「構造改革のための経済社会計画-活力ある経済・安心できるくらし-」の推進状況と今後の課題-平成9年度経済審議会報告-
平成9年12月
目次
- はじめに
- 第1章 内外経済情勢の展開
- 第1節 現行経済計画策定後の国際経済情勢
- 第2節 我が国経済の現況
- 第2章 構造改革への取り組み状況
- 第1節 「6つの改革」の推進
- 第2節 経済構造改革に向けての取り組み
- 第3節 経済構造改革の進捗状況
- 第4節 財政構造改革への取り組みと社会資本整備
- 第3章 今後の経済運営に当たって
- 第1節 構造改革と今後の我が国経済の姿
- 第2節 今後の政策課題
- 第3節 地球温暖化問題をはじめとする地球環境問題への対応
- むすび
- (別紙)高コスト構造是正・活性化の進展状況
平成7年12月に閣議決定された現行経済計画「構造改革のための経済社会計画-活力ある経済・安心できるくらし-」(以下、現行経済計画)においては、「毎年、経済審議会は、内外経済情勢及び施策の実施状況を点検し、毎年度の経済運営との連携を図りつつ、その後の政策運営の方向につき政府に報告する」こととしている。これに基づき、経済審議会においては、昨年度に引き続き、現行経済計画の進捗状況と今後の課題についてとりまとめ、ここに報告する。
本報告においては、現行経済計画策定後の内外経済情勢の展開に留意しつつ、政府において「6つの改革」が最重要課題として一体的に推進されていることを踏まえ、特に、経済構造改革及び財政構造改革への取り組み状況を中心に現行経済計画の推進状況を整理・点検しており、さらに今後の中長期的な経済運営に当たって取り組むべき課題を提言している。
現行経済計画策定後の世界経済の動向を概観すると、まず、アメリカ経済については1991年以降の拡大局面が7年目に入っているが、長期にわたる景気拡大にもかかわらず、インフレの兆候は今のところ現れていない。欧州経済については、通貨統合を目前にする中で、失業率が依然高止まりしている国はあるものの、1996年後半から緩やかに改善していた景気は、1997年にはイギリスを中心に回復している。他方、1980年代半ば以降ほぼ10年にわたって世界経済の成長のリード役となってきた東アジア経済は、このところ調整局面をむかえている。1996年にはアジアNIEsやASEANの輸出が相次いで鈍化し、成長率がおしなべて低下することとなった他、1997年央以降は、いくつかの国で金融面での不安や通貨の急激な減価などの厳しい調整を迫られており、景気の先行きに懸念がもたれている国もある。こうした東アジア経済の動向は、同地域向けの我が国の輸出を抑制する他、同地域に進出している日系企業の業績悪化や債務負担の増加を通じて、我が国経済にも影響を及ぼす懸念がある。
こうした中で、我が国経済のグローバリゼーションの動きは、大きな潮流として引き続き進展している。現行経済計画策定時の円高はそれ以降修正されているものの、我が国製造業の生産拠点の海外シフトは依然として継続しており、この結果、企業の多国籍化、国境を越えた企業内取引の拡大が進展している。また、貿易の中で、同一産業の製品が双方向に取引される割合が高まっていることは、製品内での差別化が進んでいることを示唆している。こうした構造的な変化はグローバリゼーションの潮流の現われである。また、世界の金融・資本市場が益々グローバル化する中で、世界の投資家は各国の経済政策を含めたファンダメンタルズに一層着目するようになっている。このため各国政府は国際的な協調の下、適切な為替・金融政策、財政規律の確保等の適切な経済運営を図ることが益々求められるようになっている。
このようなグローバリゼーションの潮流の中、我が国は規制緩和をはじめとする経済構造改革に積極的に取り組んでいくことを通じて、魅力ある市場を国内外に提供することによって、我が国経済の活性化を図っていくことが必要である。これはまた、我が国のみならず世界経済の持続的な発展にも寄与するものと考えられる。
(現行経済計画策定後の経済成長の動向)
現行経済計画策定後の我が国経済の実質経済成長率を振り返ってみると、平成8年度には 3.2%と、現行経済計画で掲げた年平均3%程度にほぼ沿ったものとなったが、本年4-6月期には前年同期比0.1%(季節調整済前期比マイナス2.8%)、7-9月期には前年同期比 1.0%(季節調整済前期比 0.8%)と成長率の低下がみられた。これは、消費税率引上げ(本年4月)に伴う駆け込み需要の反動によるところが大きいが、7月以降もその影響が残っており、景気はこのところ足踏み状態にある。このため、本年度の実質経済成長率は政府見通しの 1.9%程度を達成するのは困難な状況にある。
こうした背景としては、平成8年度半ば頃から我が国経済には自律的拡大の好循環が動きはじめたものの、1)本年4月の消費税率引上げに伴う駆け込み需要とその反動が個人消費や住宅建設について予想以上に大きかったため、4-6月期に生じたその反動局面で、企業の在庫がやや積み上がったこと、2)消費税率引上げ、本年9月からの医療費の自己負担の引上げ等といった財政面からの国民の負担増が個人消費に抑制的に働いたと考えられること等があげられる。
さらに、こうした状況の中、景気に従来のような力強さが感じられない基本的な原因としては、我が国経済の構造的問題が大きい。現行経済計画で指摘したように、グローバリゼーションの進展、高次な成熟経済社会への転換、少子・高齢社会への移行、情報通信の高度化といった潮流変化に我が国の経済社会構造がうまく対応できていないため、我が国経済の先行き不透明感が依然として払拭されておらず、それが消費者や企業にとり、需要等を抑制するマインドを働かせている。また、バブルの後遺症である深刻な不良債権問題等により、複数の金融機関の経営破綻が起こっている。こうした金融面でのリスクは、我が国経済の回復の足かせとなっており、金融システムの安定を維持することが喫緊の最優先課題である。
(雇用、物価、対外収支、財政の状況)
こうした中で、雇用情勢は、雇用者数の伸びが鈍化し、完全失業率が高い水準で推移するなど厳しい状況にある。物価は、卸売物価、消費者物価ともに引き続き安定的に推移している。物価の安定基調の背景には、流通経路の短縮化を通じた流通効率化、規制緩和の進展に伴う企業間競争の促進など、我が国経済の構造改革の進展等もあると考えられる。経常収支黒字は、平成7年度以降の円安の数量効果、原油価格の下落等から、本年度にはある程度の拡大は生じるものと見込まれる。また、財政の状況をみると、本年度末の国と地方を合わせた長期債務残高が 476兆円にも上り、国際的にみても主要先進国中最悪の状況に立ち至っている。
