NPO(民間非営利組織)ワーキング・グループ報告書のポイント

平成10年5月13日

基本的考え方

NPO(民間非営利組織)は、市民の自主的な参加活動を基本とする新しい主体として近年急速に発展してきている。既存の各経済主体が現在果たしきれなくなってきている問題も、NPOという新しい主体の役割を加えることによって解決策を見出すことも可能になってきている。

本報告書は、経済社会における新しい主体であるNPOについて、これからの経済社会システムにおける役割及び政府、企業、個人といった経済主体との関係を検討することにより、新しい経済社会システムのあり方を探ろうとするものである。

1.我が国のNPO

我が国のNPOは、1980年代以降、特に95年の阪神・淡路大震災以降活動が活発化した。その規模は90年時点で総雇用者数の2.5%を占め、GDPの3.2%に相当する。

我が国のNPOは、1980年代に、行政の肥大化・非効率化、企業の国際競争力の低下、企業行動に対する批判、高齢化問題、地域コミュニティの衰退といった経済社会状況の変化を背景に、地域住民が福祉、まちづくり、環境といった身近な暮らしの課題を自発的に解決していく活動の中から発展してきた。

我が国のNPOは、総雇用者数の約2.5%(140万人)を占め、その運営費の支出額はGDPの3.2%(950億米ドル)に相当する(1990年)。国際的にみても民間非営利セクターは各国経済の中では無視しえない存在となっているが、我が国でも、特に95年1月の阪神・淡路大震災でNPOの活動は脚光を浴びて以来、急速に発展してきている。

2.NPOの特徴的な機能

個人の自発的社会参加によって生まれたNPOは、そのネットワークによって社会的協力関係を生み出し、また、それぞれの異なる価値観に応じて公共的活動を行う。さらに、公共サービスの提供においては、需要者と供給者の二重の機能を有し、国民のニーズに的確に対応できる。

NPOは、自らが社会を構築していこうとする個人の自発的社会参加が結びつくことによって誕生したものである。

NPOは、そうした個人の自発的な動きによって作られるネットワークによって相互の信頼感を作り出し、社会的協力関係を生み出す。

また、NPOはそれぞれの異なる価値観に応じて公共的サービスを提供する。このことから多くの異なる価値観(プルラリズム)を持った国民を広く包含し、多様な公共性を生み出す。

さらに、NPOは、国民の需要の代弁者としての機能と公共サービスを供給する機能という二重の機能を有しており、需要者の立場に立ったサービスの提供が可能であるなど、国民のニーズに的確に対応できるだけの感応度を持つことができる。

3.NPOに期待される役割

NPOは、政府、企業、個人といった既存の経済社会の枠組みの中では解決が困難な問題について、NPOという新しい主体を加えることによって解決策を見い出すことを可能にする。現在の政府や企業が主導するシステムを21世紀に対応できるシステムに変革し、経済社会を活性化するためには、NPOを他部門から独立した第三のセクターとして認知し、NPOという社会的装置を経済社会システムの中に組み込んでいくことが重要である。

(政府との連携)

NPOには、政府が汲み取りきれない国民の声を代弁し政府に提言できるシンクタンク機能、公共サービスの提供及び国際関係における協力関係(NGO活動)が期待される。

日本では民間のシンクタンクからの政策的提言が少なく、政策の選択の幅が狭い。政策立案能力の多様化を図る観点から、政府に提言できるシンクタンク機能がNPOに期待される。

また、NPOには政府や企業が効率的に供給できない教育、福祉、医療などの公共サービスを供給する役割が期待される。

さらに、国際関係の面では、環境問題など地球規模の問題に、NGOが国益に直接関係しない地球市民の視点から政府間の意思決定に影響を与えるなど、政府との協力関係が期待される。

(企業とNPO)

NPOには地域社会を振興し、ビジネスインフラを整備し、企業活動をモニターするといった役割が期待される。

企業はNPOに寄付をしたり社員を派遣するなど、地域社会の一員としてNPOと関係を持ちながら、地域社会の振興に寄与することが期待される。教育水準や居住環境の向上など、企業の立地する地域社会が良くなれば、企業には優秀な人材が集まり企業は発展する。企業がNPOを通じて地域社会に貢献することは、長い目で見れば企業の利益にもつながる。

また、情報産業などでは、各企業がNPOに人材や資金等の提供を行うことによって共通の技術を開発し、その成果を無料で提供することによってその技術が国際標準化して企業の収益性の向上や産業発展に貢献している。

さらに、企業活動を監視する機能や、消費者の評価や判断などを企業にフィードバックする機能が期待される。

(個人のライフスタイルとNPO)

NPOは個人の能力発揮の場、雇用機会の提供、能力開発の場として期待される。

NPOの活動は、退職後やアフターファイブの生活における能力発揮や社会参加の場の選択肢の一つにもなり、個人のライフスタイルの多様化に応える。

また、NPOはそれ自身雇用機会を提供することが期待されている。特に、女性や高齢者、障害者など、これまで労働市場から排除されがちであった人たちに対して新しい働く場を提供することが期待される。

さらに、NPOの活動を通じたリーダーシップやマネジメント能力の育成といった能力開発の場としても期待できる。

(労働組合、共済組織及び地縁組織とNPO)

NPOは労働組合、共済組織、地縁組織の活性化に資する。

近年、労働組合員のニーズや生きがいは職場の中だけでは完結せず、地域や社会にも広がってきている。一方、そうした多様なニーズを持った組合員が参加したくなるような労働組合は少なかった。労働組合は資金力や情報力といったその特性を生かしたNPOとの新たな連携の枠組みが求められている。

