第5回国際マクロ経済問題研究会

議事録

時:平成10年12月14日
所:経済企画庁官房特別会議室
経済企画庁


第五回「国際マクロ経済問題研究会」会合議事次第

平成10年12月14日(月)10:30~12:00
経済企画庁官房特別会議室(729号室)

  • 開会
  • 議題1:資本移動規制について
  • 議題2:地域的危機管理について
  • 議題3:中間とりまとめ(案)について
  • 閉会

(資料)

  • 資料1 資本移動規制の考え方
  • 資料2 地域的危機管理の考え方
  • 資料3 「国際マクロ経済問題研究会」中間とりまとめ(案)のポイント
  • 資料4 「国際マクロ経済問題研究会」中間とりまとめ(案)

(参考資料)

  • 参考1-1 資本移動規制に関する論点整理
  • 参考1-2 エマージング市場における資本規制の自由化と資本フローの関係
  • 参考1-3 エマージング市場における資本規制の自由化と貿易フローの関係
  • 参考2-1 地域的危機管理に関する論点整理

国際マクロ経済問題研究会 委員名簿

  • 座長  近藤 剛   伊藤忠商事(株)常務取締役
  • 小島 明   (株)日本経済新聞社取締役論説主幹
  • 中山 真一  (株)富士通総研経済研究所主席研究員
  • 高阪 章   大阪大学大学院国際公共政策研究科教授
  • 黒柳 雅明  日本輸出入銀行海外投資研究所主任研究員
  • 岡田  靖  クレディスイス・ファーストボストン証券東京支店経済調査部長
  • 奥田 英信  一橋大学大学院経済学研究科助教授
  • 石本 聡   伊藤忠商事(株)政治経済研究所主任研究員
  • 小川 英治  一橋大学商学部助教授
  • 大坪  滋  名古屋大学大学院国際開発研究科助教授

(敬称略)


〔座長〕おはようございます。定刻になりましたので、始めさせていただきます。

 今日は小川委員、大坪委員、ご欠席ということでございますが、今日はご多用のところをご出席いただきまして、ありがとうございます。

 ただいまから、第5回の国際マクロ経済問題研究会を開催させていただきます。

 それでは早速、本日の研究会で議論する内容につきまして、事務局の方からご説明をお願いいたします。

〔事務局〕本日の議題は3つございます。初めに資本移動規制と地域的危機管理の必要性ということについて、それぞれご議論いただきました後に、本研究会中間報告のとりまとめ(案)について、議題3ということでご意見を賜りたいと思います。

 それでは、最初の議題1、資本移動規制について、資料1でご説明いたしますのでご覧いただきたいと思います。

 資本移動規制の論点整理でございますけれども、参考1-1の方に、世の中の議論をとりまとめたものをつけております。

 資本移動規制は必要なのかどうかということで、これは市場機構に欠陥があるのかどうかということに絡んだ制度の設計ということになろうかと思います。

 貿易の自由化に関しまして、一国経済の効率を改善するということについて、理論的にも計測的にも合意があるわけでございますが、資本自由化につきましては理論的にはメリットがあることは示されるものの、計測上、実際のメリットについては必ずしも意見が一致していないところでございます。

 特に、実体経済に比較して、巨額の短期的な投機資金、短期的な資本移動が途上国に急激に入って、急激にまた出ていくことの悪影響ということから、徹底的な完全な自由化を唱える専門家は少数である。部分的な規制がそこで必要であると主張する場合は、長期と短期に分けて期間に焦点を当てて規制するのか、あるいは総額としてのレベルで規制するという規模に焦点を当てた二通りが主張されているようでございます。

 規制について有効性があるかどうかということにつきまして、代表的な例としまして、チリの経験をここに掲げております。短期の資本流出入による国内経済の不安定化を避けようということで、エンカヘと呼ばれる制度をとっておるわけでございますけれども、海外から短期資本が流入する際に、その一定割合を1年間、中央銀行に強制的に無利息で預託せるという仕掛け、水際での規制をやっておるわけでございます。

 そのパフォーマンス、実効性でございますが、一時的に効果を示していてもしばらくすると元の数字に戻ってしまい、97年末の短期の流入資金比率は49.8%という高い数字が出ているということで、水際規制の有効性は必ずしもない、余り十分ではないのではないかということでございます。ただ、一方で流入してきます外資を国内の各部門に仲介する銀行部門の仲介機能の健全性、仲介のあり方の健全性について規制をするという補完的な規制があるわけでございます。例えば、貿易関連の目的以外に外貨建てで国内貸出を行えないとか、自己資本と準備金の総額の2割までしか外貨建てのポジションを持てない等の規制があるわけでございますが、こちらの方が効いて、80年代の危機の再来を防止したと言われているわけでございます。

 第2に資本移動規制の影響でございます。規制の影響、規制と資本移動量でございますが、参考1-2に計量的には計測結果をつけておりますけれども、資本規制の低下がエマージング市場における資本フローの拡大に寄与しているということを、この計測結果は示唆しているわけでございます。

 1枚おめくりいただきまして、次に資本移動規制や為替管理の導入というものと、貿易量の関係でございます。そちらにつきましての計測結果、参考1-3でございますが、そういった規制が財・サービス貿易を鈍化させることで、経済全体のパフォーマンスを低迷させる可能性を示唆しているわけでございます。

 最後に第3といたしまして、資本移動規制の考え方でございます。チリの経験が教えているとおり、水際で直接的に短期資本移動規制を行うことは有効性に乏しいのではないか。水際規制よりも国内金融部門の仲介機能の健全性を維持するということが必要ではないか、ということがチリの教訓である。

 次に、経済発展段階を考慮した資本勘定自由化の必要性でございますが、途上国も先進国も経済の成熟度の違いに関係なくグローバリゼーションが時代の流れだということで、一元的にすべて自由化してしまうということは、市場のメカニズムが有効に機能するための前提を無視しているのではないかということでございます。金融商品に関しましては、自己実現的な投機的動きとか、群衆心理に動かされるようなパニック行動といったような、財・サービス貿易にはないような属性の特性、あるいは財・サービス貿易にはないような市場機構の限界というものがありますので、これを認識した上で制度を設計する必要があるのではないか。

 資本の自由化そのものにつきましては、資源の効率的な利用を促すということで、最終目標としては理論が示すとおりのことでございますが、その完全で自由な取引を実現するためには、国内の市場に対する監督規制制度の確立や情報開示、あるいは直接投資の自由化の進展などの条件が整っていることが必要であり、これを欠いた自由化は、貸し手、借り手双方に危機というコストを負わせる原因となる。

 したがって、市場経済の成熟化は進展していないような国々に、一律的な完全自由化のルールを求めることは望ましい対応ではなく、それに向けての適切なシーケンシングの必要性を再確認すべきではないか。以上でございます。

〔座長〕ありがとうございました。

 ただいまご説明いただきました資本移動規制につきまして、ご議論賜りたいと存じます。

 A委員、お願いします。

〔A委員〕ここに述べられているレベルとしては、おっしゃるとおりだと思うんですが、例えば、資本自由化を段階的にやれといっても、そもそも市場メカニズムが働かないところで資本自由化をすることによって、新商品ができてマーケットができてくる。タイの自由化の場合も、上からトップダウンで金融を自由化した。そこで市場ができたということで、市場メカニズムが働く基盤というのが、資本自由化と表裏一体の関係にあるときに、それではどうするんだということです。

 それから、適切なシークエンスというときに、それでは、こういう順番でやりなさいということを一般論として提示できるのか、国別にバリエーションがあって、結局、原則は言ったんだけど、その先がはっきりしないということになる危険があるんじゃないか。むしろ、そこを教えてもらいたいんです。

 一般論では、急速な自由化はもちろん混乱を及ぼすし、その適切なシークエンスをどうすればいいのか。大体、インドネシアも88年ぐらいから国内の銀行を自由化して、そのあとの管理がまずかったから、変な身内の貸出等ということでおかしくなったわけです。今回、通貨危機の国というのは、10年ぐらい資本自由化を国内外において、それなりにステップを追ってやっていたような気がするんです。それじゃ、そこのどこが具体的に悪かったんだというところを指摘ができるのか、できないのかというのが、いつも疑問に思っている点です。