以上のような現行経済計画策定後の内外経済情勢の展開を踏まえると、今後、現行経済計画で想定した経済の姿を実現していくためには、金融面でのリスクや真の弱者への対応に配慮しつつ、構造改革への取り組みを一層強力に押し進めていくことが必要である。以下では、第2章において現行経済計画策定後の構造改革への取り組み状況につき、各種の施策の進捗状況と今後の課題についてまとめた上で、第3章において今後の我が国経済の中期的な姿を展望し、今後の中長期的な経済運営に当たっての政策課題について述べる。
現在、行政、財政、経済、社会保障、金融システム、教育の「6つの改革」が内閣の最重要課題として一体的に推進されているところである。「6つの改革」は、大競争時代の到来、少子・高齢化の急速な進展など内外の環境変化の中で、我が国の活力ある発展を妨げている現在の仕組みを変革し、世界の潮流を先取りする新しい経済社会システムを創造することにより、活力ある21世紀を目指すものであり、その基本理念においては、現行経済計画と軌を一にするものである。
また、現行経済計画の中では、「6つの改革」それぞれの基本的方向についても、一定の言及がなされており、現行経済計画の目指す経済社会全般にわたる構造改革は、「6つの改革」の一体的な推進を通じて、より一層強力に推し進められるものであるといえる。
以下の節においては、特に経済構造改革に焦点をあてて、それに向けた取り組み及びその進捗状況について整理するとともに、併せて財政構造改革への取り組みについて述べることとする。
経済審議会においては、平成8年7月より、特に経済効果が高く、急を要する状況にある、高度情報通信、物流、金融、土地・住宅、雇用・労働、医療・福祉の6つの分野における抜本的な構造改革推進策について審議を行い、同年12月に「6分野の経済構造改革」として内閣総理大臣に建議を行った。行政改革委員会等における審議・報告に加え、同建議も、その後の規制緩和をはじめとする経済構造改革の推進に資するものであり、現在その提言の多くについて具体的な進捗がみられる。
経済構造改革に向けた政府全体の取り組みとしては、平成8年12月に経済構造改革推進の基本的方針及び直ちに実現に着手すべき施策をとりまとめた「経済構造の変革と創造のためのプログラム」が閣議決定された。さらに、本年5月には、同プログラムに掲げられた諸施策について、タイムスケジュールの明確化等の具体化を行った「経済構造の変革と創造のための行動計画」が閣議決定された。
また、経済構造改革の重要な柱の一つである規制の撤廃、緩和について、本年3月に「規制緩和推進計画(平成7年3月閣議決定)」の2度目の改定が行われ、新規 890事項を含む総計2823事項が盛り込まれた。
さらに、本年11月には、最近の経済情勢を踏まえ、21世紀を展望し、我が国経済の体質改善を行うとともに、企業や消費者の経済の先行きに対する不透明感を払拭し、我が国経済の回復基調を確実で力強いものとするため、情報通信、福祉・医療、雇用・労働、金融、物流・運輸等の分野における規制緩和を中心とした経済構造改革、土地の取引活性化・有効活用等を柱とする「21世紀を切りひらく緊急経済対策」がとりまとめられたところである。
上記のような様々な取り組みの下に、経済構造改革のための諸施策には一定の進展がみられている。以下では、現行経済計画における「高コスト構造是正・活性化のための行動計画」で対象とした主な分野を以下の1)~7)に再整理するとともに、その他特に進展がみられた分野として8)~10)を加え、それぞれの分野別に、規制緩和を中心とした経済構造改革の諸施策の進捗状況と今後の課題についてまとめることとする。
また、「高コスト構造是正・活性化のための行動計画」における点検指標に沿った現在までの高コスト構造是正・活性化の状況は別紙のとおりである。
1) 運輸
平成8年12月に運輸省より「今後の運輸行政における需給調整の取扱について」が発表され、人流・物流の全事業分野において、原則として、目標期限(おおむね3ないし5年後)を定めて需給調整規制を廃止する方針が決まった。また、本年4月には、「総合物流施策大綱」が閣議決定され、港湾、空港、高規格幹線道路、アクセス道路等の整備を通じた国際交流インフラの充実など物流に必要な社会資本の整備、規制緩和の推進、物流システムの高度化、商慣行の是正、マルチモーダル施策の推進による複合一貫輸送の実現、物流拠点の整備、積載効率の向上等の物流における諸問題を関係省庁が連携して取り組むこととなった。
個別分野についてみると、トラックの営業区域については、平成12年度までに経済ブロック単位までに段階的に拡大することとし、最低保有台数について、平成12年度までに全国一律5台となるよう段階的に引き下げていくこととするとともに、運賃・料金の届出に当たり、原価計算書の添付を不要とする範囲を拡大することとされた。さらに「21世紀を切りひらく緊急経済対策」(以下、「緊急経済対策」)において、営業区域の拡大のスケジュールの前倒しを図るとともに、トラックの運賃・料金の届出に当たり、原価計算書の添付を不要とする範囲を一層拡大(上下20%)することについて、本年度中にそのスケジュールを明確にし、必要な措置をとることとされた。
内航海運業については、船腹調整事業への依存の解消に関連して、本年6月に「内航海運組合法の一部を改正する法律」が成立し、内航運送の用に供される船舶の建造のために必要な資金の借入れに係る債務保証事業を内航海運組合等が行えることとなった。
旅客鉄道事業に係る需給調整規制について、平成11年度に廃止することとされた。また、運賃については、本年1月より、総括原価方式の下での上限価格制の導入、ヤードスティック方式の強化等を内容とする新しい旅客鉄道運賃制度を実施している。
一方、貨物鉄道事業に係る需給調整規制については、国鉄改革の枠組みの中でJR貨物の完全民営化等経営の改善が図られた段階で廃止(概ね5年後目標)することとされた。また、運賃についても需給調整規制の廃止に併せて届出制に移行することとしている。なお、本年2月に総括原価方式の下での上限価格制が導入された。
航空については、ダブル・トリプルトラック化基準を廃止し(本年4月)、複数社運行による航空会社間の競争を促進するとともに、新規航空会社の参入を積極的に推進している。さらに、「緊急経済対策」において、需給調整規制について、本年度中を目途に結論を得た上で、平成11年度までに廃止し、自由な路線設定や増減便ができる体制にするとともに、運賃制度の一層の弾力化(上限価格制など)を速やかに進めることが決定された。
