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「国際マクロ経済問題研究会」報告のポイント

平成11年1月19日

経済企画庁総合計画局

委員構成

  氏名 現職
座長 近藤 剛 伊藤忠商事(株)常務取締役
  小島 明 (株)日本経済新聞社取締役論説主幹
  中山 真一 (株)富士通総研経済研究所主席研究員
  高阪 章 大阪大学大学院国際公共政策研究科教授
  黒柳 雅明 日本輸出入銀行海外投資研究所主任研究員
  岡田 靖 クレディスイス・ファーストボストン証券東京支店経済調査部長
  奥田 英信 一橋大学大学院経済学研究科助教授
  石本 聡 伊藤忠商事(株)政治経済研究所主任研究員
  小川 英治 一橋大学商学部助教授
  大坪  滋 名古屋大学大学院国際開発研究科助教授
    (敬称略)

毎回の検討事項

(10月 9日 第一回)
  • 研究会の検討テーマについて
(10月26日 第二回)
  • 世界経済の現状-通貨・金融危機とその影響-
  • 通貨・金融危機は何故起きるのか
  • 過去の危機との比較
(11月17日 第三回)
  • 90年代の世界経済と日本経済の危機-不安定性を内在するグローバル化の進展
  • 通貨・金融危機への対処策-国際機関、日本の役割-
(11月27日 第四回)
  • アジア通貨危機とその後-地域的危機管理の提案-
  • 国際通貨体制の展望-ユーロが国際通貨システムと国際金融市場に与える影響-
(12月14日 第五回)
  • 資本移動規制について
  • 地域的危機管理について
  • 取りまとめ案の検討

研究会の目的と背景(第一章)

1990年代に入り、情報通信コストの低下と各国間の制度上の差異が縮小することによって「グローバリゼーション」と呼ばれる流れが加速している。グローバリゼーションの進展は効率改善という大きな利益をもたらすが、近年の世界経済の動きには、アジア及び市場移行国の通貨・金融危機など21世紀の経済社会の姿に大きな影響を与えるものがみられる。

現在生じている危機が、時間経過と共に生じる制度上の欠陥や技術等の進歩による新しい問題であれば、従前の機構・考え方を維持したままで解決策を導くことは不可能である。そこで、成長と繁栄に向けた国際的な危機管理案等に関するこれまでの議論を整理し、21世紀の世界経済の秩序をどのように維持するのかを検討することは意義のあることである。

我が国周辺の経済状況に関しては、危機に直面しているものの高い成長可能性を有するアジア諸国は、21世紀の初頭に世界GDPの14%を占め、我が国の経済規模とほぼ肩を並べることになると予測される。これに我が国を加えると、NAFTA及びEUと同程度の経済規模になる。このような国際経済関係下では、我が国と1)アジアとの地域内の枠組み、2)アジアと共同したNAFTA及びEUとの地域間の枠組み、3) NAFTA及びEUとの先進国間の枠組み、等という複数の政策調整の枠組みが考えられる。例えばアジア地域では、円の国際化や流動性危機回避のための地域的な基金設立といった制度的な枠組みの可能性を検討することが求められる。

(図表1:世界実質GDPシェアの推移)

本研究会は、アジア各国で生じている通貨・金融危機の動向を踏まえて、その原因につき検討した後に、資本移動規制の考え方、地域的危機管理、21世紀の国際通貨体制と円の国際化につき提言することを目的としている。

(図表2:研究会の問題設定)

世界経済の捉え方:不安定性を内在するグローバル化の進展(第二章)

冷戦の終結とIT(情報技術)革命によるグローバル経済の復活

イギリスの覇権下で成立したグローバル経済は、第一次大戦によって自由貿易と金本位制が崩壊したことで消滅した。第二次大戦後にIMF・GATT体制としてその修復を目指したものの、いわゆる冷戦構造のために部分的に復活したにすぎなかった。しかし90年代になって、市場経済圏と計画経済圏に分かれていた世界経済が一つになりつつあることによりグローバル経済が復活した。

復活したグローバル経済は、インターネットに代表される高度に発達した情報通信技術によって象徴される。先進国では、高等教育の大衆化によって蓄積した知的資本による生産に比較優位が発生する一方、開発途上国では、生産に関する技術的知識の急激な伝播と相対的な低賃金と豊富な労働力により、従来型の製造業に比較優位をみいだしており、工業品の低価格・大量生産を実現している。

