第4回動向把握早期化委員会議事概要

1.日時:

平成11年2月8日(月)18:30~20:30

2.場所:

経済企画庁特別会議室(401会議室)

3.出席者:

竹内啓座長、小邦宏二、宅森昭吉、早崎博、平野正宜、堀江正弘、村山昇作、
森住昌弘、美添泰人の各委員

イェスパー・コール  タイガー・マネジメント  L.L.C.マネジングディレクター
島本智  スタンダード&プアーズ  MMSシニアエコノミスト

飯島信也  総務庁労働力統計課長

堺屋経済企画庁長官、
新保調査局長、池田調査局審議官、
大守内国調査第一課長、掛林内国調査第二課長、
土肥原国民経済計算部長、淺見景気統計調査課長、中藤物価調査課長、
広瀬国際経済第一課長、川上内国調査第一課調査官、他

4.主要議題:

一次統計の拡充

5.議事内容:

○日米の経済統計の公表時期と調査時期についての事務局の説明は概要以下のとおり。

  • 日米の主要な経済統計について公表時期を比較すると、米国のほうが早いものが殆どである。一方、確報等による確定時期は日本のほうが早いものが殆どである。
  • データの改訂状況を比較すると、米国においては、基本的には月次統計の公表時期が日本よりも早く、翌月に過去に遡った改訂が行われている。また、GDP統計の改訂状況を日米で比較すると、日本の改訂幅の方が米国のものと比べ総じて小さくなっている。
  • 公表時期の違いに影響があると思われる要素として、日米の経済統計での調査対象の違いが挙げられる。消費者物価指数、小売売上高については、日本のサンプル数が米国に比較して多くなっている。また、消費者マインドについては、客体数は同数であるものの、日本ではほぼ100%の回収率となっているのに対し米国では70%程度である。
  • 公表時期の違いに影響があると思われる他の要素として、集計手段があげられる。米国では、調査員が訪問、聞き取りを行いつつパソコンに入力している。日本においても、機械受注統計においては、オンラインによる回答が可能となっているが、実施段階では各企業の情報処理環境の相違等の問題に対処しなければならない。
  • 公表時期の違いに影響があると思われる要素としてもう一つ挙げられるのは、推計方法の違いである。鉱工業生産指数については、日本で収集したデータから直接算出しているのに対し、米国では労働投入量や電力消費量から推計している部分がかなりある。直接的な調査ではなく、手元にあるデータから推計するという考え方が、公表時期の早さにつながっているのではないか。

○経済統計利用者側からの意見について、島本智スタンダード&プアーズMMSシニアエコノミストからの説明は概要以下のとおり。

  • 迅速で公平な経済指標情報の公表が行われれば、マーケット・エコノミストはより短期間にビジネス・サイクル上での現在の位置を確認し、それを市場に反映させることができる。これによって、投資リスクを軽減することができる。
  • 日本の景気分析は、製造業の動向把握を中心とした見方であることから、鉱工業生産指数が最も重要な統計である。一方、米国では雇用データが重視されている。米国において雇用データが重視されるのは、これから鉱工業生産、GDP、個人所得といった経済指標を予測できるからである。
  • 市場へのインパクトは予測値と公表値の乖離による。雇用統計の米国債市場への影響をみると、例えば、昨年12月4日に発表された米国の11月分雇用統計に含まれていた9月及び10月の上方修正が、11月速報値の予想以上に高かった雇用者数の伸びと共にマーケット参加者の景気見通しを強気に傾けるきっかけになった。これによって1999年を米国の景気の後退期とシナリオに描いていた米国マーケット・エコノミストは景気見通しを大幅に変更しなければならなかったと考えられる。
  • 日本の統計が優れている点としては、鉱工業生産統計において、生産データと同じ基準で在庫データがあることによって、在庫循環分析が可能なことがある。米国では生産データと同じ基準の在庫データがないため、在庫循環分析が難しくなっている。
  • 日本の経済統計への具体的な要望事項は以下のとおりである。
    • 第一に、インターネット上での統計情報の充実がある。これは、経済統計入手の公平性という観点から重要であると考える。現在、各省庁においてインターネットでの情報提供を整備されているところだが、鉱工業生産等の統計では、実際の公表資料の情報量とインターネットに掲載されている情報量に違いがある。このため、本当に分析しようと思うと、各省庁まで出向いて資料を受けとらなければならないので、地方に在住している場合などは非常に不便である。速報性、正確性とともにこうした公平性にも配慮が必要ではないか。
      第二に、資産価値動向が注目される情勢であることから、これを観測する意味で、現在、四半期で公表されている地価に係る統計の月次化が重要であると考える。
      第三に、閣議終了後に発表と決められている経済統計を前倒しで発表することが考えられないか。
      第四に、経済統計の発表が月末に集中することを避けて頂けないか。発表が集中することで、より重要視される指標のみを反映し、市場関係者が、同時に発表されたその他の指標からの情報を無視してしまうこともある。
      第五に、経済指標発表スケジュールを充実させ、前もって年間スケジュールとして発表して欲しい。
      第六に、GDP統計の公表を、現状の15時30分から8時50分に早めて欲しい。他の重要な経済指標は日本の金融市場が開く前の8時50分に公表されており、。GDP統計により注目を集めるという点からも公表時刻を早めて欲しい。
  • 米国における、22日ルールについては、速報性を重視しすぎることによって精度がおちるという意味で、速報性と精度のトレイドオフという問題がある。統計作成サイドからはこうした観点の検討がなされなければならないが、市場参加者の立場からは、速報性を最も優先してもらいたいと要望する。後日の改訂があった場合は、その情報を、その時点で加味すればよいと考える。