タクシーの増減車の弾力化については、本年度より需給調整の基準車両数に一定割合(本年度は1割、実施状況を見ながら平成10年度以降さらに緩和)を上乗せする措置が講じられており、この結果を踏まえつつ、安全の確保、消費者保護等の措置を講じた上で遅くとも平成13年度までに需給調整規制を廃止することとされた。運賃・料金の多様化については、需給調整の廃止の検討と並行して、上限価格制を検討の上、遅くとも平成13年度までに措置することとされた。また、本年4月よりゾーン運賃制が導入されるとともに、初乗距離を短縮する運賃が認められた。
今後については、我が国経済の高コスト構造の是正とともに、多様化・高度化している運輸ニーズに対応した新たな業態・サービスが提供されるような、国際的にも魅力的な活力ある事業環境を創り出していくことが求められている。このため、需給調整規制廃止を始めとする規制緩和等の諸施策を推進することにより、効率的な事業者の新規参入・事業拡大等を通じて競争を促進し、市場を活性化していく必要がある。また、交通インフラの効率的な整備・管理運営とともに、空港発着枠の調整ルールの設定など市場メカニズムの効果を十分に発揮させるための市場環境整備が必要となる。さらに、生活路線の維持方策など市場メカニズムを補完する施策についても十分に検討を行う必要がある。
2) 流通
大店法の規制緩和については、本年3月の提出書類の簡素化に引き続き、本年度中に制度の見直しが検討されている。酒類販売免許の基準については、本年6月の中央酒類審議会答申「酒販免許制度等の在り方について」において需給調整要件のうち距離基準については、早期に廃止、人口基準については、可及的速やかに廃止する方向で、段階的な緩和を進める旨提言された。また本年4月には再販指定商品(化粧品、医薬品)の指定取り消しが行われるなどの規制緩和の動きがみられる。この他、流通取引慣行の実態調査報告書の公表等を通じた商慣行の是正、物流コストの低減に向けた実態把握調査等が実施されている。EDI等情報化推進による流通システム全体の効率化については、標準化メッセージを開発し、EDI標準契約及び運用規約が策定された。中小卸・小売業の活性化対策については、中小企業向け業務アプリケーションソフト開発事業等により、中小小売店の生産性と競争力の向上に向けての取り組みがなされている。さらに、地域活性化の視点からの流通業の活性化を図るため、地域文化等を十分考慮した21世紀型商業基盤施設整備事業が積極的に推進されている。
今後とも、引き続き、大店法の制度の見直しや酒類販売免許基準の見直し等により、競争促進を図るとともに、商慣行の是正、物流の合理化、情報化の推進等を通じた生産性の向上を推進することが必要である。
3) 電気通信
参入規制に関しては、第一種事業者の許可の基準である過剰設備防止条項等を削除することを内容とする「電気通信事業法の一部を改正する法律」が本年6月に公布された。さらに、本年11月の「緊急経済対策」において、特別第二種電気通信事業の範囲の限定及び第二種電気通信事業者に対する回線設備の保有の一部解禁について次期通常国会に所要の法律案を提出するとともに、電気通信役務の種類の簡素化を本年度中に実施することにより、参入規制の一層の緩和を図ることとされた。料金規制については、平成8年12月に携帯・自動車電話等の移動体通信の料金について認可制から届出制に移行した。さらに本年11月の「緊急経済対策」において、電気通信料金の個別認可制を原則廃止し、インセンティブ方式を導入することとし、次期通常国会に所要の法律案を提出することとされた。
NTTについては、「日本電信電話株式会社法の一部を改正する法律」が本年6月に公布され、1)NTTを持株会社の下に、東・西地域会社及び長距離会社に再編成すること、2)NTTの再編成前において子会社方式により国際通信業務への進出を可能とすることとされた。KDDについても、国内通信業務の提供を可能とすること等を内容とする「国際電信電話株式会社法の一部を改正する法律」が本年6月に公布・施行された。さらに本年11月の「緊急経済対策」において、国際電信電話株式会社法を廃止することとし、次期通常国会に法案を提出することとされた。
また、公正有効競争条件を整備し、多様な形態での相互接続を推進する観点から、接続に関する制度の充実等を内容とする「電気通信事業法の一部を改正する法律」が本年6月に公布された。さらに、外資規制に関しては、本年6月、WTO基本電気通信交渉の結果を踏まえ、第一種電気通信事業(NTT及びKDDを除く)に係る外資規制を撤廃することを内容とする「電気通信事業法及び電波法の一部を改正する法律」が公布された。
情報通信インフラの整備に関しては、本年11月の「緊急経済対策」において、光ファイバ網全国整備の2005年への前倒しに向けて、民間事業者の活力をいかし、できるだけ早期に実現できるよう努力することとされた。
なお、通信と放送の融合に関しては、「通信・放送の融合と展開を考える懇談会」を平成8年10月から開催し、検討が行われているところである。
今後は、高度情報通信社会の早期構築を目指し、情報通信の高度化に向けた環境整備として、電子商取引の本格的な普及に向けた制度的検討や、相互運用性・相互接続性の確保のための標準化の推進等が求められる。また、新規参入や料金の低廉化をより一層促進するため、規制緩和を一層進めるなど公正かつ有効な競争条件の整備を徹底することで競争を活発化していく必要がある。さらに、光ファイバや衛星通信を始めとする情報通信インフラの整備を計画的に推進すること等が求められる。
4) 金融サービス
現在、「6つの改革」の一つである金融システム改革が推進されているところであり、広範にわたる施策が進捗しているところである。このうち同改革のフロントランナーとして「外国為替及び外国貿易管理法」が本年5月に改正された。また、本年6月には証券取引審議会、金融制度調査会、保険審議会等よりそれぞれ金融システム改革に関する報告書等が提出され、1)投資家・資金調達者の選択肢の拡大、2)仲介者サービスの質の向上及び競争の促進、3)利用しやすい市場の整備、4)信頼できる公正・透明な取引の枠組み・ルールの整備を内容とする改革のプランが策定された。現在、この改革プランに沿って所要の法令の改正等制度の整備が早急に進められているところであり、また、深刻な不良債権問題等により、複数の金融機関の破綻が起こっていることから、これが金融システム全体に波及しないように万全を期すための検討が行われているところである。