グローバル経済のねじれ:基軸通貨国にもかかわらず累積債務国

最初のグローバル経済の基軸通貨国であったイギリスが同時に最大の資本輸出国であったことに対して、現在の基軸通貨国であるアメリカ合衆国は最大の資本輸入国である。もちろん、変動相場制度は、経常収支のインバランスが自動的に米ドルを経由して国際金融・資本市場に還流するという金本位制に欠けていた安定化メカニズムを持ち合わせている。しかし、資本の還流がうまくいくか否かによって国際金融システムに強い緊張を生じる可能性を持っていることも事実である。現在、最大の資本輸出国である我が国が、国内の金融システムに深刻な問題を抱え込んでいる一方、基軸通貨国(アメリカ)は累積する経常収支赤字の持続可能性問題という不安定要因を抱えていること、国際的な取引・決済通貨の価値がアメリカの国内経済の状況に依存し、国際的に不安定化する可能性を常に含んでいる。したがって、両国を取り巻く各国経済の運営に影響を及ぼす可能性を考えると、円・ドル相場の安定が非常に重要であり、貿易・投資のスムーズな流れを維持することが求められる。

ヘッジファンド危機と不安定な構造

世界経済全体としては、先の市場経済移行国の市場経済参加や開発途上国の経済発展にみられるとおり未だ揺籃期にあり、世界の各国・地域において大規模な産業構造の転換が進みつつある段階である。したがって、国際的に還流する資本の一部は必然的にリスクの高い投資機会へ向かうことが求められる。ところが、最大の資本輸出国である我が国の金融機関と投資家は、国際金融・資本市場において積極的なリスク許容ができなくなっている。こうした我が国金融部門のリスク許容能力の欠如を補完し、我が国のマネーを間接的に世界中の投資機会に還流してきた代表的なものが「円キャリートレード」である。しかし、現在では、ロシア国債のデフォルトによってこの資本還流経路が閉じてしまいかねなくなっており、適切な危機管理抜きには、世界規模のクレジット・クランチが発生する恐れすら否定できない。

(図表3:米国債と民間債券の利回り格差の推移)

通貨・金融危機は何故起きたのか(第五章)

矛盾を抱えていたマクロ経済運営

危機の発生前までは、(1)対米ドルレートを維持するために外国為替市場でドル買い介入を実施する、(2)ドル買い介入がマネーサプライの増加を生まないようにする(不胎化)、(3)不胎化によって国内金利が高まり、国際金利との間に格差が生じる、(4)金利差を狙った資本流入が生じる、というメカニズムが働いていた。ただし、タイやインドネシアでも、外貨建資産の増大に比べてベース・マネーの増大は小さく、その増大を抑えようとしたことが窺われるが、不胎化政策にも限度があった。なお、今回の危機に関連する円とドル建てのキャリー・トレードがどの程度魅力的であったかを試算した結果によると、96年第3四半期~97年第1四半期の間だけでも平均20%(年率)を超える収益を生むことが可能であった。さらに、タイや韓国では、数年前から家計部門の消費拡大と貯蓄の伸び悩みによるマクロ不均衡が指摘されており、生産面では単位労働コスト上昇による製造業の業績不振と輸入を誘発しやすい産業構造についても指摘されてきた。

(図表4:キャリー・トレード)

危機はマクロ・ファンダメンタルズの悪化だけで起こるものではない

マクロ経済のファンダメンタルズにつき、80年代の累積債務、94年のメキシコ、今次のアジア通貨危機を比較すると、96年のアジア諸国のマクロファンダメンタルズは、危機の起こっていない国も含めた平均的なグループとほぼ同じであり、特に問題はなかったとみられる。しかし、マクロ・ファンダメンタルズには問題がなくとも、急激な資本の流入が資産価格を急変動させ、金融・資本市場を経由して実体経済へ影響を及ぼす。タイの場合、GDP比率で12.7%(1995年)、9.3%(1996年)という巨額の資本流入が観察されている。流入資金フローの中身をみると、タイでは、直接投資の流入資本に占める割合が6~13%(90~96年)程度であるのに対し、その他のASEAN諸国(マレーシア、フィリピン、インドネシア)では同比率が30~60%となっている。

