第2回 世界における知的活動拠点研究会 議事概要

1.日時:

平成12年3月2日(木) 15:00~17:00

2.場所:

経済企画庁官房特別会議室(729号室)

3.出席者

伊藤元重座長、植田憲一、加藤秀樹、北原保之、椎野孝雄、杉山知之、林紘一郎、グレン・S・フクシマの各委員
牛嶋総合計画局長、永谷審議官、塚田審議官、藤塚計画課長、林部計画官、太田計画官他

4.議題

「世界の知的活動拠点」となるための環境整備について~その1
プレゼンテーター:北原委員、林委員

5.議事内容

  事務局から、「世界の知的活動拠点」となるための環境整備についての論点等を説明後、両委員から意見発表を行い、これらに基づき討議を行った。

  1. 北原委員より、「知恵の創造と情報発信を促す経済社会に向けての基本的方向性」について意見発表があり、それに関する討議の概要は以下のとおり。
    • 日本が多様な知恵の時代に相応しい経済社会になる上では、時間は掛かるものの経済的インセンティブやそれに相当する企業間競争によって自然に実現できる部分と、意識して変えていかなければならない部分とがある。
    • 特に意識していかなければ実現しないものは、異文化との共存である。日本は外国人労働者の受入れを積極的に進め、アジアの人にたくさん来てもらえるようにならないといけない。
    • 少子化社会で育っている今の子供は幸せ過ぎて世の中がよく見えておらず、勉強しなくともどうとでもなると思っている。競争圧力は非常に重要である。
    • 今の日本には発表(プレゼンテーション)の場が欠けている。発表の場の不足が自分のやりがいが見つからない、見つけ方が分からないことにも繋がっている。発表の場を通じ、自分と同じような考え方の人を発見できたり、人からどう見られているのか感じていくうちに自分のアイデンティティが確立されていく。日本はプレゼンテーションをする場としてのハコモノは作ったが、そのハコモノの中で何をしていくかということがはっきりしていない。そういったハコモノや学校の中でプレゼンテーションをする機会を強制的に与えていくべき。
    • インターネット社会になって、社会がよりフラットになるに従って、その社会の中での評価のあり方については、もっと考えていくことが必要である。日本は、何か「客観的な評価」というものが存在しており、主観的評価を排除すれば客観的評価に近づくという誤解に陥っている。主観的評価の重ね合わせからしか客観的評価は得られず、その際には第三者による評価を意識した上での、自分の主観力を磨く必要がある。
    • 日本が知的活動拠点になるためには、①コンテンツ②論理(プレゼンテーション)③言葉の3つの側面が重要。少なくとも社会科学、人文科学分野において、欧米から日本を見たときに、多様性、意見の対立、自由な競争、創造性等という要素が足りない。今の時点では、単なるプレゼンテーションや、インターネットなどの媒体だけでなく、コンテンツを育てることが必要である。
    • 日本では「書く英語」が過小評価されている。相手に考えを伝え、説得するためのツールとして「書く」英語について、日本語から英語という翻訳の問題にとどまらず、相手を説得するためのルール(論理的展開)を修得することが必要である。
    • コンテンツについて、自分が作りたいものが見える人と、見えない人がいる。どこにそういう差があるか、何がその差を築いたかということはわからない。むしろ、個人は皆想像力を持っているという見方が必要である。
    • 現場の学校が多様性を受けつけていない。実社会でいろんな経験をしてきた人が、学習支援という形で学校で教育をするといった方法により現場の先生を入れかえる必要があるのではないか。また、教育学部というものの意味を考え直すことも必要である。
    • スイスがダボス会議や国際連盟を引っ張ってきているが、議論をする場を提供するというやり方も1つの知的活動拠点のあり方である。日本が知的活動拠点になるために、そういうある種の器の提供をするのか、あるいはコンテンツで勝負するのかという整理が先に必要である。
    • 日本は競争していないというが、むしろその競争の仕方が、預金量や偏差値という一元的なものになっていたことに問題がある。もっと評価軸を増やす必要がある。
  2. 林委員より、「インターネットによる知の交流」について意見発表があり、それに関する討議の概要は以下のとおり。
    • 発表の場の提供に加え、場で交流する個人を「出会わせる」ためのマッチング技術も必要である。特に相手の顔もプロフィールも何を考えているかもわからないインターネットの世界では、知恵の創発を誘発するような、人と人とを「出会わせる」マッチング技術の開発が必要である。
    • 情報発信で世界においてアメリカは独り勝ちしているが、アメリカ内部では情報発信源は分散している。例えばアメリカは研究所を作る時は郊外に作るが、日本や欧州はできれば都市の近くの便利な所に作りたいと考える。情報発信の東京一極集中は、日本が本当に情報発信力で勝負していないことの現れとも考えられる。
    • 英語と日本語では、言葉の成り立ち、論理の成り立ちが違うから、英語の翻訳問題はロジックの構造を変えるということを意識しないといけない。
    • 東京一極集中の是正策として、地域情報化政策など考えられているが、実際に東京でなく故郷で仕事をできるようにならなければ、情報発信拠点の分散はできない。
    • 国がお年寄りのためのインターネットということをよく言うが、リテラシーというものを根本から入れかえるのは年をとってからは難しい。それよりは仕事のない人や、情報通信設備のない大学にインターネットを接続することによるリテラシーの向上が大切である。すなわち、パソコン一世のデジタルディバイドでなく、二世と三世のデジタルディバイド是正に重点を置くべきである。
    • 日本でパソコンや英語の使用を拡大することが最終目的ではないため、どうすれば人が皆幸せになれるのかについて、他の選択肢も含めて考える必要がある。その際には、インターネットの出現による社会の変化が一時的なものか、長期的なものか、また、激動の後の社会はどのような姿に落ち着くのかを考える必要がある。
    • IT革命やインターネットによって、今までの社会にプラスして新しく社会やコミュニティができるのか、それとも、今までの社会ががらりと変わって新しいものになるのか、どちらかで随分対応が違う。前者であれば、新しくできた社会をどう利用していくか、社会の活力を考えていくかという問題であるが、後者のイメージでは、相当真剣に今の大きな流れを背景に考えなければならない。

6.今後のスケジュール:

次回の世界における知的活動拠点研究会(第3回)は3月15日(水)10:00~12:00に開催する予定。
なお、本議事概要は、速報のため、事後修正の可能性があります。

(連絡先)経済企画庁 総合計画局 国際経済班
Tel 03-3581-0464