今後とも、金融機関の不良債権処理を進めるなど金融システムの安定に引き続き万全を期しながら、プランの内容に沿って改革を実現すべく、具体的な措置の実施を早急に進める必要がある。また、金融関係税制については、その望ましいあり方について検討を進める必要がある。さらに金融システム改革の進展に伴い、業態にとらわれない自由な市場参入や多種多様な金融商品・サービスの提供が予想されることから、改革の進展状況を踏まえつつ、利用者の視点に立って、市場関係者に共通に適用される横断的なルールの構築(いわゆる金融サービス法)も今後中期的な課題として検討する必要がある。
5) 農業生産
効率的かつ安定的な農業経営体が生産の大宗を担う力強い農業構造の実現のため、ウルグァイ・ラウンド農業合意関連対策等が着実に実施されている。また、農業生産資材費低減に向けた肥料・農薬・農業機械の製造・流通における事務手続きの簡素化等の規制緩和の実施、さらには平成8年12月にいわゆる農協改革二法の成立による農協の事業運営の見直しがなされるなど、各般の取り組みが実施されている。
さらに、本年4月には内閣総理大臣の諮問機関として「食料・農業・農村基本問題調査会」が設置され、新たな基本法の制定を含む農政の改革について検討が進められており、年内には基本的考え方についての中間的な取りまとめがなされ、来年夏頃を目途に、具体的政策の方向について、答申がなされる予定となっている。
今後は、同基本問題調査会の検討結果を踏まえ、農政改革に向けた施策を着実に実施していく必要がある。
6) 基準・認証、輸入手続き等
本年3月に再改定された規制緩和推進計画においては、「基準・認証、輸入関連」の規制緩和措置として新規 150事項を含む合計 535事項が盛り込まれた。
また、市場開放問題苦情処理対策本部は、本年3月に市場アクセスの一層の改善に資する19項目(動植物・食品関係、医薬品・医療用具・化粧品関係等)についての対応を決定した。さらに、本年7月には、市場開放問題苦情処理推進会議により建議(本年6月)された我が国の基準・認証制度等に係る共通の課題に対する対応の基本方針を決定した。
本年10月の第9回輸入協議会においては、民間委員から対日市場アクセスの改善について、規制緩和を含めた経済構造改革の深化の重要性が指摘されるとともに、「規制緩和推進計画」終了後の政府における規制緩和推進体制の整備、基準・認証制度の抜本的な見直し、医療・福祉機器の輸入促進等の具体的な提言がなされた。
ボゴール宣言の実施のために策定された大阪行動指針に基づく行動を提示した我が国の「個別行動計画(平成8年11月APECマニラ閣僚会議において「マニラ行動計画」の一部として公表)」については、本年11月のAPECバンクーバー閣僚会議において改訂され、平成7年のAPEC大阪会合における「当初の措置」のより一層の実施状況が確認された。
今後については、現在進められている規制緩和等を着実に実施するとともに、市場開放問題苦情処理体制(OTO)の苦情処理や問題提起プロセスの実績をいかしたより積極的な市場アクセスの改善が求められる。
7) 公共工事
公共工事のコスト縮減については、「公共工事の建設費の縮減に関する行動計画」(平成6年12月建設省策定)等に基づき具体的施策が着実に進められてきた。
また、本年1月に全閣僚を構成員とする公共工事コスト縮減対策関係閣僚会議が設置され、本年4月には「公共工事コスト縮減対策に関する行動指針」が決定された。
同行動指針においては、1)計画・設計等の見直し、2)工事発注の効率化、3)工事構成要素のコスト縮減、4)工事実施段階での合理化・規制緩和等の4分野(19項目)について、広範囲かつ具体的な施策が示され、4分野における数値目標が示されている。また、平成11年度末までにこれらの施策を完了し、公共工事のコストを少なくとも10%以上縮減することを目指すこととしている。
同行動指針については、その実施状況を定期的にフォローアップし、結果を公表することとされているが、今後は、こうした取り組みを着実に進めることが重要である。
8) 土地・住宅
本年2月に、地価抑制から土地の有効利用への土地政策の転換をうたった「新総合土地政策推進要綱」が閣議決定された他、本年6月には、都市計画法及び建築基準法の一部改正により、住宅割合が一定以上の建築物に対する容積率の引上げ、日影規制の適用除外等を内容とする高層住居誘導地区が創設されるなど、良質な中高層住宅の供給促進に向けた土地の有効利用の促進策が講じられた。
また、本年11月の「緊急経済対策」において、
- 高度利用地区について、空地確保を必須の要件としない容積率割増基準を新たに設定することにより、都心商業地域の円滑な更新を図る、
- 農業振興地域等で、原則転用不許可となっている農地であっても、集落に接続するなどの要件を備えるもののほか、農村活性化土地利用構想等を活用する場合には、転用を許可する、
- 市街化調整区域において、市町村が地区計画を作成した場合には、この計画に沿った開発行為を許可する都市計画法上の特例制度の創設、集落地域整備法の積極的活用等により、郊外型住宅用の宅地造成・住宅建設を戸数の多少に関わりなく推進する、
- 国土利用計画法の届出勧告制については、(ア)原則として、事後届出に移行するなど制度の改善を行う、(イ)事後届出とした場合、利用目的に関する極めて不適切な土地取引に対しては適切な対応を行うことができることとするが、個々の取引価格については勧告等の措置は行わないこととする、(ウ)地価水準の上昇の状況に応じ、機動的に事前届出とすることができることとする、などの土地の取引活性化・有効活用のための措置等を講じることとされた。
住宅建設コストの低減については、平成8年3月に策定された「住宅建設コスト低減のための緊急重点計画」等に基づく具体的な諸施策が展開されている。
今後も引き続き、大都市の都心部を中心とした土地の有効利用や土地取引の活性化を促進するため、道路等の都市基盤施設の整備と併行して、建築規制や土地取引にかかる規制緩和を着実に推進していくとともに、住宅建設コストの低減を図ることが必要である。また、土地・住宅についての適切な評価手法や情報の整備・提供及び不動産の証券化等による資金調達手法の整備を図ることにより、中古住宅市場を含めた不動産市場をより自由で透明な市場として整備・拡充することが必要である。
9)雇用・労働
裁量労働制の対象業務の拡大については、対象業務の一部拡大等が本年4月から施行され、さらに、現在、対象業務の大幅拡大についての検討が行われている。また、「女子保護規定」の解消については、「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等のための労働省関係法律の整備に関する法律」が本年6月に成立し、募集・採用、配置・昇進について女性に対する差別の禁止等を内容とする「雇用分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律」の改正と併せて、女性に対する時間外・休日労働、深夜業の労働基準法の規制は解消されることとなった。
