第3回 経済審議会・国民生活文化部会議事概要

1 日時

平成11年3月19日(金) 10:00~12:00

2 場所

共用特別第二会議室 (第四合同庁舎4階407号室)

3 出席者

(部 会)

清家篤部会長

井堀利宏、大田弘子、鈴木勝利、ピーター・タスカ、永井多惠子、浜田輝男、福武總一郎、森綾子、湯浅利夫、の各委員

(事務局)

今井政務次官、中名生総合計画局長、高橋審議官、牛嶋審議官、梅村企画課長、佐々木計画官、塚原計画官、福島推進室長

4 議題

・年金制度と雇用システムについて

2人の委員からの意見発表

5 議事内容

まず、年金と雇用をめぐる論点整理について、委員1から以下の意見発表があった。

(委員1意見発表)

(1)厚生省の将来人口推計(中位推計)によれば、日本の65歳以上人口比率は2020年には27%と、先進国中最高の水準になる。日本の65歳以上人口比率は、1970年の7%から1995年の14%になるまで、他の先進国の2倍のスピードで進行してきたが、今後もさらに急速に進行する。これに対し、20歳台人口は、現在の約1,900万人から、2015年には1,248万人と3分の2以下になる。これは、昭和40年代に20歳台人口が245万人も増加したのと著しい対称をなす。

(2)しかし、このような高齢化・少子化自体は経済成長の結果であり、それ自体が問題なのではない。また、仮に少子化に歯止めをかけようとするような有効な対策が行われたとしても、それ自体が直ちに年金財政をはじめとする問題の解決に効力を及ぼす訳ではない。今直ちに問題となっているのは、社会制度が高齢社会に即したものとなっていないこと。長期的視点を持ちつつ、即応性が図られるように改めていく必要がある。特に年金制度を改善していくことは大きな一つの課題。年金の財政再計算のたびに人口推計が下方修正されている現状は、不信感を増幅させている。

(3)年金問題解決のシナリオとして、【1】若年~壮年世代の保険料負担の引上げ、【2】受給者の給付水準の引下げの二つは、ある程度までは有効だが一定の限界がある。そこで第三のシナリオとして、出来るだけ多くの人に支える側にいてもらう、負担の裾野を拡げる方策を考えることが重要。日本の場合、高齢人口の労働力率は他の先進国に比べかなり高いというメリットを活かすことが期待できる。なお、具体的にどのような高齢者の雇用の場を考えていくべきかについては、次回(第4回)部会において改めて話させて頂きたい。

(4)厚生年金の受給資格があることが、高齢者の就業確率を15%程度低下させているという分析結果があるなど、現行年金制度は高齢者の雇用にいくつかの面からディスインセンティブを与えている点があると考えられる。特に、【1】そもそも個々人の仕事意欲や能力などに拘らず支給開始年齢が一律に設定されていること、【2】60歳台の高齢者が、働いて一定以上の賃金を受けることに応じ年金給付が削減される在職老齢年金制度の背景にある「働くことに対してペナルティを課す」という考え方、【3】受給額が過去の報酬に比例するためより能力の高い人ほど引退指向を強く持ちやすくなること、などが問題であると考えられる。

(5)従って、今後は、【1】個人の仕事からの引退と年金受給開始を一律の年齢によるのではなく自由に選べるようにし、それに対応して報酬比例部分は個々人の受給パターンごとに異なる完全積立方式とすること、【2】1994年の在職老齢年金制度改革に止まらず、働くことに対してペナルティとなるような仕組みをさらに改めていくこと、【3】強制加入による基礎年金部分は個人の所得等とは独立に一律の最低必要所得をカバーするものとすること、を提案したい。

 以上の意見発表を受けて、討議。各委員からの主な意見は以下のとおり。

(各委員の主な意見)

○年金財政問題の解決のためには、年金資産の運用効率化が重要。米国では公的年金と私的年金の運用パフォーマンスの差が数%もある。オープンで競争のある運用システムが必要。

○若年労働力の減少分は、高齢者の就業で代替すべきであり、そうなると高齢者に就業へのインセンティブをどう与えていくかが問題になる。ただし生産性の面で高齢者は若年者に及ばない点があり、経済全体への影響という観点からは厳しい事態も予想される。ただ、今の公的年金の給付水準は高過ぎ、働くことに対するインセンティブになっていない。