〔座長〕ありがとうございました。

 B委員、お願いします。

〔B委員〕資本移動規制については、いろいろ議論がありまして、事務局の方にもコメントを事前にさせていただいたんですけれども、私は、これはやりたい国はやればいいんじゃないかという気がします。チリのことは書いてありますけど、例えば、マレーシアは94年に短期の同じような資金の流入規制をやっていまして、そのときは、1年ぐらいで全部解除され、どんどん短期資金が出てしまったという状態ですので、それは別に構わないと思いますし、中国も今、要するに、資本勘定の自由化はしていませんので、それは別に構わないと思います。

 今、A委員のおっしゃったことと近いんですけれども、例えば、インドネシアのような国は、資本勘定の自由化は、経済発展段階に応じてということではなくて、国の事情によってだと思うんですが、こういうことだとどういう提言をしていいか分からなくなる。例えば、インドネシアは、もう70年代の初めから資本移動規制がほとんどなくて、結局、華僑がたくさんいて、シンガポールが近くにあって、自由に彼らが金を出したり入れたりできる状態にあった。例えば、為替管理のそういう規制をしてしまうと、結局、金が入ってこないし、華僑が活動できないので経済発展できない。だから、インドネシアの当局は、管理をするという考えはあるんですけれども、現実的にできないからやめてしまう。結局、これで二十何年間、経済発展してきたわけです。たまたま今回、ああいう危機的状況になったんですけれども、そういうことを考えると、発展段階に応じて国別にやるのは別に問題ないと思います。

 ただ、問題なのは選択で、ASEANやタイでも、どこでもそうですけども、おそらく自由化をしていなかったら、こんなに高成長はしないはずなんです。これで経済収支の赤字をファイナンスできないわけですから。そうすると、例えば、直接投資や公的資金の流入の範囲内でしか経常収支、赤字が出せない。したがって、成長率が下がる。そういう選択を受け手の途上国側でするかどうか、こっちの方が大きいと思います。

 おっしゃったように、あとは仲介機能の方で規制すべきだというのは、確かにそうで、韓国の例を見ますと、韓国は、結局OECDに入るためということもあって、銀行借入の規制を取っ払っていったんですけど、それはそれでよかったと思うんです。資本を引いてきた銀行の方の監督が十分できていないということがあると思いますので、おっしゃったような金融の仲介機能の方を監督していくというのが適切だと思います。以上です。

〔座長〕ありがとうございました。

 C委員、お願いします。

〔C委員〕おはようございます。ちょっと遅れまして申しわけありません。

 資料1について今、お話しなさっているんだと思いますので、コメントを二つばかりしたいと思います。

 まず、一つは、この資料1の2ですが、資本移動規制の影響というところ、この依って立つ資料が、資本規制インデックスの話ですが、ちょっとこれはかなり問題ありだと私は思っております。まず、1つは資本規制と資本拡大の因果関係みたいな議論もあるわけですが、そこについてはインデックスだけで議論している。もともと、資本フローがどう決まってくるのかというファンダメンタルな要因、例えば、国内の成長率の問題であるとか、それから国際要因としては国際金利の動向であるとか、そういうものを入れない議論をしていますので、どれだけが自由化によるものなのかが明らかでない。そこはちょっと慎重にやる必要があるだろうなと思います。

 それから、同じく資本規制と貿易投資、特に貿易ですけれども、それに対する影響の話も、これはクロスセクションでやっていますので、ちょっとテクニカルで申しわけありませんが、資本規制が強化されると貿易に影響が出るというよりは、むしろ、資本規制の強い国では貿易のパフォーマンスがこうだという意味であって、同じ国で資本規制をやったときにどうなるという議論を、即、導き出すのはちょっと危ないかなという気がいたします。

 ですから、ここのポイントは、資本規制のインデックスというのは、いわば我々のようなプロフェッショナルでは時々やりますけども、結論が先にあって、ややちょっと都合のいい道具立てでありますので、もうちょっと注意した方がよろしいかなと思います。

 それから、3番目の資本移動規制の考え方のところですけれども、二つのポイントを挙げられておりまして、まずその有効性の問題と自由化の必要性、特に、発展段階を考慮すべしという議論をしているわけですが。ちょっとこの二つをどう両立するのかというところが、簡単に読んでしまうと有効ではないけど必要だというふうに読めちゃうので、それはどういうことかなというのを、もう少しうまく説明する必要があるだろうと思います。例えば、有効性は限定的であるけれども、発展段階によっては必要であるということを言うためには、もう少し正当化の論理が要るだろうという気がいたします。

 規制に関しては、いろいろなタイプの規制の問題があって、価格介入でやるのか、あるいは数量規制でやるのかという問題があります。それから、もちろん、その管理能力の問題もありますので、有効性云々ということは一概に言えないのではなかろうか。むしろ、その発展段階を2番目のところで言うのであれば、どういうコンテクストでは有効だけど、どういうコンテクストでは有効性には限界があるというような現実的な議論を、やはり、やっていく必要があると思います。

 それから、基本的に、長期的には資本勘定自由化は望ましいという議論をしているわけですが、非常に重要な論点として、やはり、資本市場にはもともと問題があって、情報の経済学の論理になるわけですけども、価格メカニズムでクリアーできないというのが資本市場の特性だと思いますので、そこのところの配慮が全然ないと、ただ自由化すればよろしいということではなかったと思うんです。そこをどう書き込むかというのが改善のポイントかなという気がいたします。以上です。

〔座長〕ありがとうございました。D委員、お願いします。

〔D委員〕適切なコメントかどうかよくわからないのですが、実は、私も、ずっと前から分からなかったんですけど、特に、タイのケースがそうだと思うんですけど、オフショアマーケットができて、そこから、ドル建てでやたらに借りてきたのが返せなくなったというのが、一言で言うパンクした原因だろうと思うんです。固定相場制であって、かつ資本市場が自由化されているのであれば、その組合わせから言うと、本来は金利裁定が働いて、しかもグローバルな資本市場から見れば、ぜんぜん規模が小さいわけですから、内外金利差は、為替レートの予想変化率がもしゼロであれば、本来は均等化していなくちゃいけないわけです。でも、実際にはタイの国内金利が高くて、オフショアマーケットから借りてくるドル建ての金利は低いから、ドル建てでやたらに金を借りた挙げ句にパンクしたということです。

 ということは、本来、自由化が十分進んでいるのであれば、成立している金利裁定が成立していなかったことが、破綻の原因だというふうに言えないことはないわけです。もしそうだとすると、これは資本自由化が十分機能していなかったから起こったという論理の逆転が起こり得るわけで、不必要に自由化をやりすぎたために、その資本市場が機能しなくなったのではなくて、逆にもっとちゃんと自由化をしていれば、本来ならばそんな変な逆ざやみたいなものが発生しないで、もっとシステムはある意味、まともにワークするはずだったものがワークしなかった、というロジックも成り立たないことはないと思うのです。

 もし、そうだとすると、規制が必要なのではなくて、変な規制が残りすぎていることが原因だという議論も成り立つわけで、そこら辺のところは私も果たして本当にそう言ってしまっていいのかどうか、タイのケース等を、具体的に細かく私も存じ上げないので分からないんです。漠然と一般論的なマクロ経済の話で言うと、そういうロジックがあるのではないかということが、実は、前回の疑問としてある。研究されている方にぜひ1回、お伺いしたいということです。

〔座長〕ありがとうございました。

 今の点につきまして、どなたか何かコメントございますか。どうぞ。

〔C委員〕おそらく金利差が残るというのは、基本的には、やはり、貸し倒れリスクが結構大きいですから、そういう意味ではどうしても幾ら自由であっても、金利差が埋まるまで資本が入る込むというふうにはいかなかったのだと思います。つまり、マージナルな借り手というのは、かなりリスキーな投資をしているわけですし、そういう意味では、例えば、インドネシアは1つの例ですけど、インドネシアというのは為替管理というのは全然ないですけど、金利は絶対同じにはならない。それはリスクが非常に大きいから。市場が限定された情報ではありますけども、そのもとでもやはり、リスクが大きければ金利差は残るし、それからインドネシアのケースでは、加えて為替リスクがありますから、通常の貸し倒れリスクのほかに為替リスクもプラス。タイの場合には、ほとんど為替リスクがなかったと思います。それでも、貸し倒れリスクはあるので、それで金利差が残るんだろうと推測します。ちゃんと実証研究やってないと分からないです。

〔D委員〕それはよく分かるんですけど、もしそうだとしたら外国から流入してくる資本のコストは、そのプレミアムの分だけ高いんだろうと思います。不必要にいっぱい借りるという現状が起こるメカニズムがよく分からなくなってしまう。十分破綻リスクを考慮した上で、高い金利で貸付が行われているのであれば、何もオフショアマーケットからやたらに借りてきてパンクするというメカニズムはないことになる。要するに、リスク考慮、プレミアム考慮済みの上で裁定は働いているのではないか。