(図表5:アジア諸国の純資金フロー)

巨額の資本移動を受け入れる脆弱な金融部門:アジアの金融は融資が中心

アジア各国の銀行業は、年率10%を超える速さで信用供与を伸ばしてきた。信用供与の伸びが高いこと自体は問題ではないが、純マージン率や経費率からは、アジア諸国が不十分なリスクへの備えしか持っていないことが示唆される。また、これらの地域では第一に借り手の信用力を十分に判断できるだけの能力が銀行部門に欠落しており、第二に政府関連のプロジェクトや政府が保証する投資事業が多く、厳密に収益可能性を勘案した貸出が行われていたとは考えにくいとされている。さらに、開発目的に設置された政府系金融機関は政治的介入に弱く、経済合理性に適わない融資を求められることも少なくなかった。

年金やヘッジ・ファンドは危機の原因か

資本移動の変化を国際決済銀行(BIS)の報告をもとにみると、先進国の年金基金は、マクロ経済データに整合的に、96年の第4四半期からアジアに対する投資比率を引き下げていた。同様に、世界投資に特化したヘッジファンド集団の動きからは、97年の初頭にはアジアで相当の規模であったロング(買い手)のポジションが危機の数ヶ月前に大幅に減少している。さらに、97年の夏以降、ヘッジファンド全体としてアジア通貨・債券のショート(売り手)のポジションを拡大していったことは統計的に示されていない。

(図表6:年金ファンド、ヘッジファンドと通貨危機)

BISの年次報告から国別の貸出残高の変化(18カ月間)をとってみると、97年12月時点で危機の顕在化していたタイでは、貸付が106億ドル減少している。主要先進国の中では、レベルでは我が国の貸出が最も変化(-44億ドル)しており、変化率ではアメリカが最も変化(-43%)している。

(図表7:国際貸付と通貨危機)

複合的な危機の原因:貿易・投資の相互依存による外国の影響か

貿易と資本移動を仲介した世界経済の枠組みで考えたとき、我が国の景気低迷に危機の原因を求めるような見方もある。これについて貿易動向から判断する限り、景気低迷によるアジアからの輸入減少というルートが作用したとはいえない。しかし、資本移動に関しては、95年後半からの急速な景気回復によって与信余力の生まれた銀行部門による国際金融市場での短期借入と同時に中長期貸出を拡大する流れが、97年に急速な景気後退が始まった際に止まっており、98年のさらなる景気後退に合わせて減少している。したがって、貿易を経路とする実物面では危機との関係が希薄であるものの、資金の動きからは多分に関係することが示唆される。

(図表8:銀行等保有の対外純資産残高の推移)

提言1:順序だった資本移動の自由化の必要性(第六章)

規制は必要なのか:市場機構の欠陥と制度の設計

経済学者の間では、産業調整(労働の産業間移動)に伴う失業という摩擦的なコストが生じる可能性があるものの、貿易自由化は一国経済の生産効率を改善するという実証に基づいた合意がある。しかし、資本自由化については実際の効果につき意見が分かれている。特に、実体経済に比較して巨額の短期的な資金が開発途上国に急激に移動することの悪影響から、即時の完全な自由化を唱える専門家は少数である。

規制の影響

規制と資本移動量の間にある負の関係は実証的に支持されている。エマージング市場における資本規制を指数化したものの動きからは、同期間におけるGDP等、他の要因をコントロールする必要があるものの、資本規制の低下が資本フローの拡大に寄与することを示唆している。また、規制と貿易量の関係について分析した例は、財・サービス輸出に対して資本取引規制や為替管理の程度がマイナスの影響をもっていることを示している。それゆえ、一般論としては、資本取引規制や為替管理の導入が貿易を鈍化させ、経済全体のパフォーマンスを低迷させる可能性を示唆している。

(図表9:資本フローと資本規制の関係)