○企業の側から見たとき、高齢者の雇用を増加させようとするときに要するコストが、年金給付が存在することによって抑えられているという面を考慮すると、「就労に対するペナルティ」と言うのは違和感がある。高齢者に長く働いてもらうために年金給付をより将来からとする選択肢を奨励するようなことは、慎重に考える必要がある。

○米国の401Kプランのような個人の自己責任によるものと、公的年金との区別をはっきりさせる必要がある。前者にあまりに傾斜することは資産運用が苦手な日本人の国民性にはなじまないのではないか。

○生涯現役社会のために、高齢者の受け皿、雇用機会をどう作っていくかということを考えないといけない。

○高齢者をとりまく問題については、社会福祉において民間をもっと活用できるような仕組みを作ることや、民間保険において死亡給付型から生前給付型に転換することなど、個々の問題を関連付けてトータルに考えていくことが重要である。

○女性にとっては、生涯現役を実現するための働く場が十分にあるのか、今の年金制度は離婚したときの保障が十分でないなど制度的に不利な要素が多くある。

○今の年金の議論は狭い枠組みの中のみで議論されている。高齢者の就業は、賃金の面からだけでなく、雇用の形態についても考えるべき。例えば今は1年限りの非常勤という形態が一般的であるが、もう少し長期の形態を考えるべき。

 以上の意見・質疑に対し、委員1からは以下の回答があった。

○賦課方式から積立方式に移行するほど、基金を効率的に運用することの意味が大きくなり、運用主体の能力も大きく問われることになる。逆選択の存在、パターナリスティックな視点からも強制加入による公的年金はやはり必要だと思うが、どういったタイプの保険に入るかについてはある程度個人が選択できるという仕組みも可能である。

○高齢者の人の労働力という面がより重要性を高めるということについても、働く意思がある人の意欲をディスカレッジしない仕組みにするということがまず大切である。産業構造の変化によりマチュアリティの大切さが高まっていることや、技術の助けなどを考慮すれば、20台の人が本当に60台の人よりプロダクティブであるかは一概にいえず、今後とも分析に値する課題である。

○年金があるために企業自身が高齢者に支払う賃金が低く抑えられるということは、企業にとっては補助金のような性格を持っていることも意味している。しかし労働者が59歳から60歳になったとたん、能力はそれほど変化しないのに年金給付額分だけ賃金の支払いを免れるというようなことが、制度化されていることは問題ではないか。

○最近の401Kプランを巡る議論は、個人年金勘定の確立という本来の趣旨から余りにもかけ離れている。米国でも確定拠出型と確定給付型のミックスとなっており、また従業員引退所得保障法(エリサ法)により受給権が担保されている。我が国でも確定拠出型をいきなりつまみ食い的に導入するのではなく、情報の開示、運用面に関する教育、受給権担保などを総合的に定めた企業年金法のようなものを整備することが重要ではないか。

○具体的な雇用等の受け皿をどう作るか、社会の仕組みをどう変えていくかについては、次回(第4回)の部会において改めて詳しく意見を述べさせて頂きたい。高齢者にとって生涯現役の実現できる仕組みとは、女性にとってそのことが実現できる仕組みでもあり、両者は重なるものと考える。これまでの社会の仕組みは、主に20歳台から50歳台の年齢の男性にとって都合のよいものを志向してきた面があり、60歳台以上の人々や女性が働くことを度外視し過ぎてきた。職業生活からいつ引退するかは本来個人の問題であり、会社や国が一律に決めた定年や年金受給開始年齢などによって決められるべきでない。

○公と民の役割分担を考えたとき、公の最大の役割は所得の再分配にあり、それは基本的に税によるべきであり年金制度にその役割を多く担わせるべきでない。

 次に、年金の役割分担について、委員2から以下の意見発表があった。

(委員2意見発表)

(1)公的年金には、【1】所得再分配(世代内での再分配(短命な人から長寿な人へ)、及び世代間での再分配)、【2】私的年金の失敗への対応(1)インフレ対策(但し、金融の自由化が進展し預金利子率が自由化されると根拠が薄れる。予測外のインフレには公的年金しか対応できないが、その結果高齢者だけに救済を行うことが望ましいかどうかという問題がある)、(2)情報の非対称性により採算をとることに失敗すること(逆選択)の抑止、(3)温情主義としての最低水準の貯蓄の公的な整備、(4)強制加入の効率性)など、一定の役割がある。しかし、近年では公的年金の役割を積極的に位置づける根拠は薄くなってきている。

(2)公的年金の守備範囲については、

 【1】現在は基礎的消費を超えた給付が行われているが、公的年金で負担することには限界があり、政府は必要最小限の生活費のみの面倒を見るようにするべき。また、給付の対象者は、低所得・低資産の者ないしは平均より長生きしている者に限定するべき。

