「経済社会のあるべき姿」を考えるにあたって経済審議会基本理念委員会・企画部会

 経済審議会では、本年1月より、現行の経済計画に替わるものとして、「経済社会のあるべき姿と経済新生の政策方針」について検討を続けているが、具体的な内容の検討に立ち入る前に、その基本的考え方について大きく方向性を示し、広く国民の意見を聞く必要があると考えるに至った。本ペーパーは、かかる認識の下、新たなる時代の姿に関する活発な議論が国民の間で交わされることを期待してその材料を提供するものである。
 今後、本ペーパーに対する国民各位からの意見を十分に踏まえ、経済審議会において、さらに詳細な検討を深めることとする。

1. 内外の歴史的転換とは

(1) 新たなる時代への歴史的潮流とは

 内外の歴史的潮流が大転換している。高度成長達成の成功体験に酔い、従来型のシステムを慣性的に維持してきたため、潮流とシステムの間の不整合が大きくなっている。90年代にはその行き詰まりを突きつけられる形で長期にわたる景気低迷に直面し、人々の不安を引き起こした。  時代の潮流を直視し、発想を転換して経済社会システムを適合させることができれば、新たなステージにおける大きな発展が可能となる。

① ポスト規格大量生産社会は
キャッチアップを達成し経済社会が成熟化した今日、規格大量生産型のシステムのままではさらなる社会の発展は困難である。これに変わる新たな時代の特徴は、次の二つ。

(a) 多様な知恵の時代への移行

  • (ア) 物的な豊かさがかなりの程度満たされている今日、人々は個性や多様性を求める傾向を強く示している。また、技術進歩により、供給される財・サービスの多様性も一段と高まっている。今後は情報、プログラミング、デザイン等といった、知識や知恵を新たに創造したり、使いこなしたりすることによって生み出される価値が、経済成長や企業収益、人々の満足を高めるための原動力となる。
  • (イ) こうした知恵の社会では、流行(社会主観)による価値の変化が大きい。また、新しい社会主観を創造することによって、可変的(一時的)な価値を生み出す仕組みが社会的に創られていく。これがグローバル化すれば、グローバルな社会主観を創造できる情報発信力が大きな国際競争力となる。

(b) ネットワーク経済社会への移行

 大型化、高速化の方向で発展を続けてきたコンピュータ技術は、80年代後半以降企業組織等の面でのダウンサイジングの動きに呼応して、その発展の方向を小型化、高速化に加えてネットワーク化へと転換した。90年代に入ってからはインターネットの実用化とその急速な普及が、これまでのネットワーク化を急速に進め、情報面で全世界を一つに結びつけている。情報面から全世界を一つに統合する「グローバル情報経済社会」の形成が大きな潮流。

② グローバル化は新しい段階へ

  • (ア) 財・サービスの貿易や資本の取引が、その障壁が低くなることにより共通の市場原理に基づいて行われている。また、途上国の発展や旧社会主義国の市場経済移行によって、世界市場への参加国・人口が全世界規模に拡がった。
  • (イ) 国際的資本移動における不安定性等の問題が発生しており、グローバル化はその便益の一層の増進を図るため、今後はその欠点を是正する仕組みを模索するべき新しいステージに入っている。
  • (ウ) 国内制度等を調和させるなど迅速な対応を進め、社会の効率性を高めていくことが必要。同時に、世界の多様な動きを注視し、外的なリスク要因に備える必要が大きくなっている。

③ 人口は頭打ちから減少へ

  • (ア) 明治以降130年間で4倍増した人口が今後10年程度で減少に転じる。人口減少の予想自体が人々に先々活力衰亡の予感を与えている。
  • (イ) また、人口増加の下で機能してきた雇用システム、社会保障制度、都市・国土等の基盤整備政策等を現行のまま維持することは難しく、今までにない転機が訪れている。これらは産業や就労の形に大きな影響を与える。
  • (ウ)「人は多く、土地は稀少」という観念が変わり、土地は「資産」から「資源」へと考えられるようになる。それに伴い、土地の流動性を高め、有効利用を図ることが必要となる。

④ 環境、資源、エネルギーの制約を克服した持続的発展へ

  • (ア) 環境問題が通常の事業活動や日常活動に深く関わる広がりを見せ、資源・エネルギー問題が、経済活動に対する一層の制約要因となっている。
     従来型の大量生産・大量消費・大量廃棄型システムの延長では、こうした環境問題を解決し社会の持続的発展につなげていくことは困難。従来型のシステムを転換させ、持続可能な発展を実現する「循環型経済社会」を構築することが世界的に求められている。
  • (イ) 過去20年間は資源過剰時代だったが、今後もそれが続くか否かは大きな不確定要因。