○利用者側からみた日米経済統計の相違について、イェスパー・コールタイガー・マネジメントL.L.C.マネジングディレクターからの説明は概要以下のとおり。

  • 日本の統計にも優れた点がある。貿易統計は、米国より早く公表されるうえに、詳細で正確であることから、米国の貿易統計の公表前に予測を行うベースとなる。また、アジア各国(マレイシア、韓国等)の統計については、透明性等の問題もある。したがって、日本の貿易統計からアジア各国の経済を分析している。
  • 動向把握にあたって重視される統計は経済状況によって変化する。現在は、マネーサプライと日本銀行のバランスシートが重視されている。例えば、昨年9月には、日本銀行のオペレーショナル・スタンスの変更により、金融の量的な緩和が進んだのではないかと、市場では期待した。市場では、8月末の時点で約73兆円だった資産が9月末には85兆円から90兆円になっているのではないかと予測していた。ところが、実際には78兆円という発表があり、意外に量的な緩和が進んでいないということから、円高に傾いたことがあった。
  • 注目するべき点は、統計でマクロでみたときにミスマッチとなっている部分である。
    • 第一に、1980年から1995年の日本と主要な国の鉱工業生産指数とGDP成長率の相関をみると、日本では他の国と比べて著しく相関係数が小さくなっている。日本では対GDPに占める製造業の割合が高いことを考えると不思議なことといえる。
      第二に、米国のNAPM(全米購買部景気指数)、ドイツのBUSINESSCONFIDENCEは製造業の生産あるいは実質GDPの動向が、先行または一致しているのに対し、日本の日銀短観は鉱工業生産を後追いする形になっている。
      第三に、家計調査の自動車等購入と自動車販売連合会の新車販売台数に齟齬があり、例えば98年をとおして、家計調査の自動車購入費は前年比プラスとなっているのに対して、自動車販売連合会の新車販売台数は前年比マイナスが続いた。
      第四に、地価のデータについても、国民経済計算と不動産経済研究所のデータでは1985年から1990年にかけての地価の上昇の仕方に大きな違いがみられる。
  • 要望事項としては、現在の資産デフレ等を分析するという観点から、国民経済計算の所得面が注目されているが、日本では四半期の公表は支出面のみとなっている。米国の確報に所得面があることにならい、日本でも所得面を早期に公表して欲しい。

