり、不動産評価、仲介・売買、リフォームが中心となるが、住宅資産の有効利用の点からも、重要ということができる。

「子育て」「高齢者ケア」「医療」については、地方圏の構成比が比較的高くなっている。この理由としては、育児中の女性の就業に対応する「子育て」、高齢単身者のニーズに対応する「高齢者ケア」などは、どの地域においても平均してニーズが分布していることが指摘できる。

このように、企業の集中する都市圏では「企業・団体向け」などの分野の雇用増が目立つが、地方圏では、個人や家庭、育児、高齢者のニーズに対応する「生活密着型サービス産業」あるいは「地域密着型サービス産業」の分野が拡大しているという特徴がみられる。

(3) 「雇用創出効果」をみると高い地方圏

既に述べたように、これまでの雇用創出数の比較では、地域の人口規模などがそのまま結果に反映されている。そのため、関東などの人数が多く、シェアも大きくなっている。そこで、人口規模の影響を除いて地域別の特徴をみるために、前段までの雇用創出数を地域ごとの労働力人口を用いて調整した「雇用創出効果」を地域間で比較する。

その結果が、第1-3-9表第1-3-10図である。数字は、労働力人口100人当たりの雇用創出人数で「雇用創出率」と言えるようなものである。合計値でみると、北海道で8.31人、沖縄で9.55人などとなっている。

これを地域別にみると、雇用創出効果の高い順に、沖縄、四国、北海道、九州、中国などとなっており、地方圏での雇用創出効果が高いことが分かる。

これを分野別に検討すると、これらの地域では、「個人向け・家庭向け」「子育て」「高齢者ケア」「医療」「環境」の各分野において創出効果が高くなっていることが指摘できる。このように、「生活密着型サービス」「地域密着型サービス」に支えられ、地方圏でのサービス雇用創出人数は、労働力人口当たりでみると大都市圏を上回ることが可能であると考えられる。

(4) 2001年までの状況の確認

この「例示」における9分野のサービス雇用の状況は、直近ではどうなっているのか。第1-3-11表は、99年から2001年にかけての9分野に含まれる業種分類の就業者数である。総務省「事業所・企業統計調査」(1999、2001速報)により、比較が可能な業種だけを抽出した。

これによると、サービス業合計で1999年には1,369万人の就業者があったものが、2001年には1,493万人となり、124万人増加している(増加率は9.1%)。このうち、サービス9分野に対応する業種をみると、例えば、洗濯・理容・浴場業では、4.9万人増加した。増加数については、その他の事業サービス業、医療業、社会保険・社会福祉などが大きく、増加率でみると、社会保険・社会福祉、その他の事業サービス業、その他の生活関連サービス業、情報サービス・調査業、廃棄物処理業などが大きくなっている。分野別にみると、「企業・団体向け」に属する業種と、医療・福祉に関連した業種の増加が大きくなっている。

更に、「企業・団体向け」の内訳である「情報サービス・調査業」について地域別にみてみよう。第1-3-12表第1-3-13図は、地域別に「情報サービス・調査業」の就業者数の推移を示している。1999年から2001年までに、就業者数は73.2万人から87.8万人まで14.6万人増加した。これを地域別にみると、四国以外の8地域で増加し、この増勢が続けば「例示」の約5年後の数値を上回ることは十分に可能とみられる。ただし、直ちに分かるように、この分野の就業者は、関東に集中しており(対全国シェアは64.8%、2001年)、こうした地域偏在の状況について改善を図ることが、地域の雇用を拡大する上での課題と言うことができる。

2.消費活性化を通じた雇用拡大の試算

(1) 地域別産業連関表などを用いたマクロ的試算(試算B)

これまでの試算は、雇用拡大専門調査会「サービス産業雇用創出の例示」を前提として、サービス9分野の雇用創出数を地域別に分割したものであった(これを試算Aとする)。この分野ごとの創出数は、潜在需要が順調に実現したときの市場規模を想定し、それに適合するような供給構造を実現する就業者数を基準にしている。

ここからは、別のアプローチで需要拡大の地域別雇用創出効果を試算する(これを試算Bとする)。それは、高齢者と女性の就労及び消費性向の上昇によって個人消費が増大し、それが各地域の生産と雇用を拡大させるというシナリオを前提に、地域別業種別の雇用創出を定量的に把握している。詳しい推計方法は(付注1)に別記するが、マクロ消費関数、世帯類型別分野別消費マトリックス、地域別産業連関表などを活用し、地域別分野別(9地域393業種)就業者数をもとめ、それを再編成してサービス9分野の雇用創出数を地域別に試算した(付注2参照)。その結果が、第1-3-14表である。

この試算では、全国ベースで約500万人の新たな雇用が創られる。サービス9分野でみると、合計で約411万人の雇用増になる。この500万人と411万人の差は製造業や小売業などサービス業以外に分類されている就業者を含めるかどうかによる。例えば、医療サービスに対する需要が増えると、関連して医療機器に対する需要も増加する。高齢者ケアサービスに対する需要が増えると、高齢者用の自動車などの需要も増加する。このような関連需要が合計約89万人の雇用を創出するということである。