 【2】賃金スライドの停止及び割高な給付水準の実質的な引下げを行うべき。

 【3】平均寿命より長く生きるリスクだけをカバーするという観点からは、支給開始年齢の引上げを行うべき。平均寿命に達するまでは自助努力によることとし、そのために働く場の確保などの政策が必要。平均寿命を超えるまで長生きした人々に対してのみ、賦課方式による公的年金で対応する。

ことなどを考えていくべき。

(3)これからは、自由度の高い年金制度を作る必要がある。それは、個人勘定方式である。公的年金は賦課方式で維持しつつも、その守備範囲を縮小し、給付水準、給付開始年齢を見直す。他方で、個人勘定の私的年金を整備・拡充する。そうした改革でも対応しきれない社会的弱者に対しては生活保護で対応する。こうした組み合わせが老後の所得保障の一つの考え方である。

 以上の意見発表を受けて、討議。各委員からの主な意見は以下のとおり。

(各委員の主な意見)

○高齢化の急激な進行を考えると、年金制度のサステイナビリティを維持するためには給付引下げが不可避。より先には完全積立方式への移行があるが、移行期間における「二重の負担」が大きい問題としてある。少なくとも政府が関わる役割は一律のナショナルミニマムの確保に限定すべきであり、現在の2階部分は給付水準を下げながら徐々に民営化に移行していくべき。支給開始年齢をこれ以上引き上げることは、制度改正の効果が現れるスケジュールからも難しい。

○公的年金は最低限の生活に対応するものとするといっても、その水準をどう考えるのか。現状の基礎年金は十分な水準か。

○年金の給付と負担は、経済成長の高低によってどうなるかという面からも考えるべき。いたずらに給付削減ばかりを強調するのでは世代間の対立をあおるのみ。高齢者がこれまでに、またこれからも社会に貢献してきたこと、していくことを考慮してもよいのではないか。なお、基礎年金の未加入者が多くいるが、これは生活保護期待ではないのか。

○高齢者は最も所得分布のばらつきが大きい年代層だが、基礎年金は最低限の生活に対応する一律の支給とし、その額はなるべく低い水準とするべき。

○年金の支給水準は経済成長率によって大きな影響を受ける。

○世代間の対立については、今の高齢者と若年者との対立なのではなく、今の高齢者と将来の高齢者との対立の問題と捉えるべき。将来の高齢者にとっての老後の不安は今よりも比較にならないくらい大きい。公的な制度はフェアなものであるべき。

○今までの社会の制度は、人生60年ということに焦点を当てて設計されてきたが、現在は人生80年であることを見据えて全ての制度、仕組みを早急に作りかえることが求められている。

○高齢者の80%以上は、知識や技能を持った元気な人々であり、この人々を社会参加させる仕組みを作ることが社会、経済を活性化することになると思う。

○これまでに年金制度に関して行われてきた議論と今日の議論には大きなギャップがあり、正直戸惑っている。

○どの程度まで公的年金を支給するかという問題、保険料と税負担の関係も重要。国民の間に相当な意識改革が必要。

○年金は老後の生活の保障であるという位置づけに変りはなく、もし問題があるのであれば問題点を変えていくということではないか。自分の生活を自分でまかないたいという人も増えていることは踏まえる必要がある。

 以上の意見・質疑に対し、委員2からは以下の回答、説明の補足があった。

(全般についての説明の補足)

○今回の年金制度改正案は、今の若い人が高齢者になったときに実質的な改革の影響が生じる形になっており、若い世代が不利を被るという現在見通される世代別の損得勘定にはほとんど影響を与えない。その意味でなるべく給付水準の引下げを急ぐ必要がある。既得権をどれだけ削減できるかが焦点。

○「最低限の生活」といっても幅があると思うが、住宅のような固定的費用ではなく、衣、食などに係る経常的費用を中心的に算定できるのではないか。現在の夫婦二人で13万円強という額は十分な水準と思う。

○経済成長率の高低自体は、世代間の損得勘定にそれほど大きな影響を与えない。基礎年金の未加入者が生活保護期待であるとは一概には言えない。

 以上の討議までで定刻となり、閉会。

以上

 なお、本議事概要は速報のため、事後修正の可能性があります。

(本議事概要に関する問い合わせ先)

 経済企画庁総合計画局計画課

 経済構造調整推進室

 押田、徳永(内線:5577)