(2) 経済社会への10の影響は

大きな歴史的転換の流れが、社会の様々な側面にいくつかの不可避的な影響を与えている。新たなる時代の姿を考える際にはこれを、基本的変化として認識し、その変化に積極的に関わっていくことが必要となる。

(産業、企業への影響)

① 産業・企業構造の再編成

  • (ア) グローバル化が進むことにより、国内的には市場原理が一層浸透し競争が促進される。それに伴って、単純な労働と資本を組み合わせる産業は途上国に移り、先進国では多様な知識や知恵を創造したり、使いこなしたりする産業が主流となる流れが加速し、世界規模での産業構造の再編成が進む。こうした国際分業の進展により日本から失われる産業も多くなる。その中で日本が先進国としてあり続けるためには、「知」的創造者を含め多くの人々にとって魅力的な経済社会でなければならない。(注1)
  • (イ) 一方、これまでの日本経済にとって重要な役割を果たしてきた「もの造り」については、今後の国際分業の進展の中でも、これまで蓄積された技術・ノウハウをもとにして、一層の発展が可能である。国際競争の中で生き残り得る分野において、「もの造り」に関する技術・ノウハウを継承、発展させていくことは重要。
  • (ウ) これまでは固定的な企業グループ内で様々な情報を共有することにメリットがあったが、情報ネットワークの発展により外部からの十分な情報の入手が可能になる。このため、企業の取引関係は、固定的なグループ内での取引から、より多様化した関係へと変化し、企業自体は系列や業界にとらわれない「個」としての性格を強める。

② ネットワーク経済社会と生産性向上

  • (ア) 情報ネットワークを有効に使いこなすことにより、流通面を中心に供給側のコスト低下に加え、意思決定の迅速化など、価格、時間の両面での効率性の向上が可能となる。これらの効率性を引き出す組織のあり方、システムが求められる。
  • (イ) 情報ネットワーク産業は、社会のインフラ的役割を担う極めて重要な産業として急速に発展。ネットワークへ「知」を送りこむ発信者とそのプロデューサーが決定的に重要になる。

③ 経済ダイナミズム

  • (ア) 多様な知恵の時代において、価値が可変的になると、事業の盛衰は激しくなり、大型倒産も生じ得る一方、ベンチャー企業が急成長するといった「経済ダイナミズム」がもたらされる。これは逆に、創意と工夫がなければ経済社会が進歩しないことを意味する。大型倒産に伴う社会的コストを小さくするために、生産要素の円滑な移動が重要となる。
  • (イ) 一方、経済社会のダイナミズムを保つためには、「成功者への報酬」がより重要になるが、そうした中で「安全ネットの高さ」をいかに調整するかが重大な問題となる。

④ 新しいビジネスの拡大

  • (ア) 少子高齢社会の本格化により高齢者向け市場が拡大するとともに、高齢者や女性の労働力化に資する産業構造が求められる。
  • (イ) 規格大量生産型の供給体制は、大量消費、大量廃棄の側面を併せ持つことから環境保全との関係でも、その転換が不可避である。このため、長持ち製品や修理サービス、解体容易なリサイクル向き製品等環境にやさしい財・サービスの市場が拡大する。こうした変化に対応した環境関連ビジネスが拡大する。

(生活、文化、社会面への影響)

⑤ 新しいライフスタイル

  • (ア) グローバル化の中で多様な価値観等が流入し、一時的に摩擦が生じるものの、個々人の生活、日本固有の生活文化と組み合わされ、多様な新しいライフスタイルが生まれる。
  • (イ) 価値観を異にする人々が、職場、学校、市民生活の中で、お互いを許容しながらも、国民としてのまとまりを保つためには、共有すべき最低限の新しい社会規範が必要になる。(注2)
  • (ウ) 工業地域、住居地域、商業地域といった用途別の規制により、結果的に形成された現在の都市構造は、規格大量生産型工業社会には有効であったが、情報収集の困難や通勤時間の拡大をもたらし、多様な知恵の時代にふさわしくなくなる。都市のあり方について基本的な考え方の変更が必要となる。