〔C委員〕割り当てがあるのでしょう。数量規制になりますね、結局は。貸し手の方も。

〔座長〕B委員、お願いします。

〔B委員〕それに関連して。インドネシアの例をC委員がおっしゃったんですけども、そこは金融市場が分断されていて、国内は高金利なんですけれども、おっしゃったように為替管理がなくて、非常に強い企業は、例えば、シンガポールへ行ったり、香港で借りられる。これは国際金利で外貨を借りてくる。

 ところが、小さい企業はアクセスができないので、銀行を通じて高い金利で借りてくる。銀行は為替レートの切り下げ率が、あそこはほとんどインフレと同じぐらいでしたので、国内金利がそれより倍ぐらいありまして、銀行が利ざやを稼ぐために調達して国内で高く貸す。もし、おっしゃったように完全に市場が機能していて、二分化されていなくて、すべての企業が外国からアクセスできれば、おそらく金利は均等化したと思うんです。何かそういう金融構造に少しずつ歪みのようなものがあるために、そういう金利が均等化するというようなことが多かったのかもしれないと思います。はっきりした話ではないんですけど、そういう感じがします。

〔座長〕どうぞ。

〔D委員〕ですから、この問題や日本のビッグバンの効果の話等は、みんな同じだと思います。自由化したから大変だという議論は当然あるわけです。けれども、今、伺った話でもそうですけど、ちゃんと自由化しないから大変になったということも言えるんだと思うんです。ですから、先程おっしゃったように、原理的にダイナミックな経済の中で、資本の最適配分ということはもともとできないわけです。その原理的なレベルでのリソースアロケーションの失敗のコストの話と、今、起こっているとんでもない話とは、ちょっと次元が違う話ではないかという気がするのはそのことであります。欠陥を抱えながらも一応、ワークしている市場メカニズムのもとで発生する損失の話と、あっちこっち分断化されてまともに動かないのに、場所によって、対外的な外国からの要求を単に受け入れてしまったということもある得るわけです。しかし、自由化してしまったために、システム全体が、まさにワークしなくなった結果、起こっている損失ということがあるわけです。ここで議論している規制が必要かどうかということは、議論の以前の話として、国際金融危機が、まず、途上国を中心にこういうふうにして起こっていったプロセスでのコストの問題というのは、後者の方なんじゃないかというのが、実は、資本移動規制を導入することが問題なのか、それとも国内金融システムがちゃんとワークするようにしつつ自由化していれば、こんなことにならなかったんじゃないかという問題だろうと思うんです。

〔座長〕ありがとうございました。

 ひとまずこの点、議題1につきましては、議論はここら辺にしておきまして、時間の関係もございますので次の議題に移らせていただきたいと思います。

 次の論点、地域的危機管理の考え方、資料2につきまして事務局の方からご説明をお願いします。

〔事務局〕資料2でございます。地域的危機管理の考え方でございます。第1に、国際通貨・金融体制の問題整理ということで、まず世の中で行われております議論の論点整理、そのものにつきまして参考2-1に表の形でまとめております。

 まず、現行システムの問題点でございますが、現行のIMFをコアとした国際的なシステムは、IMFの存在自体が投資家のモラルハザードを生み出すというような議論もございまして、そういった論者の立場からしますと、完全な自由化の方が効率的ではないかという指摘も見られるわけでございます。

 次に、規制は必要かどうかということでございますが、制度によるリスクの歪みと関係するかと思われます。こういった場合はこういったリスクが起きるというこの表にございますように、途上国に対する巨額の投機資金の流出入が、国際金融機関または主要先進国のコミットメントによる投資家のリスク判断の変化によるものであるならば、規制なしの完全自由化こそが、危機を防止する効果を持っているとの主張にも理があるのではないかということになるわけでございます。

 ただ、次の点でございますが、それでは完全な変動為替にすると、それで問題は解決するかと言いますと、ミスアライアメントの発生、現実の為替レートの国際収支調整は、ラグを伴っているだけでなく、レートの決定に対して、資本移動の活発化や経済主体の期待の訂正が急激に生じることにより、いわゆるミスアライアメントが発生したり、資源配分の最適化を阻害することがあるということで、なかなか変動為替相場制の完全な実施ということだけでは問題は解決しないのではないか、というところが問題整理の出発点でございます。

 次に、アジア通貨危機を踏まえた最近の議論の中身でございます。昨年の三塚大蔵大臣が発表しましたアジア通貨基金構想から、それを受けてのマニラフレームワークへというところでございますけれども、アジア通貨基金構想の考え方は、市場機構の不完全性に対する有効な対応としては、情報の不完全性を補うための協議、監視機能が有効であり、投機的な動きに対応し得るだけの流動性供給を行える経済主体の存在が、効果を発揮できるという考え方だったわけでございますけれども、それを受けてのマニラフレームワークにつきましては、協議機能の方がメインになりまして、流動性供給の方は、後ろに退いたわけでございますが、基本的には同様の構想に依っているわけでございます。

 次のページにまいりまして、今年になって発表されました新宮沢構想の提案でございますけれども、中身につきましては、参考の方に箇条書きしてあります。アジアの中における我が国の位置づけに鑑みますと、アジア各国を支援することは、単に途上国の再興に寄与するだけでなく、我が国にとっても重要なことである。このような問題意識から支援を二国間だけでなく、地域支援のコアとして位置づける部分を有しておりまして、先の流れに沿うものではないかということでございます。

 第3といたしまして、地域的危機管理の必要性でございますが、アジア通貨危機の教訓というわけで、アジアの対外開放度高い小国の場合、国際的な資金の急激な変動に対して不安定である。安定化の一つの手段は、ドルのような機軸通貨に自国通貨をリンクさせることでございますが、これも国内経済の安定化のために金融政策を動かすという自立性を犠牲にするという欠点がある。理想としましては、流動性供給を行って投機的な動きを封じる、最後の貸し手となるような機関を抱えることで、システミック・リスクの顕在化を防止することが指摘されております。欧州の例でも分かりますように、現実には、多くの困難があるわけでございます。ただ、しかしながら類似の機能を有した地域の安定化に機動的な動きを行う機構を抱えることは、地域内に自己実現的な投機から生じる危機を予防するために有益ではないかと、基本的には、考えられるわけでございます。

 次に考慮すべきポイントの一つといたしまして、現実的なアプローチとして、地域バイアスがあるのではないか。地域内に限定的な危機管理システムは、財・サービス貿易や資本移動の流れに対しても整合的ではないか。つまり、通貨危機の伝染といった動きには地域バイアスが存在しており、それは貿易投資の結びつきと概ね一致しているからでございます。アジアの場合には我が国との結びつき、中南米の場合にはアメリカとの結びつき、アフリカ、東欧は欧州各国との依存関係が深いわけでございまして、このような環境を前提として、現実的な地域別の救済メカニズムは有効に機能するものではないかというわけでございます。

 そこで、地域別の流動性供給をも、最終的な目標とするということを前提とした危機管理システムが有効に機能するためには、留意する必要がある点が幾つかございます。

 1つにはIMFとの役割分担でございます。IMFのローカル・コミットメント部分について3地域に分割するということになりますと、IMF本体との関係等につきまして、細かい見地からの検討が必要となるということは言うまでもございません。

 第2に、各国のマクロ経済政策を相互監視・協議するような枠組みの形成でございます。流動性供給を行うということになりますと、それを受けてルーズな政策が実施されるということを防止する必要があるわけでございますが、そういったことになりますとAPECルールのように、最終的には各国の自主性に委ねるという形のものよりは、協議を行って強制力を持った決定が可能なものがどうしても必要となってくるのではないか、といったところが問題意識になるのわけです。以上でございます。

〔座長〕ありがとうございました。

 それでは、この地域的危機管理の考え方につきましてご議論賜りたいと思います。

 A委員。

〔A委員〕地域的な危機管理の議論をするときに、将来の危機に備える話と、現在の危機をどうするかという2つの点があるのではないかと思うんです。現在の東アジアの経済危機、通貨危機から発展した経済危機ということは、基本的に、金が海外から流れなくなってきている。そういうときに、新宮沢構想のようにお金を出すという一種の支援をやるというのは、やはり必要であると考えております。

