平成13年度

地域経済レポート2001

−公共投資依存からの脱却と雇用の創出−

平成13年11月

内 閣 府 政 策 統 括 官

(経済財政-景気判断・政策分析担当)


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おわりに ―地域経済活性化と雇用創出の手段となる構造改革―

1.進展する構造改革における地域経済の新たな役割

(1) 構造改革は特に地域経済に必要

 経済構造の転換は将来における経済の発展を導くためにあり、ある特定の時期に限られるものではないとはいえ、構造改革がとりわけ今の地域経済にとって優先すべき課題であることは、次のようなことから明らかといえる。

 どの地域においても経済の成長が長期にわたり停滞し、所得の伸びない状態が続いている。また、多くの金融機関が多額の不良債権を抱え、その処理に時間がかかっている。そして、どの地域においても開業・立地と雇用が伸び悩み、失業率が上昇している。家計は、雇用と資産価値の減少と老後について不安を抱えている。企業は、過剰雇用と過剰債務と過剰設備に苦しんでいる。そして、政府は、中央も地方も特殊法人も多くの累積債務を抱えている。

 そして、経済環境が急激に変化しているにもかかわらず、地域経済は十分対応していないことがこの背景にあり、環境変化に対応するには、これまで地域経済を支えてきたシステムが新しくなる必要があることが認識されてきたからである。

 他の先進諸国は、民営化、行財政改革、規制改革、地域統合などの構造改革をすでに本格的に実施している。しかし、日本の地域経済では、システムを変えるのに長い時間がかかることもあって、システムはゆっくりとしか変わっていない。

(2) 進む経済環境の変化と産業空洞化の懸念

 地域経済をとりまく環境変化には、少子高齢化、情報化、グローバル化、環境適合がある。都市部から地方にいくにしたがって、人口の高齢化が進み、すでに人口の減少している地域も少なくない。また、地域経済はグローバル化の影響も受けている。地域の企業が海外経済の影響を受ける度合いも高まり、輸出の減少は地域企業に直接打撃を与える。

 さらに、東アジア、特に中国の企業が競争力を高め、日本企業の立地も増加し、アジア製品との国際競争が本格化している。地域においては、既存の企業が生き残りをかけて企業努力を続けているものの、海外への生産移転は増加し、新規の立地件数は長期的に減少している。このままでは地域の製造業が衰退し、いわゆる「産業空洞化」が起きるのではないかという懸念が広がっている。このように地域経済は、より深刻で本格的な変化に直面しており、それだけ構造改革の必要性は高まっている。

(3) 地域経済には新しい役割がある

 地域経済は、「地方分権の推進」という動きのなかで、日本経済の次の発展を担う役割も期待されている。そもそも、一極集中型の経済は、発展途上国が先進国にキャッチアップするのに向いているが、同質的になり易いため、多様性と独創性が付加価値の源泉となる先進国には適さないとみられる。意思決定、資源配分などの点において地域分散型の経済システムは、地域の特性を活かして多様性を涵養しやすい仕組みといえる。また、地域ごとの産業構造の多様性は、日本全体としてみても予測できないリスクに対する頑健性を高めることができる。また、地域分散型の構造は、地域経済が中央からの情報に左右される他律的な組織から、地域の情報を中心に意思決定のできる自律的な組織への転換を促し、地域経済の「自己組織化」を推進するとみられる。

 多くの自己組織から構成された経済は、それぞれの組織の意思決定を中央制御する力が弱まるため、必ずしも安定的とは限らない。しかし、意思決定が分散することにより、より多様で地域特性を重視した産業構造が形成されるとみられる。このような地域経済の自律的な発展のためには、中央と地方の行政の役割分担の改革と地方の行政システムにおける改革が必要となる。その改革は、産業保護策を中心とするものではなく、地域経済の「自己組織化」を援護するようなものであるべきと考えられる。


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2.年齢別地域別に異なる公共投資縮減の影響

(1) 構造改革の課題となる公共投資縮減

 地域経済の自立を促進するには、以下の方策が有効とみられる。まず、財政の地域産業への過度の関与を減らして、地域経済においても市場メカニズムが健全に機能することを目指す。次に、地方財政の歳入構造の改革と、歳出の合理化を通じて財政収支の改善を進める。ところが、景気刺激と地方の雇用維持を目的として拡張的な財政支出が過去10年余り実施された結果、地方財政収支は悪化し多額の累積債務が積もっている。

