平成10年版 新国民生活指標(PLI)

平成10年5月3日

経済企画庁国民生活局


新国民生活指標とは何か

「豊かさ指標」=「新国民生活指標(PLI:People's Life Indicators)」

・生活水準・豊かさを総合的に把握するためにめやすとなる生活統計体系。

・生活に関わる多くの情報を個人の生活感覚を基に体系的に整理して、分かりやすくかつ具体的な形で数量化したもの。

・生活の多面的な側面をきめ細かく把握し、地域社会の豊かさや特徴をとらえ、個々人が豊かさを考え、自らの地域やライフスタイルを見直すための情報として活用されることを期待。

・PLIは、毎年、個別指標や地域別の体系の変更を行うなど、現在でも試算段階にある。有識者、関係機関はもとより、国民からの意見や提案をいかして、さらに生活の現状や実感にあった指標体系となるように改善に努めている。

 

生活はどう変わってきているか(時系列でみた国民生活の動向)

 本年版のPLIは、主として平成8年(1996年)までのデータを基に試算している。以下に、生活活動領域と生活評価軸の特徴をまとめる(詳細は表1を参照)。

 

(8つの生活活動領域からみたPLI)

 昭和55年(1980年)以来の長期的動向をみると、伸びが高いのは「費やす」「癒す」「遊ぶ」「学ぶ」の領域であり、伸び悩んでいるのは「住む」「交わる」である。

 また、この5年程度の動きをみると、順調に伸びているのは「費やす」「癒す」「学ぶ」の領域である。横ばい傾向にあるのは「住む」「働く」「遊ぶ」の領域である。「住む」は「バブル」の崩壊で平成3年、4年に改善したが、その後は伸び悩んでいる。「働く」は昭和62年(87年)から平成4年(92年)にかけて向上したが、その後は景気の低迷に伴い横ばいとなっている。「遊ぶ」は「夏期連続休暇日数」の減少などからこの2年間横ばいとなった。低下しているのは「育てる」「交わる」の領域である。「育てる」は平成3年(91年)頃から「子供の成人病」「長期欠席率」「少年犯罪発生件数」などが悪化したため、頭打ちの動きを示している。「交わる」は「社会活動時間」「社会奉仕活動行動者率」「交際時間」が平成5年(93年)頃から低下したため、その後は全体として低下している。

 平成8年のPLIを平成7年と比較すると「住む」「働く」「育てる」「交わる」の4つの領域がいずれも若干ながら低下し、他の「費やす」「癒す」「遊ぶ」「学ぶ」の4つの領域は上昇している。上昇している中では特に「癒す」の上昇幅が大きい(表1(1))。

 

(4つの生活評価軸からみたPLI)

 長期的動向をみると、順調に伸びているのは「快適」「自由」の領域であり、1990年代に入ってから上昇しているのが「公正」である。一方、「安全・安心」はむしろ低下傾向にある。これは「交通事故発生件数」「刑法犯認知件数」「学校嫌いによる長期欠席児童・生徒数」などが悪化していることによる。また、近年では「少年犯罪検挙人員」が増えたことにより低下テンポが速まっている。

 平成8年のPLIを平成7年と比較すると、「安全・安心」が若干低下したが、他の3つの生活評価軸は上昇しており、特に「快適」の上昇幅が大きい(表1(2))。

 

(「バブル」崩壊、少子高齢化、時短等とPLIの動き)

 90年代に入ってからの特徴を「バブル」崩壊、少子高齢化の一層の進行、労働時間短縮等の動きとの関連でみると、次のような特徴がみられる。

 

(バブル崩壊とPLI)

 平成2〜3年(1990〜91年)頃の「バブル」崩壊は、PLIに採用している個別指標でいえば、「土地資産格差」や「住宅取得年収倍率」を改善させ、活動領域のうち「住む」、生活評価軸のうち「公正」を改善させた。しかし、他方で、「バブル」崩壊はそれに伴うその後の景気低迷によって、特に、活動領域の「働く」や4つの評価軸の「安全・安心」にマイナスの影響を与えることとなった。

 

(少子高齢化の進展とPLI)

 少子化、すなわち子供の数の減少は「1学級当たり児童・生徒数」「児童館数」「1人当たり校地面積」などを改善し、活動領域の「育てる」にプラスの影響を与えている。また、第二次ベビーブーム世代のピーク時年齢層が上級学校入学時期を終えた後、「上級学校進学率」が急速に上昇しており、「学ぶ」の伸びを高めている。