 将来、健全化したあとに、世界を3分割してマネージするのか、それともやはりIMF1つでやるのか。その点については、IMFの今の機能を分けるという点には疑問があります。

 と言うのは、現実的な問題として、例えば、アジアだけで、金融部門の健全化だとか、官民の癒着ということを一体誰が強制できるのか。国を見渡したところでみんな同じような問題を抱えているわけですから、そこで金融部門が怪しげな融資をやったから、そこが問題だという話ができないと、ひっくり返ったときの資金負担というのが非常に大きなものになる。もう1つの問題として、誰がお金を出せるのか。今のところ、日本が債権国でありますけれど、中国がネットではほとんど若干プラスぐらいですし、台湾が入るというのも中国との関係で入りづらいだろう。そうすると、もうインドネシアがこけて、全部こけてしまうということで、やはり保険としては、世界1本にしておいた方が危機のときにはいいのではないかという気がしております。

〔座長〕ありがとうございました。

 C委員。

〔C委員〕ちょっと文献で気になるところを、まずご指摘しておきたいと思います。まず、最初の1行目ですが、IMFをコアとした国際的な経済安定化システムというのは余り馴染まない言い方で、国際的な経済安定化システムというのがIMFをコアとしているかどうかというのは、ちょっと、ここはもう少しお考えになった方がいいんじゃないかなという気がします。

 それから、現行システムの問題点として、特に「との指摘」と書いてあるんですが、これは、どこから始まっているのかわからないんですが、おそらく「IMFの存在自体が投資家のモラルハザードを生み出す結果となっており、完全な自由化の方が云々云々ではないか」というところまで1つの括弧に入っているんだというふうに思いますが、ちょっとそこ不明確です。

 2つの問題があると思いまして、もちろん、IMF体制がモラルハザードの原因になっているというのは、1つの問題点かもしれませんが、それはOne of Problemsであって、やはり、一番大きな問題は、金融のグローバル化というものに対して、現在のシステムが対応能力を欠いているということだろうと思います。それはモラルハザードの問題も含んでいるのかもしれないですけれども、そこを、やはりちゃんと書いた方がいいのではないかなということが1つ。

 それから、もう1つは、ちょっと独断と偏見ですけど、やはり、危機管理が非常にまずかったというところがたくさんあって、それは診断もある程度間違っていたし、処方箋もある程度間違っていたと思うのですけれども、そういう問題もどこかに入れてもいいんじゃないか、これはご提案です。

 それから、制度によるリスクの歪みというのがあって、先進国とかIMFがサポートしているために、モラルハザードによって、リスキー・インベストメントが起こって、それで過大な流入。それがないときには、過小な投資で過小な流入とありますけど、これだと東アジアは入ってこないですね。東アジアはIMFのコミットメント、あるいは二国間でもいいですが、そういうコミットメントなしで過剰な投資が起こって、バブルが起こったというふうに僕は思うんです。

 ですから、ここに書いてある第1のケース、第2のケース、ありの場合、なしの場合ですけど、ありの場合はロシアだと思いますけど、なしの場合はおそらく東アジアとか、いわゆるエマージング・マーケットを除く途上国については、ある程度、こういうことは言えるかもしれない。でも、一番肝心なエマージングマーケットについては、必ずしも、この議論はうまくいかないんじゃないか。つまり、これもIMFとか先進国の関与がモラルハザードを生んでいるという議論に、ちょっと引きずられていて、ちょっと問題が矮小なんじゃないか。やはり、基本的な問題は、金融のグローバル化に現在の国際経済システムが対応できてないということではないかなと思います。

 それから、これはちょっと細かい点ですが、2ページ目にアジア通貨基金構想の必要性のところで、安定化の一つの手段は、米ドルのような基軸通貨に自国通貨をリンクさせることであるがと書いてある。これは間違いだと思います。つまり、米ドルにリンクするということは為替安定を捨てるということです。つまり、円だとかマルクだとか、そういう主要な通貨に対してフロートするということですから。ですから、おそらく安定化の一つの手段としてと書くのであれば、主要国通貨バスケットにリンクさせることだというふうに思います。それでもまだ安定化が保てるかどうかというのは問題なわけですが、少なくともドルにリンクするというのは、為替安定とはほとんど関係ないことだと私は思います。

 それから、やや文言に係わることでありますが、貿易投資の側面における地域協定が、結果として、WTOの機能を補強している現実に鑑みると、ここまで言い切っちゃっていいのかなという、私は、気がします。また、地域リージョナリズムというのが、マルチラテラリズムと本当に補完的なのかどうかというのは、これはまだ論争の余地のある問題です。ただ、現実が先行していますので、それをあっさり補強していると言っちゃっていいのかどうか、ちょっと私はリザーベーションしたいと思います。

 それから、今、コメントをいただいたIMFを分割するというのは、これは必ずもIMFの機能を分割するということではなしに、サプリメンタリーにそういう地域的な通貨安定化基金、そういうものをやるということであって、必ずしもIMFの機能をとってしまうということでなくても、どういうおつもりでお書きになったのわからないですが、ない方がいいんじゃないかと、私は、むしろ思うわけであります。第一段のコメントとしてはそうなんですが。細かいことはそのくらいにします。

〔座長〕ありがとうございました。

 B委員、お願いします。

〔B委員〕C委員のおっしゃったことと同じようなことなんですけれども、今度のアジア危機のときに、韓国もASEANもIMFのプログラムを、過去何十年も受け入れていなかったわけで、ヨンジョウコンサリテーションのときに、IMFが変動制にしたらどうですか、あるいは国債を出して、金融市場をもう少しフレキシブルにしたらどうですか、というような提案をしていて、それはタイもインドネシアも全部無視していたわけです。IMFがいたからかというよりも、IMFの言うことを聞いていなかったからこうなったんだということも、そういう反論をする人がいたときには、非常に辛いものがあるかなという気がします。正しいかどうかは分からないですけど、そういう気がいたします。

 それから、もう一つは機構の問題と留意すべき点というところがありまして、相互監視・協議をしていく必要があるだろうということは、そうなんですけれども、我が国の例を見ても、数年前から日本もIMFの加盟国で、IMFがヨンジョウコンサリテーションにきたときに、日本の金融、日本の市場がおかしいと、不良債権の数を明らかにしろとずっと言っているのを、ずっと無視をし続けて、質問状に対する回答も出していない。これは主権国であれば当然であって、自分に不利なことをなぜ開示するのか。各国が開示し始めるのは、IMFの支援を受けなければ、金が入ってこないので助けてもらえないという段階になって初めて開示するわけですから、これも難しいです、モニターしたところでどうなるという話があって、ちゃんと報告してくださいよと言って、じゃ不良債権多すぎるから半分ぐらいにしておこうか、ということがあるのではないかなという気がします。

 それから、もう一つが、地域に何か新しいものを作ったときに、何か議論が転倒している、逆さまのような気がします。つまり、どうもIMFのようなものがいたからモラルハザードが起こったのかもしれないというのが引用されていて、全体になっていないようなんですけれど、そうなっているような気がします。だから、地域で何かつくらなきゃいけないんだというような形で書かれているような気がする。

 ところが、そんなものつくったら、もっとモラルハザードが起きるに決まっているわけで、それは日本が中心になって、IMFみたいに厳しいことを言わなくて助けてくれるんだったらもっとやってしまえということです。IMFのプログラムで、いろいろ欠陥はあるんですけれども、もしIMFに助けを求めなければいけなくなると、ものすごく厳しい条件をつけられる。だから、とにかく回避しようとして無理をする。韓国もそうですしタイもそうです。もうどうしようもなくなったところで手を挙げる。だから、IMFが介入したときには、もう悲劇的な状況になっているということがある。もっと前に助ければよかったのかもしれないけれども、それではモラルハザードが起こる。これは非常に大きな問題で、どっちにしろモラルハザードが起こると思うんです。それをどこまで許容するか。金融に対する公的資金の問題も同じなんですけれども、その後で起こるコストとモラルハザードを比べて、どっちが影響が大きいかということで判断すべきなのかなという気がします。

 それから、もう一つは、もし新しい機構を考えるということなんですけども、これも言うのは簡単なんですけど、果たしてその新しい機構に、現行のIMF以上の能力を持たせられるかどうか。能力というのは人間の能力ですから、 2,000人規模の人間がIMFにいて、世銀には1万人弱の人間がいて、1万以上の官僚組織がワシントンにあって、世界百何十カ国の加盟国を常時モニターしています。アジアにつくるときには、おそらく数千人規模の彼らと同じような能力か、あるいはそれ以上の能力を持った人間を集めて機構をつくらない限り、これらの機関の抱えている問題点を超えられることができないですから、それをもし本当にオペレーションで考えていくと、果たしてそういうことができるのかなという気がいたします。特に否定しているわけではないんですけども、非常に難しいのではないかなという気がします。