規制の有効性:チリの経験

チリの規制は、短期性資本流出入による国内経済の不安定化を避けようとしていた。この制度の基本メカニズムは、海外から短期資本が流入する際にその一定割合をドル建てで中央銀行に無利息で強制預託させる一方、直接投資などの長期資本に対しては門戸を開くというものである。しかし、チリの経済データやパフォーマンスを調査した複数の研究成果が共通に示しているところによると、短期資本流入規制は、1)一時的に効果を示していても、しばらくすると元の水準に戻ってしまうこと、2)国際収支表上の誤差・脱漏という項目の数値が拡大するだけで実体が変わらないこと、3)計量的には有効性を示せても限定的かつ短期的なものに止まること、が示されている。実際、97年末における1年満期未満の短期性資本の流入資金比率は、49.8%である。

流入規制の有効性が疑われる一方、補完的な規制の存在が評価された。それはチリの銀行が、1)貿易関連目的以外に外貨建ての国内貸出を行えない、2)自己資本と準備金の総額の20%までしか外貨建てのポジションを持てない、3)資産・負債の満期期間がずれることに規制が設定されている、といったことを決めているプルーデンシャル規制である。これによって、銀行部門の金融仲介の健全性が維持され、80年代の危機の再来を防止したといわれている。

経済発展段階を考慮した資本勘定自由化の必要性

このような中、資本の貸手となることの多い先進諸国の投資家に対して、モニタリングを強化することが攪乱的な短期資金移動によるリスクを緩和することに貢献できると指摘されている。これには、単なるポートフォリオ上の投資から新種のオフバランスのデリバティブに至る様々な形の投資に対応する洗練された監督システムが必要であり、特に、国際的に活動する機関投資家に関する問題を解決する方策を追求することが求められている。

一方、これらの投資資金は、途上国の事業家や先進国から進出した企業によって借り入れられている。しかし、金融商品の取引には、群集心理に動かされるようなパニック行動や自己実現的な投機的動きという特性が財の取引に比較して強く、市場調整機能の限界も指摘されている。このような認識から、資本移動を規制すべきではないかとの主張もみられる。

しかし、アジア通貨危機を例にすると、自由化しすぎて短期資本が流入したのではなく、継続的に利ざやが残り続けるような制度と政策の歪み(ドル・ペッグ制度等)が存在していたという点が指摘されている。これにより民間投資家が不適切なリスクの評価をしてしまい、巨額の短期資本流入が発生したことからは、自由化か規制かという点だけでなく、このような歪みを正すことが必要であろう。

長期的には、資本取引の自由化は推進されなければならない。但し、市場経済制度の整備が進展していない国々では、その自由な取引を実現するために順序だった自由化(規制撤廃)と以下の条件を整備すべきである。1)先行して実施すべき貿易・直接投資の自由化、2)国内の金融・資本市場に対する監督・規制制度の確立、3)借り手の情報開示、である。これらの条件を欠いた水際の資本移動規制だけでは短期資本の動きを適切にコントロールすることはできない。

提言2:地域的危機管理の必要性(第七章)

現行システムの問題点:制度によるリスクの歪み

現行システムは、国際金融機関間の業務重複といった基本的な問題点だけでなく、IMFの存在自体が投資家のモラルハザードを生み出す結果となっており、完全な自由化の方が危機管理のコストを勘案した場合に効率的ではないかとの指摘もみられる。また、財政バランスの改善を主眼に置いたマクロ安定化政策と金融部門の改善を狙った構造政策の整合性を巡り、銀行部門の金融仲介機能に大きく依存したアジア諸国の構造を前提にすると、クレジットクランチが発生し、全体としての処方箋が経済状態を改善するというよりは悪化する方向に作用したという考え方もみられる。

規制は必要か:制度によるリスクの歪み

開発途上国への巨額の投機資金移動が、国際金融機関、また主要先進国のコミットメントによる民間投資家のリスク判断の変化によるものならば、規制無しの完全自由化こそが危機を防止する効果をもっているとの主張にも理がある。つまり、より多くの資金が成長の為に必要と考える途上国とデフォルトの時には救済される可能性があると見込んだ投資家の利害が一致し、バブルが起こる可能性が指摘される。このような主張をする立場は、変動為替制度を維持することのみが相対価格の変化を通じて問題を解決すると考えている。

