第1部 第1章 第3節 集積効果を活かす地域成長企業

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1.人口集積に依存した地域成長企業の分布

(1) サービス業と製造業では成長企業の分布に違い

1999年と2000年の2年間において、連続して売上高の伸び率が10%以上で2000年の売上高が5億円以上の企業を「成長企業」と定義し、全国119万社から抽出された16,817社(11)についてその特徴を分析することで、企業の成長に関する地域的な条件をみてみよう。

成長企業の数、売上高、従業員数などについて地域別にみると第1-1-11表のようになる。地域的な分布をみると、約3割が東京にあり、その売上高構成比は6割を超えている。これ以外でも、近畿、東海、南関東の都市圏の構成比が高くなっている。これは、売上高、従業員ともに本社所在地に計上されているので、本社の多い都市圏(特に東京)に集中するためである。他地域における活動が多くの比重を占めていても、本社が東京にあると東京に分類されているので、東京分はいろいろな地域の企業の影響が混在してしまう。これを踏まえて、東京分を除いた成長企業を「地域成長企業」と定義する。地域の特性に焦点を当てるため、以後はこの「地域成長企業」について分析する。

地域成長企業の分布を、業種別、地域別にみてみよう(第1-1-12表)。立地の地理的な条件をみるため、各地域を市町村ごとに「人口集積都市」(県庁所在地)「その他市部」「郡部」の3つに分け、成長企業の分布をみる。

サービス業をみると、その53.6%が人口集積都市に、38.7%がその他市部にあり、都市部に集中している。製造業は、その24.8%が郡部にあり、他の業種よりも人口集積地への集中度が低いことが分かる。このように、サービス業と製造業では人口集積と成長企業の分布の関係に違いがみられる。

この現象は、次のような要因が背景にあるとみられる。[1]サービスは、供給と需要の時間的なズレが少なく、供給者は需要側に距離的に近いところにいる必要が製造業に比べて大きいこと、[2]人口集積地では新しいサービスが消費者に浸透しやすいこと、[3]対個人サービスでは人口集積地に需要が集積すること、[4]対法人サービスでは企業集積地に需要が集中し、企業集積地は多くの場合人口集積地であることが考えられる。

(2) サービス業によっても違いのある人口集積との関係

更に細かな業種分類(全91業種)について、人口集積度に着目し、地域成長企業の分布をみてみよう。一部の金融、サービス、卸売を中心とする24業種は、郡部には見られず都市部を中心とした地域にしか見られない(12)。これらは対個人サービスで、ニーズの集まる人口集積地に立地しているとみられる。

郡部では、農林水産、公益関連の業種が多くなっている。サービス業の細分類でみると、医療、福祉、環境関連の業種で、郡部の比率が比較的高くなっている(第1-1-13表)。このようなサービス分野では、人口集積の少ない地域でも成長することが可能であることを示しているとみられる。

2.地域成長企業の条件としての企業集積

(1) 企業規模とは必ずしも関係のない地域成長企業群

企業規模とは必ずしも関係のない地域成長企業群

地域成長企業には、財務体質上どのような特性があるのか。地域成長企業と全企業の財務データ(13)の比較を、業種ごとに行ったのが第1-1-14表である。

これをみると、企業規模に関するものを除いてすべての業種において地域成長企業の指標が業種平均の指標を上回っている。特に、「サービス業・その他」では、売上高当期利益率、一人当たり売上高について、平均を大きく上回っている。一社当たり従業員数では、平均を下回っている。

また、「製造業」では、売上高当期利益率、一人当たり売上高は高いものの、一社当たり従業員数は平均を大きく下回っている。他の業種では従業員数でみて、地域成長企業の規模は同じ業種の平均とほぼ同じになっているが、製造業とサービス業では、従業員数の少ない企業が地域成長企業となっており、企業の規模が小さくとも生産性の高い企業は成長しているということが分かる。

(2) 地域優良企業の集積による地域活性化

地域成長企業の地理的な分布には、どのような特徴があるのか。地域成長企業の分布を県別にみてみよう。

成長企業の分布が、産業の特性、地域の特性、企業の規模よりも、人口の集積、産業の集積に依存しているとすると、成長企業の分布は、県別の人口密度、企業集積度によってかなり説明されることになる。

そこで、[1]人口集積都市の人口、[2]一人当たり製造品出荷額を県別に取り、県別の地域成長企業数(人口当たり)との関係をみたのが、第1-1-15図である。これをみると、いずれの要因も地域成長企業の数と正の相関がみられる。これは、人口集積や産業集積がその地域に位置する企業にとって、ニーズの集中、情報ネットワークなどを通じて優位性を与えている可能性があると考えられる。

このように、集積効果を通じてニーズが発現されれば、優良企業の数が増え、それが更に集積効果をもたらすという好循環によって、地域経済が活性化されることが期待される。

  • 11)2001年9月現在、(株)帝国データバンクの企業概要ファイルに収録された企業で、個人企業を含む。また、地域へある程度の波及効果を及ぼしている企業をみるという観点から、一定の売上を確保している企業から抽出することとし、売上高5億円未満の企業は除外した。
  • 12)農業サービス、石炭・亜炭鉱業、原油天然ガス鉱業、たばこ製造業、皮革・同製品製造、代理商・仲介業、銀行・信託、農林水産金融、中小・庶民金融、補助的金融、証券・商品取引業、保険、保険サービス、投資業、道路旅客運送、航空運輸、ガス、水道、熱供給、映画・ビデオ制作、宗教、学術研究機関、政・経・文化団体、その他のサービスの24業種。特に人口集積都市での件数が多い。
  • 13)全企業の財務データは、(株)帝国データバンクの業種別比率ファイルより同業種の財務データの平均値等を集計したもの。

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