〔座長〕ありがとうございました。

 よろしゅうございますか。どうぞ。

〔C委員〕コメントのコメントなんですが、B委員のおっしゃっていることの一つのポイントは、モラルハザードが起こるから地域安定化基金というのは、むしろ自殺行為だと、ロジックとしては、逆にね。

〔B委員〕かもしれない。

〔C委員〕それはその通りだと思うんですね。つまり、問題はモラルハザードの問題とモニタリングがちゃんとできるか。このトレード・オフというのは何をやったって必ずつきまとう問題ですから。ですから、ある程度、議論をしていくと、あとはテクニカルな問題、そのオペレーショナリティの問題とか、フィジビリティの問題。ですから、それはちゃんと押さえておかないと、モラルハザードの問題だけ勝手に取り上げると、何か自分で自分の論理の基礎を掘り崩していることになるから、そこをちょっと注意した方がいいかなと思います。以上です。

〔座長〕どうもありがとうございました。

 そこら辺が、この資料の2ページ目の一番最後のくだりあたりでひとつ歯止めを、事務局の方としては考えておられるかなという感じがいたしますが。

 何か他にございませんか。どうぞ。

〔D委員〕確かに、こういう形での切り口というのはあり得ると思うんです。しかし、もっと通俗的な話というのは、今回の危機の本質がこれまでの南米型の危機ではなかったということによって生じているという問題、また、その対策、もう火が出た後の消し方の問題で、南米型の消し方をアジアに適用するのが問題じゃないかという話が、やはり、あると思うんです。その話が何かこの話の中では落ちているような気がします。

 それで、アジア通貨基金というのは必要かどうかも含めて、IMFが南米での火の消し方に固執するのであれば、そうじゃない火の消し方を持ってくるという次元の話は当然あり得るわけで、モラルハザード起こる云々の話は、今おっしゃっている通りで、どこに行っても同じです。そういう意味で、アジア通貨基金にアドバンテージは別にないけれど、IMFが他にオールタネイティブな対応を考えないというのであれば、もう一つ別の対応はあり得るという意味で、役割分担ということはあるのではないか。その観点が落ちちゃうものですから、何かこれを読んでいて一つ分からなかったという気がします。

〔座長〕ありがとうございました。

 事務局の方から何かよろしゅうございますか。

 それじゃ、とりあえずこの地域的危機管理の考え方につきましては、議論はこの程度にしておきます。

 それでは、次の本研究会の中間報告のとりまとめ、資料3ですね。これに移りたいと思います。まず、とりまとめ(案)のポイントにつきまして、事務局の方からご説明をお願いいたします。

〔事務局〕とりまとめ(案)本体は資料4でございまして、これは百数十ページにわたるものでございます。ポイントという形で6ページほどにまとめておりますので、このとりまとめ(案)のポイントの方でご説明したいと思います。

 まず、研究会の目的につきましては省かせていただきます。

 第2、第3、第4、第5のあたりは現状分析でございますけれども、第2、世界経済の現状-通貨金融危機とその影響-ということで、アジアの通貨金融危機の伝染ということで、アジア通貨危機が広まった経緯についてまとめています。

 次にロシアの危機は、アジアと異なって国内の財政問題に起因している。さらに、そういったエマージング市場全体の再評価を通じまして中南米にも波及している。

 それから、経済成長見通しが時々刻々、下方修正されているということでございまして、時間とともに深刻さを増している危機の影響ということで、危機の深刻さを示すわけでございます。

 第3に、危機はなぜ起きるのか。過去の危機との比較をしてみるということでございます。資産バブルの形成と崩壊ということで、アジア危機は流入資本や、あるいは拡大した国内信用供給によるバブルがはじけたものであることを示す。それから、矛盾を抱えていたマクロ経済運営、トリレンマと申しますが、資本移動の自由化、ドルペッグレート、金融政策の自立性維持という三つの目標の達成を目指したわけでございます。理論的には同時に成立しないわけでございまして、資本移動の自由な環境下で、固定的なドルレートの維持を目指したために、国内経済のコントロールを失ったと考えられるわけでございます。

 次、2ページ目にまいりまして、危機はマクロ・ファンダメンタルズの悪化だけで起きるものではない。危機のバロメーターと思われていたファンダメンタルズのフローの指標だけではつかめない危機ではなかったか。投資家の期待と資産価格の急激な変化、投機筋の自己実現的な動きといったようなものが、大きい原因であったのではないかというわけでございます。

 それから、巨額の資本移動を受け入れる脆弱な金融部門ということで、資本流入があって、それが不健全な金融仲介によって土地等の投機的な部門で浪費したと見られているのではないか。あるいは、その間接投資の資本流入には、もともとあった直接投資への規制、こちらの方は民族資本の比率規制等を緩めないまま、別の間接投資の方を自由化したために、直接投資ルートで健全な形で回っていくはずのお金が、そちらの投機的な動きの方に頼ったために、資本の流入を大きくしたような部分もあるのではないかというわけでございます。

 それから、アジアに投資した年金やヘッジファンドが危機の原因だという説も強かったわけでございますが、データを見ますと、むしろ、銀行融資が危機のときに主要な原因だったのではないかというふうに考えられるわけでございます。

 複合的な危機の原因といたしまして、貿易・投資の相互依存による外国の影響かということで、中国との輸出市場における競合、我が国の不況、95年以降のドル高継続といった要因が環境の変化としてあったことも事実ではないかというわけでございます。

 それから、第4に危機への対処策ということでございまして、国際機関の対応、日本の対応でございます。IMF、世銀、アジア開銀といった国際機関の動きをフォローし、問題点を含めての指摘ということで、IMFは過去に比べてコンディショナリティーを自由に変化させるようにはなったけれども、マクロの安定化の話と構造的な政策と整合的でなかったようなこともあったのではないか、ということを指摘しているわけでございます。それから、日本の対応については事実を述べるということでございます。

 それから、第5に世界経済の捉え方でございますが、不安定性を内在するグローバル化の進展ということで、D委員からのご報告を背景にまとめておりますが、冷戦の終結とIT革命によるグローバル経済の復活、それから、グローバル経済のねじれということで、イギリスのポンドが基軸通貨国であった時代と異なって、基軸通貨国がアメリカであるにも係わらず巨額の債務を抱えている。そこが、国際的に不安定化する可能性があったのではないかということで、アメリカへの資本移動、円ドルレートの安定が世界的に必要にならざるを得ない構造があるのではないかというわけでございます。

 それから、ヘッジファンド危機と不安定な構造ということで、3ページ目にまいりますが、先進国は成熟化して、低収益環境となっているので、ハイリスク・ハイリターンなところにお金が流れていくことになるわけですけれども、最大の債権国である日本の貯蓄も新興市場に投資する先導役を担っていたのが、アメリカを中心とした国際金融市場の金融仲介技術ではないか。しかしながら、昨今の危機によって資本環流機能に障害を生んでいるという分析でございます。

 それから、エマージング経済危機の背景とドル高の持続でございますが、エマージング経済の世界的な危機の原因は、過剰な短期資本の投入と流出にありますが、同時にドル高も重要な原因ではないか。アメリカが対外赤字をファイナンスし、国内経済の高成長率を維持するには、より多くの資本流入が必要でございます。ドル高の持続は収益率を高めますので、資本の流入を持続させることを可能にするわけでございます。さらに、完全雇用状態でインフレなき成長を持続させるためには、交易条件の改善によって物価の安定と企業収益の拡大を維持する必要がある。

 こういったドル高が持続できた背景には、米国の株高、資産価格の堅調な動き、財政改革の成功によるインフレ低下に起因する実質金利高が考えられるわけでございます。

 ドル高の継続がエマージング市場に与えた影響は、経常取引においてドルリンクしている現地通貨を欧州通貨や円に対して高くすることで、輸出の鈍化と輸入の拡大を招きまして貿易収支を悪化する。しかし、貿易収支を改善するために通貨レートを下げるとか、金利低下を実施するということは、ドルリンクしているためにできないので、こちらの方は高止まってしまう。高止まっていると資本取引においては資本流入が発生し、経常赤字を当面ファイナンスしてくれるわけですが、そういった流入資本が生産的な投資に向かったり、過剰消費に向かってしまうことで、金利・通貨高を支える実体経済の方の資本収益率の上昇が実現しないので、期待はある時点では裏切られて危機が始まってしまうというわけでございます。