○景気判断に役立つ社会現象や一次統計・業務統計等のより効果的な活用方法について、宅森委員からの説明は概要以下のとおり。

  • 動向把握早期化にあたり企業等に新たな統計調査を依頼することは、企業側の負担増という側面があり現実的には難しい。したがって、既存の民間統計等で、発表が政府作成のものより早いもの、または景気と密接な関係のある社会現象を把握できるデータについて検討する必要がある。例えば、大阪市消費者物価指数(大阪府発表)は、よく注目される東京都区部消費者物価指数と同じ当該月下旬発表の扱いだが、閣議報告の必要がないため閣議の時間によっては、いち早く公表されることがある。
  • 雇用関係では求人広告掲載件数は、翌月25日前後に公表されており、労働力調査よりも若干早くなっている。
  • 個人消費関係では、新車新規登録台数、各地区の百貨店売上高等のよく利用されているもののほか、パソコン販売などは週次の販売台数と金額を約半月後に公表されている。また、消費者マインドの調査方法として、消費者側のものがいろいろ存在するが、企業側に消費についてアンケート調査しているものがある。
  • その他の個人消費に関連すると思われる指標としては、各観光地・テーマパーク等の人出、ゴミ収集量がある。社会現象をとらえるものとしては、放火火災件数等が挙げられる。また、医療費等を予測するのにあたって、インフルエンザ発生状況、花粉飛散量などが有用な情報となる。また、サービス支出に関連して、スポーツの観客動員数も利用可能ではないかと考える。
  • 投資関連のうち設備投資については、工作機械受注が翌月下旬に公表されている。住宅投資等については、マンション販売状況などの月次データの他、空室率、募集賃料等が四半期データであるものの翌月半ばに、民間機関より公表されている。
  • 生産については、大口電力カーブが有名なところであるが、東京電力では翌月央にはこれを公表している。他の電力会社のものについても公表していただければ、早期動向把握データとして利用可能と考える。
  • 運輸関連では東京特別区、武蔵野、三鷹地区のタクシー実車率、輸送人員が翌月半ばに速報として公表されている。
  • 景気判断のアンケート調査としては、日銀短観が注目されるが、同じベースで質問数の少ないものを民間機関が月次データとして調査、公表している。質問数が少ないこともあり、当月後半の調査を調査期間の翌日には公表している。
  • 要望としては、月次データとして公表されているもののうち、実際には日次データがわかるものについては、その公表を検討して欲しい。これにより景気の動向把握早期化に役立つと思われる。
  • 航空旅客輸送などのデータは公表を早期化できるのではないかと考える。
  • 有用な統計を発掘するため、ホームページで呼びかけるなどして動向把握早期化に役立つと思われるデータを集めることが第一のステップとして必要なのではないか。

○自由討議

(発表スケジュールについて)

  • 発表スケジュールを年間ものとして発表すると、作業にあたるセクションが余裕をみた計画をたてる可能性があり、結果として早期化につながらないのではないか。
  • 発表スケジュールは、公表日時に幅をもたせるなどした上でやはり年間スケジュールとして公表するべきではないか。

(速報性と正確性のトレイドオフについて)

  • 速報性、正確性等について、それぞれの目的、用途に合わせた公表形態を取ればよいのではないか。何を重視していくべきなのかについて民間の専門家との協議を組織的、継続的に行う必要があるのではないか。インターネット上などに、このような討議の場をつくることは有用なのではないか。
  • 統計によっては、ひとつの客体のウェイトが大きく、その回答を待たなければ統計に大きな誤差が生じることもある。そうした大きな修正が入る可能性を考慮すると、速報を早くすることや速報自体の必要性についてよく検討する必要があるのではないか。
  • 市場は速報に反応しがちといえる。1月の公表値のレベルが予測値よりも低かったことに反応した市場が、しばらくすると12月の数値が下方修正されていたことに気づき、見通しに変更はなかったとして、市況がもどるといったことがある。こうした意味では速報を出すことによって、本当に投資リスクを軽減させることができるのかは疑問である。
  • マーケットにおいて、速報がより重視されることの理由としては、投資リスクを軽減するという目的のほか、当面の市場の動向をつかむことに重点がおかれている部分があるのではないか。

(公表形態について)

  • 迅速に公表するために、当局としてのコメントを省き、数値のみをだすことについては、日本では賛否両論があるところである。市場関係者としては、当局のコメントなしで迅速に公表されることのほうが重要である。公表を行っている当局と政策を担当している当局は別組織となっているため、統計部局によるコメントは、かえってミスリーディングとなる場合がある。統計と判断は別であるべきである。
  • 民間の専門家によるデータベースへのアクセスを改善する必要がある。これによって、予測値と実際の数値に乖離があった場合、原因の分析が迅速に行われ、市場の無用な混乱を招かないのではないか。

(マーケット指標を経済指標として利用することについて)

  • マーケットが、統計の間のミスマッチに注目しているという点は面白いと思う。例えば、鉱工業生産の動向と実質GDPの動向の相関が小さいことの理由を追求することは重要である。こうした、統計の間のミスマッチに注目していくことは重要なのではないか。データを受け取った市場の反応自体から経済動向を把握できるのではないか。米国のダウ平均株価等が主要経済指標の一つとなっている。日本でもこうした市場のシグナルを景気動向の指標として受けとる可能性があるのではないか。
  • 我が国の景気動向指数においても、昭和35年から昭和62年まで東証株価指数を先行系列の採用系列としていた。しかしながら、昭和60年からの景気後退局面において、金融の量的緩和、金利低下が続くなかで、事業法人、機関投資家等が株式に余裕資金をシフトする動きから上昇トレンドが強くなり、景気循環との対応関係が不明瞭となったことから削除することとなった。今後、景気変動との相関関係、因果関係が明瞭であると判断されれば、景気動向をみる指標として採用される可能性もある。

(速報のため事後修正の可能性あり)

問い合わせ先

経済企画庁調査局

内国調査第一課  指標班

直通  03-3581-9527