第2回 国民生活研究会議事概要

1.日時

 平成10年10月26日(月)14:00~16:00

2.場所

 経済企画庁官房708会議室(第4合同庁舎7階)

3.出席者

(委員)八代尚宏座長、赤池学、落合恵美子、河野真理子、須賀由紀子、高畑敬一、西村周三、前田正子の各委員

(事務局)大西計画課長、佐々木計画官、塚原計画官、福島経済構造調整推進室長 他

4.議題

 少子・高齢化による家計をとりまく社会システムの変化について

5.審議内容

 開会、前回(第1回)欠席だった委員の紹介の後、次回(第3回)研究会において検討する予定の家計の将来予測の前提となる「少子・高齢化による家計をとりまく社会システムの変化」について、事務局より、ケースごとの設定条件案、社会保障等関係の見通し、労働関係の見通しの順に説明。以後、討議に入った。

 委員からの主な意見は以下のとおり。


〇 2010年、2020年の暮らしを描き出すためには、現在の労働市場・社会保障問題等の争点と結びつけ、政策提起を行う必要がある。推計結果の数字だけを出しても仕方がない。年金の第三号被保険者の問題、労働分野の規制緩和などについて改革を行った場合、行わなかった場合にどういう結果になるかについて分析すると共に、改革を行うときの政策とはどういうものかを検討する必要がある。

〇 労働時間1800時間は、どのようにすれば達成できるのか。派遣労働者の比率について、単純に米国並みに高まるという議論でよいのか。他に材料がなければ仕方がないが根拠が必要。我が国の場合正規労働者を簡単に解雇できない制度が今後とも続くと思われることから、派遣労働者の活用はさらに進むのではないか。

〇 保育所の整備についても、単純に需要面から見るのではなく、施設・サービスが充実すると女性の就業が促進されさらに需要が増える可能性があるなど、それぞれの要素が互いに関係していることに注意する必要がある。

〇 日本の高齢者の就業率はすでに高水準だが、年金の給付削減や支給開始年齢の引き上げ、在職高齢者からの保険料徴収などによりさらに上昇すると思われる。こうした年金制度の変更を労働力率の説明変数に用いるべき。

〇 保育所の整備と女性の就業率、あるいは年金制度改革と高齢者の就業率というように、よい意味での相乗効果が発揮されれば、少子化、女性の社会参画、労働力不足、公的年金財政といった問題・課題に「2重の改善」をもたらすことが可能。

〇 労働市場の変化が公的年金財政に及ぼす効果については、女性の就業が増加すると長期的には受給者が増加して財政的にマイナスになるという推計がある。

〇 年金の個人化、一人一年金の必要性を検討するためにも、多様な世帯を想定すべき。多様な世帯を前提とした給付と負担の比較を行うに際しては、医療保険制度は年金よりもさらに不公平といわれる点についても検討する必要がある。つまり医療保険制度においても、公的年金の第3号被保険者制度と同様専業主婦は優遇されているが、問題にならないのか。

〇 医療と介護の代替は一対一の関係なのか。すなわち介護が膨らむ分だけ医療費は低下するのかという点について検証を行う必要がある。


〇 多様な世帯をどのように設定するかで結論は大きく変わる。給付と負担の状況や重度介護者がいる場合を考える際に、持ち家なのか、三世代同居なのか、住宅ローンはあるのかといった他の条件についても考え、数字は無理であっても方向性だけでも提示できないか。

〇 フルタイム労働、パートタイム労働、派遣労働の境界は曖昧になってくると思われる。フルタイムとパートタイムの完全平等を国策としているオランダ型のワークシェアリングが導入された場合どうなるかについて、ケース・スタディなどを基に検討してみるべき。


〇 事務局案に、今の制度を前提とする、というのがあるが、現在の健康保険や公的年金の制度がそのまま続くとは思えない。また、例えばパートタイム労働者がもっと増えてくると予想されるのに、そこから社会保険料負担を求めないということには矛盾があるように、今の制度を前提としたままでは将来の安定した姿というものは出て来ないだろう。予想の一つの仕方は今の制度のままのとき2020年にどうなるかというものかもしれないが、もう一つ2020年にこういう暮らしをしたいのなら、このように制度を変えるべきだというプレゼンテーションが必要。