⑥ 多様性と個人の帰属先

  • (ア) 事業の盛衰のサイクルが短期化することや、ピラミッド型の人口構造を前提とした年功序列型の組織、処遇が維持できなくなり、雇用形態が多様化する。また、会社に対する個人の帰属意識が多様化するため、個人の職業選択において、大多数の人が生涯同一の企業と運命をともにする(終身就社)との考え方は困難になる。
  • (イ) 情報ネットワークの発展が、距離や時間の制約を離れて個人間の連絡、情報交換を格段に容易にする。また、従来のメディアが情報提供の一方通行の流れであったのに対し、双方向での情報のやり取りにより個人から社会に対しての情報発信が可能になる。これらが、幅広い人間関係の新たな形成を助ける。
  • (ウ) こうした結果、血縁社会、地縁社会、職縁社会など、個人が全人格的に帰属する共同体はなくなり、「個」を主体とする「複属社会」となる。
  • (エ) 情報発信の能力と意志のない人々が、多様なグループの追随者となり、時としてグループ心理に流された行動をとる可能性がある。これに対する社会的制御と多様性の維持(秩序と自由)の間のバランスをどうとるかが大きな問題となる。
  • (オ) 一方、個性や多様性が社会全体に広く浸透していけば、社会主観の安易な形成による可変性の過度の高まりは、ある程度抑制される。

⑦ リスクに応じた所得の獲得

  •  多様な知恵の時代においては、価値の生産やリスクをとることによって大きな所得を獲得することが可能となる。同時にそれにより、成功した人と失敗した人の間で大きな所得格差が発生する。これまでは規制等による業種別所得格差があったが、このような「機会の不平等」に起因する所得格差は、チャレンジやリスクに応じたものに変化する。

⑧ 多様な人的資源の有効活用

  • (ア) 人口減少の中で、限られた人的資源を有効活用するため、職業能力開発の推進や生産性の高い分野への労働移動の円滑化を通じて、労働生産性の向上を図ると同時に、労働力の多様性(女性・高齢者の参画、移住労働者の増加等)を高めることが求められる。
  • (イ) 自発的な求職活動が活発化すると、求職中の者を含め人々が自己実現によりどれだけ満足を得たかが雇用情勢を判断するうえで重要となる。

(マクロ経済的影響)

⑨ 成長制約下での豊かさの増進

  • (ア) 人口減少や環境問題により、マクロとしての経済成長に対する制約要因が高まる。その一方、現在の様々な非効率性を解消していくことにより、人口減少の中でも経済成長は可能である。また、持続的な生産性向上を可能とすれば、一人あたりでは十分豊かさの増進につなげることができる。
  • (イ) 価値観の多様化から「可処分所得」、「可処分時間」(注3)、「選択可能度」、「生活安心度」等が社会的幸せの尺度となる。
  • (ウ) 人口減少局面では、土地や蓄積された実物資産の1人当たりのストックが増加する。これは混雑の解消等を通じて豊かさの増進にもつながる。

⑩ 消費性向の上昇

  • (ア) 家族よりも「個」が重視されるようになれば、子孫に遺産を残そうという意欲は低下するとの見方がある。また現在、老後への備えとしては、私的貯蓄のウェイトも大きいが、将来不安を払拭することは、消費性向の上昇につながると考えられる。
  • (イ) 高齢者は相対的に消費性向が高いと考えられるが、その比率が高まることからも消費性向が高まる。消費性向の上昇は国内の貯蓄超過(対外黒字)を縮小させる。

(3) 自由の考え方~5つの発想の転換

戦後の日本では、①「効率」、②「安全」、③「平等」の3つが広く正義として捉えられてきた。これからは、④「自由」を加えるべきである。これらの間で相克が存在するが、「自由」のためには「効率」、「安全」、「平等」は時として犠牲になることもある。こうした考え方を徹底するために次の5つの発想の転換が必要。

① 経済的なルールや秩序は「自由」のためのインフラ

  • (ア) 経済的なルールや秩序は自由な活動を促すインフラとして位置づけられ、「原則自由」への完全な発想の転換が必要である。すべての規制には説明責任が伴うとの認識に立つことが必要。
  • (イ) 過度の横並び意識や責任の分散が、個の創意、工夫につながるダイナミックな行動を阻害している。また、これらはグローバル化の中で、外に対しては日本の社会を閉鎖的、不透明で特異な社会に見せている。横並びの発想を捨て、「多様性」を許容するとともに、「個」が自己責任のもとに「自立」した存在であることを十分認識することが必要。