 このような認識で、先の危機を踏まえた今後の方向性を検討すると、21世紀の国際通貨体制と円の国際化、地域的危機管理の必要性、資本移動規制の考え方という三点につき言及することが必要となるのではないか。こういった現状分析から派生しますところの問題意識の整理でございます。

 ここで、21世紀の国際通貨体制と円の国際化というところでございますが、米ドルが国際基軸通貨である理由につきましては、そのドルとのリンクが必要でなくなった。ドルが必ずしも基軸通貨である必要の義務づけはなくなった。ブレトンウッズ体制後もドルが利用されているということは、いわゆる慣性、スケールメリットが作用しているためではないかというわけでございます。

 ただ、来年から発足しますユーロ誕生は、新しい基軸通貨としてユーロも追加されて二大基軸通貨時代を生み出すきっかけとなるのではないかというわけでございます。金融・資本市場、貿易決済のいずれのデータからも、ユーロにはドルに対抗し得る利用可能性があるというわけでございます。アジアにおいても円が必ずしも優位とは言えないのではないかというわけでございます。

 では、そこで円はどのような役割を果たしていくかということでございますが、円の国際化につきましては、ここ10年来議論がございますが、円が国際的に活用されますと、為替リスクの低減だとか、金融機関のレートに関する脆弱性の解消だとかというメリットが実現できるわけでございます。

 4ページにまいりまして、アジア危機対策にも資する円の流通範囲拡大でございますが、アジア諸国にとっての円の国際化のメリットは、アジア危機の要因をある意味で排除できるのではないか。ドルに依存した為替レート決定である一方、我が国との取引が大きいことによる歪み、資金余剰の我が国と資本不足のアジアが直接リンクすることによる為替リスクの低下ということがありますので、こういったことが言えるのではないかというわけでございます。

 我が国のビッグバンに伴います一連の制度改正などは、円の利便性を改善する、使い勝手をよくすることで、円の国際化を結果として生み出す可能性があると言われておりまして、これは円が更なる国際化、最終的には基軸通貨になるためのもちろん必要条件でございますが、これだけでは、いわゆるドルが既存の基軸通貨が持っている圧倒的な慣性に対抗するには、更なる要因も必要ではないかといった認識でございます。

 そもそも、制度改革の実施は効率改善を目指したものであって、円の国際化はその結果として実現するものとの見方もありますが、これは狭義の国際化、円の使い勝手がよくなるというところにとどまりまして、当研究会におきます円の国際化問題の意識といたしましては、さらにそれを超えて基軸通貨の一翼を担い、ドルが享受していますような通貨発行利益を実現するといった、広義のニュアンスで用いているわけでございます。

 通貨危機に対します宮沢構想等の流動性供給支援は、アジア各国の中央銀行に円を外貨準備として持つ誘因を与え、円を外貨準備として保有することは、アジア地域の経済主体が決済通貨として円を利用しやすくするわけでございまして、これは円の国際的な利用範囲を拡大する機会ではなかろうかといった問題意識でございます。

 それから、地域的危機管理の必要性につきましては、現行システムの問題点ということで、先程、申し上げたことでございます。アジア通貨危機を踏まえた最近の議論、地域的危機管理の必要性と留意点です。それから、第8に資本規制の考え方につきましては、先程、申し上げたとおりでございます。

 それから、最後のページにまいりまして、シークエンシングを導入することが必要である。民間投資家には間違った投資のコストを負担してもらい、ルーズなマクロ政策のコストを途上国自身が負担することを実現することで、モラルハザードを防止するということでございます。

 議題1、議題2のご議論を伺っておりましたですけれども、総論ではこう言えるんだけども、例えば、シークエンシングというのは、具体的には、その国の熟度に応じてといったような総論ではなくて、その国の特別のそれぞれの事情があるのではないかということでご指摘がございましたけれども、その通りでございまして、シークエンシングの中身、具体的には、処方箋ということについては、より細かい議論が必要となろうかと思いますし、不用意なシークエンシングを提示いたしますと、良かれと思ったシークエンシングのはずが、虫食いの自由化ということで、かえって危機を増大するというようなことにもなりましょうし、モラルハザードをもたらすこともありましょうし。総論として、言うや易く、具体的な各国別のシークエンシングを提示するということは、さらに細かい議論が必要であるということは、その通りであろうかと思います。その点については少し書き込みが現在の案文ではちょっと足りないかなということは、議論をお聞きして痛感した次第でございます。以上でございます。

〔座長〕ありがとうございました。

 ただいま説明にありました中間とりまとめ(案)につきまして、ご意見を賜りたいと思います。

 D委員、お願いします。

〔D委員〕円の国際化の問題ですけれども、日本の場合は経常収支の黒字国なわけで、余り通貨発行利益というのは享受できないんじゃないかと思うわけです。基本的には、インフレ課税のことですから、お金が足りなければ効果はありますけれども、お金が余っているわけで、そういう意味で余り効果がない。

 そうだとすると、日本にとって問題なのは、不必要に実質実効レートが変動して、国内の資源配分が為替レートで引っ張り回されて、がたがたになっているというマッキノンがよく言っている話がやはり一番大きいのではないか。おそらく、日本は相対的に比較優位が本来あるであろう産業が縮小してしまって、ない産業が拡大してしまったのが国内の80年代後半のバブルの原因で、それが元に戻ってみると、こんなふうにはげてしまったというふうに思いますから、そういう意味では円を国際化することによって投機の分厚い基礎をつくって、しかるべき水準を長期的な均衡に比較的近いところにもうちょっともっていけるようにするということが、おそらく日本経済にとって一番メリットの大きいことなのではないか。そういう意味では、発行利益の追求という話は余りちょっと出てこないなと思います。

〔座長〕A委員、どうぞ。

〔A委員〕同じように基軸通貨の点なんですが、二つ基軸通貨ができたときには、例えば、アメリカとユーロの間で、国内の少しのマクロの経済状況の変化に敏感にお金が動いて、為替レートが乱高下する不安定要因になるだろう。

 ただし、中間とりまとめ(案)の資料4の方で、何となく三つの通貨が等しい役割を占めれば安定するという、そこのロジックが何となく米ドルとユーロに加えて円が基軸通貨になって、同じぐらいのシェアを占めれば通貨制度としては安定するんですよという、そこのロジックは少し分かりずらいところがあります。

 そもそも基軸通貨になって、本当に何のメリットがあるかというところで、日本の円が基軸通貨になれば、日本との貿易関係で、日本は為替リスクをある程度低減する。ただし、多分、為替リスクの効果というのは、そんなに大きな額にはならないのではなかろうかという気もしております。一つは、企業はほとんど輸出と輸入をバランスさせているので、具体的にリスクヘッジするコストというのは少ないし、他の企業でも全額リスクヘッジしているわけでなくて、それで何とかやっている。そうすると、基軸通貨になるというのは、本当にどういうメリットがあるかという点が疑問点としてあります。

 それから、次にアジア危機対策に円を使うようになればメリットはあるという点が、これが本当なのかどうかという点が、もう少し議論した方がいいのではないか。端的に言えば、円建てのODA等の負債は円安になれば減る。それから、円高になればアジアからの輸入は増えるということで、円がどちらに向かった方がいいかという点が疑問としてあります。

 それから、円の利用範囲の拡大ということで考えるなら、宮沢構想の 300億ドルでははるかに足りない、少ない金額であろう。これ以上、まだ出す用意があるかということになると、例えば、インドネシア、今後、幾らお金を使ったら再建できるかわからないというところに、どれだけリスクを考えてお金を出せるかという点が疑問であります。

〔座長〕ありがとうございました。

 B委員、お願いします。

〔B委員〕 A委員のおっしゃっていたことを関係するんですけれど。最後の6ページ目の補足というところがありまして、よく分からなくなってしまったんですけども、おそらく言われていることは、何かアジア地域の安定化のために流動性を供給する機関が必要で、それが円を使うと円の国際化が進むんだから、こういうふうにすべきだというふうに読んだんです。これが余りよく分からなくて、例えば、これがどういうタイムスパンで考えられているのかというのがよく分からないというのが一つです。

