第4回 経済審議会・国民生活文化部会議事概要

1 日時

平成11年3月31日(金) 10:00~12:00

2 場所

共用特別第二会議室 (第四合同庁舎4階407号室)

3 出席者

(部会)

清家篤部会長

井堀利宏、大田弘子、黒木武弘、鈴木勝利、永井多惠子、西垣通、浜田輝男、原早苗、森綾子、湯浅利夫、の各委員

(事務局)

今井政務次官、中名生総合計画局長、高橋審議官、牛嶋審議官、梅村企画課長、佐々木計画官、塚原計画官、福島推進室長

4 議 題

・高齢者等の意欲と能力が発揮される社会システムについて
~「生涯現役社会の条件」~

委員意見発表
・人々を結びつける新たな機能(NPO・ボランティア等)について

委員意見発表

5 議事内容

 まず、高齢者等の意欲と能力が発揮される社会システムについて、委員1から以下の意見発表があった。

(委員1意見発表)

(1)今後の人口構成の変化などに対応した社会システムの設計のため、政府は将来像を提示し、そこへ向けての労使の自主的な取組みを支援していくことが求められる。

(2)年功賃金の下では、定年制は欠くことのできない仕組みである。生涯現役社会の実現のためには年齢と処遇の関係を切り離していくことが必要であり、賃金、能力開発も年齢を基準としないようにしていくことが求められる。大きな流れは、年功賃金から年俸制という方向になっていくだろう。

(3)上のような制度改革に伴い、仕事能力評価の透明性などを高めていくことや、能力開発機会の公平な付与などが重要な課題となる。

(4)定年制は、公務員制度改革においても議論されているように、当面、65歳に延長していくことが望ましいが、長期的には定年制そのものを廃止することを目標とすべき。

(5)激しい競争環境の下で一つ一つの企業の寿命が短くなる一方、個人の職業生活の期間が長くなるという時代になっていく中で、「自分の職業生涯を自己決定できる仕組みづくり」が求められる。その際、1)自由と安定のトレードオフ、2)年金受給権など既得権への切り込みといった問題に取り組むことも避けられない。

 以上の意見発表を受けて、討議。各委員からの主な意見は以下のとおり。

(各委員の主な意見)

○経営者の立場からは、定年を65歳まで延長する場合、企業の雇用責任、法律的問題をどうするかという問題点が指摘されており、定年延長に関しては本人が希望し、かつ会社も必要と認めた人に限るのがよい、という考え方が出されてきている。

○高齢者雇用に際し、能力開発をどう行っていくか、その支援措置をどうするかということを考えることが必要。

○企業内では、長期勤続を個人の「担保」として、住宅の貸付けを行うなど様々な仕組みを作っているが、これらを変えていくことが必要。また、大卒の者は管理職コースにのると会社への帰属意識が強くなるが、専門学校卒の者はある一定の年齢になると、いつでも転職をしてもよいという意識が強くなる。こういった面も考慮に入れて考えていくことが必要。

○定年廃止が最終的には望ましいという主張と、公務員も定年を65歳まで延長するのが望ましいという主張との間に整合性はあるのか。

○企業が採っている長期雇用による人材育成、それと連関した年功賃金制度のメリットをどう考えるか。年俸制では、そのメリットが損なわれるのではないか。

○年俸制には適正な能力、実績の評価が必要であるが、職種によってはその評価が難しいという問題がある。例えば、公務員などは評価ができるのか。

○定年延長、雇用延長が実現した場合、働く場のバリエーションはどのようなものとなるのか。

○人口動態的には若年労働力人口の減少が高齢者の雇用を促進すると考えられるが、女性の働き方とはどう関連してくるのか。

○企業は経済合理性の主体であるが、雇用に関しては「モノ」ではなく「人間」を対象としているので、雇用の安定は企業の重要な役割である。社会的な安定の仕組みの中で、雇用の問題について企業の経済合理主義を追求するだけでよいのか。