変動為替制度の限界と政策対応の必要性:ミスアライアメントの発生

変動為替制度は、各国の需給状態や成長速度の違いを価格メカニズムに反映させることで最適な結果を示すものと期待されている。しかし、現実の為替レートの国際収支調整はラグを伴っているだけでなく、その為替レートの決定に対して資本移動の活発化や経済主体の期待の訂正が急激に生じることにより、ミスアライアメントが発生したり資源配分の最適化を阻害することがある。したがって、変動為替相場制度に基本的な調整をゆだねたとしても、政策的・制度的なコントロールが不要であるというわけではない。

アジア通貨危機を踏まえた最近の議論

金融・資本取引はモノの取引に比較して、基本的に不確実性が高いため、期待や予想といったものが国際資本市場の変動の大きな要素となっている。アジア通貨危機では、これらの要因が必要な調整以上に経済を変動させることが示された。このような事態を踏まえた「アジア通貨基金構想(注1)」の考え方は、1)市場機構の不完全性に対する有効な対応は、情報の不完全性を補うための協議、監視機能であり、2)投機的な動きに対応しうるだけの流動性供給を行なえる経済主体の存在が効果を発揮できる、というものである。「マニラフレームワーク(注2)」も流動性供給等に違いはあるものの、基本的には同様の発想に依っている。

  • (注1)アジア通貨基金(AMF)構想は、タイ金融支援国会合において、アジア各国間で常設のファシリティーを創設しようとの気運が高まったことから具体的に提起されてきたもの。 9年9月下旬、バンコクでのASEM蔵相会議、香港でのG7等の一連の国際会議の機会に、AMF構想の実現に向けての議論が行われ、IMFのサーベイランスを補完するため域内サーベイランスを行うとともに、IMFの経済調整プログラムを前提として金融支援を行うこと等を検討。その後も関係国やIMF等の国際機関による検討が続けられた。
  • (注2) 9年11月18-19日、アジア地域を中心に14か国の蔵相・中央銀行総裁代理会合がマニラで開催され、「金融・通貨の安定に向けたアジア地域協力強化のためのフレームワーク(マニラフレームワーク)」を合意。
    マニラフレームワークのポイントは次の点であり、AMF構想と軌を一にする。
    1. グローバル・サーベイランスを補完する域内サーベイランス
    2. 各国の金融セクター強化のための技術支援
    3. 新たな危機への対応力を高めることの呼びかけ
    4. IMF等の国際金融機関の支援を補完するための域内国等による支援

地域的危機管理の必要性と留意点

アジア通貨危機の教訓

理想としては、「最後の貸手」となるような機関を抱えることで、システミック・リスクの顕在化を防止することが指摘されているが、現実には困難なことである。しかし、機動的な流動性の供給に対応できる「介入要件」を明確化した機構・合意は、地域の安定化に資すると考えられる。

地域バイアスの存在:現実的なアプローチ

地域内に限定的な危機管理システムを抱えることは、財・サービス貿易や資本移動の流れにも整合的である。すなわち、通貨危機の伝染といった動きには、貿易・投資の結びつきと概ね一致している地域バイアスがあるからである。

新しい危機管理システムの留意点

地域別の流動性供給を前提とした危機管理システムが有効に機能するためには、次の点につき留意する必要がある。

  • 1)IMFとの役割分担
    本提案は、IMFの機能を三地域に分割する一方、地域連携のコアとして組織の改革を行なうような方向性を含意しているが、具体的な点については専門的な見地からの検討が必要となることはいうまでもない。
  • 2)各国のマクロ経済政策を相互監視・協議するような枠組みの形成
    本提案は、流動性供給を受ける国がルーズな国内政策を実施することを防止するための枠組みが必要になることを示唆している。この場合、流動性供給を行なう限り、自主性にゆだねる形のものは馴染まず、参加国による協議を基にしたある程度の執行力を持った決定が可能な組織が必要となる。

提言3:「円の国際化」について(第八章)

米ドルが国際基軸通貨である理由

現在の国際通貨システムでは、1973年の総フロート制に移行してから趨勢的に米ドルが減価してきたにもかかわらず、その米ドルが基軸通貨として利用され続けている。その背景としては、価値貯蔵手段としてよりも交換手段としての機能が国際通貨において重視されており、米ドルが減価しようとも基軸通貨として利用され続けるという意味において慣性が作用している。この「慣性」の程度を実証した分析の示唆するところは、アメリカ自身が高いインフレショックを起すことでドル保有のコストを高めるか、外部からの大きなショックが与えられない限り、同シェアが50%を切る事態は生じにくい。