 高齢化も一層進行しているが、ゴールドプラン、新ゴールドプランなどに伴う高齢者福祉関係指標の向上が、活動領域の「癒す」の伸びを引き続き高いものとしている。

 

(時間的ゆとりとPLI)

 バブル期における労働力需給の逼迫なども反映して、所定労働時間の面での時短が進んだが、平成5年(93年)頃からはその改善は頭打ち傾向となっている。そのことが活動領域の「働く」の頭打ちとも関わっている。

 また、「夏期連続休暇実施日数」が近年は減少して、活動領域の「遊ぶ」を引き下げている。さらに、「学ぶ」の「学習・研究時間」や「交わる」の「社会活動時間」「社会奉仕活動行動率」「交際時間」の減少も時間的ゆとりがなくなってきていることを示していると考えられる。

 

地域の豊かさはどうなっているのか(地域別にみた生活の現況)

 ここでは都道府県別の試算結果から、都道府県別の状況と地域ブロック別の状況に分けて地域別の生活の現況をまとめる(詳細は表2、表3を参照)。

 

(都道府県別PLIの特徴)表2

 都道府県別の試算結果をみると、北陸・甲信越、中国、四国地方の都道府県が「住む」「育てる」「癒す」など全般的に高い傾向にあり、大都市圏の都道府県の数値が全般的に低い傾向にある。また、東西でみると、「住む」(関東を除く)「費やす」「遊ぶ」は東日本の都道府県で高い傾向があり、「癒す」は西日本の都道府県で高い傾向がみられる。

 特色のある都道府県をみると、東京都は「住む」「育てる」「癒す」など基礎的な生活領域が低い反面、「学ぶ」「遊ぶ」など選択的な生活領域が非常に高く、大都市特有の性格を示している。沖縄県は全体的に低い領域が多いなかで、「癒す」が非常に高いなどの特徴を持っている。北海道は「働く」「交わる」などが低いが、「育てる」「遊ぶ」が非常に高い特徴がある。

 なお、今回の試算は平成8年までの統計を用いたため、兵庫県、大阪府について、平成7年1月17日の阪神・淡路大震災の影響を受けたと考えられる指標も見受けられる。

 

(地域ブロック別PLIの特徴)表3

 都道府県別試算結果による都道府県の数値を単純平均して地域ブロック別の試算を行った。

 これをみると、北陸・甲信越、中国は8領域のバランスがとれた均衡型をしている。均衡型と比較して、北海道・東北は「住む」「育てる」が、東海は「費やす」「遊ぶ」「交わる」が、四国は「学ぶ」「癒す」「育てる」がそれぞれ特に高くなっている。

 また、関東は「費やす」が高いが「住む」「育てる」「癒す」が低く、近畿は「学ぶ」「交わる」が高いが「費やす」「遊ぶ」が低く、九州・沖縄は「癒す」が高いが「働く」「学ぶ」が低いなどの特徴がある。

 

「女性の働きやすさ」指標(PLIからみた女性の働きやすさ)

 

 女性の職場進出は時代の大きな流れ、社会の大きな構造変化となっている。したがって、今回、女性の働きやすさがどのように変化してきたか、また、現状はどうなっているかについて国際比較も含めて考察した。

 方法としては、PLI試算に用いた指標のうち「女性就業率」など女性が働くことに関連する11指標に「男女家事分担率」を加えた12指標についてその平均値を「女性の働きやすさ」指標とし、国内の時系列試算と都道府県別、地域ブロック別試算を行った。なお、分析を深めるため、「就業」「男女機会均等」「家事分担」「保育・介護」の4つに分類した。また、女性の働きやすさに関連する指標について、OECD加盟国を対象として国際比較を行うとともに出生率との相関を分析した。

 

(試算の結果)

(1) 国内指標の試算結果

ア  時系列試算の結果

 時系列試算の結果をみると、女性の働きやすさは1980年代半ば以降大きく改善していることがわかる。とりわけ、4つの分類のうち「男女機会均等」に関連する項目については、男女格差が縮まり、大きな伸びを示している。

イ  都道府県別、地域ブロック別試算の結果 

 地域ブロック別の試算結果をみると、四国や九州・沖縄など西日本が比較的高い。

 項目別には、男女機会均等は、大都市圏のある関東や近畿ブロックが相対的に高く、家事分担の平等性は大都市圏以外が高く、保育・介護は西日本が充実している。

 その特徴を分類して分析すると、・男女機会均等型・家事分担平等型・就業充実型というように大別でき、さらに、・男女機会均等型は男女機会均等が特徴的に高い(関東圏)か、保育・介護も高いか(近畿圏)により2つに、・家事分担平等型は、家事分担平等が特徴的に高い(北海道・東北、中国)か、就業も高い(北陸・甲信越)か、保育・介護も高い(四国、九州・沖縄)により3つに分けられる。

