第3回 国民生活研究会議事概要

1.日時

 平成10年11月13日(金)10:00~12:00

2.場所

 経済企画庁官房709会議室(第4合同庁舎7階)

3.出席者

(委員)八代尚宏座長、赤池学、河野真理子、小嶌典明、須賀由紀子、高畑敬一、寺崎康博、前田正子の各委員
(事務局)中名生総合計画局長、高橋審議官、大西計画課長、佐々木計画官、塚原計画官、福島経済構造調整推進室長 他

4.議 題

 少子・高齢化社会における家計の姿について

5.審議内容

 開会、前回・前々回欠席だった委員の紹介の後、少子・高齢化社会における家計の姿について、事務局より、家計の将来予測の方法、推計結果、家計をめぐる労働の状況の順に説明。以後、討議に入った。

 委員からの主な意見は以下のとおり。

〇 将来の国民生活の姿を描く上で重要なことは、将来への不安についてどうなるかをはっきりと示すこと。労働市場、公的年金、貯蓄などについてそれぞれどうなるかの不安があり、現在の消費の縮小を招いている。問題意識を明確に示すべき。

〇 今の高齢者を見てそのまま将来の高齢者を考えてはならない。そこでコホートを用いて分析するのだが、現在と将来の高齢者の違いをよく考える必要がある。

〇 60代での男性の単身者は例外的なケース。代表的な世帯として取り上げる順序としては、まず夫婦のみの世帯(片働き・共働き)、次いで単身女性であり、その後に単身男性を取り上げるべき。また、統計調査では子どもに扶養されている高齢者が扱われておらず、これをどう考えるか。

〇 せっかくコホート分析をやりながら、肝心なところでクロスセクション・データに頼っているところがある。70歳以上の高齢者の消費についても、予測は難しいが、単に足元から実質同額で伸ばすのでなく、せめて所得との比率を用いて調整させるといった工夫は考えられないか。

〇 男女の賃金格差が次第に縮小するという仮定も必要。


〇 人々が近年の大きい環境・制度の変化から将来を不安に思っている際に、現在までの傾向をベースに仮定する分析はおかしい。最近出産退職が激減しているなど、足元の若い人の行動は明らかに変わってきている。データにとらわれず、これからどのような生活をすべきかのイメージを作って、そのためにどうするか、そうしたらどうなるかを見るようにすべき。

〇 今や自分の夫があと何年会社にいられるのか分からない時代。保険や家を買っているのは公務員のみで、一般の人々はローンに対する恐怖感が非常に強い。自分達のことを前提に考えるのはやめ、一般の人々が感じている転職や失業のリスクをきちんと考慮すべき。

〇 事務局の推計に40代以降は共働きでも妻はパートタイマーという前提があったが、子育てをしながら30代をフルタイムで乗り切った人は、40歳以降もフルタイムで働き続けるのが普通。

〇 共働き世帯について、妻がフルタイムとパートタイムの場合が一括りにされた「平均の姿」が示されているということだが、それではどのような人のことを言っているのかはっきりしなくなる。フルタイムとパートタイムをはっきり2分して示すべきではないか。


〇 今後は経済全体の成長よりも個人の生活が実質的にどうなるかということに関心が移る。自分があるライフコースをとったとき、ある年齢でどうなるのかが分かるということを基本に目指す必要がある。世代ごとの特色をできる限り追っていくことも必要。

〇 就業継続を希望する女性は40代以降も正社員を希望するのが普通になる。

〇 これからは少なくとも生涯に2.5~3回程度の転職がむしろ普通となり、退職金を60歳になって一括してもらうというのは極めて稀になる。あるいはそもそも退職金があるかどうかという問題もある。

〇 転職の合間に失業保険を受給すること、再学習のためコストをかけることが普通になっていくことなども考慮する必要がある。

〇 現在企業は、2005年対策といって、その頃までに人事の徹底した合理化を目指している。年功賃金から能率給等を基本とするように大きく変わっていき、賃金は42~43歳をピークとして、以降は大きく上がる人とそうでない人とに二分化する。1,000万人もの人が出向することになるが、出向先での給与補填はなくなり、給与は3割減となる。このような点についてデータはないかも知れないが、仮定を置いて考慮できないか。

〇 共働きには特有の「経費」がかかる。子どもの保育園への送り迎え、ベビーシッターの利用、外食や家電製品の使用パターンなどにも違いが見られ、2~3割は余計に経費がかかるという推計がある。