 それから、もしタイムスパンが短い場合に、例えば、本当にオペレーショナルかどうかということを考えますと、アジア通貨基金ができて、日本が円で拠出をする。拠出と言うか、アジア通貨基金債というのをどこかで買う。資金運用部で買うか、外為特会で買うかどうか分からないですけど、それで円を供給する。円というお金を基金が持っている。

 仮にタイでバーツ売りドル買いが起こった、投機が起こりました。そうすると、タイの中央銀行は、そこから円を借りてくるわけですけれども、その円では対抗できないので、東京市場できっと円売りドル買いをやるんだと思うんです。そのドルを持ってバーツ売りドル買いに対抗する。そうすると、日本の通貨当局は円が売られてしまいますので、きっと円買いドル売りをせざるを得ない。そうすると、何のことはないんです。結局、ドルで供給したのと同じであるという点が一つ。これも随分考えていたんですけど、よく分からなくて、本当にこんなことを考えていいのかどうか。

 もう一つは、もし、これが起こると、アジアの通貨の投機は円投機と直接連動してしまう。したがって、これが安定化と言うのか不安定化と言うのか分からないんですけども、こういうことでいいのかという気がするんです。円で投機されればいいんですけれども、つまり、インドネシアのルピアなりタイのバーツが円買いバーツ売りということであれば、これはワークすると思うんです。そのためには、円が国際的通貨として、決済通貨として、準備通貨として使われてなければいけないので、そうするとこの議論が逆さまなんじゃないかという気がする。つまり、円が国際通貨としてアジアで使われていないと、円でこういう流動性供給のシステムをつくったところで、結局、余りワークしないし、かえって円レートの不安定化につながるのかなあという気がしまして、このロジックが逆さまだという気がします。こういうのが正しいかどうか分からないんですけども、このメカニズムは余りワークしないんじゃないかという気がいたします。以上です。

〔座長〕C委員、お願いします。

〔C委員〕お三人のコメントと共通しているんですけど、これを読んで、円の国際化のところがちょっと座りが悪くて、要は、現在の危機管理の一つの短・中期的な手だてとして、中期的危機管理をやるということと、それから資本移動規制をやるべきか、そうでないかというところにあるとしたら、円の国際化というのが、どこに落ち着けばいいのかというのが読んでいてよく分からない。それが中身の問題を皆さん、今それぞれいい論点を出されたと思いますけど、報告書自体の中でも、ちょっと座りが悪いかなという印象を受けています。

 それから、もう一つ、まだ中間段階ですから好きなこと言っていいと思いますので、言わせていただきますと、3の通貨金融危機はなぜ起きるのか、過去の危機との比較というところが割と細かく議論されていて、全体に非常によく勉強されているという印象はありますが、それを最初にまず申し上げた上で、気がついた点を申し上げます。

 ここだけ読むと、結局、バブルとマクロの矛盾とミクロの脆弱性が原因でというふうに読めちゃって、どうもじゃ何が新しいんですかという気がするんですね。一番最後の資本規制は国内の政策ですけども、通貨安定化基金というのは国際的な対処の仕方ですし、それから、通貨安定基金というところも、単に国内の尻拭いとしてあるのかなという感じなんです。問題は、やはりそうじゃないんじゃないかという気がします。やはり、新しいところというのは、先程、申し上げましたけれども、グローバリゼーションということとうまく対応できていない。これは国内も対応できていないし、エマージングマーケットも国内もちゃんと対応できていないし、それから、貸し手の方の投資国側、それからIMF体制全部含めてですけれども、そちら側もうまく対応できていなかったというところが新しいんじゃないかなと思うんですが。

 そこのところが、意外と何か年金やヘッジファンドが危機の原因でなかったとか、そういう感じで書かれているような気がします。ですから、むしろ、国際資本市場が過ち繰り返す、ブームアンドバストをやる、ハーディングもやる。それに対するシステミックな対応ができていないということが片方の問題、もちろん国内に問題がないと言いません。国内はたくさん問題があるわけですが、国内の問題というのは、むしろ、割とトラディショナルな問題があるんじゃないかと思うわけです。それで、セーフティネットもない。IMF体制もIMFが間違ったことを言うし、間違ったと言わないけど、態度を変えてきているわけですね。このごろは国内だけの問題じゃないなんて最近のワールド・エコノミック・アウトルックなんかが言っていますので、1年前と1行1行比べると随分変わってきたと思います。IMF自身もモラルハザードを起こしているという問題を指摘されたりしている。

 だから、そういう国内要因の他に国際要因というのがあって、やはり、これが一番新しいんじゃないかと思うわけですが、そこをもうちょっと書かれた方がいいんじゃないかなというのがサジェスチョンです。ですから、3節の3章の後に、もう一つそういうのを入れた方がいいかなと思います。それがないと、外貨流動性を供給してやるとか、それからそれと合わせてスーパービジョンもちゃんとやらせる国際監視体制をつくるとかという議論も、おまえら失敗したから、失敗しないようにパターナリスティックに何かやるという感じなんですけど、そうじゃないんじゃないか。

 つまり、パターナリスティックだと思っている国際システムの方が、かなりがたがたしていて、そっちの問題をみんなで一緒に考えましょうというふうにやらないと、地域安定化基金の話も出てこないのではないかなという気がします。大筋、その話が一番大きな流れとして、それはやってもいいんじゃないでしょうかというのがサジェスチョンです。細かい点、たくさん気がついたのがあるんですが、余り時間がありませんから、これでやめておきます。

〔座長〕ありがとうございました。

 ポイント6の「21世紀の国際通貨体制」、ここら辺の座りの問題、これも一つあると思うんですが、その前に、D委員の指摘された4ページの上の方の通貨発行利益の実現についてのご意見なんですが、ここら辺については、特に、何か委員の先生方、よろしゅうございますね。

 それでは、今、C委員の触れられた点につきまして、特に何かございますでしょうか。

 D委員、お願いします。

〔D委員〕もともとの報告書全体を通してのストーリーの話だと思うんですけれども、今、ここで読ませていただいていると、アジア通貨危機に対する割とパターナリスティックな対応だったと今、C委員がおっしゃった通りの感じが、確かに私もしています。私の意見を別に取り上げていただきたいと申し上げている意味ではないんですけれども、そういうものの見方以外にも、例えば、私がすごく自分の話の中で強調したいのは、グローバルなスケールでバブルが起こってしまっているということで、東アジアで起こったことがまさにそうであって、日本国内で起こったバブルの清算のプロセスの中で起こってきた問題が東南アジアのバブルに飛び火して、最後にアメリカのバブル維持のために東南アジアもバブルも崩壊していくという全体のストーリーが何となくあって、お話を申し上げているわけです。

 やはり、せっかくこういう報告書を書かれるわけですから、割と月並みな感じで議論を展開しても余りおもしろくないんじゃないかというのが、今のお話と同じで一つある。

 もう一つは、こういう議論がまさにそうなんですが、こういう感じで書かれちゃうと、もうすでに同じような議論がたくさんあるので。

 だから、我々日本の立場で考えたときに、我々も失敗したし、だけど、君たちも失敗しているという視点が当然あるわけで、我々の失敗はやはり国内の金融システムの問題そのものの反動として、アジアに突っ込んでいったということです。そこで偉そうにしているアメリカも実は不安定化の最大の原因で、日本を尻目にどんどん発展するぞと言っていた東アジアも同じバブルの相棒だった。これは私の意見ですけども、この話である必要はないのですけど、例えば、そういうような話が何かの形で入ってくるような、何かないとちょっとおもしろくないかなという気がします。

〔座長〕どうもありがとうございました。

 A委員、どうぞ。

〔A委員〕6の座りが悪いというのは、多分、タイムスパンの関係で、いつごろの時点の話をしているのかというのが抜けて、直近の話ということで問題になっているんじゃないかと思うんです。

 それともう一つは、内容的に少し難しい、分かりづらいところがあって、先程の繰り返しになりますけど、基軸通貨国というのは何のメリットがあるのか。それから、アメリカが債務国で基軸通貨になっているのが、本当に何が問題であるのか。ちらっとそのあたりは、「ドル高を持続しなければ、アメリカ経済が成っていかない」というのは、「基軸通貨国だから成り立つ」というような、「アメリカが相当身勝手なことをやって、他が影響を受けているんだ」というようなニュアンスは出ているんですが、そこをもう少し整理していただけると分かりやすくなるのではないか。