② 「機会の平等」と「正当な評価」

  • (ア) これまで、既得権益に結びついた者が有利な条件を享受する等の機会の不平等が存在してきた。新たな経済社会では機会の平等を前提とする。
  • (イ) 一方、結果に応じた「現在における正当な評価」が重要。これまで追求されがちであった結果の平等については、それ自体を目標とする発想を排除する。

③ 可変性の肯定と自己責任

  • (ア) 企業行動面では、自ら変化していくことはリスクを伴うという従来の発想を捨て、変化の激しい時代には、むしろ安定を追求し変化しない選択をすることが、より大きなリスクにつながることを認識すべき。可変性を肯定すると、その時々の「決断」が大切になり、それに対する自己責任が必然化する。これを救済するために保険(インシュアランス及びヘッジ)、公正競争関係法規、司法拡充が必要になる。
  • (イ) また、常に効率的な資源配分を維持するとともに、価値の可変性により調整コストが高まることのないよう、生産要素(労働力、資本等)が円滑に移動するなど、「社会システムの柔軟性」が確保されることが重要。生産要素の固定化は短期的には可能であっても長期的には持続困難となり、最終的に大きくかつ急激な調整を余儀なくされるリスクを持つことを認識すべき。

④ 年齢、性、国籍に関するフリーな発想

  • (ア) 年齢別、性別、国籍別の固定的な発想を捨てるべきである。
  • (イ) 日本では就学、勤労、職業生活からの引退などのライフステージが年齢にとらわれすぎ、固定的になっている面があり、これが少子高齢社会への適応を困難にしている。
  • (ウ) 「男は外、女は内」といった家族、家庭観から脱却し、男女双方が応分に家族的責任を担うこと等で、男女とも性別にとらわれることなく、個性と能力を十分に発揮することができる男女共同参画社会とする。
  • (エ) ルールに従って入国・在留する外国人が、日本社会に調和し、日本人と共存して円滑な社会生活を営める。

⑤ 経済成長の考え方

  • (ア) 高度成長期には極大成長を遂げることが様々な問題の解決につながるという側面があり、それ自体が目標としても強く認識された。今日では、経済成長は重要であることには変わりはないが、それ自体が目的とはなり得ない。
  • (イ) 生産物の価値が流行(社会主観)で変化することが多くなることから、生産額や物価等は従来の計数では計り難くなっている。もっとも、物的豊かさの増進を計る一手段として、従来型計算による一人あたりでの生産額の増加は重要であることに変わりはない。今後、GDP等の成長率は、可処分時間や選択可能度等と並ぶ複数の尺度の一つとなる。

2. 21世紀初頭の経済社会のあるべき姿とは

(1) 経済のダイナミズムの復興~個々人が「夢」を追求できる経済社会

 現在、日本では個々人がそれぞれの夢を追求するインセンティブが弱まり、不安感ばかりが社会を取り巻いている。自己変革能力、活力、個性を引き出し、経済のダイナミズムを復興させることで「夢のある経済社会」を創造し、「安心」を取り戻さなければならない。自立した個人が「独創性」と「個性」を十分に発揮し、それぞれの知識、知恵、技術、勇気が正当な評価を受けるとともに、ゆとりの暮しも肯定されるような「選べる経済社会」であることが目標となる。これは次の4つの構成要素からなる。

① 透明で公正な市場経済

  • (ア) 「独創性」や「個性」を重視し、個々人が「夢」を追求できる経済社会とするためには、自由な経済活動を確保する市場メカニズムの活用が原則となる。この原則を最優先とし、あらゆる制度、システムはこの原則に反しない方向で組み立てられる。
  • (イ) 市場への新規参入が自由であり、供給者側からの分かりやすい積極的な情報提供が促進されることを通じて、消費者主権が確立している。
  • (ウ) 市場には誰もが安心して参加できるような公正なルールが確立しており、反則に対してはその責任と清算を明確に行うことが求められる。

② 挑戦の可能性と「安全ネット」(注4)

  • (ア) 個人が「夢」に安心して挑戦できるよう、失敗者も清算を済ませたうえで、再び挑戦できるような仕組みが備わっている。その一つとして、あらゆる経験を活かして自らの適性を探り得る多様な選択肢が備わっている。
  • (イ) 安全ネットは、「正当な評価」に適応する範囲内で、社会システム全体として効率よく構築され、それによって生活の安心が確保される。安全ネットは、個人が安心して挑戦することができるよう、個人の生活を脅かす様々なリスクに対処するとともに、個人の人権(注5)を守るためのものであり、あらゆる意味で利権を保護するものであってはならない。