労働力需給調整機能の強化に関しては、有料職業紹介事業の取扱職業の範囲のネガティブリスト化等が本年4月から施行された。加えて、本年11月の「緊急経済対策」において、さらなる取扱職業の拡大等について、本年度中に検討を開始することとされた。また、労働者派遣事業については、本年11月の「緊急経済対策」において、対象業務のネガティブリスト化、派遣期間、労働者保護のための措置等を中心に、制度の全般的な見直しを進め、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」の一部改正法案を次期通常国会に提出することとされた。
労働者の自発的な職業能力開発に対する支援に関しては、事業主に対する助成の実施を含む「職業能力開発促進法」等の改正法が本年4月に成立した。また、ホワイトカラーの専門的能力の習得や評価システムの構築に資するビジネス・キャリア制度の対象職務分野の拡充等が行われた。
今後も引き続き、労働時間制度等の弾力化について、現在行われている中央労働基準審議会における見直しの作業を精力的に進めていくことが求められる。また、労働力供給の拡大に資する所得税制、公的年金制度等の見直しについては、制度全体の検討の中で多様な選択肢を視野に置いて、議論を進めていくことが求められる。さらに、労働者の自発的な職業能力開発等に対するさらなる支援策のあり方について検討を進めるとともに、職業能力評価制度のあり方の検討等を行うことが求められる。
10)医療・福祉
限られた医療資源を効率的に活用するという観点から、医療費の無駄や非効率については徹底的に排除するような措置を講じつつ、将来の若い世代の負担が過重とならないよう、診療報酬体系、薬価基準制度の見直し、医療提供体制の改革、老人保健制度の見直し等について抜本的な改革が検討されている。介護については、介護を医療保険から切り離し社会的入院の解消を図る条件を整備するため、また、民間事業者を含む多様な事業主体の参入を促進することにより効率的なサービスを提供する仕組みを確立するため、介護保険制度の創設に関連する法律案が国会に提出され、本年12月に成立したところである。この他、福祉サービスに市場メカニズムを最大限機能させる観点から、本年3月に再改定された規制緩和推進計画に基づき、在宅介護支援センターや在宅入浴サービスに係る規制の緩和について検討することとされている。さらに、本年11月の「緊急経済対策」において、平成9年度内に市町村が民間企業に対して日帰り介護(デイサービス)事業、短期入所生活介護(ショートステイ)事業を委託することを可能とするほか、介護保険サービスの実施に当たり、有料老人ホームに対する特定施設入所者生活介護の給付の実施や、介護サービスの利用手続及び支払方法の多様化を検討することなどが決定された。
今後は、国民経済と調和のとれた制度の構築を目指して、介護等の必要な需要に対応しつつ、主に年金・医療について効率化、給付と負担の適正化を図ることが必要である。
(財政構造改革への取組み)
現在の我が国財政の危機的状況を踏まえ、政府は平成8年12月に、21世紀初頭に向けての、国及び地方の財政健全化目標、国の一般会計の健全化目標、財政健全化の方策を内容とする「財政健全化目標について」を閣議決定した。また、政府は本年度を財政構造改革元年と位置づけ、一般歳出の伸びを1.5%の低い水準に抑え、国債費を除く歳出を租税等の範囲内に抑制した本年度予算を編成した(本年3月成立)。
さらに、本年1月、歳出の改革と縮減の具体的方策について政府・与党が一体となって検討を進める場として、内閣総理大臣を議長とする財政構造改革会議が設置された。同会議での検討結果をもとに、政府は本年6月に「財政構造改革の推進について」を閣議決定した。これは、当面の目標として、平成15年度までに国及び地方の財政赤字対GDP比を3%以下とし、特例公債依存からの脱却を目指すこと等を掲げ、その上で、今世紀中の3年間を集中改革期間と定め、その期間中は「一切の聖域なし」で歳出の改革と縮減を進めることを決定するとともに、個別の主要な経費ごとに具体的な予算の削減・抑制の目標を定めるなど、強力かつ明確な方向性を打ち出したものである。また、財政構造改革への取組みをより確かなものにするため作成された「財政構造改革の推進に関する特別措置法」が本年11月に成立した。
このように財政構造改革については、現行経済計画策定後にその具体化が進められている。今後は、これらの方策を各年度の予算編成等において現実のものとしていくことが重要である。財政構造改革は短期的には痛みを伴うものの、中長期的には国民負担率の上昇を抑えることや公的部門の簡素合理化等により経済の活性化に資するものであり、今後とも規制緩和等の経済構造改革とあわせて着実に推進していく必要がある。
(今後の社会資本整備の在り方-公共投資基本計画の改定等-)
「財政構造改革の推進について」では、公共投資基本計画については、「計画期間を3年間延長することとし、これにより600兆円ベースでみて10年間で470兆円程度へと投資規模の実質的縮減を図るとともに、策定後の諸情勢の変化等を踏まえ、内容の見直しを行う」こととされた。これを受け、同計画の改定が行われ、本年6月に閣議了解された。
今回の改定では、計画期間を3年間延長したほか、直接的に国民生活の質の向上に結びつく生活関連の社会資本への配分重点化を図る等の現計画の基本的考え方は維持しつつ、財政構造改革の集中改革期間中の公共事業予算の配分に当たり、経済構造改革関連の社会資本(高規格幹線道路等、拠点空港、中枢・中核港湾、市街地整備等)について、物流の効率化対策に資するものを中心として優先的、重点的に整備することとしている。また、社会資本整備を効果的かつ効率的に行うため、公共工事のコスト縮減について、本年度以降3年間で諸施策を実施し少なくとも10%以上の縮減を目指すこととしている「公共工事コスト縮減対策に関する行動指針」を踏まえ諸施策を早急に実施すること、費用対効果分析の活用による効率的な整備の推進とチェック機能の強化を図ること、等の事項を新たに追加した。