ウ  出生率や有業率と「女性の働きやすさ」指標との相関関係

 女性にとっての就業と育児の両立のしやすさという観点から、都道府県クロスセクションデータを用いて、「既婚有業女性の出生率(合計特殊出生率)」「6歳未満の乳幼児を持つ女性の有業率」を被説明変数とし、説明変数を「三世代世帯割合」「女性の働きやすさ」指標(パート実質賃金、男女間賃金格差を除く)、女性実質賃金として回帰分析を行った。その結果、「出生率」の回帰分析、「有業率」の回帰分析ともに、「女性の働きやすさ」指標(同上)の係数は有意に正である。すなわち、「女性の働きやすさ」指標(同上)が10%ポイント高いと、「既婚有業女性の出生率」は0.18人多くなり、また、「6歳未満の乳幼児を持つ女性の有業率」は12.3%ポイント高くなるとの結果が得られた。このように、「女性の働きやすさ」指標の向上は、仕事と育児の両立を可能にする方向に働くことが示された。

エ  性差に対する意識と「女性の働きやすさ」指標との相関関係

 NHK放送文化研究所が96年に行った「現代の県民気質」(全国県民意識調査)における性差に対する意識と「女性の働きやすさ」指標の中の「男女機会均等」との相関関係を分析すると、「差別は間違い」とする割合が高いほどPLIにおける男女機会均等性は高い。また、「差別は間違い」と答えた割合から「差別はやむを得ない」とする割合をひいたものが高いほど男女機会均等性は高い。このように、男女機会均等と意識には相関関係がうかがわれる。

(2) 国際指標の試算結果

ア 80年と95年の試算結果

 「管理的職業従事者(男性に対する割合)」など8指標を用いて、PLIにおける都道府県別試算と同様の手法により、OECD加盟29カ国について2時点間の比較を行った。

 その結果、95年の試算結果として、スウェーデン、ノルウエーなどの北欧諸国が高く、次いで、アメリカ、イギリス及び旧英連邦諸国とフランス、ポルトガルになっており、その次にドイツなどヨーロッパ中央部の諸国となっている。一方、日本、韓国などのアジアとイタリア、スペインなどのラテン諸国は低くなっている。

イ 出生率との相関関係

 80年時点でOECDに加盟していた国について、「女性の働きやすさ指標」と合計特殊出生率(1人の女性の生涯を通じた出産数)との相関関係を分析すると両者の間には、正の相関関係がある。すなわち、「女性の働きやすさ指標」が10%ポイント高いと、合計特殊出生率は0.33人多いという結果が得られた。

 

大都市圏の生活圏域における生活の豊かさはどうなっているか

 

 大都市圏においては、様々な生活の諸側面において隣接する大都市との間で県域を超えた生活圏の拡がりがみられる。このような大都市圏における生活圏の拡がりを考え、昨年の平成9年版では首都圏、中部圏、近畿圏の3大都市圏を設定し、それぞれを一つの地域と仮定して、大都市圏別のPLIを算出した。本年版では、この分析を一歩進めて、より実態に近い生活圏の拡がりを反映するようなPLIの算出を試みた。具体的には、大都市圏を単純に一括りにするのではなく、採用個別指標の中から広域性のみられる指標を選択した上で、それらについては都府県を越えた生活圏として考慮するという方法でPLIを作成した(埼玉、千葉、神奈川は東京と、岐阜、三重は愛知と、京都、奈良、兵庫は大阪との関係を考慮した以上8地域で作成)。

 

(都道府県別試算結果との比較)−埼玉県、千葉県、神奈川県では、「遊ぶ」「学ぶ」が大きく改善−

 都道府県別の試算結果と比較すると、首都圏の埼玉、千葉、神奈川では、東京の施設等も利用可能であることなどから、特に「遊ぶ」「学ぶ」の領域で大きく改善した。「遊ぶ」は[カラオケボックス室数]や[ビデオレンタル店数]等が多くなるためであり、「学ぶ」は[上級学校学生数]や[図書帯出者数]等の増加による。

 中部圏では、岐阜で、「費やす」が[大型小売店舗数]の増加により、「学ぶ」が[書籍・雑誌小売店数]の増加等により高まる。三重では「学ぶ」が[上級学校学生数]の増加等により高まるが、両県とも「遊ぶ」が[公園・遊園地数]等の減少により低下する。

