第4回国際マクロ経済問題研究会議事概要

1.日時:

平成10年11月27日(金) 14:00~15:30

2.場所:

経済企画庁特別会議室(436号室)

3.出席者:

近藤剛座長、中山真一、高阪章、黒柳雅明、岡田靖、石本聡、小川英治、大坪滋の各委員

中名生局長、高橋審議官、牛嶋審議官、染川計画官他 

4.議題:

  1. 委員報告:「東アジア通貨危機とその後-地域的危機管理の提案-」
  2. 委員報告:「ユーロが国際通貨システムと金融市場に与える影響」

5.審議内容:

【1】委員報告:「東アジア通貨危機とその後-地域的危機管理の提案-」について

(報告のポイント)

  • アジア地域の各国の状況を見ると、為替レートは98年に入り概ね安定、成長率は予想以上に悪化、対外バランスはプラス、輸出伸び率は数量ではプラスであるがドルベース金額ではマイナスとなっており、対外均衡の回復は見かけ上、達成されてきているとはいえる。
  • 通貨危機には、ファンダメンタルズを原因とする通貨危機と、ファンダメンタルズに関係なく、予想が変わったために自己実現的に起きる通貨危機とがあるが、アジア通貨危機が新しいと言われるのは、後者が進んだためである。
  • ファンダメンタルズの問題はアジアでは深刻ではない。外貨準備、インフレ、デット・サービス・レシオ等をみてもメキシコ通貨危機と比較して、健全である。タイの場合で問題だったのは、為替の安定、資本移動の自由、金融政策の自律性という同時に達成できない目標を目指してしまったことである。
  • タイでは、貨幣供給と信用拡大の分裂、つまりクレジットのコントロールができていなかったことが不良債権の増大を招いた。為替の過大評価については、対外不均衡の大きさを説明するほどには大きくなかった。むしろ、90年代に入って過剰消費も起こっていたことが問題。この状況でバブルになり、引き締め政策を行った結果、南米よりも大きい信用収縮が起こった。アジアの金融仲介システムは、貯蓄を投資にうまく結び付けてきたが、そこで信用収縮が起これば実体経済に及ぼす影響は明らかに大きい。
  • どのように対応するか二つのポイントがある。一つは、今回の危機はカネに始まった問題であり、流動性の供給が柱となる。特にアジアのような小国の場合、国内流動性だけでなく、外貨の流動性で支える必要がある。もう一つは、国際資本市場に常に内在する問題を前提にしてセーフティネットをいかに創るかを考えるべき。
  • 投資家の行動には、「アジアのある国が売られたら周辺のアジアの国も売られる」というリージョナルなバイアスがある。また、国際的なセーフティネットを考える際に、各国の意見を代表しているマルチラテラル・インスティテューションがモラルハザードをどう理解するかにかかっている。民間部門にも政策当局にも地域的なバイアスがある以上、これに合わせた対応を考えていくことには意味がある。

(コメント)