このような雇用に対する需要の増加を含めて把握することにも理由がある。新しいサービス雇用には、製造業や小売業におけるビジネスモデルの転換やアウトソーシングの動きが関係している。サービス業以外の業種の生産が増え、その業種のアウトソーシングによって人材派遣業などの雇用が増えるという場合がある。そして、このような動きは産業連関表ではまだ十分に捉えることができないので、サービス業以外の雇用についてもみておく必要があるからである。

次に、サービス9分野の合計についての2つの試算の間のギャップをみる。雇用拡大専門調査会の「例示」に従った試算Aでは、約530万人であるのに対し、試算Bでは約411万人と、119万人少なくなっている。これを分野別にみると、「住宅関連」の違いが最も大きく、次いで、「医療」「企業・団体向け」の順になっており、この3分野合計で100万人の差になる。

この差の理由としては以下のものが挙げられる。[1]「例示」に基づく試算Aでは、住宅、医療など各分野で構造改革が大胆に進むことを前提としており、産業連関表では把握しにくい構造変化が織り込まれていること、[2]「住宅関連」について、試算Aではリフォームなど新しい分野の雇用増だけを集計(グロス)しているのに対し、試算Bでは既存の建設業の減少分を足し合わせた数字(ネット)になっていること、[3]「リーガル」については、試算Aでは企業内の法律関連業務がアウトソースされることによる新規雇用をとらえているのに対し試算Bではそれが企業の内部にとどまっているので新規雇用とはみなされないことなどである。このように、構造変化についての前提の違いと同一業種内での雇用の移動をどう捉えるかによって試算値の違いを概ね説明することができる。

試算Bについて、雇用創出数を分野ごとにみると、「個人向け・家庭向け」が最も多く198万人で全体の48%を占める。次いで「企業・団体向け」が66万人(分野構成比16%)、「高齢者ケア」が36万人(同8.8%)、「社会人向け教育」が33万人(同8.1%)、「医療」が25万人(同6.1%)などとなった。

(2) サービス分野の特性を反映する雇用創出の地域分布

試算結果を地域別にみてみると以下のようになる。

北海道では、サービス9分野の合計で15万人の雇用創出が試算される。分野別では、「個人向け・家庭向け」が半分以上で、「子育て」「高齢者ケア」が全国平均に比べて高い割合となっている。サービス9分野以外では、食料品で雇用創出の比率が高い。

東北では30万人で、「個人向け・家庭向け」が高く、「住宅関連」も全国平均に比べて高い。9分野以外では、機械・金属、電機などで増加がみられる。

関東では、160万人と全国の39%を占めている。「企業・団体向け」の割合が高く、全体の22%になっている。「リーガル」の構成比は小さいが、地域別にみると約半数がこの地域に集まっている。9分野以外では、食料品、金属、一般機械で増加がみられる。

中部では36万人で、「個人向け・家庭向け」の割合が全国平均よりも高いが、他の分野はほぼ全国平均並みとなっている。9分野以外では自動車などの製造業で増加がみられる。

近畿では69万人で、「社会人向け教育」「高齢者ケア」「医療」で全国平均を上回る。9分野以外では従来の産業蓄積を反映した化学、金属、機械において増加がみられる。

中国では25万人で、「高齢者ケア」「子育て」「医療」において全国平均を上回る。他では一般機械、電気機械で増加している。

四国では15万人で、「社会人向け教育」のシェアが高い。次いで「高齢者ケア」「医療」の割合が高いが、「企業・団体向け」のシェアが低いのも特徴である。

九州では54万人で、「社会人向け教育」「高齢者ケア」「医療」の各分野において全国平均を上回る。高齢化の進展により医療関連支出が高い地域特性が関係しているとみられる。

沖縄では6万人で、「個人向け・家庭向け」が約6割を占めているのが特徴である。「社会人向け教育」の割合も比較的高いが、「企業・団体向け」の割合が小さいという特徴もみられる。

今度は、分野ごとに、雇用創出の地域分布をみてみよう。

全地域について最大のシェアを占める「個人向け・家庭向け」については、関東が39%を占めるが、「リーガル」「企業・団体向け」ほどには集中していない。女性や高齢者の就業増加を通じた消費の活性化によって、「個人向け・家庭向け」の就業者は比較的地域の偏りなく創出されると試算される。これは、「個人向け・家庭向け」が主婦の家庭内サービスをアウトソースしている面があるので、家庭数に比例して分布しやすいということと、観光関連サービスが含まれるので、多くの地域に分散されやすいということが理由として考えられる。

「社会人向け教育」では、関東のシェアは低下し、近畿と九州に多い。「企業・団体向け」と「リーガル」は、関東と近畿に集中している。「住宅関連」「子育て」「高齢者ケア」「医療」「環境」の各分野については、地方のシェアが相対的に高い。特に、「医療」で九州と四国のシェアの高さが目立っている。