〇 事務局案に、米国並みになる、という考え方が見られるが検証が必要。米国は世界標準どころかむしろ特殊な社会と見るべき。

〇 統計上保育園の定員は足りているとされているが、実情は圧倒的に供給不足である。特に最近不況の影響で女性の就業意欲が高まっていることもあり、急激に低年齢児保育の需要が増えている。過疎地では定員よりもかなり余裕がある一方、都市部を中心に著しく不足しているところがあるというように、地域バランス上も問題が生じている。そもそも福祉施設の定員が100%満たされているという状態は、急にそのサービスが必要となった人たちに対応できず、望ましくない。ニーズのある時と場所に柔軟にサービスを供給できるような方策を提言すべき。


〇 住居費について、今後企業の借り上げ住宅がどうなるかも考える必要がある。

〇 パートタイム労働者が働きに出るためには、両親に援助してもらう必要が高まっているが、保育園の受け入れ体制を支援することなどが必要。

〇 20代後半~30代半ばの育児期の女性については、フルタイムでなくともパートタイム、派遣、契約社員などの働き方を選び就業を継続することが一般化する。単に女性の労働力率のM字カーブを台形にすることが理想とは限らず、これらの間でどういう配分になるのか、あるいはどういう配分を目指すのか考えることも必要。また、これに関連して、例えば20~30代で週3日くらい働いている女性でも、本人の意識が「就労」であれば、正規労働として捉えるべき。

〇 労働時間の概念そのものが変化している。従来は決まった拘束時間として捉えられてきたが、裁量労働が広がると、例えばどこかへ出かける途中歩きながら携帯電話で仕事の打合せをするというように、時間をダブルで使用する「ながら労働」が進む。これにより労働時間はむしろ増え、なおかつプライベートの時間も増える可能性がある。

〇 夫婦はシングルインカムからダブルインカムに変化してきたが、今後は一人でダブルインカムも考えられる。裁量労働が進む裏にはテレワークの発達などがあり、一人が一社のみで就業するという働き方に変化が起きてくる可能性がある。企業の方でも、いざというときに従業員が転職しやすい方が都合がよいことから、他社への就業を禁じてきた就業規則を見直す動きがある。

〇 派遣労働については、正社員の置き換えとして今後ますます増加する。

〇 妻が経営している学習塾に、夫が会社を辞めて参画するなど、企業に頼らない中高年が増えており、自営業は今後増加する可能性が高い。個人事業・個人起業というライフコース・キャリアコースを選ぶときにはこういう投資が必要、ということを示すと将来の展望にふさわしい。自営や個人で働く人が増えると、これまでの法人対法人の関係から、個人対法人、個人対個人という関係が重要になる。個人として働くベビーシッターや介護者など、働く人のサポートとなっている事実の一方で、所得の把握などが難しく公的負担をどう求めていくかが問題になる。統計上の労働力率も実態ほどには上がらない可能性がある。


〇 生計費を年金に頼りつつ、ボランティアを通じて社会参加と生きがいを求める高齢者が増えている。また、年金の支給開始年齢引き上げが進むと、大企業を中心に嘱託などの方法で65歳、場合によっては70歳まで働くという道も出てくるので、高齢者の労働市場への参加はさらに高まるだろう。

〇 高齢者が亡くなるまで就業可能な場が多い地域ほど医療費が少ない、という報告がなされている。将来のケースとして、高齢者の就業が進み、寝たきりや痴呆が減って医療費、介護費が抑制されるという意欲的なケースを示してはどうか。これを基に「新しい高齢者像」が描けるのではないか。

〇 介護ヘルパーについては、負担あって介護なしという状態にならないためには100万人必要であるという指摘もあり、少なくとも50~60万人が必要。その場合の負担は、介護保険制度の額では収まらない。このことからも新しい高齢者像をつくり出すことが必要。


〇 3世代同居は、保育の担い手が確保されるなどの点からも評価されるべき。住居費については、耐久性の高い高品質の住宅が増加することも考慮する必要がある。環境や食の安全性への意識が高まっているときに一次産業を縮小的に考えるべきでない。数字に現れにくい部分を最後の考察で指摘する必要がある。