共済組織である消費生活協同組合は、主婦を中心としたコミュニティ活動を行ってきたが、コンビニエンス・ストアの出現や女性の社会進出などにより、活動する組合員が減少してきた。今後は、豊富な地域情報力という特性を活かし、いかに地域のNPOと連携してその活動を活性化していくかが課題である。

経済成長に伴う都市化や情報化の流れの中で、人々は自治会や町内会といった地縁組織から離れていった。個人の地域における生活を守る拠り所として、何らかの形で住民を結び付けていくコミュニティが求められている。コミュニティの形成には、地縁組織とNPOの両者がそれぞれの持ち味を生かして協調していくことが望ましい。

4.健全な発展のための環境整備のあり方

(「特定非営利活動促進法」の制定)

本年3月、福祉、環境、災害救援、国際協力など一定の非営利活動を行う団体に対して簡易、迅速な手続きにより法人格を付与し、その円滑な活動を促進するために、「特定非営利活動促進法」が制定された。

民間非営利団体の活動に法人格を与える従来の制度では、法人格の取得には相当の時間と煩雑な手続きを要した。この法律の成立により、最前線で活動している団体の多くは法人格を得、契約行為など様々な面で法律上の活動が可能となった。

この法律では、団体に対する政府の監督を必要最小限度に止め、その活動の是非は団体情報の開示による国民の判断に委ねることとしている。今後、団体側には情報公開に耐え得る管理運営の体制を作り、国民に対して活動の透明性を担保した上で社会に役立つ活動の実績を上げていくことが求められる。一方、都道府県をはじめとする所轄庁には、法の円滑な施行に向けて、関係者への十分な周知や、条例の制定など万全の準備を行うことが求められる。

提言1 活動評価のためのシステムと情報公開

国民の支持するNPOには寄付やボランティアが集まり、評価されないNPOは消えていくという選択がなされるシステムが形成されていくことが期待される。そのためには、NPOが国民からみて「顔の見える」存在となることが必要であり、国民の評価を可能にするような情報公開の推進が求められる。

情報公開により、NPO相互が競争する環境が整えられ、NPOが自らの活動には自らが責任を負うという仕組みになることにより、資金や人材の投入を通じて国民の価値観の多様性をNPOセクターに反映させることにもなる。さらに、NPOに不適切な行動があった場合に、政府の規制強化に訴えることなく、NPOや国民自身の手により問題の解決を図ることが可能となる。

提言2 財政基盤の強化

NPOが財政基盤を強化するため、寄付金の控除など税制上の措置の検討が重要である。

我が国では、NPOの資金源に民間寄付金が占める割合は1%と、諸外国の10%に比べて少ない。NPOに対する寄付金の控除による方法は、税金を納めて公共サービスを一括して政府に任せるのではなく、国民各自が評価するNPOを選択して財源を振り分けサービスを提供させることができるというメリットがある。NPOに広く税制上の優遇措置が認められるためには、NPO自体が切磋琢磨し、活動の有益性や透明性を高め、国民の信頼を確立していくことが期待される。

提言3 人材の交流・確保・育成

政府、企業、大学によるNPOとの間の往復可能な人材移動システムを構築し、NPOで働く者のための雇用市場を整備し、大学におけるNPOの人材の育成を図る。

現在は企業や政府に人材が集中しNPOには不足しているが、この原因の一つに我が国の非流動的な雇用システムがある。各セクターがNPOに人材を出す場合は元のポストに復帰できるようにするなど、NPOと各セクターの間を自由に往復できるようにすることがNPOに人材を供給する最も有効な方法である。

また、ボランティアなども含めNPOで働く者のための雇用環境を整備し、人材募集情報の提供など活動の機会を提供することも重要である。

加えて、NPOのマネジメント能力を有する実務家を育成していくために、大学等がNPO教育を充実していくことが期待されるほか、NPOや実務家の世界的な交流の促進による情報交換やレベルアップも重要である。

提言4 事業体、シンクタンク機能、ネットワークの三位一体の推進

NPOの発展のためには、事業体としてのマネジメント、提言可能なシンクタンク機能、これらを強化するネットワークの拡充を一体として推進していくことが重要である。政府としても、行政情報の提供やNPOの人材育成事業等への支援を拡充することが求められる。

我が国のNPOは欧米と比べ、財政、組織やマネジメント、専門性を備えた人材の育成、情報、シンクタンク機能、活動評価など多くの面で活動基盤が弱体である。NPOサポートセンターは、マネジメントの支援、人材育成やネットワークの形成をはじめとするNPOの基盤作りを行っており、政府がこのようなサポートセンターに対して支援を行うことが求められる。


経済審議会経済主体役割部会
NPO(民間非営利組織)ワーキング・グループ委員名簿

氏名              現職
座長   本間 正明     大阪大学経済学部長
経済審議会経済主体役割部会委員
大谷 強      関西学院大学経済学部教授
金川 幸司     (財)21世紀ひようご創造協会
地域政策研究所主任研究員
出口 正之     総合研究大学院大学教育研究交流センター教授
星野 昌子     日本国際ボランティアセンター特別顧問
経済審議会経済主体役割部会委員
松岡 紀雄     神奈川大学経営学部教授
山岸 秀雄     (株)第一総合研究所代表取締役