③ 多様な帰属先と個人の選択

  • (ア) 個人が主体となって「夢」を追求するとなれば、それが帰属する場も多様化し、個人の選択となる。近代工業社会の職場単属が修正され、ビジネスを離れた多彩な帰属先が存在する。
  • (イ) そのため、再び家族の役割が高まるとともに、地域、NPO、スポーツクラブなど趣味を核とする組織等といった「好みの縁による帰属先」が新たに形成される。
  • (ウ) NPOはそれが生み出すサービスによってのみでなく雇用の創出等を通じても、広く社会を支える重要な役割を果たす。

④ 政府の役割と「公」及び「個」の概念

  • (ア) 政府は新しい社会に相応しい新しい機能(市場ルールの整備、危機管理、安全ネット、外部(不)経済への対応等)に純化する。こうした機能変化に伴って人的資源の移動を柔軟に行う。また、「公」のことは「官」に任せれば十分との風潮を廃し、各人が社会全体に貢献しようとする「公概念」を確立する。
  • (イ) 個人が好みによって複数の(単数でもよいが)帰属先を持つ世の中にふさわしい「個」の概念を確立する。(今日においては個を前面に出した「私利」「自愛」はいやしいこととされ、所属企業や官庁のためが、あたかも「公」のように考えられている。)
  • (ウ) 個の重視に対応して、国と地方の関係においても地方分散が基本となり、各地方が個としての性格を強める。それを通じて各地方が独自に魅力ある地域造りを進めることにより、個性豊かな国土形成が進められる。

(2) 21世紀型経済社会への適応とは

  • (ア) 「夢」を追求できる経済社会を目指し、21世紀に直面する大きな変化に適応した安心できる社会を形成していくことが必要。このような社会の変革は、今後、世界各国で予想とされるものであるため、日本が世界に先駆けて独自のシステムを開発し世界にそのモデルを提示することができれば、人類文明に対する歴史的貢献となる。
  • (イ) こうした観点から、
    • ① 多様な知恵の時代への適応
    • ② 少子高齢社会への適応
    • ③ 環境にやさしい持続的発展への適応
      の3つを実現し、21世紀型経済社会に積極的に適応した国となる。

(3) 国際社会のコア・メンバーに

  • (ア) グローバル化は、今後、世界共通の新たなルール、秩序を必要とする段階に入っている。日本は国際社会のコア・メンバーとして、自由で開かれ公正でリスクに強い経済社会を形成するとともに、異なる文化と目標を持った国々に公正かつ安全に適用されるルール作りに参加することにより、国際社会に積極的に貢献していく。こうした貢献を通じて、結果として信頼される国として、国際社会の中で名誉ある地位を占めることができるようになる。(新たなルールの中には、モノ、カネ、ヒトの移動および定着のルール、地球環境に関するルール、紛争解決のルール等が含まれる。)
  • (イ) アジア地域との関係については、その相互依存関係が今後とも高まっていくことを踏まえ、同地域の発展と安定に積極的に関わる。

3. 検討すべき政策課題

 経済社会のあるべき姿を考える際の基本理念を示してきたが、今後21世紀初頭におけるより具体的な姿を描き、体系的かつスケジュール立てて政策方針を立案する必要がある。そこで、今後検討すべき政策課題を提示する。

(1) 少子高齢社会に向けて

① 高齢者の雇用を進めるための仕組みと支援策は

  • (ア) 定年制は一定年齢までおおむね雇用が保障される一方、その年齢で雇用契約を終了させるという両面をもつ制度である。高齢者の雇用の促進の観点から、定年制を維持すべきか、あるいは年齢差別禁止という考え方について検討すべきか。
     年功序列的な給与や昇進等の慣行も、働く意欲と能力のある高齢者の職場への参入を部分的に阻害していることから、見直されるべきか。
     なお、公務員の雇用、賃金等について民間の動向と整合的なものとしつつ、少子高齢社会への対応の観点において、国が先導的役割を果たすことも検討すべきではないか。
  • (イ) 高齢者の所得と年金との相関関係をどのように考えるか。

