第1部 第1章 第2節 人口集積とニーズの浸透が支える新しい分野

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1.人口規模と関連するサービス分野の分布

(1) 電話帳にみる業種分布の特徴 

NTTの電話帳にはそれぞれの地域のビジネスが網羅的に掲載されており、電話帳データを調べることで、地域ごとの業種分布の特徴を知ることができる。NTT電話帳データを用いて、都市の特性と企業の業種別分布との関係をみてみよう(7)。どのような人口規模の都市で、どれだけのサービス産業が成立しているのだろうか。

ここでは、東北、関東、中国の3地域を代表的な地域として選んだ。関東は大都市圏を、東北と中国は地方圏を代表する。そこから人口規模別に30の都市を選定した(8)。そして、各都市の電話件数を基本分類(日本標準産業中分類に相当)とNTT分類に従って分類し、2001年3月時点での都市別の業種分布をみる。また、1999年3月から2001年3月にかけて件数増加率の大きな業種を取上げ、都市規模との関係を検証する。

選定した30市の属性分布

(2) 人口規模の大きな都市で多く成立するサービス業

電話帳データの最も細かな分類(NTT分類、2,276業種)のうち、サービス雇用創出の9分野に当てはまる業種は430になる。この430に当てはまる電話件数を集計し、都市規模ごとに業種の発現比率(電話帳に記載されている業種数の割合)をみたのが、第1-1-6表である。 これをみると、人口規模が大きくなるほど、発現比率が高いことが分かる。「個人向け・家庭向けサービス」分野では、「健康増進(リフレッシュ)サービス」(旅行・スポーツ・娯楽関連)の171業種など、合計185の業種が適合する。都市の人口規模で発現率をみると、5万人規模では「個人向け・家庭向けサービス」の185業種のうち65.4%が電話帳に記載されている。5~10万人規模では73.5%、10~20万人規模では82.7%へと、人口規模が大きくなるにつれて高まっている。この傾向は、他の分野でも同じで、人口規模が大きい都市ほど、多様なサービス業が存在し、選択肢が広がっている。

特に人口20万人を超えると、「社会人向け教育サービス」を除く8分野で発現率が90%を超えていることから、20万人以上の都市であればサービス業の範囲が広がるということが分かる。とりわけ、「企業・団体向けサービス」は都市人口の増加に対する発現率の上昇カーブが急であり、人口集積の効果が大きい(第1-1-7図)。

また、医療サービスは平均的に発現率が高く、規模の小さな都市でも成立しやすいということが分かる。これに対して、社会人向け教育サービスと企業・団体向けサービスは、規模の小さな都市での発現率が低く、人口集積効果の大きな分野であると考えられる。

2.都市機能とニーズの浸透が広げる新しい産業

(1) 都市の機能に関連する新しい産業

都市の人口規模と地理的な位置に着目し、最も細かな分類(NTT分類、2,276業種)の分布をみてみよう。人口規模の小さな都市にしかない業種をみると、20万人規模より小さい都市ではわずかに7業種(9)だが、人口規模の大きな都市にしか存在しない業種は、20万人規模以上の都市でみると175業種もあり、分野も多彩である(10)。

ここで、都市の地理的な位置について着目し、大都市圏と地方圏について人口規模の同じ都市を比較すると、第1-1-8表のようになる。人口規模の小さい都市(5万人規模)について、大都市圏の都市にあって地方圏の都市にない業種をみると、観光関連業種が多い。反対に、地方圏都市にあって同規模の大都市圏都市にない業種をみると、「インターネット」「ゲームソフト販売」など人口集積地向けの業種が多い。

また、地方圏の都市の方が、大都市圏にある同じ人口規模の都市よりも、多くの業種が存在していることが分かった。地方圏の都市は、大都市圏にある同じ人口規模の都市よりも地域における都市の役割が大きくなっていることから、存在する業種が多様になっていると考えられる。このように、ある業種が立地する条件としては、人口の集積だけではなく、地理的な条件などに影響されたその都市の機能がかかわっているとみられる。

(2) ニーズの浸透と新しい業種

1999年3月から2001年3月までの期間において、電話帳件数の増加率上位20の業種は、第1-1-9表のようになっている。このうち16業種がサービス雇用創出9分野に属し、この分野の出店が増えていることが分かる。

この上位20業種について、都市規模別に増加率をみたものが、第1-1-10表である。これをみると、[1]全国的に件数が多く、都市規模にかかわりなく増加している業種、[2]中規模都市で増加している業種、[3]全国的に件数も少なく、小規模都市では成立していない業種、の3つのグループがみられる。

全国的に件数の多い業種は、そのサービスが認知されやすく、消費者のニーズも浸透しやすいために、都市規模にかかわりなく増加しているが、そうでない業種では人口集積のある大規模都市を中心に増加しているとみられる。このように、サービスの認知と浸透という点では、人口の集積が一つの要素となっている。


7) NTT情報開発(株)の「NTT電話帳データ」をもとに、(株)三菱総合研究所が行った委託調査による。
8) 各都市の特徴は下記のとおりである。

<関東地方>政令市:横浜、中核市:八王子・川越、工業中心の都市(機械系、臨海系):日立・袖ヶ浦、ベッドタウン的な都市(昼夜間人口比が低い):三鷹・逗子、広域的な中心的都市:熊谷・秩父、観光系の都市:日光、その他:佐原、

<東北地方>政令市:仙台、政令市以外の県庁所在地かつ中核市:盛岡、工業中心の都市:いわき・北上、ベッドタウン的な都市(昼夜間人口比が低い):名取、広域的な中心的都市:新庄・石巻・弘前・五所川原

<中国地方>政令市:広島、政令市以外の県庁所在地かつ中核市:岡山、工業中心の都市:福山・府中、ベッドタウン的な都市(昼夜間人口比が低い):東広島・総社、広域的な中心的都市:倉吉・米子・下関、その他:新南陽

9) かんぴょう、化学繊維紡績、人工授精所、ビール醸造、養蚕、養鶏、家具塗装の7業種。
10) 王冠・コルク・栓、業界誌出版社、装丁、ガラス加工、商品取引所、腎臓バンク、心臓血管外科、ホスピス、アニメショップ、デザイン教室、テコンドー道場、ボクシングジム、理容・美容学校、レンタル絵画、バイク便、気象情報提供サービス、電話帳広告販売、情報提供関連(教養情報、交通情報、住宅情報、宝くじ情報、ファックスサービスなど)、行政書士会、水族館、外国公館、他、計175業種。

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