 また、地方圏は、公共投資依存度を高めたがために、地域経済において市場機能が弱体化している。地域経済の自立には、民需の拡大による市場経済化と地方財政の健全化が前提となるが、公共投資の縮減はこの両方に関係している。

(2) 中高年齢層の比率が高い地方の建設業就業者

 相次ぐ景気対策の結果、公共投資は地域経済に深く組み込まれている。公共投資の縮減の程度と実施のスピードについては本レポートでは特定していないが、公共投資の地域経済における比重を踏まえると、その縮減の影響は軽視できるものではなく、関連産業からの離職者の増加が推測される。

 とりわけ直接的な影響を受けるとみられる建設業の就業者の地域別、年齢別の分布をみると、建設業就業者は、地方圏でその比率が高い。また、年齢別にみると若年層も増えてはいるが高齢者の比重が高い。過去の建設業への入離職率を年齢別にみると、各地域において入職する高齢者が多く、建設業は高齢者の雇用の受皿となっていたことが推察される。

 このことからみて、公共投資縮減の影響は、地方圏により大きく出ることが予想される。また、中高年就業者の離職が増加することにより、中高年の失業者が地方に増加することが懸念される。

 また、建設事業者の分布をみると、自営業者および中小企業に就業する人が多く、勤労形態別にみても派遣・請負労働者が多い。このようなところでは雇用保険などが整備されていないケースも多く、多様なセーフティネットの整備が重要といえる。


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3.地域における市場の創出とセーフティネットの整備が不可欠

(1) 雇用創出に必要な市場創出戦略

 離職者が失業者にならないようにするには、地域経済において雇用が創出されることが大切で、そのためには、次の3つのことがらが重要とみられる。第一に、「経済的に価値のある」仕事の創出、第二に、「労働市場」そのものの創出、第三に、雇用のミスマッチを縮小するような、情報ネットワークの整備、教育・職業訓練の充実である。構造改革の過程においては、離職者と雇用ミスマッチの増加が発生しやすくなるので、このようなことがらの実現に向けた仕組みの構築が重要な課題となる。

(2) カギを握る雇用ニーズの発現

 第一の点である「経済的に価値のある」仕事の創出のためには、雇用ニーズの発現がカギとなる。雇用が長期的に安定したものであるためには、雇用ニーズが存在しなくてはならないからである。

 潜在ニーズの発掘は、通常は市場に委ねられるもので政府が肩代わりすべきものではない。政府が果たすべき役割とは、潜在ニーズが発現されやすくなるように情報・技術を支援すると同時に、需要と供給を調整する市場機能を活かすことである(1)。

 また、これまで公的規制によって発現しえなかった潜在ニーズを規制改革によって発現させることも、政府の重要な役割である。地域経済においては、規制に阻まれてニーズが顕在化されていない分野は多い。その例は、医療と福祉、農林水産とバイオ分野、情報通信サービス、教育・訓練、観光・旅行、文化、スポーツ、余暇など多岐にわたる。とりわけ介護などの社会福祉サービスは、地域人口の高齢化によって需要の拡大が期待される。

 加えて、教育・訓練、医療・福祉、生活保安、環境保全など公的サービスに対する潜在ニーズがあるならば、公的サービスの充実は検討されるべきといえる。その際、民間による供給の可能性を十分に検討すると同時に、すでに役割を終えた公的部門の民営化を実行するなど、公的部門が大きくなり過ぎないようにすることも重要とみられる。

(3) 求められる労働市場そのものの創出

 雇用ニーズの発現に加えて重要なポイントは、地域経済において労働市場が十分に整備されることである。地域において雇用が安定的に維持されるためには、これまで薄かった再就職のための労働市場が整備される必要がある。これはいわば労働市場そのものを創出していくことになる。