② 労働力人口の減少を許容するか

  • (ア) 人口の減少に伴って成長率が低下したとしても、それ自体は豊かさの低下を意味するものではない。労働生産性の向上を図るとともに、男女共同参画社会を形成すること等を通じて、働く意欲と能力のある女性や高齢者の能力発揮を促進すべきか。
  • (イ) 将来的に出生率を回復させ人口減少に歯止めをかけるための方策をとっておくことが必要であり、そのために、子育てと就業機会との両立が図られやすい社会環境をいかに整備するか。(諸外国の過去の経験に照らして、育児手当の支給や育児休暇制度の拡充といった政策の効果を検証する必要があるのではないか。)
  • (ウ) 移住労働者(注6)は、労働力を量的に確保し経済成長を追求するという理由からは受け入れる必要はないと考える。
     しかし、(a)少子化の進展により職種によっては著しく労働力不足となることが予想されるが、結果的にその解消に資すると期待されること、(b)途上国への技術移転や日本文化の拡大に役立つこと、(c)多様な発想と市場原理の維持に貢献すること等から、秩序だった海外からの移住労働者の受け入れを通じて、世界に対して開かれた活力のある経済社会を目指すことを積極的に検討すべきではないか。

③ 少子高齢化にふさわしい社会資本及び街づくりは

  • (ア) 個々の職場のみならず、経済社会全体の効率(生産性)の向上が大切である。このため、勤労準備時間(通勤等)、社会的用務時間(役所の手続き、物の輸送等)の短縮に必要な社会資本の充実を図るべきではないか。
  • (イ) 職・住・遊・健等生活に必要な要素を、近接化、複合化、ネットワーク化によって身近な存在とし、「歩いて暮らせる街造り」を進めるべきか。
  • (ウ) バリアフリー化や交通安全対策を進める等、高齢者、障害者、子供などが、安全に安心して不自由なく活動できるような社会資本をいかに整備するか。
  • (エ) 高齢者、単身者などの暮らしやすい環境整備(デジタル化、医療の通信化、電話援授や留守中保管等)とそのための技術開発を進めるべきか。

(2) 国土と国民生活は

① 多様化の中での国土は

  • (ア) 様々な高度な機能が近接化・複合化・ネットワーク化された、多様な知恵の時代にふさわしい都市形成を進めるため、都市部における様々な用途での高度利用を進めるとともに、都市計画については、より広範な用途複合を図るべきか。このため、用途別の規制から、環境条件による規制に変更することも検討すべきか。(注7)
  • (イ) グローバル化した多様な知恵の時代においては、都市の国際競争力を強化し、世界各地から知恵と情報を集めることが必要ではないか。そのためには、都市の生活、運営コストを引き下げるべきか。また、それに必要な物的インフラを整備するとともに、24時間利用を含む施設利用のソフトウエアの開発に努めるべきか。
  • (ウ) 地方への人口と産業の分散を促す必要があるのではないか。そのため、知的インフラと情報発信機能の地方分散、産業振興、外資の積極的導入等を進め、地域経済の活性化につなげるとともに、地域間の連携を基礎に地域自立のための機会の均等化を進めるべきか。
  • (エ) 中山間地域等についてはその活性化は自助努力を基本とすべきか、あるいは、自助努力を基本としつつ、必要な振興策を講じるべきか。また、地域の実情に応じて担い手となる者を明確化するとともに、人口過少地における情報、交通、娯楽、医療、教育及び社会参加のあり方を抜本的に検討すべきか。

② 交通情報体系は

  • (ア) 民間を主導とする市場経済の原則に基づき、21世紀においては、情報アクセスをグローバル化、低コスト化することを主眼にし、日本列島の中核に世界最大の高速・大容量をもつネットワークの形成を進めるべきか。
  • (イ) 長期的な投資余力の減少、国境を越えた競争の激化、国民意識の多様化といった諸状況の変化に対応するため、インターモーダルな発想に基づく戦略的な交通政策を推進すべきではないか。
  • (ウ) 都市内の渋滞緩和や、ゆとりある都市生活の実現に資する都市交通ネットワークの機能を強化し、利用者の利便性の向上を図るため、インフラ整備とソフト施策を総合的に推進すべきではないか。
  • (エ) 高齢者にも使いやすく環境への負荷の少ない交通体系、エネルギー体系の形成、情報通信技術を活用した高度な交通サービスの提供を進めるべきではないか。また、高齢者にも使いやすい情報通信機器や情報通信システムを整備すべきではないか。

③ 地方経済の活性化

  • (ア) 各自治体が国に依存しない独自性を高め、地域経済が公共投資依存体質から脱却すべきではないか。このため、各地の各種起業や内外の企業誘致をいかに促進するか。
  • (イ) 産業や文化面での個性的・自立的発展をいかに促していくか。財源問題を含め地方分権を徹底的に進めるとともに、地域間での競争により創意と工夫を促すべきか。
  • (ウ) 多様な知恵の時代にふさわしい情報や技術をもつ経済圏の必要性を踏まえ、地方自治体のあり方について、市町村合併を推進するとともに、道州制や府県合併を含めて、検討すべきではないか。
  • (エ) 首都機能の移転を具体化するにあたっては、多様な知恵の時代にふさわしい日本の経済活動からみて、コストとベネフィットがより明らかになるように検討すべきではないか。

