99年度日ロ共同研究第1テーマロシア側論文要旨
「ロシアの通貨・金融危機の分析」
ロシア連邦経済省構造政策、国民経済政策局課長 ボルコビッチナ・エレーナ
この論文では、ロシアの通貨・金融危機と、その背景にある主な原因について研究する。
1998年のロシアでの通貨・金融危機の背景にある原因はかなり複雑であるが、その主な原因は次のようなものである。
第一に、マクロ経済の不均衡の問題があげられる。この問題は旧体制下に顕在化し、経済改革初期における混乱により、移行期に入りさらに深刻化した。
旧体制下から続く基本的なマクロ不均衡とは独占的生産体制、生産設備の老朽化、投資不足である。また、資本集約的なエネルギー部門、巨大な防衛産業、未発達な消費者産業、農業の非能率性が経済の根本を形成していた。エネルギー資源がロシア全体の輸出の基礎となっていた。
経済改革初期における問題点としては、制度改革・構造改革が欠如していたことや、対外開放経済の導入、価格の自由化、国営企業の民営化、政府による経済活動調整機能の削減が非常に性急に行われたこと、予算制度、決済制度、国際収支の改革に歪みがあったこと、そして原材料の輸出が偏重されたことがあげられる。
第二に、1994〜98年にかけてバランスのとれた経済戦略が欠如していた結果、非整合的なマクロ経済運営が行われたのみならず、制度改革・構造改革が不完全なものとなった。具体的には以下の通りである。
・長期にわたる財政赤字は、主に短期国債によってファイナンスされた。投機的な短期の外国資本が大量に国債市場へ流入した。
・財政赤字は急激に増加する一方、国債の利率は高かったため、国債による歳入の増加分が既存の国債の利払いに充てられたため、負債は加速度的に増加し始め、行政サービスを支えることが出来なくなった。
・国債は短期債が殆どだった。
・金融引締めと財政赤字が齟齬を来たしていた。低い経済の貨幣化率により、経済活動のドル化、バーター化、未払いが起こった。
・未発達な銀行部門、法的な枠組みや中央銀行による統制・管理の欠如は、ルーブル及び銀行に対する信頼を低下させ、貯蓄を妨げる原因となっている。
第三には外的要因があげられる。1997年末の原材料の国際価格の大幅な下落により経常収支はマイナスとなった。また1997〜98年のアジア通貨危機は、投機的な短期外国資本の急速な流出を引き起した。
このようにロシアの経済危機の解決には、公的債務と財政支出を適切に管理することが必要である。実物部門の構造改革に加えて、諸制度の改革、法体系や監督メカニズムの十分な整備を行うことが、現在のロシアにとって非常に重要である。
99年度日ロ共同研究第 2テーマロシア側論文要旨
「市場経済における政策金融の運営」
ロシア連邦経済省信用政策・金融市場局課長 モホバ・ナターリア
政府(或いは公的部門)は、市場経済においても、民間部門よりもより効率的に機能し得るような分野において、その役割を果たすべきである。政策金融は、通常長期にわたり特定の目的を達成するために行う政策やプログラム、その実施機関により構成される。一般に政策金融には次のような目的・機能がある。即ち(i)大規模で複雑なプロジェクトのリスク負担、(ii)長期プロジェクトへの融資、(iii)長期財源の補償、(iv)信用の補償、(v)環境に左右されない安定した資金供給、(vi)政策によるガイダンス機能、(vii)政策金融の民間参加者へのコンサルテーション、である。
ロシアにおける政策金融は「開発のための予算」が基本となっている。開発のための予算は連邦予算の一部であり、政府による重要な投資計画への資金供給が主な目的である。開発のための予算による公的資金配分において (i)資金を供給するプロジェクトの効率性と収益性、(ii)投資計画額全体の20%以上の自己資本、(iii)リスクの民間投資家(資金を提供できる借り主自身を含む、民間の共同投資者や融資者)による分担、(iv)競争を基本とするプロジェクトの選択、商業融資の原則に基づく公的資金の配分、が重要である。しかし、開発のための予算が計上され始めて3年が経過するが、実際の企業への融資額はそれほど大きいものではない。「開発のための予算」の枠組みのもとでは、政府保証が主に行われている。全体として、ロシアにおいて政策金融は未発達であり、まだ普及していないといえる。これは、(i)予算不足、(ii)返済を前提とした金融の仕組みを経験したことがないこと、によると思われる。