  • リージョナルなセーフティネットの必要性について。国際的に資金が供給できれば流動性危機に対応できる。今回の東アジアの場合、外貨を遣って公共事業を起こして景気を回復するということが必要で、流動性供給のためだけにアジア版ファンドをつくるということには疑問がある。
  • 回復のための、国内対応としては、直接投資の流入すなわち外需主導型と国内の財政金融の拡大という二通りが考えられ、国際的な対応としては、過去の債務をどのようにリストラするか、もう一つは国際協力の枠組みでいかに産業資金を供給していくかがある。その際に万遍なくリーダーシップをとれる国がなく、各国が互いに距離間をもっているという場合、日本はアジアでリーダーシップをとってもよいのではないか。また、日本はコミットメントが大きく、それは情報も持っているということで、監督、ポリシーダイアログをやるインセンティブをもっている。インタレストを持っているところがイニシアチブをとることが必要で、それはグローバルなコミットメントに逆行するものではなく、むしろ補完するものである。
  • 無制限に外貨供給をするシステムをつくるということで、投機家に無駄な投機アタックをあきらめさせることが重要。IMFは拠出型なので、その役割は無理。そうなるとアジアでは日本が中心になって外貨供給の役割を果たすことが必要。そのときに円の国際化の議論がでてくる。
  • アメリカは南米の最後の貸し手であり、ロシアに対してはヨーロッパ、アジアに対しては日本がその役割を果たすことは必要。そのとき、貸し手側のモラルハザードをいかに防ぐか、それを作るシステムが無いことが重要ではないか.。
  • 途上国は常にキャッチアップし、先進国に追いつかない状態で成長していかなければならない。そういうなかで、途上国には、今どんなファンダメンタルズが重要なのか。
  • 地域的基金を、投機家に対抗しうる最後の貸し手として、無制限に外貨供給をするというのは現実的でない。また、基金を創ったとしてもスーパービションが示せるかというより大きな問題がある。もっと監視しあうというシステムがどこまで仕上げられるかにかかっている。流動性も、ただ供給されていればよいというだけでなく、資金の使い途のルールとシステムをしっかり作らなければならない。
  • 80年代のアメリカは徹底して国内の均衡を目指した。IMFはもともと各国の対外均衡の達成が目標であり、各国が自国内をそれぞれ建て直すことがコンフィデンスの回復に最も役立つ。
  • アジアは、マクロ安定化政策を保守的にやってきたし、人材育成、貯蓄なども他の途上国よりよいパフォーマンスを示してきた。それは、アジアのファンダメンタルズであり、政策決定の結果、達成されてきた。うまく機能していた政治システムのチェックアンドバランスを回復させることが、アジアにとって重要ではないか。

【2】委員報告:「ユーロが国際通貨システムと金融市場に与える影響」について

(報告のポイント)

「ユーロの誕生は、国際通貨システムや国際金融市場にどのような影響を与えるのか?」

  • 現在の国際通貨システムでは、米ドルが基軸通貨として利用され続けている。米ドルが減価するにもかかわらず利用されている背景には、国際通貨において価値貯蔵手段としての機能よりも、交換手段としての機能が重要視されているため。
  • 現在の米ドルのように、圧倒的に支配的な占有率を実現した通貨は、通貨当局が通貨成長率を高めて保有コストを格段に高めない限り基軸通貨であり続ける(慣性の存在)。さらに、米ドルがガリバー型の独占的占有率を示している現状からは、交換手段としての機能を巡る通貨間の競争は生じない。
  • 一般的に、米ドルの通貨当局が通貨発行利益を追求することは、基軸通貨の価値貯蔵手段としての機能を低下させる。特に、代替可能な基軸通貨が存在するときには、通貨発行利益を追求して同通貨を減価させると、もう一方の基軸通貨を利用するようになり、通貨発行利益が小さくなる。
  • 現在の安定的なドルを中心とする国際通貨体制を大きく変えるようなショックとしては、アメリカが二桁のインフレを起すことか、円やドイツ・マルクの利便性が急上昇し、多くの国で利用されることである。
  • EU諸国の通貨がそのまま単一通貨ユーロに置き換わると想定するだけでも、米ドルに匹敵する程のシェアをもった第二位の国際通貨となる。
  • 国際貿易の動向からは、ユーロは、地域的に欧州やアフリカ、中近東に偏りがあるものの、米ドルに匹敵する国際通貨となることが予想される。また、南北アメリカでは、米ドルが利用され続ける。アジアは、日米欧の貿易シェアが並んできていることから、ユーロの利用範囲が拡大する可能性があり、円に劣る通貨であるとはいえない。
  • 国際金融市場では、「米ドル・バイアス」が確認されているが、これは、米ドル建ての市場に厚みがあること、流動性が高いこと、そしてこれらの理由により取引費用が安いことが挙げられる。また、ユーロの登場は、債券市場における通貨別発行状況から想定すると、相乗効果などを通じて米ドル建て債券の比率を上回る可能性もある。なお、ユーロ債の金利に対しては、専門家の間でも見方が分かれている。
  • 円は、このような流れの中で、利便性に欠けた地域通貨として位置づけられるようになる可能性が高い。このことは、国際通貨の条件である交換手段としての利便性の低さと、米ドルとユーロが慣性をもっているためである。ただし、価値貯蔵手段としての機能は高い。