(3) 社会・経済構造の新たな形成は

① ポスト「会社人間」のあり方は

  • (ア) 各個人が自らの帰属対象を選ぶ時代になる。家庭、家族、地域、NPO、職場等多層的な社会集団に参画し得るような社会システムと可処分時間を作り出すことが大切ではないか。
  • (イ) 心豊かな活力ある経済社会を形成していくため、文化を重視すべきではないか。

② 政府の関与により維持するものは

  • (ア) 産業構造はグローバル化の中で、市場メカニズムに応じた国際分業を基本とすべきか。政府が国際競争力のなくなった特定産業を意図的に国内に残そうとする政策は、原則として廃止すべきか、または、国民の生命等に関わるものは除くべきか。
  • (イ) 自然環境の保全、文化財や伝統工芸の保護については、必要なものを最も効率的な方法によって保存すべきか。
  • (ウ) ベンチャー企業育成や企業が行う技術開発に対しては、その重要性を考えて、技術インフラの整備やベンチャー企業に対する支援措置等を通じて、市場メカニズムに整合的な形で戦略的に支援すべきか。

③ 企業組織の構造及び雇用システムは

  • (ア) 企業組織に関しては、市場を通じた株主によるチェック等による透明性の高いコーポレートガバナンスを促す環境をいかに整備していくか。ストック・オプション制度、M&A市場の有効な機能により、企業経営の風土を一新することが必要ではないか。
  • (イ) 雇用システムに関しては、長期継続雇用等特定の雇用形態を有利とする制度や、自らの希望による労働移動に抑制的な制度を中立的なものに見直すとともに、柔軟な働き方のできる環境をいかに整備するか。
  • (ウ) 労働者派遣事業及び職業紹介事業に関する一層の規制改革等を通じて、重層性のある外部労働市場の形成をいかに促すか。
  • (エ) 個人がその職業能力を開発、向上させることにより職業の安定を図るとともに、経済社会の発展に寄与できるよう、職業生涯を通じた能力開発をいかに可能とするか。

④ 人材育成は

  • (ア) 多様な知恵の時代にふさわしい人材育成を進めるため、現在の横並び的な発想を根本的に転換し、独創性と個性を伸ばす教育を実現すべきではないか。教育の供給側に競争原理を大幅に取り入れ、特徴ある教育の供給を促すと同時に教育を受ける側の選択肢を拡大すべきか。また、教員資格の拡大、学校に関する情報公開を進めるべきか。
  • (イ) ネットワーク社会とグローバル化に対応できる人材を育成するため、初等中等教育の段階から、実用的な情報関連教育や外国語教育の充実を図るべきか。
  • (ウ) 供給サイドに対応した人材の育成に加え、自己責任とリスクを念頭に置いた賢い消費者を育成する教育を充実すべきではないか。
  • (エ) 大学等の設立、増設の規制を緩和する一方、大学等の改廃に対応できるよう受講者の救済や研究者の研究継続等のための制度を整備すべきか。

⑤ 科学技術は

  • (ア) 社会科学等の分野も含め、研究開発の質的向上を更に進め、世界水準の研究成果を生み出すため、現在の研究開発システムの構造改革をいかに進めるか。
  • (イ) 科学技術の振興の戦略的な目標を明確化し、研究開発投資の重点化をいかに図るか。

⑥ 環境との調和は

  • (ア) 環境保全(CO2等の排出削減等)を市場機能の中で内生化するなど、環境と経済の統合に向けた変革の取り組みを強化することにより、持続可能な経済社会システムをいかに構築するか。
  • (イ) リサイクルを社会のシステムとして定着させるなど、資源やエネルギーの面で循環・効率化を進めることはもとより、健全な物質循環を確保することにより、環境負荷の少ない循環型経済社会をいかに確立するか。
  • (ウ) 経済社会の変化、財政状況の変化を踏まえ、国土と環境の保全の最も効率的な方法を研究、実行すべきか。また、そのための人材育成、技術開発を積極的に進めるべきか。この際、保全と産業とは切り離して考えるべきか、または、産業活動を通じた保全について考えていくべきか。