〇 介護費は80歳以上で大きく増える。人口構成の推計から考えると、介護に係る費用は、2010年から2020年までに増加する額の方が、2000年から2010年までに増加する額よりも大きくなる。

〇 介護と医療の代替については、療養型病床群の介護保険への振替により医療保険からの拠出がかなり削減される可能性がある。また、今60歳の人の医療に対する考え方と、今30歳の人の30年後の医療に対する考え方はかなり異なる。30年後の方が介護による医療の代替が大きく進んでいるのではないか。2010~2020年くらいになると、本当の意味での在宅介護が増加している可能性がある。

〇 医療費と雇用との関係については、例えば働いている高齢者の割合と医療費との関係について、都道府県ごとのデータから回帰分析などを行ってみてはどうか。


〇 何年後にはこういう暮らしをしている可能性が何%ですというように、人口学的な予測も加えた分析が必要。一人暮らしになる可能性、家を持っている可能性など、読んだ人が自分の将来がどうなるか分かるような分析を行うべき。

〇 政策の争点について、公的年金以外についても、政策決定と将来予想の関係を明瞭に出すべき。

〇 労働力率も、人数ではなく労働時間を基準に、例えば余暇・労働時間比率などに基づいて求めるなど、もうひと工夫してもよいのではないか。

〇 3世代同居を推す意見があるが、育児期の女性についての調査によれば、3世代同居では親が育児に口を出してくるという悩みが第一位になっている。老人の自殺率も子供との同居世帯で高く、子供に遠慮してしまう傾向があるようだ。親子が独立して生活し、時々協力するという形が暮らしやすいのではないか。


〇 子供の教育費や生涯学習など教育費はこれからどうなるのか知りたい。

〇 個性と楽しみのあるゆとり空間としての居住空間を求める傾向があり、こうした質的な問題も考えるべき。

〇 小学校低学年の保育、学童保育の問題も考えるべき。小学校に入った途端に17時までしか見てもらえなくなる。

〇 世の中の議論が子育て期にも女性がいかにして仕事を続けるかということに傾きすぎている。子供が小さいうちは子育てに専念し、ある程度経ってから再度職業に復帰するというライフスタイルも大切にするべき。


〇 現在男性の最大の関心事は、60歳になって退職金をもらえるのか、そのときまで自分が今の会社にいられるのか、そもそもそのときまで会社が存続しているのかということ。今では普通ではない働き方、一歩外れた選択も、今後一般的になる可能性がある、という点から考察を行う必要がある。ライフコースとキャリアコースをどう選択していくか、それに伴ってどのようなリスクがあるかについてシミュレーションを行っているので参考にしてほしい。


〇 医療保険の想定は事務局案でよいと思うが、純粋に負担面から見た医療費の世帯単位の比較を行うべきではないか。年金についてと同様、医療保険も個人単位にすべきという議論がある。医療保険が個人単位になると、介護保険も連動して個人単位になる。これらを個人単位化したときに負担面での公平性はどうなるかについての比較も考える必要がある。


〇 3世代世帯では、核家族世帯と比べ、子供の育児期に女性の就労率が高いが、親が75歳を超えるとその介護を行うためか比率が逆転する。3世代世帯では介護給付が受け取れないとなると、3世代世帯が増えるかどうか疑問。


〇 同居については、家計を一つにしてプライバシーもないという古い同居の形と、家計を別にして互いのプライバシーも守るという新しい同居の形とがある。後者は国民生活基礎調査で「準同居」として扱われているが、今後前者が減って後者が増えてくると思われる。こうした辺りがどうなるかについても考察に盛り込んでもらいたい。


 委員からの発言が一巡したところで定刻を迎え、閉会。

6.今後のスケジュール

 次回第3回国民生活研究会は、11月13日(金)10:00~12:00に開催予定。

以上

 なお、本議事概要は、速報のため、事後修正の可能性がある。

  (連絡先)

 経済企画庁総合計画局経済構造調整推進室

(担当)福島、押田

 TEL 3581―0783(直通)