第1部 第2章 第1節 急ピッチで進む構造改革特区の議論

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1.これまでの議論の経緯

今般の特区に関する議論は、2002年3月12日に開催された総合規制改革会議及び同月15日に開催された経済財政諮問会議において開始された(第1-2-1表)。両会議での議論を受け、6月25日に閣議決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」には、経済活性化戦略の一つである「地域力戦略」のアクションプログラムとして「構造改革特区の導入等」が盛り込まれ、「進展の遅い分野の規制改革を地域の自発性を最大限尊重する形で進めるため、「構造改革特区」の導入を図る。こうした地域限定の構造改革を行うことで、地域の特性が顕在化したり、特定地域に新たな産業が集積するなど、地域の活性化にもつながる。」と明記された。

その後、9月6日には、構造改革特区に関する地方公共団体等からの提案がとりまとめられ、公表された。231の地方公共団体等公的主体及び18の民間企業・大学等から国際物流関連、研究開発関連、環境・新エネルギー関連、産業再生関連、農業関連、医療関連、生活・サービス関連、教育関連、国際交流・観光関連等、426件の提案が寄せられ、その中で提案されている規制緩和要望は902項目に及んだ(第1-2-2表)。

これを踏まえ、9月20日には、構造改革特区の目的、構造改革特区推進のための取り組みの方針等を内容とする「構造改革特区推進のための基本方針」が決定され、更に10月11日には、構造改革特区を推進するための具体的な制度の骨格、構造改革特区において特例措置を講じることができる規制及び特例措置を講じる場合の要件、今後のスケジュール等を内容とする「構造改革特区推進のためのプログラム」(第1-2-3表)が決定されるなど、制度の具体化に向けた作業が進展している。

2.地域主導の構造改革

このように、構造改革特区の議論は急ピッチで進んでいる。ここで、構造改革特区の議論の背景と特徴を改めて整理してみることとする。

[1]構造改革特区を通じた規制改革の推進と経済の活性化

財政・金融政策の余地が極めて小さい中で、我が国経済が長期停滞の状態を脱却するためには、抜本的な規制改革を通じて民間の経済活動の活性化を図ることが不可欠である。規制改革に関しては、「経済的規制は原則自由、社会的規制は必要最小限」(「今後における行政改革の推進方策について」(1994年2月閣議決定))といった原則の下、90年代を通じて政府が重点的に取り組んできた。その結果、経済的分野の規制を中心に一定の成果は上がったものの(14)、少子高齢化、経済のグローバル化などの急速な環境変化に十分な速さで対応できていなかったり、規制改革の必要性が長く叫ばれていながら依然として改革の遅れが目立つ分野もみられる。

このような状況を打開するため、これまでのような全国一律の実施ではなく、可能な地域から規制改革を行い、その成功事例を示すことで、全国的な規制改革を進める契機としようというのが構造改革特区の考え方である。

[2]「自助と自立の精神」の尊重

構造改革特区は、地方公共団体や民間事業者等の自発的な立案により、地域の特性に応じた規制の特例を導入する特定の区域を設け、当該地域において地域が自発性を持って構造改革を進めることを目的としている。我が国においては、従来、国主導のモデル事業的な地域振興策が繰り返し実施されてきた。規格大量生産を中心とした時代においては、インフラの整備等を通じた地域振興策が工場の地方分散等を通じて地域経済の活性化に一定程度貢献したが、国全体の所得水準が世界的にもトップレベルに達し、また、中国等アジア諸国において急速に工業化が進展する中、そのような政策の有効性の低下が顕著になってきた(15)。また、国からの補助金を獲得するために各地域が画一的な政策を立案し、地域の実態やニーズに必ずしもマッチしない投資が行われるという非効率性も拡大した。

地域の特性に応じた規制の特例を導入するという構造改革特区の考え方は、国主導の地域振興からの転換を図り、各地域がその特性を活かして個性ある発展を遂げるという「自助と自立の精神」を求めるものである。

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