○ラジアーの理論図式において、賃金が貢献度を上回る部分に退職金は含まれているのか。今後は退職金も通常の賃金の中に組み込まれていくのが流れであると思うが、自分で退職時期を決定できる場合、定年前に退職した場合の精算システムが必要ではないか。

 以上の意見・質疑に対し、委員1からは以下の回答があった。

○雇用責任は重要であるが、定年の延長・廃止というのは、雇用の保障ではなく、65歳までは年齢を理由に退職を強要してはいけないという意味の制度である。あわせて、企業をとりまく環境の変化に応じて、年齢以外の理由による雇用調整をたやすくすることも必要となる。解雇権の濫用は判例により禁止されているが、より透明なルールとして解雇法のようなものを設けることは、労使双方にとって有益であろう。一つの企業ではなく国あるいは社会全体の責任として雇用を保障することが必要。

○長期雇用には、人的投資や個人の生活の安定など様々な合理性がある一方で、一社にしか通用しない能力に偏ることや後払いの賃金体系など働く側にとって危険な面もある。このような長期雇用制度を前提とした仕組みの危険性が外部環境の変化に伴って上昇してきており、制度を見直す時期にきているのではないか。

○公務員の定年を65歳にすることに賛成というのは、年金支給開始年齢が65歳に変更される中で、公務員の天下りが禁止、賃金総額は増やせないということであれば、賃金・処遇のあり方を見直しつつ、定年を65歳まで延長しないと制度としてつじつまが合わないからである。長期的には公務員の定年も廃止を目標としてよいと思う。

○年功賃金には、

○高齢者の働く場については、一つの企業にとどまらず、働き方や場所などに多様性をもつべき。

○女性の雇用を阻む最大の要因は終身雇用と年功賃金制度であると言われているが、それらは長期雇用を前提とした貸借勘定のもとに成り立ってきた。前述のとおりこれらを改革していって、高齢者にとって働きやすい職場をつくることはすなわち女性にとっても働きやすい職場をつくることである。

○企業が経済合理的な行動をとることを前提に、働く人に対してできるだけ被害がおきないようなシステムの改革を行っていくことが望ましい雇用制度の方向である。これまでの判例では、解雇に対しては厳しい制限がある一方、社内の配置転換・職種転換などには経営者の裁量が大きく認められているというアンバランスがある。全く新しい仕事に就いて能力が発揮できないというような配置転換は、雇用が守られているからといっても働く者にとって幸せなことであるとは限らない。

○ラジアーの理論図式の賃金が貢献度を上回る部分には退職金は含まれている。なお、アメリカでは定年制はないが、企業の意図する時期に退職すると生涯賃金が最大となるような仕組みが工夫されている。

 次に、人々を結びつける新たな機能(NPO・ボランティア等)について、委員2から以下の意見発表があった。

(委員2意見発表)

(1)NPOに参加している人には、ボランタリー精神はあってもマネジメントができない人が多い。そこで定年後の人達に活躍してもらいたい。

(2)NPO法ができたにもかかわらず法人格取得の申請が少ないのは、資金源がないためである。行政から資金補助を受けると、行政の管理下におかれ独立性が失われる危険性があるため、税の仕組みを変える必要がある。

(3)日本でもボランティアや寄付の文化をつくっていくことが課題。

(4)若者には学歴や成績にとらわれない生活を送ってもらいたいので、ぜひNPOをベンチャービジネスであるとも捉えてもらって、就職してもらいたい。また、定年退職した男性は、依然として利潤追求に拘る傾向がある。NPOは私利私欲で活動を行うものではないということ、自分の好きなことをやって、自分で給料を決められることの面白さを知ってもらいたい。

(5)これからのNPOには、報告書をきちんとまとめられることなども求められる。本当に楽しいことをやっているという点では、企業とは異なると思う。

 以上の意見発表を受けて、討議。各委員からの主な意見は以下のとおり。

(各委員の主な意見)