 これまで日本では、終身雇用的な雇用慣行において勤労者の自発的な転職・起業には制約があり、転職市場は限られていた。また、年功賃金制において、労働者の生産性よりもライフサイクルに応じて賃金が決定されるため、賃金にも市場原理は働きにくかった。このように日本型雇用慣行は、伝統的職人制度を模して内部化された労働市場を作り出し、勤労者個人の選択の幅を狭める働きをしてきた。

 こうした内部化された労働市場は、その固着性のゆえにグローバル化と変化のスピードに対応できず、組織非効率を大規模にもたらしていると認識されつつある。これからは、勤労者個人の選択の幅を狭めないような厚い労働市場の創出と市場メカニズムが発揮されるようにそれを整備することが大切となる。具体的には、[1]転職や起業によって退職金、年金、医療保険などが不利にならないように社会保障制度を転換すること、[2]税制と社会保障については、就業形態に対して中立的な制度とすること、また、[3]就職の際に年齢と性によって差別を行わないことがあげられる。また、多様な就業形態が可能となるように、職業紹介、労働者派遣に関する規制の改革を一層推進することが必要となっている。

(4) 雇用ミスマッチの縮小も課題

 雇用と労働市場を創出することに加えて、雇用ミスマッチの縮小も重要な課題である。しかも、ミスマッチの原因は、年齢と職種などの複合要因が多く、その縮小は容易ではない。まず、求人求職の情報網を整備し職業紹介の機能を強化することは、ミスマッチの緩和に不可欠の方策である。また、職業安定所や職業訓練所に就職カウンセラーを増員し、職業紹介と職業訓練を連携して実施することも、ミスマッチの縮小に有効とみられる。

 そして、ミスマッチの縮小には勤労者の技能をニーズに対応させていくことが有効であるので、教育・訓練に対する支援と給付もミスマッチの縮小に役立つとみられる。例えば、インターネットを使った情報技術、語学、経営管理手法の訓練プログラムなど新技術の活用が効果をあげることも考えられる。

(5) セーフティネットの整備拡充

 内部化されていた労働市場が外部化されることにより、外部労働市場が十分に機能するまで、また勤労者と企業がそれに慣れるまでの移行期間において、雇用のセーフティネットを補強しておく必要がある。労働市場が厚ければ、そのものがセーフティネットとして働くが、厚くなるまでの期間においては、雇用保険の給付期間の延長、公的機関での雇用の増加、円滑な労働移動の促進、職業能力の開発などの施策も検討される必要がある(2)。

 また、オランダの例にみられるように、労働時間の短縮(ワークシェアリング)は、所得の減少という、いわゆる「改革の痛み」をシェアする仕組みとなり得るもので、これを推進する仕組みが検討されるべきと考えられる。具体的には、労働時間短縮の促進と長期休暇の取得促進に対する支援などが考えられる。


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4.地域経済の市場開拓・自己組織化戦略

(1) これまでの政策では期待できない地域活性化効果

 地域経済の活性化とは何か。「経済発展」は、成長と構造変化の二つの要素からなると定義されるが、「経済の活性化」は、成長が高まることなのか、構造変化が加速することなのか明確には定義されていない。ここでは両者の合成と定義しておく。つまり、経済の構造変化が加速するか、成長が高まるかすると、経済は活性化されているとする。

 ところで、これまでの地域開発政策が必ずしも期待されたような活性化効果をもたらさなかったことについては、いくつかの理由が指摘できる。[1]補助金など市場への介入策が中心で、市場メカニズムをむしろ抑制する傾向があった。[2]希望的な将来予測に依存し、事業リスクの客観的評価が不十分だった。[3]地域の産業構造に対応しない不連続的な構造変化を必要とする施策があった。以下では、このような点を踏まえて、中長期的な地域経済の発展戦略を考察する。

【目標1 市場経済の開拓】

 戦略の第一目標に置かれるべきものは、地域における市場経済の育成ということができる。公共投資への過度の依存と地域産業の空洞化によって、地域経済において市場機能が弱体化している。市場経済の基盤を強化するには、行政の介入と規制を縮小するばかりでなく、それに慣れてしまった産業の慣行も変革される必要がある。