行財政改革の推進が急務とされる中で、今後も必要な社会資本の整備を着実に進めていくためには、公共投資の効率化・透明化に向け、公共投資基本計画に盛り込まれた取組みを着実に実施していくことが求められる。また、国と地方の役割分担を明確化する観点から、特に住民に身近な生活関連の社会資本については地方の判断により、地域ニーズを踏まえた効率的な整備を進めるべきである。さらに今後、官民の適切な役割分担の視点に照らし、諸外国の事例を参考にしつつ、民間活力の活用のための新たな方法について検討を進める必要がある。
(社会資本の整備目標)
現行経済計画では、利用者の視点に立った社会資本の整備目標として26項目(32目標)を掲げているが、その進捗状況は別表の通りである。
我が国の実質経済成長率は、平成8年度に3.2%になった後、本年度には政府見通しの1.9%程度を達成するのは困難な状況にある。現時点において現行経済計画策定後の「6つの改革」の進展や諸条件の変化を考慮し、改めて我が国経済の中期的な姿を展望すれば、平成15年度を目標年度とする財政構造改革は、特に来年度以降3年間の「集中改革期間」において、公共投資削減等による需要抑制効果を持つことから、ある程度の成長率の引き下げ要因となることは避けがたい。現行経済計画で想定した実質3%程度の成長経路を中期的に実現するため、今後、経済構造改革等の必要な諸施策を遅滞なく実施することが求められる。
(成長軌道回復へ向けての政策課題)
現下の我が国の経済情勢を踏まえ、今後、現行経済計画で想定した年平均実質3%程度の成長軌道への回復を図っていくためには、次のような点を念頭におき、我が国経済の自律的回復を図り、その持続性を確保していくことが必要である。
第一に、このところ不良債権問題等により、複数の金融機関の経営破綻が起こっており、金融システムの安定を維持することが緊急の課題となっている。こうした状況の下、金融機関の破綻に当たっては、1)市場からの退出が円滑に図られるよう効率的かつ透明性のある処理のための制度整備を図ること、2)破綻が金融システム全体に波及しないように万全を期すことが必要である。こうした措置により金融システムに対する国民の信頼感を確保することが、我が国経済の将来や当面の景気に対しても喫緊の最優先課題である。
第二に、中長期的に適切な経済成長を確保するためには民間部門の経済活動の活性化が不可欠であり、民間需要中心の自律的な安定成長を図っていくことが今後の経済運営の基本である。このため、以下の施策を着実に実行していくことが不可欠である。
1)新しい技術開発やニュー・ビジネスの創出を活性化するため、また、高コスト構造の是正などを通じて、新たな需要を生み、雇用を増大させるため、規制緩和を中心とした経済構造改革を断行する。
2)我が国は、都市における地上過密・空中過疎の問題と、都市と地方の間の過密過疎の問題を抱えている。土地の有効利用によって、この2つの過密過疎を解決することが、ゆとりある国民生活を実現し、また、我が国経済の成長力を高める。また、バブルの後遺症として、担保不動産の処分が滞っていることが不良債権処理や景気回復の足かせとなっているため、土地取引を活性化する。
3)経済グローバル化により企業が国を選ぶ時代になってきた現状においては、我が国が企業活動の拠点として選ばれるよう、企業にとって魅力ある事業環境を整備する。また、産・学・官連携による研究開発の推進によって、未来の新産業を育成する基盤の強化を図る。
4)バブル期の反省などを踏まえ、民間金融機関において貸出しに慎重さがみられる中、中小企業に対する必要な資金供給が妨げられることがないよう、適切な措置を講じるとともに、経済構造改革への中小企業の適応を支援する。
第三に、財政の健全化を進め、中長期的に国民負担率の増加を抑制し、公的部門の簡素合理化等を通じて、経済の活性化を図っていくことが必要である。現在の財政構造をこのまま放置すれば、将来に背負いきれない負担を残すことになり、財政構造改革は一刻の猶予も許されない課題である。
第四に、「規制緩和は弱者切り捨ての無秩序な経済状況を生み出すのではないか」といった規制緩和への不安感を払拭する必要がある。規制緩和を進めると同時に、情報の開示と提供、市場監視機能の強化、真の弱者に対する救済措置等にも配慮することにより、公正かつ自由な競争秩序を担保し、結果的に資源の最適配分や財・サービスの安定供給を通じて、国民の生活向上に結びつくことを制度的に保証することが必要である。このように規制緩和と競争秩序を担保するための政策は、車の両輪として進めていくべきである。
(今後の中長期的な経済社会の展望)
今後の中長期的な経済運営に当たっては、現行経済計画で指摘した1)グローバリゼーションの進展、2)高次な成熟経済社会への転換、3)少子・高齢社会への移行、4)情報通信の高度化という4つの潮流変化に対し、適切に対応していくことが重要である。こうした基本認識に立ち、現時点で改めて我が国経済の将来の姿を展望した場合、特に留意すべき課題として以下のような点を指摘することができる。
1)グローバリゼーションの進展により経済の相互依存が高まっていくと、一国の経済政策は他国から独立ではあり得なくなる。また、民間の経済活動も国家の枠組みを越えて進展してゆく。これらの動きに対して国全体としての一体性を保ちつつ、効率性と公平性の維持という目標の両立を図るため、諸外国との制度・政策の調整・調和をどのように進めて行くかがますます重要となってくる。
2)産業構造の面においては、世界的大競争下にある製造業と国際競争に晒されていない非製造業との間に、相対的な生産性格差が存在している。また、製造業の中でも業種間で格差が生じている。この要因としては、資本や労働といった生産要素の円滑な移動に対する制約や、とりわけ非製造業によくみられる競争制限的な公的規制の結果もたらされる高コスト構造の存在等が挙げられる。この結果、国内的にも、また国際分業の面でも資源配分上の歪みがもたらされており、我が国経済の活力を減退させている。こうした構造を是正するため、市場メカニズムの一層の活用が重要であり、生産要素の柔軟な移動のための環境整備と同時に、次代を担う新規産業の創出促進等を推進することが重要である。特に、新規産業の創出と我が国産業の国際競争力の維持・向上を目指し、「科学技術基本計画」(平成8年7月閣議決定)も踏まえ、より一層の研究開発の促進が求められる。さらには、経済活力を維持しつつも、環境調和型の産業構造を形成していくことが必要である。
3)少子・高齢化の進展に対応するため、現在、公的部門全般の効率化や、社会保障制度における給付及び負担の適正化等の観点から構造改革が進められているが、これらの改革は世代間の受益・負担構造や国民負担率の変化等を通じて、経済パフォーマンスにも影響を与えるものと考えられるため、新しい経済社会を築くための制度設計を行っていくことが必要とされている。また、今後の社会保障についての国民の不安を解消し、成熟した経済社会にふさわしい社会保障とするため、国民の合意に基づく選択の下、社会保障構造改革を着実に進めていく必要がある。