このように、本社の集積する大都市圏において「企業・団体向け」と「リーガル」が偏在する一方で、医療、福祉、教育などの生活に関連する生活密着型産業では地方圏においても新しい雇用が創出される可能性があることを、この試算は示していると考えられる。

(3) 基本的に類似している2つの試算

ここで再び、2つの試算を詳しく比べてみよう。本項(1)において既に述べたような違いはあるものの、両試算には地域別にも分野別にも雇用創出の分布には同じような傾向がみられる。この理由としては、どちらの試算も現在の雇用の分布と過去のトレンドにある程度依存しているということと、ともに潜在需要(ウォンツ)に基づいた需要分布を前提としていることが指摘できる。

地域別の分布を分野ごとにみると、「個人向け・家庭向け」については、両試算の地域分布は似通っている。他の分野についても地域分布は良く似た傾向になっているが、「医療」については、試算Bにおいて九州のシェアが高く(30.3%)関東のシェアが低くなっている(19.6%)。また、「社会人向け教育」についても九州のシェアが高い。「高齢者ケア」「医療」「社会人向け教育」の分野で、近畿以西のシェアが高いが、これは産業連関表の産業ウェイトが関係している。

分野別の構成比をみると、試算Bにおいて「個人向け・家庭向け」のシェアが高く(48%)、「住宅関連」のシェアが低くなっている(2.2%)。これは、試算Bにおいて、サービス9分野に対応するために「個人向け・家庭向け」に飲食店(69万人増)が含まれていることによっている。「住宅関連」については、既に述べたように、試算Aではリフォームの増分だけを計上しているのに対し、試算Bでは既存の住宅関連業種の減少分を織り込んでいるので増分が少なくなっていることによる(グロスとネットの差)。

試算Aと試算Bでは、対象となる業種が異なっている。サービス9分野は新しい需要に着目しているので、既存の分野に限られる産業連関表の業種分類とは不一致が生ずる。例えば、「個人向け・家庭向け」に含まれるライフ・モビリティサービスについては、現時点で雇用者が把握できないので試算Bでは推計することはできない。「リーガル」や「社会人向け教育」のように、アウトソースに伴う雇用創出は、試算Bにおいては(法務部や研修部のかたちで)企業に内生化されたままなので、雇用創出として現れてこない。

更に、個別の業種について、試算Aではグロスの増分だけを積み上げることができるのに対し、試算Bにおいては業種内の減少分を含んだネットの増分しか分からないという違いがある。試算Bでは、このような違いによってサービス9分野については、試算Aに比べて約100万人雇用創出数が少ないものの、製造業を含めた全産業ベースでは約500万人の雇用創出が可能ということが示されている。

3.地方圏の優位性と供給構造改革の課題とは

各地域において、どのような新しい産業と雇用が発現されてゆくのか。ここまでは、サービス産業を中心として、その現状を把握し、将来について2つのアプローチによる試算を検討した。試算Aの前提となる雇用創出数は、規制改革や情報開示などによって潜在的なウォンツが顕在化することによる新しい需要と雇用の増加をサービスの分野ごと試算し、積み上げたものである。試算Bは、就業形態の変化と消費性向の上昇によって需要が増加し、雇用が増加する経路を地域産業連関表などを用いて追跡した試算である。

どちらもグローバル化、情報化、高齢化といった環境の変化に前向きに対応した雇用創出型の構造改革を前提とし、潜在的なウォンツが実際のニーズに転化されることで需要と雇用が創出されるという経路において一致している。その結果も、産業分類の仕方、業種の分け方による増分の違いを考慮すると、近いものになっている。これは、出発時点における雇用構造が同じであること、過去のトレンドも反映されていて、これは共通であることを踏まえるならば驚くにはあたらないと考えられる。このようにどちらの試算においても、サービス分野において新しい産業の可能性が広がっているということが示されており、それは地方圏にとっても同様であると言うことができる。

地方圏においても、「個人向け・家庭向け」という生活密着型、地域密着型の産業の雇用創出が期待される。また、「社会人向け教育」「住宅関連」「高齢者ケア」「医療」の各分野でも潜在的なウォンツが大きいとみることができる。そして、サービス産業には、多様なニーズに適合する多様な供給構造と、きめ細かなニーズの動きを把握する高度な情報処理機能、そしてそのニーズに素早く対応する柔軟な供給構造が求められる。多様な地域ごとのニーズに対応する上では、情報の量という点でも、距離の点においても地域に特化したサービス提供者が競争力を持つ可能性も指摘できる。

したがって、このような供給側の適応力を高めることが、地方圏の産業を活力あるものにする条件とみられる。そのためには、ビジネスモデルの変革、コーポレート・ガバナンスの強化、そして物流システム、情報ネットワーク、資金調達などのネットワーク機能の改善、更には技術開発、教育訓練による知的資産の蓄積などが効果を持つと期待される。

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