 そのためには、地方分権の推進と同時に、地方行政の合理化が不可欠となっている。地域における公的金融の役割の縮小、地域における独占企業に対する競争政策の強化なども検討対象となる。そのことにより、行政の指図と援助を逐次伺わなくとも事業が進められるように、地域産業が自立できるようにすることが目標となる。

【目標2 地域特性の発揮】

 戦略の第二目標としては、地域の特性を活かすことによって他の地域と競争上の差別化を進めることがあげられる。地域の伝統産業や高付加価値産業には、地域の特産物や気候、地形などの独特の自然環境を活かしたものが多い。他地域で成功した事例を単純に模倣するのではなく、地域の比較優位を活かすことが高付加価値を生み出すことは市場原理にかなっているばかりでなく、他地域に先駆けて商品化をすることによる先駆者利益が生まれる場合もある。また、他地域と同様のものを生産していては価格競争に陥るが、差別化された財・サービスであれば、それを回避することもできる。

 それを推進する上では、地域の研究開発の核となる研究施設を充実し、技術と人材のボトルネックを解消することが必要となっている。また、先駆者利益を得やすくするために知的所有権の保護を強化すること、リスクをとって先駆者利益を目指す人々の意欲を阻害しないような地域経済の仕組みも必要とみられる。

【目標3 地域経済の自己組織化】

 第三の戦略目標は、地域経済において、中央に制御された他律的な部分を小さくし、自律的な意思決定と資源配分を行うことのできる「自己組織」の部分を拡大することによって自己組織化を進めることと考えられる。そのためには、地域経済をとりまく多様なネットワークを最大限活用すると同時に、その高度化を進めることが求められる。

 まず、情報のネットワークを高度化することは、人材、技術、資金などの資源のボトルネックを緩和する。ブロード・バンドなどによるIT(情報技術)の活用は、産業の競争力ばかりでなく、医療、教育、文化など多くの面で地域の水準を高めることが期待される。

 また、空間ネットワークの高度化も、資源、人材、技術のボトルネックを緩和する。そのためには、航空路線と内航海運の効率化、空・陸・海の物流モードの合理的な結合が重要とみられる。この点において、ハブ空港の機能高度化が、地域経済の発展のボトルネックを緩和すると期待される。

 さらに、グローバル化に対応した国際ネットワークは、地域経済にとっての人口制約を緩和する。外国人労働力という観点ばかりでなく、輸入品の増加が労働力の制約を緩和する。国際ネットワークの拡充は、このような貿易利益に加えて、地域経済に「多様化」の恩恵をもたらす。このように、グローバル化の視点は、これからの地域経済の活性化に不可欠となっている。

 ネットワークの高度化は、これまで地域経済にとってボトルネックであった金融、流通、運輸、不動産という分野において集中的に実施される必要がある。このような分野は、市場参加者間の情報を仲介し資源配分を効率化するという市場システムにとってインフラともいえる重要な役割を担っている。ここのところが役割を十分に発揮せずには市場経済はうまく機能しない。また、各地域においてこうしたネットワークが高度化されれば、人材、資金、技術というボトルネックも大きく緩和されるとみられる。

 いうまでもなく、このような自己組織化には長所ばかりでなく、短所も並存する。意思決定の分散化、所得分配の格差、景気循環の不安定化などがそれである。しかし、地域経済の多様な発展と意思決定の分散化は、日本経済全体のリスクに対する抵抗力を高め、生活を多彩なものにし、地域の特性により接近した地域産業を生み出し、地域の長期的な発展に資するものとみられる。そのためにも、地域経済の自立に向けて、多くの改革が進展することが求められている。


[目次]

 

1) 科学技術基本計画(平成13年3月閣議決定)においては、「我が国経済の活力を維持し持続的な発展を可能とするため、技術の創造から市場展開までの各プロセスで絶え間なく技術革新が起きる環境を創成し、産業技術力の強化を図ることで、国際的な競争優位性を有する産業が育成されることが必要である。特に、研究開発に基盤を置いた新産業の創出が必要であり、このため、科学技術と産業とのインターフェースの改革が急務である。」とされている。

2) 雇用保険の給付期間の延長、公的機関での雇用の増加については、総合雇用対策、改革先行プログラム等において、盛り込まれた。


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