(4) 財政と安全ネットは

① 財政再建の道筋の提示は

  • (ア) 現在、大幅に悪化している国・地方の財政バランスについて、中長期的に財政の持続可能性を取り戻す道筋を示すとともに、行政の合理化、効率化による歳出削減や公的サービスのアウトソーシング等、必要な政策を提示し、財政破綻に対する懸念をいかに払拭するか。
  • (イ) 国有財産、国営機関のあり方を検討し、各官庁が必要最小限のもの以外は売却または民営化することが利益となるようなシステムを確立すべきか。
  • (ウ) 政府及び公営事業に貸借対照表など企業会計的要素を取り入れるべきか。

② 安全ネットは

  • (ア) 給付と負担の適正化により、将来世代の負担が過重なものとならないようにすることによって、将来に渡って維持可能で信頼できる公的年金制度を構築し、企業年金、私的年金との組み合わせによって、安心できる老後設計ができるようにすべきではないか。その際、厚生年金の報酬比例部分の廃止(完全民営化)についても検討すべきか。
  • (イ) 世帯単位で設計されている年金、医療保険等を個人単位で見直すべきか。
     なお、年金制度に関する二国間協定の締結を進めることにより、人的交流の円滑化を図るようにすべきか。
  • (ウ) 高齢者介護については、家族、社会のいずれで行う場合においても、個人が自由に選択してサービスを受容できる仕組みを、いかに構築すべきか。
  • (エ) 介護・医療サービスにおいて、サービスの特性に配慮しつつ、競争原理を導入し効率性を図るべきか。
  • (オ) 失業手当や低所得者への生活保障は必要な限度に設定される一方で、個人の能力開発に対する支援を十分に行うことでよいか。
  • (カ) 転職や中途採用を容易にするため、外部労働市場を整備すると同時に、職業生涯を通じた能力開発を可能とする等、複線的ライフコースの選択を実現すべきか。(年金のポータビリティー等)

(5) 国際社会の中での姿は

  • (ア) WTO新ラウンド等多国間協議の場においては、一層の自由貿易の推進や労働力移動の基本ルール、環境保護の原則などでリーダーシップを発揮すべきか。
  • (イ) 途上国の投資環境や競争制度の整備をいかに支援するか。また、リスク管理改革を含む国際金融システムの強化に対し積極的に貢献する他、円の国際化を推進すべきではないか。国際経済協力について、ODAのみならず、その他の公的資金、民間資金、NGO等の活動等の有機的な連携をいかに推進するか。
  • (ウ) 内外の経済社会データの蓄積、情報の収集、経済社会統計情報の普及・共有化等により、国際競争力のある知的蓄積を推進すべきか。
  • (エ) 国際的情報発信力を飛躍的に高めるために、日本語の国際語化についてどう考えるか。
  • (オ) 首都機能の移転計画や国土保全、地震災害復興等を通じて蓄積された最新の都市環境技術を、ハード、ソフト両面にわたって、全世界に提供するセンターを作るべきか。
  • (注1) 知的創造や果敢なリスクテイクが価値を産む社会においても、そうでない者が多数存在する。社会の在り方、価値基準の置き方にあって、大多数の幸福を阻害しない配慮が別途必要である。
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  • (注2) 自由や個の自立が重視されるようになると、国民ないし国家としてのまとまりが希薄になるおそれがある。
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  • (注3) 労働時間、通勤時間等活動のための準備時間などを除いた、自由な活動のために使える時間。
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  • (注4) 本ペーパーにおける「安全ネット」とは、人々が個々人の力のみでは対処し得ない生活の安定を脅かすリスクにさらされた場合や、著しく損失を被った場合などにそれを救済する制度やシステムのことを指しており、年金、医療保険、雇用保険、生活保護といった社会保障に加え、預金者保護、消費者保護、事業などで失敗した場合にも再挑戦のできる社会環境(多様な選択肢、倒産法制等)も含まれる。
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  • (注5) 人権とは個人の生活権の擁護という意義で使っている。
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  • (注6) 「移住労働者」とは、生活本拠を外国から日本に移して、ある程度の期間就労するものを念頭に置いた言葉であり、移民として日本に永住する者も含まれるものである。これまで比較的議論の少なかったこの問題を、長期的観点から議論する必要がある。
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  • (注7) 用途別の規制については、生活環境保全や計画的な用途複合等の観点から、より強化すべきとの意見もある。また、環境条件による規制については、基準適合性の判断のために、建築行為の一件ごとに環境影響評価を行うことが必要となり、時間と費用の大幅な増加を招く等の課題がある
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