(コメント)

  • 国際通貨として保有されるための基準は、流動性と価値の安定との二つ。前者は、一般受容性ということでは、円もユーロも難しい。後者は、経済のパフォーマンスに関わってきて、フローとストックの両面がある。ドルの唯一の弱みは債務国米国と債権国日本という構図が当分変わりそうもないこと。円が生きる道というのはそこしかない。一般受容性は所与であるので、それを前提として如何に展開するか。日本は、フローについては、成長のポテンシャルを高める、また国際的にたくさん外国からものを買う市場になる、ということを実現すること。ストックについては、債権国を維持していくことが大前提。円が国際通貨足りうるかどうかは、狭義の流動性は税制やその他の制度改革により利用コストを低減させることで解決されるが、価値の安定が注目されることによって、広義の流動性の問題が解決されるかどうかである。
  • ヨーロッパの統合は、バラバラではアジア、アメリカ、日本に負けるというのが発想の原点。統合後のフローの成長度合は分からない。ストックの面でも大きな債権国ではない。今はユーフォリアがあって「ユーロは国際通貨になる」と言っているが、冷静に考えると、それ程可能性はないのではないか。
  • ユーロが使われるようになれば、ドルの需要が減るので、ユーロ対ドルの為替レートが変わるのではないか。ある程度大きな強い通貨、準基軸通貨が二つあったときには、二つの通貨の間で、その他の通貨の為替が不安定になるのではないか。ガリバー型の方が、安定を図るのは易しいのではないか。
  • 分析に関して、ドルの価値が下がっているのに、または、円・マルクの価値が上がっているのに、どうして円やマルクを使わないでドルを使うのか。ブレトンウッズ体制の時はドルが金とリンクしていたのでそれを使わないといけないという事情があった。しかし、ブレトンウッズ体制が崩壊してからはドルを使う必然性はないのに、それでもドルを使っている。それは価値貯蔵手段の円やマルクではなくて、交換手段として優位なドルを選択しているからである。
  • ユーロとドルのレートがどうなるかは、ユーロを発行するECD(ヨーロッパ中央銀行)の政策目標がインフレを抑制、通貨価値の安定ということであるから、価値貯蔵手段として優れたものが交換手段を持ってくるということになる。それが国際通貨システムに出てくれば、ドルは従来のような交換手段の優位性だけでは地位を保てないだろう。したがって、ユーロが出てくることによってドルの垂れ流しはストップするだろう。
  • 価値の安定したユーロがドル並みの交換手段を持ってくれば、ドルも大きなインフレは起こせなくなる。ユーロもドルも価値の安定した通貨として存在する。購買力平価で考えたような長期的な価値でいうと、「ユーロとドル」のようなシフトは起きてこないが、短期的には起きてくると考えられる。
  • また、EUが最適通貨圏であるかどうかが問題になる。EUの中で景気循環にズレがあった時、現在のスタンスでは景気の悪い国に対して通貨を大量に発行することはやらないという方針。その前提には、柔軟な国際的労働移動がある。本当にその通り行くかということは今後の問題。その意味では、そこにユーロがうまく行くかどうかがかかっている。

6.今後のスケジュール :

次回の国際マクロ経済問題研究会(第5回)は12月14日10:30~12:00に開催する予定。

なお、本議事概要は、速報のため、事後修正の可能性があります。

(連絡先)

経済企画庁総合計画局国際経済班

TEL 03-3581-0464