ブレトンウッズ体制が崩壊してからは、米ドル以外の通貨を国際通貨として自由に利用することが可能な複数国際通貨体制となっている。しかし、米ドルに慣性が働いている状況においては、国際通貨間の異質性が高いために競争は実現されない。有効な競争には、他の通貨が米ドルと同等の占有率を持つ必要があるが、これには何らかの大きなショックが必要となる。大きなショックの一つは、アメリカが二桁の率のインフレーションを起こすことであり、もう一つは円や独マルクの国際通貨としての利便性が増大し、これらが多くの国で利用されるようになることである。

(図表10:インフレ率とドルの占有率の関係)

21世紀の国際通貨体制:米ドル・ユーロの二極化時代か

EU諸国の通貨がそのままユーロに代わって利用されると仮定すると、経済規模に比較して米ドルやEU諸国通貨が相応しい程度に利用される可能性がある。現在の欧州各国の通貨をユーロに置き換えると、米ドルに匹敵するほどの大きなシェアを持った第2位の国際通貨になることが想像できる。

貿易構造からは、欧州とアフリカと中近東地域における国際通貨としてのユーロの利用は拡大することが予想される。一方、南北アメリカにおいては、米国の貿易のシェアが圧倒的であることから、米ドルが国際通貨として利用され続けるであろう。さらに、アジアにおけるEUの貿易のシェアが、米国や日本と匹敵するほどになっていることから、米ドルがそのまま利用されるか、あるいは、対アジアの貿易成長率を考慮に入れると、ユーロが利用され始めることになるかもしれない。

(図表11:日米欧の貿易の相手国シェア)

通貨別債券の発行状況からは、米ドル建て債券が全体の3割強から4割を占めている。一方、独マルク建て債券は全体の10%のみを占めているにすぎない。円建て債券は15%前後である。ユーロが登場した場合には、単純に足しあげると3割強になり、米ドル建て債券の比率に匹敵する。また、前述した慣性の効果を考慮に入れると、ユーロ建て債券の比率がさらに上昇することも予想され、米ドル建て債券の比率を上回る可能性もある。

二極化時代の流れに対して円を国際化する意義

ユーロが米ドルと並ぶ国際通貨になったときに、円は「junior currency」となってしまうかもしれない。円が我が国の経済規模に比較して利用されないことは、例えば我が国の資産を海外の投資機会で活用しようとする際に為替リスクが発生する分だけ、国際投資が過少になることなども考えられる。

円が流通手段として国際的に活用されると、従来から指摘されてきたように、1)貿易・資本取引にかかる為替リスクの低減、2)金融機関の円ドルレートに関する脆弱性解消(円建て資産の拡大)、といったミクロベースの不確実性解消というメリットが生まれる。グローバリゼーションの流れの中で、我が国企業の国際的な事業活動が進展することに合わせて円が利用されるメリットは大きいと考えられる。さらに長期的な観点からは、我が国の高齢化に伴うサービス経済化と輸入拡大、金融資産の対外運用の拡大という経済構造の変化に対して、より不確実性を低下させるという意味で極めて重要な政策目標になりうるだろう。

(図表12:ポートフォリオ投資のメリット)

アジア危機対策にも資する円の流通範囲拡大

昨年来のアジア通貨危機の教訓として、通貨危機に直面したアジア諸国は米ドルペッグをやめて、円への比重をより高めたバスケットペッグを為替相場政策として採用することの必要性が説かれている。この必要性から、円はアジア地域における国際通貨となることが求められている。これはアジア各国の中央銀行に円を外貨準備としてもつことを意味し、円を外貨準備として保有することは、さらにアジア地域の経済主体が決済通貨として円を利用しやすくする。

円が国際通貨として利用されるためには、現在進められている制度改正などを通じて利便性を改善し(使い勝手を良くし)、円資金の国際金融市場を整備することが必要である。しかしながら、それだけでは基軸通貨がもっている「慣性」に対抗するには十分ではない。アジア地域に十分な円資金を供給することが、同地域における国際通貨システムに変化を与え、これをきっかけとして円の国際化が進展することが期待される。

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