4)土地・住宅についても少子・高齢化の進展のなかで、量的・質的な変化が予測されるところであり、これに対処するため、土地の有効利用やストックの活用を推進するなどの総合的な施策が必要とされている。
5)構造改革後の新しい経済社会では、従来の経済社会システムにとらわれない経済主体の役割が期待される。特に、NPO(民間非営利組織)は、行政、企業、個人等とともに我が国経済社会がこれからの時代に適切に対応していくうえで重要な役割を果たすものと思われ、今後はその活動促進のための環境整備が求められている。また、将来的に、政府による規制の緩和・撤廃が進んだ後においても、新規参入に対して業界団体等が制約を課したり、業界の横並び意識から事首・闔臂綮・罰萋阿棒・鵑・櫃擦蕕譴襪箸いΑ△い・・w)ゆる民民規制の問題が残る。こうした民民規制によって、我が国経済社会の活力が損なわれないようにするためには、業界団体の役割及びそのあり方等についての検討を行っていくことが必要とされている。
地球温暖化問題をはじめとする地球環境問題に関しては、これまで以上に積極的に取り組んでいくことが必要である。1992年6月には「環境と開発に関する国連会議(地球サミット)」が開かれ、「リオ宣言」及び「アジェンダ21」が採択された。また、地球温暖化問題に関する国際的取組についての枠組を定めた「気候変動枠組条約」の署名が開始され、同条約は1994年に発効した。
我が国では、「地球温暖化防止行動計画」を1990年に策定しているが、1995年度のCO2排出総量は1990年度の排出総量を8.3%上回っており、目標の達成に向け相当厳しい努力が必要な状況にある。温室効果ガス排出量を2000年までに1990年レベルに戻すことは、我が国をはじめ多くの先進国において、達成が危ぶまれている。
また、現行の条約は2000年以降の取組について十分な取決めがなされていないことから、本年12月1日より京都市で開かれている気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)に向けて、2000年以降の先進国の温室効果ガス削減数値目標等に関する議定書もしくはその他の法的文書を採択すべく議論が行われてきている。
我が国としては、COP3において決定される目標の実現のために、「地球温暖化問題への国内対策に関する関係審議会合同会議」において示された地球温暖化対策の基本的方向を踏まえ、具体的な実効性ある地球温暖化対策を総合的かつ計画的に講じるとともに、対外的にもコモン・アジェンダを通じた日米協力、温暖化ガスの排出削減に係る国際的な枠組作りへの貢献や、地球温暖化防止対策を国際協力の下に加速するよう、先進国が中心となってエネルギー、環境技術の開発・普及を行うグリーン・テクノロジーと、それらの技術に関し発展途上国への協力を行うグリーン・エイドの二つの柱からなる「グリーン・イニシアティブ」等を通じ、率先して問題解決のためのリーダーシップを発揮していくことが重要である。
国、企業による省エネルギーや新エネルギー等の技術開発・普及や国、地方公共団体による省エネルギー、CO2排出削減に資するインフラ等の社会システムの整備、国民一人一人の新しいライフスタイルへの移行などを図ることにより、全体としてCO2排出のより少ない社会への道を具体化していくことが求められる。こうしたCO2対策を柱とする地球温暖化対策を進めながら、環境への負荷の少ない持続的発展が可能な経済社会を目指していかねばならない。
現行経済計画策定後ほぼ2年が経過したところであるが、現在、政府の「6つの改革」を中心に、経済社会全般にわたる抜本的な構造改革が進められており、既にその効果が現れている例もみられる。こうした成果を着実に積み重ねていくため、今後とも、より一層強力な構造改革の推進が不可欠である。
また、ここ数年来、我が国経済には先行き不透明感、閉塞感が漂っており、それが消費者や企業等に対し自信を持った経済活動を躊躇させ、我が国経済社会全体の活力を低下させることにもつながっている。こうした状況に対応するためには、国民に対し、構造改革後の我が国経済社会の姿を明確に示し、将来に対する不透明感を払拭することが必要と考えられる。
このため、経済審議会においては、グローバリゼーションの進展、少子・高齢社会への移行、情報通信の高度化、地球環境問題による制約要因の高まり等の潮流を見据える中で、現在内閣において進められている「6つの改革」が進展した後の我が国経済社会の姿を展望し、政府、企業、個人、NPO(民間非営利組織)といった各経済主体の役割と新しい経済システムのあり方を示すべく、経済社会展望部会と経済主体役割部会の2つの部会を設けて、本年7月から調査・審議を進めており、来年6月を目途にとりまとめを行う予定である。
現行経済計画の枠組みを踏まえつつ、新しい我が国経済社会の将来展望を切り開くことが、構造改革の一層の推進と相まって、将来の我が国経済社会に対する信頼感を回復させ、その活力を高めていくことに寄与するものと期待される。
1) 物流
輸送機関別の国内貨物輸送量を概観すると、内航海運、鉄道は横這いだが、自動車は増加傾向にある。
複合一貫輸送に対応した内貿ターミナルからの陸上輸送の半日往復圏の割合(目標約80%)は、本年度末(見込み)で約73%(前年比1ポイント増)となっている。鉄道貨物におけるパレタイズ貨物の割合(目標2割程度)については、平成8年10月~本年9月平均で19.0%となっている。また、RORO船、コンテナ船(モーダルシフト対象船種)の船腹量は平成2年度との比較で年平均約9.5%増になっており、従来の伸びを僅かに下回っている。
個別分野についてみると、トラックの新規参入者数については、平成8年度には前年度に比べ400者以上の増加がみられた。営業区域の拡大については、中国圏区域・九州圏区域が設定され、着実にその拡大が図られている。実働率・積載効率はそれぞれ概ね横這いで推移している。営業用トラックの輸送分担率は着実に増加している。幹線共同運行についても推進が図られ、21区間において延べ49事業者が参加して行われている。
内航海運については、船齢構成をみると、老朽船の比率は平成7年度で28.8%と前年度比1ポイント減少しており、経済船の比率は平成7年度で40.5%と前年度比1.4ポイント増加している。また、船種別平均総トン数の推移については、平成6年度から平成7年度にかけて総じて上昇しており、船舶の大型化が徐々に進んでいる。さらに、物的労働生産性も上昇傾向を示している。