日本における政策金融の中心は、財政投融資計画である。財政投融資計画は、公的機関や国により保証された郵便貯金や公的年金の掛け金などを財源とした公的資金を社会経済の発展や社会厚生の向上というような様々な政策目的の達成のために使うシステムである。今日、日本政府は民間部門や市場の機能を支える重要な役割を果たしている。財政投融資は返済を前提とした資金と政策とを組み合わせた、財政政策の手段である。豊富な財源によって日本の政策金融は成功したといえるだろう。
国の発展を成功させるには、その国の特性を考慮した適切な経済政策の選択が重要な問題となる。市場経済の景気後退期に必要なのは、財政・金融の手段を講じてそれを切り抜けることである。また、良好な経済環境の整備をして、市場参加者の中に楽観的な見通しを形成することが必要である。ロシアの持続的発展にとって政府の役割強化が前提となることは明らかである。
99年度日ロ共同研究第 3テーマロシア側論文要旨
「ロシア経済動向の分析及び予測」
ロシア連邦経済省マクロ経済予測局次長 ボルコフ・ウラジーミル
ロシア通貨・金融危機後、98年度第4四半期にはロシア経済に状況の改善が見え始めた。10月に始まった鉱業生産の改善傾向は、輸入代替の進展や、良好な世界経済の下で、12カ月の長きに亙っている。実物経済の浮揚に続き、インフレ率も落ち着いている。政府歳入はかなり増加している。大幅な貿易収支は、通貨を相対的に安定させ、債務利払いを最小限なものにとどめた。
しかしながら、こうした経済全体の回復傾向は安定的なものとは言えない。最近数カ月、実質可処分所得は改善したが、1999年全体では大きく減少している。投資の減少幅は抑えられたが、実物部門の投資活動はいまだ不十分である。予算については依然として危機的であり、対外債務の利払いで更に悪化している。これらのネガティブな傾向は、安定した経済成長の達成の妨げとなっている。
2000年のロシア社会・経済の見通しとしては、2つのシナリオが考えられる。両者の主な違いは、主にロシア政府と国際機関や債権者クラブとの債務についての交渉の行方や原油価格の動向、そしてこれから採られる経済政策の如何による。
第1の楽観的なシナリオでは、GDP、鉱工業・農業生産、投資は着実に成長し(GDPで2%程度)、18%程度のインフレ率が予想される。
第2のシナリオでは、好ましくない要因の影響や現在抱えているリスクの顕在化によってこれら指標は低迷し、インフレ率は非常に高くなる(35%程度)。
99年度日ロ共同研究第 3テーマ日本側論文要旨
「ロシア経済の短期予測− 方法論、及び日本における手法とそのロシアとの比較 −」
経済企画庁国際経済第2課 広田 茂
益田 淳
基礎データの少なさ、非貨幣取引の蔓延といったロシア経済特有の困難にもかかわらず、ロシア連邦経済省に加え、国際通貨基金、経済協力開発機構等もロシア経済の定量的な予測を行っている。しかし予測手法そのものについてはこれまでまとまった議論は殆どなされて来なかった。本稿ではロシア経済の短期予測の具体的な手法について考察している。
第1節では、まず定量的予測手法の代表的な3類型、即ちマクロ計量モデル分析、時系列分析、及び段階的接近法について概説した。それぞれに長所と短所があるが、手法の柔軟性及び政府としての予測に対する説明責任といった観点から、政府の予測手法としては段階的接近法が最も適切ではないかとしている。
第2節は、経済企画庁が公表している「経済見通しと経済運営の基本的態度」(当年度と翌年度の定量的予測が盛り込まれている)の策定に用いられている段階的接近法の具体的手法を説明している。予測は諸前提とGDP、価格指数、鉱工業生産、雇用者所得についての暫定値を設定することから始まり、これらに基づいてGDPの各構成項目が個々に推計される。その結果として改めて算出されるGDPが当初の暫定値に十分収束していない場合、暫定値を再調整し上記の手続きが繰り返される。これは諸計数が相互に整合的となるまで続けられる。
第3節ではロシア連邦経済省による予測手法を経済企画庁の手法と比較している。民間消費、投資、及び輸出の予測手法について幾つかのコメントを行った。
参考として時系列分析によるロシア経済の予測を行った。