 21世紀というと先の話みたいですが、実は、もう2年後ぐらいの話ですから、強いて言えば、フィリピンが84年にIMFの救済を受けて、結局、あの頃は、銀行も結構なGDP比率で融資したんですが、戻るのに10年ぐらいかかったわけです。そうしますと、現在の東南アジアも2005~6年ごろになると、昔のことを忘れて銀行も融資し出す。そのころに本当にセーフィネット、あるいはリスク管理の体制ができているかどうかというので、少し早くなるという感じもある。私は自分で勝手に、21世紀の円の国際化というのは2005年ぐらいを目標にした話というふうには理解しておったのですが。その点がちょっと気がついた点です。

〔座長〕B委員、お願いします。

〔B委員〕今、A委員がおっしゃったことと、D委員がおっしゃったことと同じですけれども、私がずっとこれを読んでおりましてコメントを差し上げると、全部オペレーションのところにきてしまいます。なぜ、オペレーションになるかというと、今、どういうふうに考えたらいいかということになってしまうのです。これは非常に難しい問題で、例えば、資本移動についても、当たり前ですけれども、危機に陥った国は資本流入規制なんかできない。何が何でも金が入ってこないといけない。とにかく企業を全部売ってでも外貨が欲しいということです。短期資本の流入規制を言ったって全く意味がないので、それはきっとある程度遠い将来の話だと思うんです。

 それから、円の国際化にしても、慣性があるのならば、慣性はそんなに簡単に消えないですから、これもおそらく遠い将来の話だと思うんです。その遠い将来が、10年なのか20年なのか5年なのか分からない。ですから、そういう点が割と明示化されていないと、私が申し上げたような、そんなこと言ったってできないじゃないかという批判を直ちに浴びるような気がするんです。遠い将来、例えば、通貨体制なり国際経済の安定化をどういうふうに考えていくのかという観点に立てば、こういう議論というのは、全部それなりに成り立ってくると思いますので、検討するには大事な問題ですので、そういう時間の概念があった方がいいのかなと感じます。

〔座長〕D委員、お願いします。

〔D委員〕今、B委員の話を聞いていて、自分の言いたかったことがよく分かってきました。要するに、今の、このいろいろな意味での危機に対して間違った診断を下して、変な対策を立てると、もっととんでもないことになるという感じがすごく強くあるのではないか。私は、ヘッジファンドだとかミューチュアルファンドとか何とかという、いわゆる国際投資が危ないから、それを規制をすれば問題が解決するというのに対してすごく疑問を感じるのは、先程申し上げたようなマクロのフレームワーク全体の中で、その従属変数として動いているという感じが強いので、申し上げているわけです。

 要するに、経済分析によって、政策的に意味のある提言を行おうとする場合、当然、二つあるんだろうと思います。我々がここで考えなくちゃいけないことは、簡単な対応を、お金にものを言わせて行ってしまおうということに、ちょっと待てというところが一つあるのではないか。確かに、アジア通貨基金をつくることは、それはそれで意味があるのかもしれないけど、その持っている限界もまた、すごく重要な問題だし、先程、B委員がおっしゃったように私もフローを書いてみると、どう考えてみても、アジア通貨基金は最後に日本の外貨準備で東南アジアの借金の穴埋めに使うだけということにならざるを得ないと思うわけです。

 そういう意味では、やはり現状分析、それで通説に対するオールタネイティブ・ジュナリーみたいなものを出して、通俗的な安易な解決に対して警告を示すというのが、一つの立場としてはあり得るということが申し上げたかったことだということがよく分かりました。

〔座長〕よく分かりました。どうもありがとうございます。

 よろしゅうございますか。考えてみますと、これの順番が5章を一つ先に持っていくというのは必要なのかもしれませんですね。それでストーリーに一貫性を持たせてというようなことですね。今、D委員のご指摘、ここの3、4、5章あたりを通じて特にもうございませんか。C委員。

〔C委員〕ついでにその構成について、ちょっとサジェスチョンを申し上げますと、4章はむしろ、現状ということで2章に突っ込んじゃってもいいかなという気がします。それから、円の国際化はおっしゃたように、長めの議論だとすると後ろの方、7、8のあとぐらいに持ってきた方がいいかもしれないなと思います。それから、幾つかIMFとアメリカ独特のオブザーベーションがあって、それに割に安易に乗っかっているところが非常に気になるんですが。それは、例えば、金融仲介の部分が非常に弱くて、そこがバブルを起こした。それはその通りなんですけど、じゃ全部資本市場でやればよかったかという話をすると、それはもう考えられないと思うんです。むしろ、歴史的には銀行部門というのはそれなりの役割を果たしてきたわけだし、ちょっと新しい状況に直面して、うまくいかなくなったというところがありますけど、IMFあるいはアメリカのエコノミストというのは、基本的に英米の金融資本市場の発展というのが頭にありますので、どうも銀行中心にというのは理解できないと言うか、好きじゃないというところがあります。

 ですから、IMFもレポートなんか見ていても、金融のグローバリゼーションというのは、セキュリティタイゼーションの話ばっかり書いてある。ところが、セキュリタイゼーションが非常に進んでいるのはやはりアメリカなんですけど、ヨーロッパでもそうでもないんですね。その中で日本とかヨーロッパは国の規制がきついから、必ずしも、アメリカで起こっているようなことが起こってないなんてことが書いてあります。けれども、アジアでも、ここに書いてありますように、インターナショナル・クロスボーダーのフローで証券投資よりは銀行ローンが最終的に問題を起こしたと言うか、通貨下落の一番最後です。先に逃げたから問題なくて、後から逃げた人が悪いというのは、それはどうかなと僕は思うんです。通貨の暴落というのは、危機の一番最後なんですよ。ですから、クライシスインデックスで、例えば、早期警戒のモデルなんてやるときも、クライシスインデックスというのは外貨準備の減少と通貨の下落との加重平均でとるんですね。通貨の下落って一番最後ですから。一番最後に通貨の下落をやったのは、確かに銀行だと思います。リニューアルを断ったり。でも、それは銀行が一番腰が重くて、一番最後に逃げたからにすぎないわけであって、それが犯人だというのは、ちょっと本質を見損なうおそれがなきにしもあらずだと思うんですが。

 ですから、問題はクライシスが起こるときというのは、確かにセキュリタイゼーションが余りアジアには及んでいませんから、ポートフォリオは数量的には小さくて、数量的に大きいローンというのが最後に逃げだしたときにがしゃっと崩れるんです。問題はやはり国内の金融システムが、最初はおそらく資本流入や何やらあったので、バブルになっちゃったというところがありますけども、通貨下落が起こったから金融危機になって、経済危機になったんじゃないんですよ。金融危機があったから最後に通貨下落になって、それでそれがまた金融危機を拡大したという構図だと思うんですね。だから通貨の下落というのは、あくまで一番最後で、これはリトマス試験紙みたいなもので、原因とか余り関係ないと私は思います。

 その中で何度か出てきますけど、為替が高かったから対外はアンバランスがあったというような書き方をしてありますけれども、対外アンバランスはドル安のときにすでに起こっているんですよ。確かに96年には輸出不振になっちゃったわけですけれども、これは中国の影響だとか何とか言いますけど、中国は93年、94年にものすごいインフレーションがあって、それを取り戻しただけです。基本的には、為替は直接の原因ではないと思います。ただ、私が言いたいのは、為替はペッグすることによって為替リスクないという間違った印象を与える。それが最大の問題であって、為替のレベル自身が高すぎたとか低すぎたということは今度の危機と余り関係ないんじゃないかと思います。以上です。

〔座長〕ありがとうございました。

 いろいろまたご意見があろうかと思いますが、ちょっともう時間になってしまいましたので、本日の研究会はこの辺で終わりにしたいと思います。

 皆さんのいろいろご意見を伺いました。それで中間とりまとめにつきましては、今いただいたご意見を十分に参考にしていただいて、事務局の方と相談させていただきます。一応、内容的には十分参考にさせていただきますので、私の方に一任ということでよろしゅうございましょうか。また、ご意見ございましたら、できるだけ早めにお寄せいただきたいと存じます。

 それでは、次回のスケジュールにつきまして事務局からご説明お願いいたします。

〔事務局〕 次回以降の予定につきましては、皆様方のスケジュール等調整した上で後日、別途ご連絡させていただきたいと思います。

〔座長〕 それでは、どうもありがとうございました。以上で、第5回国際マクロ経済問題研究会を閉会いたします。

 本日は本当にお忙しい中、誠にありがとうございました。

 次は来年になりますが、また引き続きよろしくご協力を賜りたいと存じます。

 それじゃ、いいお年をひとつお迎えください。どうも失礼いたします。

-以上-