 近畿圏では、京都で、「住む」が[重要犯罪認知件数]の低下等により高まるが、「学ぶ」が[上級学校学生数]の減少等により低下する。兵庫では「費やす」が[消費者物価上昇率]の低下等により、「遊ぶ」が[カラオケボックス室数]の増加等により高まる。奈良では「遊ぶ」が[カラオケボックス室数]の増加等により、「学ぶ」が[書籍・雑誌小売店数]等により高まる。

 

豊かさに対する意識の違いの分析

 

 個々人により、客観的条件に対する主観的意識は異なる。そこで、そのような主観的 意識について、当庁「平成8年度国民生活選好度調査」(大蔵省印刷局)(以下、「選好度調査」と略する。)のデータを利用して分析を行った。(ただし、数値はあくまでも選好度調査によるライフステージ別平均値、地域別平均値であり、個々人の多様な選好、主観的意識をあらわすものではないことに注意する必要がある。)

 選好度調査とは国民が生活全般についてどの程度満足しているかやどのような事柄を 重要と考え、それがどれだけ充足されているか等の調査を目的として行っているもので あり、具体的には生活の種々の分野の60項目について、その重要度(どのくらい重要で あるか)および充足度(どのくらい満たされているか)等について調査している。そこで、生活全般に対する満足度に対して、各項目ごとの充足度がどのくらい影響を与えているかについて回帰分析を行って相関関係を分析し、各項目の生活全体に占めるウエイト(重要度)を間接的に求めてみた。

 

(ライフステージ別の分析結果)

 その結果として、ライフステージを選好度調査の分類にしたがって、学校教育期、独身期、第1子小学校入学前、第1子小学校から大学まで、就職または結婚した子を持つ、すべての子が就職または結婚したと6つの期間に分類し、それぞれの時期で8つの活動領域での重みの違いを分析した。その結果、

○「癒す」は、各ライフステージを通じて高いが、特に老齢期に高い。

○「遊ぶ」は、学校教育期以降ライフステージが進むごとに低下していくが、老齢期には再び高まっている。

○「遊ぶ」「交わる」などの選択的領域は各時期を通じて低い。

○「育てる」は、家族形成期や家族成長期に高い。

○「学ぶ」は、学校教育期に高い。

○「働く」は、独身期、家族形成期、家族成長期に高い。

 このようにライフステージで生活満足度を感じる要因は異なる。これは、同じライフ  ステージの人の平均であり、当然、個々の人では、そのばらつきはより大きいと考えられる。

 

政令市別PLIによる地域の特徴の分析

 政令指定都市は、社会的に大きな影響力を持っており、また、交通渋滞や都市環境問題など大都市特有の課題も抱えている。このため、政令市等の住民の生活水準や豊かさの状況を把握するためには、他の都道府県と比較するよりも、大都市間で比較して、各政令市の特徴を明らかにすることが重要である。

 このような観点から、昨年に引き続き、政令指定都市の12都市について、原則として 都道府県別試算と同じ個別指標を採用し、同じ算出方法によりPLIの試算を試みた。 しかし、データ入手が困難な個別指標が多く、今回も昨年同様10以上の個別指標についてデータ入手ができる「住む」「費やす」「育てる」「癒す」「交わる」の5領域に限定することにした。

(領域別特徴)

 「住む」は仙台市、札幌市、横浜市、「費やす」は名古屋市、広島市、福岡市、「育てる」は京都市、広島市、「癒す」は広島市、福岡市、仙台市、「交わる」は仙台市、福岡市、広島市がそれぞれ高い。

 

(各政令指定都市の形状的特徴)

 北海道、東北地域では、札幌市は5つの領域のバランスがほぼ均衡しており、仙台市は「費やす」を除いて高い水準にある。

 関東の各都市では、千葉市は5つの領域のバランスがほぼ均衡しており、横浜市は  「育てる」が低いが「住む」は高く、川崎市は「癒す」が低いが「交わる」は高い。

 東海から近畿では、名古屋市と京都市は「住む」「交わる」は同じ水準にあるが、「費やす」「育てる」の状況が逆転している。大阪市は「交わる」が低いが「費やす」は低く、神戸市は「費やす」が低いが「癒す」は高くなっている。

中国、九州地域では、広島市は5つの領域で都市の平均水準を超えており、北九州市は5つの領域のバランスがほぼ均衡している。福岡市は「育てる」が低いが「交わる」は高くなっている。

 

参考

新国民生活指標(PLI)体系表

10年PLI試算結果一覧表(都道府県別)