○介護保険制度の施行を控え、福祉サービス分野において、需要者側から見た時に行政、企業と比較してNPOのよいところというのはどう考えられるのか。

○NPOはベンチャービジネスであるとの話があったが、両者は根本的に違う。企業は市場経済を前提に儲けることが第一だが、NPOは共同体に見られるような贈与経済あるいはお金に還元できない論理に基づくものではないか。一つ全く別の軸を作って考える方が納得がいく。

○我が国でのNPOやボランティアの位置づけ、役割について、以前と比較すると世間から認知されてきたが、今後いかなる役割をはたすのか、それが経済社会においてどのように位置づけられるかの議論は未だ深まっておらず、そうした議論をしていく必要がある。

○オンブズマンなど専門性を有する第三者機関はNPOの延長線上にあると思うが、このような社会的機関はこれからも必要性が高まるのではないか。

○NPOについては、自発性が出発点であり、行政の直接的関与は直ちには考えにくいものの、活動の継続性を高めていくなどの観点から、いかにリーダーを育成していくかといったことは考えていく必要がある。

○高齢者にとっては、フルタイム雇用よりもハーフタイム、パートタイムといった雇用を希望する人が多いであろう。そのような際に、例えば電気製品の修理や特産物づくりといったすき間のニーズに応えられるような仕事が高齢者は得意であることもあり、NPOやボランティアなどを通じて高齢者がそうした得意分野で能力を発揮し、生きがいを持ち、社会へ貢献していくことが求められているのではないか。

 以上の意見・質疑に対し、委員2からは以下の回答があった。

○介護保険制度においては、サービス供給者が行政であれ企業であれNPOであれ、価格は変わらない。しかし、NPOに参加しているボランティアの人達は本当に好きでやっていて、会話など家族に近いきめ細かいサービスができるといったプラスアルファがある。

○NPOの活動において、できる限り必要な対価はもらっていくのが基本であり、貨幣の交換といった要素がないと継続性の観点からも成り立たない。やはりNPOも市場経済の中へ入っていく、ベンチャービジネスとなることを目指すべき。

○現状では多くのNPOにおいて、活動している人の圧倒的に多くがボランティアであり、有給スタッフは少ない。できるだけ多くの高齢者や女性にもNPOで有給スタッフとして働いていけるようしていく必要がある。

 最後に、以下のような討論があった。

○NPOに対する個人の寄付の税制上の優遇をどう考えるかという問題があるが、その前提としてNPOの活動状況が一般市民に分かりやすく伝えられるようにすることが必要。そのための仕組みやNPO自身による広報が大事。

○利潤の追求は、ボランティア指向でもありうる。通常の企業も純粋な利益追求活動ばかりではない。NPOと企業を完全に分けるのではなく、補完関係にあるものと捉えることが必要。

○NPOは将来の高齢者の雇用先として有望であると思うが、問題は何を行うかである。すぐれたリーダーがいて、コンセプトが明確で、社会的にも認知された事業を行えば、法人格の有無にかかわらず資金も集まってこよう。利潤について否定するのでなく、発生したら社会に還元すればよい。なお、行政への依存は避けるべき。

○NPOが株式会社のようになって利潤を追求するようになってはその存在の意義が不明確になる。色々な社会的組織の在り方を根本的にはっきりと考え直す必要がある。

○NPOが収益事業を行って収益をあげることはかまわないが、それを関係者のみで分け合うことはいけない。収益を社会への還元に使い切ること、そのような仕組みを作っていくことが必要。

 以上の討議までで定刻となり、閉会。

以上

 なお、本議事概要は速報のため、事後修正の可能性があります。

(本議事概要に関する問い合わせ先)

経済企画庁総合計画局計画課

経済構造調整推進室

押田、徳永(内線:5577)