鉄道貨物については、JR貨物の物的労働生産性を輸送トンキロベースでみると、平成7年度から平成8年度にかけて約2.5%向上している。また、鉄道貨物輸送トンキロに占めるコンテナトンキロの比率をみると、平成7年度77.8%から平成8年度81.3%と3.5ポイント増加しており、年々コンテナ化が進んでいる。列車の長大化については、1200トン列車が平成8年3月ダイヤ改正時の46本から、本年3月改正時の48本へ僅かながら増加している。
2)エネルギー
ガソリンについては、平成8年3月に実施された「特定石油製品輸入暫定措置法」の廃止により、輸入に係る規制が大幅に緩和された。これにより、ガソリンの輸入業者は増加してきており、また、輸入量も本年上期でみた場合、前年同期比で17.9%増加している。また、ガソリン価格については、輸入自由化に向けての議論が開始されて以来、競争が激化し、原油輸入価格の上昇にも関わらず、大幅に低下している。(平成6年1月:122円/リットル→本年11月:99円/リットル)
電力については、平成7年4月に改正された「電気事業法」により卸発電部門への参入の原則自由化等の措置が講じられ、現在まで平成8年度及び本年度の2回にわたり卸電力入札が実施された。平成8年度の入札では募集規模に対し4.1倍、本年度の入札では5.0倍の応募があり、平成8年度の落札価格は、回避可能原価(電気事業者が自ら発電所を新設した場合の平均的な発電原価)を概ね1割から3割半ば下回る結果となった。
都市ガスについては、平成6年6月に改正された「ガス事業法」による、一般ガス事業者による供給区域外の大口需要家への供給については4件、一般ガス事業者以外の者による大口需要家への供給については5件となっている。ガス料金については、平成8年1月の料金の改定時よりヤードスティック方式による査定等が導入され、大手3社平均で0.47%の引き下げが行われた。
3)流通
商業の就業者1人当たり実質GDPでみた労働生産性は上昇傾向を示すものの、製造業との比較では平成7年時点で製造業水準の67%となっており、国際競争にさらされた製造業の生産性向上が強まるなか、製造業と比較した商業の労働生産性は平成4年を境に低下傾向にある。また、商業のマージン率については、長期的に上昇傾向にあるなかで、平成8年度は、平成6年度と比較して、卸売業で横ばい、小売業でやや上昇しているなど、改善の結果は未だ現れていない。
一方、W/R比率の推移をみると、長期低下傾向を示しており、流通の多段階性の解消が図られつつあるとみられるほか、POS、JICFSの導入件数やフランチャイズチェーン数及び加盟店の着実な増加等にみられるように、商業における情報化、共同化の進展を通じた効率性向上の成果が一部においてみられる。
4)電気通信
「電気通信事業法」が施行された昭和60年当時と比較すると、国内長距離通話料金は約4分の1に低下し、料金の遠近格差はNTTの場合で11倍(行動計画策定時は17倍)に縮小し、ほぼ欧米並みとなった。一方、国際通話料金は約3分の1に低下した。携帯・自動車電話も契約時の負担が非常に少なくなった他、通話料金も約半額になった。なお、専用線料金も、NTTにおいて、近距離アクセス用として、回線監視機能、多重アクセス機能等を簡素化することで低廉化を図ったサービスが提供されている。
また、平成8年度には、携帯電話・PHSの文字メッセージ等、15件の新規サービスの導入が行われた。この結果、新規サービスの導入状況は、「電気通信事業法」が施行された昭和60年度以降で合計93件(本年8月現在)となっている(それ以前は合計13件)。
こうした通信料金の低廉化や新規サービスの導入は、規制緩和による新規事業者の参入等による競争の激化と光ファイバやデジタル技術等の技術革新によるものと考えられる。事業者数は第二種電気通信事業者を中心に大きく増加しており、本年10月1日現在で、新第一種電気通信事業者130社(他にNTT、KDD、NTTドコモ9社)、特別第二種電気通信事業者85社、一般第二種電気通信事業者5,161社となっている。こうした状況の下、インターネットの普及も急速に進んでおり、本年1月現在で、インターネットに接続される我が国のホストコンピュータ数は約73万台と、3年間で約17倍に増加している。
5)旅客運送サービス
航空については、本年4月にダブル・トリプルトラック化基準が廃止され、ダブル路線は昨年の29路線から35路線へ、トリプル路線は22路線から24路線となっている。また、新規航空会社の参入も予定されており、航空各社の競争の促進が期待される。
タクシーについては、本年4月におけるゾーン運賃制の導入により、ゾーン上限以外の運賃を29ブロック、345者、2,743両が採用し、初乗距離短縮運賃の認可については、19ブロック、133者、5,640両が設定している。増減車の弾力化については、東京地区では13者657両の新規免許申請がなされた。
鉄道旅客については、運賃・料金について、本年1月の上限価格制の実施後、認可された上限額を下回る廉価な運賃を設定している区間が多く現れてきている。
6)金融サービス
金融サービスに関し、利用者の利便の向上の状況について、金融商品の多角化の状況を示す指標である預入期間5年以上預金残高は平成8年度末に前年比44.2%増の後、本年6月末にも前年同期比36.5%増と順調に増加している。有価証券市場の状況を示す指標である国内公募普通社債の発行額も本年4-6月期に2兆円を超えるなど増加傾向にある。また、国際的な金融・資本市場の状況を示す指標である東京オフショア市場の取引規模、ユーロ円債の発行規模、円建外債の発行規模はいずれも高水準で推移している。
7)農業生産
第4次土地改良長期計画(計画期間:平成5~14年度)の本年度当初予算までの進捗率が41.3%と農業生産基盤及び農村生活環境等との一体的な整備が計画的に推進される中、地域の担い手として期待される認定農業者数は年々着実に増加し、本年10月末現在約11万経営となっているほか、新規就農青年数も増加傾向にあり、平成8年には8千人台となるなど、効率的・安定的な農業生産の担い手となる経営体等が増加している。
また、農地の権利移動面積は近年増加傾向にあり、平成7年の権利移動面積は9.5万haと農地の流動化が進んでおり、例えば、稲作経営をみると、3ha以上層の占める割合が6年では13.5%だったものが、平成8年には15.3%に増加しているなど、農業生産における大規模経営の占めるシェアが高まっている。さらに、生産資材費等についても、ほぼ横ばいないし、低下傾向で推移している。