〇 60代に就業を継続していくとなると、数字はないが資格取得などのためやはり一定のコストがかかる。


〇 共働き世帯は、所得に対する消費の割合が片働き世帯より1~2割高いという推計もある。


〇 第1次産業従事者や自営業者がどうなるかなど、業種別に分かるようにできないか。

〇 これからは人生70年2サイクルになり、早い段階から2サイクル目の準備に取りかかるようになる。

〇 アメリカの地域教育プログラム、コミュニティ・カレッジの考え方も取り入れるべき。ケース・スタディ的に分析することも可能ではないか。


〇 自営業者とサラリーマンを分けることはできないのか。

(事務局より、統計調査では自営業者について収入のデータが得られず分析できない、と回答。)


〇 現在の派遣労働者比率は米国1.9%、日本1.4%となっているがこれは実態を正確に表していない。1日当たりの働いている派遣労働者数は、米国231万人に対し日本32万人。また、派遣労働者の全就業者に占める割合でみると、アメリカ1.8%に対し日本0.5%。日本の場合、派遣企業へ登録はしていても、一時点をとったとき実際に働いていない人が多くいる。

〇 最近は、労働者保護政策が必ずしも労働者にとって好ましいものになっていない。今後、日本の派遣労働者は数倍になる。


〇 派遣労働者比率については、米国との比較がいいのかどうかという問題もある。米国ではそもそも正社員の労働市場での移動が流動的。日本の場合終身雇用制が今後もある程度維持されるならば、米国よりも派遣労働者が入る余地は大きい。米国の数字はむしろ最低ラインと見るべき。

〇 派遣労働者の予測については、世界経済白書でも考察しているのでチェックするべき。


〇 細かいところにいろいろ問題はあるが、全般的にはよく推計できていると思う。ただし、何らかの仮定を置かないと結果がうまく出ないところがいくつかある。

〇 コホート分析では、生年による効果、年齢による効果、その時代の効果という互いに独立でない3つの効果をどう取り扱うかという難しい問題がある。ここでは所得及び消費のカーブについて、年齢による効果は全てのコホートに共通に現れること、生年による効果は定数項ダミーとして扱えること、時代による効果は賃金指数で実質化することにより取り除けること、の3つを仮定してこの問題をクリアしようとしている。しかし、所得については年齢間賃金格差が縮小しているという現実のデータがあり、これはコホート毎の賃金プロファイルの違い、並びにそれを反映した所得カーブの違いを意味するので、結局年齢による効果がコホートによって違って現れることとなり、最初の仮定の一部が崩れることになる。パラメータの置き方などについて工夫・改良する必要がある。

〇 本来的には整合的な推計結果は10年先位までしか出ない。2019年というのはかなり遠い将来で、いろいろおかしい結果が出てくる。かなり先を考えるときは注意を要する。

〇 退職金については60歳の一括支給というのは例外的になると思われ、年金化するなど仮定を変える必要がある。


〇 経済企画庁は「ゆとりのある生活・人間らしい生活」と言ってきたのに、今になって働く必要性ばかり強調するのはおかしいのではないか。生きがい、健康などを考えて、人間らしい働き方を前提とした考え方を提示し、その上でそれが経済活力の面でも効果がある、という説明の仕方をすべきではないか。

〇 保育サービスの充実はいいが、子どもの精神的な負担が大きい。預けながら働ける環境を整えるとともに、親子のふれあいも考える必要がある。小学校3~4年生くらいまで子どもと親とのふれあいは大切。親子のふれあいの時間をどうやって作っていくかの考慮はないのか。

〇 高齢になっても就業できる場の確保といっても、特に女性で一般的な事務職を続けてきた人にはなかなか場所がない。OECDの提示してきたリカレント的発想が必要。就業の合間に自己研鑽することを社会が支援する体制を整える必要がある。また、自分が住んでいる地域を学ぶ場として考えることも必要。福祉サービスなどでは、地域で生活に密着した仕事をすることを通じ自分の能力を磨いていくことも可能。


〇 女性の就業率が上がり、また労働時間が増加しても、一方でフルタイムの男性の労働時間が減少することで、共に働き共に家事をするといったゆとりのある生活が可能になる。現在の年功賃金体系の下では職場を辞めることのリスクが大きいが、賃金のフラット化によりそうしたリスクは取り払われ、リカレント型に沿った方向になるのではないか。


〇 介護休暇がどう使われ、どう生活に影響するかといったことは考えられているのか。


〇 介護保険制度によりこれからは介護の社会化が進み、家族が介護をするための介護休暇の取得というのは一時的な現象になると思う。


〇 介護休暇は専ら過渡期を乗り切るために使われていくのではないか。その点育児休暇とは異なる。


 委員からの発言が一巡したところで定刻を迎え、閉会。


6.今後のスケジュール

 次回第4回国民生活研究会は、11月27日(金)10:00~12:00に開催予定。

以上

 なお、本議事概要は、速報のため、事後修正の可能性がある。

  (連絡先)

 経済企画庁総合計画局経済構造調整推進室

(担当)福島、押田

 TEL 3581―0783(直通)